心拍のある胎芽が教えてくれること―妊娠初期の出血で「ありえない」原因を見抜く
第102回医師国家試験 E問題 第50問
国試問題にチャレンジ
32歳の2回経産婦。妊娠9週時に性器出血を主訴に来院した。妊娠分娩歴に異常を認めない。腟内には少量の暗赤色の血液の貯留を認める。経腟超音波検査では子宮腔内に胎嚢を認め,頭殿長23mmの心拍動を有する胎芽を認める。 出血の原因として考えにくいのはどれか。
- a.子宮頸癌
- b.子宮体癌
- c.絨毛膜下血腫
- d.子宮腟部びらん
- e.子宮頸管ポリープ
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
妊娠初期の性器出血は、流産や絨毛膜下血腫などの子宮内の原因と、子宮腟部びらん・子宮頸管ポリープ・子宮頸癌などの下部生殖器の原因に分けて考えると整理しやすくなります。妊娠中は頸部が充血して出血しやすいため、経腟超音波で子宮内妊娠と胎芽心拍を確認すると同時に、腟鏡診で出血部位を確かめることが大切です。子宮頸癌はHPV感染を背景に妊娠可能年齢にも多く妊娠に合併しうるため、妊娠初期に細胞診が行われます。一方、子宮体癌は着床の場である子宮内膜の癌で、好発年齢も閉経前後であり、心拍のある胎芽が順調に育つ妊娠とはほぼ両立しません。病変の「部位」と妊娠成立の仕組みを結びつけて考えることが、鑑別を絞る力につながります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・32歳、2回経産婦で、これまでの妊娠・分娩に異常はない。 ・妊娠9週で性器出血を訴えて受診し、腟内には少量の暗赤色血液がたまっている。 ・経腟超音波では子宮腔内に胎嚢があり、頭殿長(CRL:crown-rump length、胎芽の頭の先から殿部までの長さ)23mmで心拍動のある胎芽を認める。
妊娠の状態の評価
CRL 23mmは妊娠9週前後の値に相当し、最終月経から計算した週数と矛盾しない。子宮内に胎嚢があるので異所性妊娠は否定的で、胎芽の心拍が確認できるので妊娠は現時点で生きて続いている。発育の遅れもないため、稽留流産や胞状奇胎などの異常妊娠は考えにくい。臨床的には「妊娠22週未満で性器出血があり、子宮口は閉じていて、胎芽は生存している」状態であり、切迫流産として扱われる。胎芽心拍が確認できた後の妊娠は、その後に流産する率が低く、多くは継続する。
出血源の考え方
妊娠初期の性器出血は、出血の場所によって大きく二つに分けて考えると整理しやすい。 1. 子宮内(妊娠そのもの)に由来する出血:流産(切迫・進行・不全など)、絨毛膜下血腫、異所性妊娠、胞状奇胎など。 2. 子宮腟部・頸管・腟など下部生殖器に由来する出血:子宮腟部びらん、子宮頸管ポリープ、子宮頸癌、腟炎、外傷など。 妊娠中は子宮頸部の血流が増え、組織が柔らかく充血しやすくなるため、下部生殖器の病変から出血しやすい。そのため、妊娠初期の出血では、超音波で子宮内を評価するのと同時に、腟鏡診で子宮腟部・頸管からの出血がないかを必ず確認する。 本問は「出血の原因として考えにくいもの」を選ぶ問題である。子宮内膜そのものに発生する悪性腫瘍が存在する状態では、受精卵が正常に着床し、心拍のある胎芽まで育つことはまず考えられない。この点に気づけば、選ぶべき選択肢が決まる。
選択肢考察
- ×a. 子宮頸癌
原因として否定できない。子宮頸癌は30歳代の女性にも多く、妊娠中に見つかる悪性腫瘍の中でも頻度が高い。子宮頸部は子宮内膜とは離れた部位であるため、頸癌があっても着床や妊娠の成立は妨げられない。妊娠中は頸部が充血しているため、腫瘍が少し触れただけでも出血しやすい(接触出血)。妊娠初期に子宮頸部細胞診を行うのは、このような合併癌を見逃さないためである。
- ○b. 子宮体癌
原因として考えにくい。子宮体癌は子宮内膜から発生する癌(子宮内膜癌)であり、癌がある内膜には受精卵が着床しにくく、正常な妊娠の成立・継続はきわめてまれである。さらに、子宮体癌の多くは閉経前後の50〜60歳代に発症する。危険因子は、未妊・未産、不妊、肥満、無排卵周期(多嚢胞性卵巣症候群など)といった、プロゲステロンの作用なしにエストロゲンが内膜を刺激し続ける状態であり、2回の出産歴があり、今回も自然に妊娠が成立している本例の背景とは合わない。本例では子宮内に心拍のある胎芽が順調に育っており、出血の原因として子宮体癌を考える必要性は最も低い。
- ×c. 絨毛膜下血腫
原因として否定できない。絨毛膜下血腫は、胎嚢を包む絨毛膜と子宮壁側の脱落膜(妊娠によって変化した子宮内膜)とのあいだに血液がたまったものである。妊娠初期の出血でよくみられる原因の一つで、経腟超音波では胎嚢の外側に三日月状の低エコー域として描出される。古い血液が少しずつ排出されるため、本例のような暗赤色の出血になりやすい。多くは安静・経過観察で自然に吸収されるが、血腫が大きい場合は流産や、その後の前期破水・早産などのリスクが高くなるため、経過を慎重にみる必要がある。
- ×d. 子宮腟部びらん
原因として否定できない。子宮腟部びらんは、本来は頸管の内側にある円柱上皮が子宮腟部の表面まで広がって露出し、赤くただれたように見える状態である(本当の上皮欠損ではないので偽びらんとも呼ばれる)。エストロゲンの作用で起こりやすく、妊娠中は目立つようになる。円柱上皮は薄く、下の毛細血管が透けて見えるほどであるため、性交や内診などの刺激で簡単に出血する。妊娠初期の出血でよくある良性の原因である。
- ×e. 子宮頸管ポリープ
原因として否定できない。子宮頸管ポリープは頸管粘膜から発生する良性の有茎性腫瘤で、経産婦に多く、妊娠中は充血して大きくなったり出血しやすくなったりする。腟鏡診で外子宮口から赤いポリープが出ているのが見えれば診断は容易である。妊娠中に切除するかどうかは、出血の程度や大きさなどを考慮して判断する。
妊娠初期の性器出血の主な原因
・子宮内の原因:切迫流産・流産、絨毛膜下血腫、異所性妊娠、胞状奇胎などの絨毛性疾患 ・下部生殖器の原因:子宮腟部びらん、子宮頸管ポリープ、子宮頸癌、腟炎、外傷 診察では、①妊娠反応と経腟超音波で子宮内妊娠かどうか・胎芽心拍の有無を確認し、②腟鏡診で出血の場所(子宮口から出ているのか、腟部やポリープから出ているのか)を確かめる。
CRLと妊娠週数
妊娠初期(おおむね妊娠8〜11週ごろ)はCRLの個人差が小さいため、CRLによって妊娠週数を最も正確に推定できる。月経周期が不規則な女性などで、最終月経から計算した週数とCRLによる週数が大きく異なる場合は、分娩予定日を修正する。
子宮頸癌と子宮体癌の違い
・子宮頸癌:主に扁平上皮癌で、高リスク型ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染が主な原因。20〜40歳代にも多く、妊娠に合併しうる。 ・子宮体癌:主に類内膜癌で、多くはエストロゲンの長期刺激によって発生する。好発年齢は50〜60歳代。危険因子は未妊・未産、肥満、糖尿病、高血圧、無排卵、エストロゲン単独の補充療法、タモキシフェンの使用など。
絨毛膜下血腫
妊娠初期の出血の原因として多い。超音波では胎嚢の周りの三日月状の低エコー域として見える。多くは自然に吸収されるが、大きな血腫は流産・早産の危険因子となる。
POINT
・妊娠初期の出血は「子宮内の原因(流産、絨毛膜下血腫など)」と「下部生殖器の原因(びらん、頸管ポリープ、頸癌)」に分けて考える。 ・子宮頸癌は妊娠可能な年齢にも多く、妊娠に合併しうる。そのため妊娠初期に子宮頸部細胞診を行う。 ・子宮体癌は子宮内膜の癌であり、正常な着床・妊娠の継続とはほぼ両立しない。好発年齢は閉経前後で、未産・肥満などが危険因子である。 ・CRL 23mmは妊娠9週前後に相当し、心拍のある胎芽が確認されれば妊娠が続く可能性は高い。
