鉄欠乏の陰にある子宮筋腫―「偽閉経」で縮めるGnRHアゴニスト
第102回医師国家試験 D問題 第60問
国試問題にチャレンジ
40歳の女性。以前から過多月経があり,人間ドックで小球性低色素性貧血を指摘され来院した。便潜血反応陰性。子宮頸部細胞診クラスⅡ。骨盤部単純MRIのT2強調矢状断像を別に示す。 薬物療法として適切なのはどれか。

- a.エストロゲン
- b.GnRHアゴニスト
- c.メトトレキサート
- d.ブロモクリプチン
- e.プロスタグランジン
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
過多月経を伴う女性の小球性低色素性貧血では、便潜血などで消化管出血を除外しつつ、子宮筋腫などの婦人科的出血を考えます。子宮筋腫はMRIのT2強調像で境界明瞭な低信号腫瘤として描出され、境界不明瞭な子宮腺筋症と区別されます。筋腫はエストロゲン依存性であり、薬物療法の中心は受容体のダウンレギュレーションによってエストロゲンを低下させるGnRHアゴニストの偽閉経療法です。骨量減少のため投与は原則6か月以内で、中止すると再増大するため、術前の縮小・貧血改善や閉経への橋渡しとして位置づけられます。ホルモン依存性という病態から治療薬を導く考え方は、子宮内膜症や乳癌など他のホルモン依存性疾患の理解にも応用できます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・40歳女性。以前から過多月経(月経血量が異常に多い状態)がある。 ・人間ドックで小球性低色素性貧血を指摘された。小球性低色素性貧血の原因として最も多いのは鉄欠乏性貧血であり、成人女性では過多月経による慢性的な失血が代表的な原因である。 ・便潜血反応陰性:消化管からの慢性出血(消化性潰瘍、大腸癌など)は考えにくい。 ・子宮頸部細胞診クラスⅡ:炎症などによる良性の異型細胞のみで、悪性を疑う所見はない。 ・骨盤部単純MRI T2強調矢状断像:子宮の筋層内に、周囲の筋層より低信号(黒く見える)で境界明瞭な類円形の腫瘤が複数あり、特に子宮底部に大きなものを認める。中央の高信号の線状構造は子宮内膜である。T2強調像で境界明瞭な低信号腫瘤は子宮筋腫に典型的な所見である。
診断へのプロセス
過多月経に伴う鉄欠乏性貧血が疑われ、消化管出血は否定的、頸部細胞診にも異常がない。MRIで筋層内の多発する境界明瞭なT2低信号腫瘤を認めることから、多発性子宮筋腫(主に筋層内筋腫)による過多月経と、それによる鉄欠乏性貧血と診断できる。子宮腺筋症もMRIで筋層のT2低信号域を示し過多月経をきたすが、腺筋症は境界不明瞭な筋層のびまん性肥厚として描出される点で区別する。
設問の考え方
子宮筋腫は子宮平滑筋由来の良性腫瘍で、エストロゲン(およびプロゲステロン)に依存して増大し、閉経後には縮小する。したがって薬物療法の基本は、卵巣からの性ステロイドホルモン分泌を抑えて一時的に閉経に近い状態をつくること(偽閉経療法)である。この目的で用いられる代表的な薬剤がGnRHアゴニストである。
選択肢考察
- ×a. エストロゲン
子宮筋腫はエストロゲン依存性に増大する腫瘍であり、エストロゲンを投与すると筋腫の増大や過多月経の悪化を招くおそれがある。治療はむしろエストロゲンの作用を抑える方向で行うため、不適切である。
- ○b. GnRHアゴニスト
GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)アゴニスト(リュープロレリン、ゴセレリン、ブセレリンなど)は、投与初期には下垂体からのLH・FSH分泌を一過性に増加させる(フレアアップ)が、持続的に作用させると下垂体のGnRH受容体がダウンレギュレーション(受容体数の減少・脱感作)を起こし、LH・FSHの分泌が抑えられる。その結果、卵巣からのエストロゲン分泌が低下して閉経に近い状態(偽閉経)となり、筋腫が縮小し、月経も止まるため過多月経と貧血が改善する。低エストロゲン状態による骨量減少やほてりなどの更年期様症状が副作用であり、骨量減少のため投与期間は原則6か月以内に制限される。中止すると筋腫は再び増大するため、手術前に筋腫を縮小させ貧血を改善する目的や、閉経が近い女性で閉経までの橋渡しとして用いられることが多い。
- ×c. メトトレキサート
メトトレキサートは葉酸代謝拮抗薬で、抗悪性腫瘍薬や関節リウマチなどの免疫抑制薬として用いられる。婦人科領域では、絨毛性疾患(侵入奇胎・絨毛癌など)の化学療法や、未破裂の異所性妊娠(卵管妊娠)の保存的治療に使われる。良性腫瘍でホルモン依存性の子宮筋腫には効果がなく、適応はない。
- ×d. ブロモクリプチン
ブロモクリプチンはドパミン作動薬(ドパミンD2受容体アゴニスト)で、下垂体前葉のプロラクチン分泌を抑制する。高プロラクチン血症やプロラクチノーマ、乳汁漏出・無月経症候群、産褥期の乳汁分泌抑制、先端巨大症、Parkinson病などに用いられる。子宮筋腫の増大にプロラクチンは関与しないため、効果は期待できない。
- ×e. プロスタグランジン
プロスタグランジン(PG)はアラキドン酸から生成される生理活性物質で、産婦人科領域ではPGF2αやPGE2製剤が陣痛誘発・促進(子宮収縮薬)や子宮頸管の熟化に用いられる。子宮筋腫を縮小させる作用はなく、子宮収縮作用により月経痛を増強させることもあり、治療薬にはならない。なお、月経困難症に用いる鎮痛薬(NSAIDs)はPGの合成を抑える薬であり、PGそのものではない。
子宮筋腫の概要
子宮平滑筋から発生する良性腫瘍で、生殖年齢女性の20〜30%程度にみられる最も頻度の高い婦人科腫瘍である。30〜40歳代に多く、エストロゲン依存性のため閉経後は縮小する。多発することが多い。
発生部位による分類と症状
・漿膜下筋腫:子宮の外側に向かって発育する。症状が出にくく、大きくなってから腹部腫瘤や周囲臓器の圧迫症状(頻尿・便秘・水腎症など)で気づかれる。有茎性のものは茎捻転を起こすことがある。 ・筋層内筋腫:最も頻度が高い。大きくなると子宮内腔を変形させ、過多月経・月経困難症・不妊の原因となる。 ・粘膜下筋腫:子宮内腔に突出するもので、小さくても過多月経や不正出血、高度の貧血をきたしやすい。有茎性のものは子宮口から脱出すること(筋腫分娩)がある。 主な症状は過多月経とそれによる鉄欠乏性貧血、月経困難症、圧迫症状、不妊・流早産である。
診断
内診、経腟超音波、MRIで行う。MRIではT2強調像で境界明瞭な低信号腫瘤として描出される。子宮肉腫との鑑別が重要で、急速な増大、閉経後の増大、MRIでの不均一な高信号や出血・壊死を伴う場合は肉腫を疑う。
治療
・無症状で小さいもの:経過観察。 ・薬物療法:GnRHアゴニスト、近年は経口GnRHアンタゴニスト(レルゴリクス)も用いられる。これらは根治的ではなく、術前の筋腫縮小・貧血改善や閉経への橋渡しが主な目的である。過多月経などの症状に対しては、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)、レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)、トラネキサム酸、鉄剤なども対症的に使われる。 ・手術:妊孕性温存を希望する場合は筋腫核出術(開腹・腹腔鏡下、粘膜下筋腫では子宮鏡下=レゼクトスコープによる切除)、希望しない場合は子宮全摘術が根治的である。 ・その他:子宮動脈塞栓術(UAE)など。
GnRHアゴニスト使用時の注意
投与初期のフレアアップにより一時的に出血が増えることがある。また、有茎性の粘膜下筋腫では筋腫が縮小・変性して脱出(筋腫分娩)や大量出血をきたすことがあるため注意が必要で、このような筋腫では子宮鏡下切除が選ばれることが多い。長期投与は骨量減少をきたすため、原則として6か月以内とする。
POINT
・過多月経+小球性低色素性貧血(鉄欠乏性貧血)+便潜血陰性 → 婦人科的出血、特に子宮筋腫を考える。 ・子宮筋腫はMRI T2強調像で境界明瞭な低信号腫瘤。 ・子宮筋腫はエストロゲン依存性 → エストロゲン投与は増悪因子。 ・薬物療法の中心はGnRHアゴニストによる偽閉経療法(受容体のダウンレギュレーションでLH・FSH・エストロゲンが低下)。 ・GnRHアゴニストの副作用は骨量減少・更年期様症状で、投与は原則6か月以内。中止で再増大するため、術前療法や閉経への橋渡しに用いる。 ・メトトレキサートは絨毛性疾患・異所性妊娠、ブロモクリプチンは高プロラクチン血症、プロスタグランジンは陣痛誘発・頸管熟化。
