「どこで吸収されるか」と「消化できるか」―部位と病態でひもとく吸収障害
第102回医師国家試験 E問題 第1問
国試問題にチャレンジ
吸収障害の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.空腸切除 ―― ビタミンB12
- b.回盲部切除 ―― 鉄
- c.Crohn病 ―― 胆汁酸
- d.潰瘍性大腸炎 ―― アミノ酸
- e.慢性膵炎 ―― 脂肪
対話形式の解説
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ドクターまとめ
吸収障害は、膵酵素や胆汁の不足で栄養素を吸収可能な形にできない「消化の障害」と、栄養素を取り込む腸管部位が失われる「吸収の障害」に分けて整理します。鉄やカルシウムは十二指腸〜空腸上部、糖質・アミノ酸・脂肪は主に空腸、ビタミンB12と胆汁酸は回腸末端、水・電解質は大腸で吸収されるのが大原則です。そのため回腸末端〜回盲部を好発部位とするCrohn病では胆汁酸の再吸収が障害されて胆汁酸性下痢や脂肪便、胆石を来し、膵外分泌不全に陥った慢性膵炎ではリパーゼ不足による脂肪便と脂溶性ビタミン欠乏が目立ちます。一方、空腸切除ではB12欠乏は起こりにくく、回盲部切除で鉄、潰瘍性大腸炎でアミノ酸の吸収障害は生じません。部位と機能の対応を押さえておくことは、術後の栄養管理や慢性下痢の鑑別に直結する臨床の基礎となります。
解答・解説
正解はc, eです
消化管のどの部位がどの栄養素を吸収するか、そして膵外分泌のように「消化」の段階が障害されるとどうなるかを問う問題である。 吸収障害を考えるときは、①消化の障害(膵酵素や胆汁の不足で栄養素が吸収可能な形に分解・可溶化されない)と、②吸収の障害(その栄養素を取り込む腸管の部位が切除・炎症で失われている)に分けて整理するとよい。 小腸の吸収部位の大原則は次のとおりである。 ・十二指腸〜空腸上部:鉄、カルシウム、葉酸など ・空腸:糖質、アミノ酸(ペプチド)、脂肪、水溶性・脂溶性ビタミンの大部分(小腸全体で吸収されるが主役は空腸) ・回腸末端:ビタミンB12(内因子と結合した複合体として)、胆汁酸(腸肝循環) ・大腸:主に水と電解質(Na+)、短鎖脂肪酸 この対応を各選択肢の病態(切除部位・病変の好発部位・消化酵素不足の有無)に当てはめれば、正しい組合せはCrohn病―胆汁酸と慢性膵炎―脂肪の2つとなる。
選択肢考察
- ×a. 空腸切除 ―― ビタミンB12
ビタミンB12は胃壁細胞から分泌される内因子と結合し、回腸末端の受容体(cubilin)を介して吸収される。したがってB12欠乏を起こすのは胃全摘や回腸末端の切除・病変であり、空腸切除では起こりにくい。なお空腸を切除しても、回腸が糖質・アミノ酸・脂肪の吸収を代償するため、比較的吸収障害は軽く済むことが多い。
- ×b. 回盲部切除 ―― 鉄
鉄(特に非ヘム鉄は二価鉄に還元されてDMT1を介して)は主に十二指腸から空腸上部で吸収される。回盲部切除で障害されるのはビタミンB12と胆汁酸の吸収であり、鉄ではない。鉄吸収障害を起こしやすいのは、十二指腸を食物が通過しなくなる胃切除後(Billroth II法再建など)や胃酸分泌低下である。
- ○c. Crohn病 ―― 胆汁酸
Crohn病は口腔から肛門まで消化管のどこにでも非連続性(skip lesion)に全層性炎症を生じるが、最も多い部位は回腸末端〜回盲部である。胆汁酸はその約95%が回腸末端で能動的に再吸収され、門脈を経て肝臓に戻る(腸肝循環)。回腸末端の病変や切除があると胆汁酸の再吸収が障害され、大腸に流入した胆汁酸による水分分泌で下痢(胆汁酸性下痢)が起き、さらに胆汁酸プールが減少すると脂肪の吸収障害(脂肪便)や胆石形成を招く。よって組合せとして正しい。
- ×d. 潰瘍性大腸炎 ―― アミノ酸
アミノ酸(およびジ・トリペプチド)は主に空腸で吸収される。潰瘍性大腸炎は直腸から連続性に口側へ広がる大腸粘膜の炎症性疾患であり、原則として小腸は侵されない(全大腸炎型で回腸末端に軽度の炎症がみられるbackwash ileitisはあるが例外的)。したがってアミノ酸の吸収障害は起こらない。潰瘍性大腸炎の下痢は大腸での水・電解質吸収の障害と粘膜からの滲出によるものである。
- ○e. 慢性膵炎 ―― 脂肪
慢性膵炎が進行して膵外分泌機能が荒廃すると、膵リパーゼなどの消化酵素の分泌が低下する。脂肪はリパーゼによって脂肪酸とモノグリセリドに分解されなければ吸収できないため、消化不良による脂肪吸収障害が生じ、脂肪便(灰白色で悪臭のある量の多い便)や脂溶性ビタミン(A・D・E・K)欠乏を来す。一般に膵外分泌能が正常の約10%以下に低下すると脂肪便が顕在化するとされる。蛋白質や糖質の消化も障害されるが、他の消化酵素による代償があるため、最も目立つのは脂肪の吸収障害である。よって組合せとして正しい。
小腸の主な吸収部位
・十二指腸〜空腸上部:鉄、カルシウム、葉酸、マグネシウムなど ・空腸(主体)〜回腸:糖質(単糖)、アミノ酸・ペプチド、脂肪(ミセル化された脂肪酸・モノグリセリド)、脂溶性ビタミン、多くの水溶性ビタミン ・回腸末端:ビタミンB12(内因子複合体)、胆汁酸 ・大腸:水、Na+などの電解質、短鎖脂肪酸
胆汁酸の腸肝循環
肝臓で合成された胆汁酸は胆汁中に分泌され、十二指腸で脂肪をミセル化して吸収を助けた後、回腸末端で再吸収されて門脈から肝臓へ戻る。1日に数回循環し、糞便中に失われる量はごくわずかである。回腸末端の障害が軽度(切除範囲がおよそ100cm未満)なら肝臓での合成増加で代償され、胆汁酸が大腸を刺激する水様性下痢が主体となる。障害が広範(約100cm以上)になると合成が追いつかず胆汁酸プールが減少し、脂肪便が主体となる。
消化障害と吸収障害
・消化障害:膵外分泌不全(慢性膵炎、膵癌、膵切除、嚢胞性線維症)、胆汁分泌障害(閉塞性黄疸) ・吸収障害:小腸切除(短腸症候群)、Crohn病、セリアック病、腸リンパ管拡張症、盲係蹄症候群(細菌過剰増殖によるB12消費と胆汁酸の脱抱合)など
Crohn病と潰瘍性大腸炎の病変分布
・Crohn病:全消化管、非連続性、全層性。回腸末端〜回盲部が好発部位。瘻孔・狭窄を来しやすい。 ・潰瘍性大腸炎:大腸に限局し、直腸から連続性に口側へ広がる。粘膜〜粘膜下層の炎症。
POINT
・ビタミンB12と胆汁酸は回腸末端で吸収される → Crohn病・回盲部切除で障害される。 ・鉄は十二指腸〜空腸上部で吸収される → 胃切除後に鉄欠乏性貧血。 ・アミノ酸・糖質・脂肪は主に空腸で吸収される。 ・潰瘍性大腸炎は大腸に限局し、小腸での栄養素吸収は保たれる。 ・慢性膵炎による膵外分泌不全では脂肪の消化吸収障害(脂肪便、脂溶性ビタミン欠乏)が目立つ。
