Y染色体が精巣をつくり、テストステロンが男性にする―性分化とホルモンをつなぐ5つの命題
第102回医師国家試験 E問題 第5問
国試問題にチャレンジ
正しいのはどれか。
- a.X染色体上に精巣決定因子が存在する。
- b.Klinefelter症候群では血中LHが低値である。
- c.テストステロンは二次性徴の発現に必要である。
- d.精巣内のSertoli細胞がテストステロンを分泌する。
- e.精巣性女性化症候群では血中テストステロンが低値である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
精巣決定因子であるSRY遺伝子はY染色体短腕にあり、未分化性腺を精巣へ分化させます。精巣ではLeydig細胞がLHの刺激でテストステロンを、Sertoli細胞がFSHの刺激でインヒビンや抗Müller管ホルモンを分泌し、テストステロンとジヒドロテストステロンが思春期の男性二次性徴の発現に不可欠です。Klinefelter症候群は精巣自体の障害による原発性性腺機能低下症でLH・FSHは高値、アンドロゲン不応症(精巣性女性化症候群)は受容体異常のためテストステロンは正常〜高値となります。障害が性腺・中枢・受容体・変換酵素のどこにあるかをフィードバックの動きと結びつけて考えることが、性分化疾患や性腺機能低下症を理解する土台になります。
解答・解説
正解はcです
本問は、男性の性分化と男性化がどのように決まるかを、遺伝要因(性決定遺伝子)とホルモン(視床下部-下垂体-精巣系)の両面から問う一般問題である。
性の決定と分化の流れ
胎生初期の性腺は男女共通の未分化性腺である。Y染色体があるとその短腕上のSRY(sex-determining region Y)遺伝子が働き、未分化性腺は精巣へ分化する。分化した精巣のうち、Sertoli細胞は抗Müller管ホルモン(AMH)を分泌してMüller管(子宮・卵管の原基)を退縮させ、Leydig細胞はテストステロンを分泌してWolff管から精巣上体・精管・精嚢を発達させる。外性器の男性化にはテストステロンが5α還元酵素で変換されたジヒドロテストステロン(DHT)が必要である。
視床下部-下垂体-精巣系
視床下部のGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)が下垂体前葉からLH(黄体形成ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)を分泌させる。LHはLeydig細胞に作用してテストステロンを産生させ、FSHはSertoli細胞に作用して精子形成を支え、インヒビンを分泌させる。テストステロンはLHを、インヒビンはFSHを負のフィードバックで抑える。
解き方
各選択肢を「どの染色体か」「どの細胞が何を出すか」「障害がどこにあり、フィードバックでゴナドトロピンやテストステロンがどう動くか」という観点で確認すればよい。原発性(精巣そのもの)の障害ではゴナドトロピンが上昇し、受容体の障害ではホルモン自体は低下しない、という原則が判断の軸となる。
選択肢考察
- ×a. X染色体上に精巣決定因子が存在する。
誤り。精巣決定因子であるSRY遺伝子はY染色体の短腕(Yp11.2)に位置する。SRYがあれば染色体がXXでも精巣が形成されうる(SRYがX染色体へ転座したXX男性)し、逆にSRYが欠失・変異していればXYでも精巣が形成されない(Swyer症候群など)。この事実からも、精巣を決めているのはX染色体ではなくY染色体上のSRYであることがわかる。
- ×b. Klinefelter症候群では血中LHが低値である。
誤り。Klinefelter症候群(代表的な核型は47,XXY)は、精巣自体が萎縮・硝子化する原発性性腺機能低下症(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)である。Leydig細胞からのテストステロン分泌が低下し、Sertoli細胞からのインヒビン分泌も減るため、負のフィードバックが外れてLH・FSHはともに高値となる(特にFSHの上昇が目立つ)。臨床的には小さく硬い精巣、無精子症による不妊、女性化乳房、高身長などがみられる。
- ○c. テストステロンは二次性徴の発現に必要である。
正しい。思春期になるとGnRHのパルス状分泌が活発になり、LHの刺激を受けたLeydig細胞がテストステロンを多く分泌するようになる。テストステロン(および標的組織でそこから作られるDHT)は、陰茎・陰嚢の発育、陰毛・腋毛・髭の発生、声変わり(喉頭の発達)、筋肉量の増加、骨格の成長とその後の骨端線閉鎖、精子形成の開始、性欲の発現など、男性の二次性徴を引き起こす。このため思春期前から精巣機能が低下している場合(性腺機能低下症)には二次性徴が遅れたり欠如したりし、テストステロン補充療法が行われる。
- ×d. 精巣内のSertoli細胞がテストステロンを分泌する。
誤り。テストステロンを産生・分泌するのは、精細管の外側(間質)にあるLeydig細胞(間質細胞)であり、LHの刺激で分泌が促される。Sertoli細胞は精細管の内側にあって精子形成を支持する細胞で、FSHの刺激を受けてインヒビンやアンドロゲン結合タンパク(ABP)を分泌し、胎生期には抗Müller管ホルモン(AMH)を分泌する。また血液精巣関門を形成している。
- ×e. 精巣性女性化症候群では血中テストステロンが低値である。
誤り。精巣性女性化症候群(現在はアンドロゲン不応症〈AIS: androgen insensitivity syndrome〉と呼ぶ)は、X染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子の異常により、テストステロンが作用できない疾患である。核型は46,XYで精巣を有し、テストステロン産生そのものは保たれている。むしろ受容体が働かないために視床下部・下垂体へのフィードバックが効かず、LHが上昇してテストステロンは正常~高値となる。完全型では外性器が女性型となり、原発性無月経を契機に発見されることが多い。
精巣の2種類の細胞の整理
・Leydig細胞(間質): LHの刺激でテストステロンを分泌する。テストステロンはLH分泌を抑制する。 ・Sertoli細胞(精細管内): FSHの刺激で精子形成を支持し、インヒビン(FSH分泌を抑制)、アンドロゲン結合タンパク、胎生期には抗Müller管ホルモンを分泌する。血液精巣関門を形成する。
性腺機能低下症の分類
・原発性(高ゴナドトロピン性): 精巣そのものの障害。テストステロン低値、LH・FSH高値。例: Klinefelter症候群、両側精巣炎、放射線・化学療法後。 ・続発性(低ゴナドトロピン性): 視床下部・下垂体の障害。テストステロン低値、LH・FSH低値。例: Kallmann症候群(嗅覚障害を伴う)、下垂体腫瘍。
アンドロゲン不応症(精巣性女性化症候群)
・X連鎖性の遺伝形式をとる。核型46,XY、性腺は精巣(腹腔内や鼠径部の停留精巣であることが多い)。 ・AMHは正常に分泌されるため子宮・卵管はなく、膣は盲端に終わる。 ・テストステロンの一部が芳香化酵素でエストロゲンに変換されるため、乳房は発育する。陰毛・腋毛は乏しい。 ・テストステロンは正常~高値、LHは高値となる。停留精巣は悪性化のリスクがあるため、思春期以降に摘出が検討される。
5α還元酵素欠損症との違い
テストステロンは正常だがDHTが作られないため、外性器の男性化が不十分となる。Wolff管由来の内性器は男性型に発達し、思春期にはテストステロンの増加で男性化が進むことがある。
POINT
・精巣決定遺伝子SRYはY染色体短腕にある。 ・テストステロンはLeydig細胞(LH刺激)から、インヒビンはSertoli細胞(FSH刺激)から分泌される。 ・Klinefelter症候群(47,XXY)は原発性性腺機能低下症で、テストステロン低値・LH/FSH高値。 ・アンドロゲン不応症(精巣性女性化症候群)は受容体異常で、テストステロンは正常~高値、LH高値。 ・テストステロン(とDHT)は男性の二次性徴の発現に不可欠である。
