StudyMed医師国家試験

お腹に水がたまる婦人科疾患―「播種・透過性・漏出」の3機序で見抜く子宮内膜症の位置づけ

第102回医師国家試験 E問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第102回 E問題 第37問

多量の腹水貯留をきたさないのはどれか。

  1. a.卵巣過剰刺激症候群
  2. b.Meigs症候群
  3. c.子宮内膜症
  4. d.卵管癌
  5. e.卵巣癌

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、婦人科疾患のうち多量の腹水を伴うものと、そうでないものを見分ける問題だ。ポイントは「なぜ腹水が大量にたまるのか」という機序で考えること。暗記だけに頼ると迷いやすいよ。
医学生医学生
腹水というと、消化器内科の講義で習った肝硬変のイメージが強いです。婦人科でも大量にたまるんですね。
ドクタードクター
そう、婦人科領域にも腹水の代表的な原因がいくつもある。大きく分けると、癌の腹膜播種による癌性腹膜炎、血管透過性の亢進、そして卵巣腫瘍からの液体の漏出、の3つだ。この枠組みで選択肢を見てみよう。
医学生医学生
卵巣癌は腹膜播種で腹水がたまるので、多量の腹水をきたしますよね。
ドクタードクター
その通り。卵巣癌は初期には症状に乏しく、お腹が張る、腹囲が増えたといった訴えで見つかったときには、すでに腹膜播種を伴うⅢ期以上の進行癌であることが多い。腫瘍からの滲出と、腹膜やリンパ管での吸収障害が重なって、滲出性の腹水が大量にたまる。腹水細胞診で腺癌細胞が見つかり、CA125が上がることが多いね。
医学生医学生
卵管癌は正直あまりなじみがありません。まれな癌だと思うので、腹水も少ないのかなと迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。確かに卵管癌はまれで、早期には腹水がないか少量のことが多い。古典的には間欠的な大量の水様帯下、下腹部痛、骨盤内腫瘤が3徴とされる。でも進行して腹膜播種を起こせば、卵巣癌と同じように癌性腹膜炎となって多量の腹水を伴う。近年は、卵巣の高異型度漿液性癌の多くが卵管采の上皮から発生すると考えられていて、卵巣癌・卵管癌・腹膜癌はひとまとめに扱われることが多いんだ。
医学生医学生
病理の講義で、卵巣癌の起源が卵管にあるという話を聞いた覚えがあります。だから性質も似ているんですね。
ドクタードクター
そういうこと。次は卵巣過剰刺激症候群。これは2つ目の機序、血管透過性の亢進の代表だ。不妊治療の排卵誘発で多数の卵胞が育ち、卵巣が急に大きくなる医原性の病態だよ。
医学生医学生
腫大した卵巣からVEGFが出て、血管から水が漏れるんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。VEGFなどで全身の血管透過性が上がり、血漿成分が血管外に漏れて腹水や胸水がたまる。その裏で循環血液量が減って血液が濃縮するから、乏尿や電解質異常、そして血栓塞栓症が怖い。多嚢胞性卵巣症候群の人や若くてやせ型の人でリスクが高く、妊娠が成立すると内因性のhCGで重症化・遷延しやすい。
医学生医学生
Meigs症候群は、卵巣腫瘍に腹水と胸水を伴うものでしたよね。
ドクタードクター
そう、3つ目の機序だ。卵巣の良性充実性腫瘍、主に線維腫に腹水と胸水、多くは右側の胸水を伴い、腫瘍を取ると腹水も胸水も消える。腫瘍表面から漏れた液体が腹水となり、横隔膜を通って胸腔へ移ると考えられている。腹水はしばしば大量になるよ。線維腫以外の卵巣腫瘍で同じ病態を示すものは偽Meigs症候群と呼んで区別する。
医学生医学生
腹水と胸水を伴う卵巣腫瘍だと、まず癌を疑ってしまいそうです。
ドクタードクター
まさにそこが臨床上の落とし穴で、良性なのに癌と誤認されやすいから鑑別が重要なんだ。さて、残るのは子宮内膜症。これはどうだろう。
医学生医学生
産婦人科の実習でチョコレート嚢胞の患者さんを担当しましたが、腹水が大量にたまっていた印象はありません。答えは子宮内膜症ですね。
ドクタードクター
正解。子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が骨盤腹膜や卵巣、Douglas窩などで増殖し、エストロゲン依存性に出血と炎症を繰り返す良性疾患だ。主な症状は月経困難症、慢性骨盤痛、性交痛、不妊。病変は骨盤内に限局した炎症と癒着が中心で、少量の滲出性腹水がみられることはあっても、通常は多量にはならない。ごくまれに大量の血性腹水の報告はあるけれど、一般的な臨床像ではないよ。
医学生医学生
播種や全身の透過性亢進がなく、炎症が骨盤内にとどまるから大量の腹水にならない、と機序で理解すればいいんですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、ほかに婦人科で腹水を伴う病態も押さえておこう。胃癌などが卵巣に転移したKrukenberg腫瘍、結核性腹膜炎もある。結核性腹膜炎は卵巣癌との鑑別が問題になり、腹水中のADA上昇が参考になる。あと、腹水の性状では、血清と腹水のアルブミン濃度差であるSAAGが1.1g/dL以上なら門脈圧亢進などによる漏出性、未満なら癌性腹膜炎や結核などの滲出性を考えやすい。
医学生医学生
子宮内膜症で、ほかに臨床で注意すべきことはありますか。
ドクタードクター
卵巣チョコレート嚢胞はまれに明細胞癌や類内膜癌に悪性化するから、40歳以上や嚢胞の大きい人では特に注意が必要だ。確定診断は腹腔鏡による直接観察で、治療は鎮痛薬、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、ジエノゲスト、GnRHアナログなどの薬物療法と手術を組み合わせる。もし内膜症の患者さんに多量の腹水が出てきたら、内膜症だけで片付けず、悪性化や別の疾患を考えることが大切だよ。

まとめ

婦人科領域で多量の腹水をきたす機序は、卵巣癌・卵管癌の腹膜播種による癌性腹膜炎、卵巣過剰刺激症候群でのVEGFなどによる血管透過性亢進、Meigs症候群での卵巣線維腫からの漏出の3つに整理できます。卵巣過剰刺激症候群は排卵誘発後に起こり血液濃縮による血栓症に注意が必要で、Meigs症候群は腫瘍摘出で腹水・胸水が消失する良性疾患として、線維腫以外による偽Meigs症候群と区別します。子宮内膜症はエストロゲン依存性に骨盤内で炎症と癒着を繰り返す良性疾患で、腹水は少量にとどまるのが通常であり、多量の腹水貯留はきたしません。ほかにKrukenberg腫瘍や結核性腹膜炎も腹水を伴い、腹水の性状やSAAG、ADAが鑑別の手がかりになります。腹水がたまる「機序」から疾患を整理する考え方は、婦人科に限らず腹水患者の鑑別全般に役立ちます。

解答・解説

正解はcです

本問は、婦人科疾患のうち多量の腹水を伴うものとそうでないものを見分ける問題である。腹水が大量にたまる機序は、大きく次のように整理できる。

婦人科領域で腹水が大量になる主な機序

・腹膜播種による癌性腹膜炎:卵巣癌・卵管癌・腹膜癌などが腹膜に広く播種すると、腫瘍からの滲出と腹膜・リンパ管の吸収障害により、滲出性の腹水が多量に貯留する。 ・血管透過性の亢進:卵巣過剰刺激症候群では、腫大した卵巣から血管内皮増殖因子(VEGF)などが大量に放出され、血管から血漿成分が漏れ出して腹水・胸水となる。 ・卵巣腫瘍に伴う漏出:Meigs症候群では、良性の卵巣線維腫などから液体が漏れ出して腹水となり、横隔膜を通って胸腔にも移行する。 一方、子宮内膜症は子宮内膜に似た組織が骨盤内の腹膜や卵巣に生着し、月経周期に合わせて出血と炎症を繰り返す良性疾患である。病変は骨盤内に限局した炎症と癒着が主体であり、少量の炎症性(滲出性)の腹水を伴うことはあっても、通常は多量の腹水貯留をきたさない。よって、多量の腹水貯留をきたさないのは子宮内膜症である。

選択肢考察

  1. ×a.  卵巣過剰刺激症候群

    卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome:OHSS)は、不妊治療の排卵誘発(ゴナドトロピン製剤の投与と、排卵を起こすための hCG 投与)によって多数の卵胞が発育し、卵巣が急速に腫大する医原性の病態である。腫大した卵巣から VEGF などが放出されて全身の血管透過性が亢進し、血漿成分が血管外へ漏れるため、多量の腹水や胸水が貯留する。その結果、循環血液量が減少して血液が濃縮し、乏尿、低蛋白血症、電解質異常、血栓塞栓症、呼吸困難などをきたしうる。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の患者、若年者、やせ型の女性でリスクが高く、妊娠が成立すると内因性 hCG により重症化・遷延しやすい。多量の腹水をきたす代表的疾患である。

  2. ×b.  Meigs症候群

    Meigs症候群は、卵巣の良性充実性腫瘍(主に線維腫、ほかに莢膜細胞腫など)に腹水と胸水(多くは右側)を伴い、腫瘍を摘出すると腹水・胸水が消失するものをいう。腫瘍表面から漏れ出た液体が腹水となり、横隔膜の小孔やリンパ流を介して胸腔へ移行すると考えられている。腹水はしばしば大量となる。なお、線維腫以外の卵巣腫瘍(他の良性腫瘍や悪性腫瘍など)で同様の病態を呈するものは偽Meigs症候群と呼んで区別する。腹水・胸水を伴う卵巣腫瘍は癌と誤認されやすいため、鑑別上重要である。

  3. ○c.  子宮内膜症

    子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が子宮の外(骨盤腹膜、卵巣、Douglas窩など)で増殖し、エストロゲン依存性に出血と炎症を繰り返す疾患である。月経困難症、慢性骨盤痛、性交痛、不妊症を主症状とし、卵巣にはチョコレート嚢胞(古い血液を含む内膜症性嚢胞)を形成する。病変部の慢性炎症により骨盤内に少量の滲出性腹水がみられることはあるが、病変は骨盤内に限局した癒着が中心であり、通常は多量の腹水貯留をきたさない。ごくまれに大量の血性腹水を呈した報告はあるが、一般的な臨床像ではない。

  4. ×d.  卵管癌

    卵管癌は婦人科悪性腫瘍の中ではまれで、組織型の多くは漿液性癌である。古典的には、間欠的な大量の水様帯下、下腹部痛、骨盤内腫瘤が3徴とされる。早期には腹水がないか少量のことが多いが、進行して腹膜播種をきたすと卵巣癌と同様に癌性腹膜炎となり、多量の腹水を伴う。近年は、卵巣の高異型度漿液性癌の多くが卵管采の上皮に発生する前がん病変に由来すると考えられており、卵巣癌・卵管癌・腹膜癌はひとまとめに扱われることが多い。したがって、卵管癌は多量の腹水をきたしうる疾患である。

  5. ×e.  卵巣癌

    卵巣癌は初期には自覚症状に乏しく、腹部膨満感や腹囲の増大などで発見されたときには、すでに腹膜播種を伴う進行癌(Ⅲ期以上)であることが多い。腹膜播種による癌性腹膜炎では多量の滲出性腹水が貯留し、腹水の細胞診で腺癌細胞が検出される。腫瘍マーカーとしてはCA125が上昇することが多い。多量の腹水をきたす婦人科疾患の代表である。

婦人科領域で腹水を伴う主な疾患

・悪性腫瘍:卵巣癌、卵管癌、腹膜癌、Krukenberg腫瘍(胃癌などが卵巣に転移した腫瘍。印環細胞を含む) ・良性卵巣腫瘍:Meigs症候群(線維腫など) ・医原性:卵巣過剰刺激症候群 ・感染症:結核性腹膜炎(骨盤内結核)。腹水を伴い卵巣癌との鑑別が問題となることがあり、腹水中のアデノシンデアミナーゼ(ADA)上昇が参考になる ・その他:重症妊娠高血圧症候群や HELLP症候群に伴う低蛋白血症・血管透過性亢進による腹水

腹水の性状による分類

・漏出性腹水:蛋白濃度が低く、血清-腹水アルブミン濃度差(SAAG)が1.1g/dL以上になることが多い。門脈圧亢進(肝硬変)、心不全、ネフローゼ症候群などでみられる。 ・滲出性腹水:蛋白濃度が高く、SAAGが1.1g/dL未満になることが多い。癌性腹膜炎、結核性腹膜炎、膵炎などでみられる。

子宮内膜症の要点

性成熟期の女性に好発し、エストロゲン依存性に増悪する。好発部位は卵巣とDouglas窩を含む骨盤腹膜である。診断は症状・内診・超音波・MRIで行い、確定診断は腹腔鏡による病変の直接観察である。卵巣チョコレート嚢胞はまれに悪性化(明細胞癌・類内膜癌)するため、特に40歳以上や嚢胞径の大きいものでは注意する。治療は鎮痛薬、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、黄体ホルモン製剤(ジエノゲスト)、GnRHアナログなどの薬物療法と手術療法がある。

POINT

・多量の腹水をきたす婦人科疾患:卵巣癌・卵管癌(癌性腹膜炎)、卵巣過剰刺激症候群(血管透過性亢進)、Meigs症候群(卵巣線維腫+腹水+胸水、腫瘍摘出で消失) ・子宮内膜症は骨盤内の炎症・癒着が主体で、腹水は少量にとどまるのが通常 ・OHSSは排卵誘発(特にhCG投与)後に発症し、PCOSで起こりやすい。血液濃縮による血栓症に注意 ・Meigs症候群と偽Meigs症候群の区別を押さえる

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。