StudyMed医師国家試験

硬く縮む肺が教えてくれること―特発性肺線維症の検査所見を病態から読み解く

第102回医師国家試験 D問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第102回 D問題 第1問

特発性肺線維症でみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.PaCO2上昇
  2. b.一秒率低下
  3. c.血清KL-6上昇
  4. d.肺拡散能低下
  5. e.全肺気量増加

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、特発性肺線維症でどんな検査所見がみられるかを問う問題だ。暗記で解こうとすると混乱しやすいけれど、「肺胞の壁が線維化して厚く硬くなる」という一点から考えれば、すべての所見を順番に導き出せる。まず、この病気がどういうものか確認しておこう。
医学生医学生
原因不明の間質性肺炎の一つで、病理ではUIPパターンを示すと習いました。
ドクタードクター
そう。特発性間質性肺炎の中で最も多く、中高年の男性や喫煙者に多い、慢性進行性で予後不良の疾患だ。では、肺が硬くなると呼吸機能検査はどう変わるかな。
医学生医学生
肺が膨らみにくくなるので、肺活量が減る拘束性換気障害ですね。
ドクタードクター
その通り。肺のコンプライアンスが下がって十分に膨らまないから、肺活量も全肺気量も減る。だから全肺気量が増えるというのは逆なんだ。全肺気量が増えるのは、肺が過膨張する肺気腫の方だね。
医学生医学生
一秒率はどうなりますか。肺の病気だから下がりそうなイメージがあるんですが。
ドクタードクター
そこはよく間違えるところだ。一秒率が70%未満になるのは、COPDや気管支喘息のような気道が狭くなる閉塞性換気障害。特発性肺線維症では気道は閉塞していないから、一秒量と努力肺活量が一緒に減って、一秒率は正常に保たれる。むしろ線維化した肺が気道を外から引っ張って広げるので、一秒率は上がることも多いんだ。
医学生医学生
CBTの勉強で「拘束性は%VC、閉塞性は一秒率」と覚えましたが、理由まで分かるとすっきりします。
ドクタードクター
次はガス交換だ。肺胞の壁が厚くなり、ガス交換に使える面積も減ると、何が起こるだろう。
医学生医学生
酸素が血液に移りにくくなるので、拡散能が下がります。
ドクタードクター
正解。一酸化炭素を使って測る肺拡散能が低下する。これは病初期から現れやすく、肺活量より鋭敏な指標とされていて、労作時の低酸素血症の原因になるんだ。では、低酸素なら二酸化炭素もたまりそうだけど、PaCO2は上がるかな。
医学生医学生
呼吸がうまくいかないなら、CO2も上がる気がします。
ドクタードクター
そう考えたくなるよね。でも二酸化炭素は酸素よりはるかに拡散しやすいから、拡散障害の影響を受けにくい。さらに、低酸素や硬い肺からの刺激で呼吸が浅く速くなり、換気はむしろ亢進する。だからPaCO2は正常か低下で、PaCO2が上がらないⅠ型呼吸不全になる。上昇するのは呼吸筋が疲れ切った末期などに限られるんだ。
医学生医学生
Ⅱ型呼吸不全はCOPD増悪や神経筋疾患のような肺胞低換気のときでしたね。
ドクタードクター
よく整理できているね。最後に血液検査。肺胞上皮が傷害されて再生を繰り返すと、再生したⅡ型肺胞上皮細胞がつくる物質が血中に増える。代表がKL-6で、ほかにSP-AやSP-Dもある。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、間質性肺炎の患者さんのKL-6を外来ごとに追っていたのを覚えています。
ドクタードクター
そう、病勢の評価や経過観察に使われるマーカーだね。まとめると、この病気でみられるのは血清KL-6上昇と肺拡散能低下。PaCO2上昇、一秒率低下、全肺気量増加はいずれも病態と合わない。
医学生医学生
肺が硬く縮む、壁が厚くなる、上皮が傷んで再生する、の3つから全部説明できるんですね。
ドクタードクター
その通り。臨床像も押さえておこう。乾いた咳と労作時呼吸困難がゆっくり進み、聴診では両側下肺の背側で捻髪音、いわゆるfine cracklesを聴取し、ばち指を伴うことがある。高分解能CTでは、両側下葉・胸膜直下優位の網状影や蜂巣肺、牽引性気管支拡張がみられる。
医学生医学生
治療はステロイドですか。
ドクタードクター
特発性肺線維症の慢性期には、ステロイドではなくピルフェニドンやニンテダニブといった抗線維化薬で呼吸機能の低下を遅らせるのが基本だ。低酸素血症には在宅酸素療法、適応があれば肺移植も検討する。臨床で特に注意したいのは急性増悪で、経過中に急激に悪化して主要な死因になる。肺癌の合併が多いことも忘れずに、画像の変化には気を配ってほしい。

まとめ

特発性肺線維症は、原因不明の間質性肺炎の中で最も多く、UIPパターンを示す慢性進行性の予後不良疾患です。肺胞壁の線維化で肺が硬く縮むため、肺活量・全肺気量が減る拘束性換気障害となり、気道閉塞はないので一秒率は正常〜上昇します。壁の肥厚とガス交換面積の減少で肺拡散能が早期から低下し、労作時低酸素血症をきたしますが、換気亢進とCO2の拡散しやすさからPaCO2は正常〜低下するⅠ型呼吸不全です。肺胞上皮の傷害と再生を反映してKL-6やSP-A・SP-Dが上昇し、身体所見では捻髪音とばち指、HRCTでは下葉・胸膜直下優位の蜂巣肺が特徴です。「肺が硬くなる」という病態から所見を導く考え方は、閉塞性と拘束性の鑑別や呼吸不全の分類など、呼吸器領域全体の理解の土台になります。

解答・解説

正解はc, dです

テーマ

特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)は、原因の特定できない間質性肺炎(特発性間質性肺炎)の中で最も頻度が高く、慢性・進行性に肺の線維化が進む予後不良の疾患である。病理組織像は通常型間質性肺炎(usual interstitial pneumonia:UIP)パターンを示し、中高年の男性、喫煙者に多い。

病態から所見を導く

IPFの所見は、「肺胞の壁(間質)が線維化して厚く硬くなる」という一点から理解できる。 1.肺が硬くなる(コンプライアンス低下)→ 肺が十分に膨らまない → 肺活量(VC)・全肺気量(TLC)が減少する拘束性換気障害(%VC<80%)。気道の閉塞はないため、一秒率(FEV1/FVC)は正常か、むしろ高くなる。 2.肺胞壁が厚くなり、ガス交換面積も減る → 酸素が血液へ移りにくくなる → 肺拡散能(DLCO)低下。これにより、特に労作時に低酸素血症が生じ、A-aDO2(肺胞気-動脈血酸素分圧較差)が開大する。 3.低酸素血症や、硬い肺にある伸展受容器などの刺激で呼吸が浅く速くなり、換気が亢進する → CO2は十分に排出され、PaCO2は正常か低下する(Ⅰ型呼吸不全)。 4.肺胞上皮の傷害と再生 → 再生したⅡ型肺胞上皮細胞がつくるKL-6やSP-A・SP-Dが血中に増加する。 したがって、IPFでみられるのは血清KL-6上昇と肺拡散能低下である。

選択肢考察

  1. ×a.  PaCO2上昇

    IPFの呼吸不全は、拡散障害と換気血流比の不均等による低酸素血症が主体であり、PaCO2の上がらないⅠ型呼吸不全(PaO2 60Torr以下かつPaCO2 45Torr以下)となる。低酸素による呼吸の刺激と、硬い肺による浅く速い呼吸のため換気は亢進し、PaCO2はむしろ正常〜低下する。CO2は酸素よりはるかに拡散しやすいため、拡散障害の影響も受けにくい。PaCO2が上昇するのは、呼吸筋疲労を伴う末期や、他疾患を合併した場合に限られる。

  2. ×b.  一秒率低下

    一秒率(FEV1/FVC)70%未満は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や気管支喘息などの閉塞性換気障害でみられる。IPFは拘束性換気障害であり、FEV1とFVCがともに減るため一秒率は正常に保たれる。さらに、線維化した肺の収縮力(弾性収縮力)が強く、周囲から気道が引っ張られて広がるため、一秒率はむしろ上昇することも多い。

  3. ○c.  血清KL-6上昇

    KL-6(シアル化糖鎖抗原)は、主に再生・増殖したⅡ型肺胞上皮細胞から産生される糖蛋白で、間質性肺炎の血清マーカーとして用いられる(基準値の目安は500U/mL未満)。IPFをはじめとする間質性肺炎では肺胞上皮の傷害と再生が続くため、KL-6が上昇する。同様のマーカーとしてSP-A、SP-D(肺サーファクタント蛋白)があり、いずれも病勢の評価や経過観察に利用される。

  4. ○d.  肺拡散能低下

    肺拡散能(DLCO:一酸化炭素を用いて測る肺拡散能力)は、肺胞から毛細血管へのガスの移りやすさを示す。IPFでは肺胞壁(間質)が線維化して厚くなり、ガス交換に使える肺胞と毛細血管の面積も減るため、DLCOが低下する。DLCO低下はIPFの早期から現れやすく、肺活量より鋭敏な指標とされ、労作時の低酸素血症(SpO2低下)の原因となる。

  5. ×e.  全肺気量増加

    全肺気量(TLC:最大に吸った時に肺に入っている空気の総量)が増加するのは、肺が過膨張するCOPD(特に肺気腫)である。IPFは線維化で肺が硬く縮むため、TLC・肺活量・機能的残気量はいずれも減少する。これが拘束性換気障害の本質である。

IPFの概要

・好発:50歳以上、男性、喫煙者。 ・症状:乾性咳嗽、労作時呼吸困難が緩徐に進行する。 ・身体所見:両側下肺野背側で聴取される捻髪音(fine crackles、ベルクロラ音)、ばち指。 ・胸部HRCT(高分解能CT):両側下葉・胸膜直下優位の網状影、蜂巣肺(honeycombing)、牽引性気管支拡張。これらがそろうとUIPパターンと判断される。 ・経過:慢性進行性で、診断後の平均生存期間は3〜5年程度とされる。経過中に急激に悪化する急性増悪を起こすことがあり、主要な死因となる。肺癌の合併も多い。 ・治療:抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)で呼吸機能の低下を遅らせる。低酸素血症には在宅酸素療法。適応があれば肺移植。

換気障害の整理

・拘束性換気障害:%VC<80%。間質性肺炎・肺線維症、胸郭変形、神経筋疾患など。TLC減少、一秒率は正常〜上昇。 ・閉塞性換気障害:一秒率<70%。COPD、気管支喘息など。TLC・残気量は正常〜増加(過膨張)。

拡散能が低下する主な病態

間質性肺炎・肺線維症、肺気腫(肺胞壁の破壊による面積減少)、肺血管疾患(肺血栓塞栓症、肺高血圧症)、貧血(Hb量で補正して評価する)。気管支喘息では拡散能は正常〜上昇する。

呼吸不全の分類

呼吸不全は室内気吸入時のPaO2が60Torr以下の状態で、PaCO2 45Torr以下をⅠ型(拡散障害、換気血流比不均等、シャントによる)、45Torrを超えるものをⅡ型(肺胞低換気による。COPD増悪、神経筋疾患など)と分類する。

POINT

・IPFは拘束性換気障害:%VC低下、TLC低下、一秒率は正常〜上昇。 ・拡散障害でDLCO低下、A-aDO2開大、労作時低酸素血症。 ・呼吸不全はⅠ型で、PaCO2は正常〜低下(上昇は末期など)。 ・血清マーカーはKL-6、SP-A、SP-Dの上昇。 ・身体所見は捻髪音とばち指、HRCTは下葉・胸膜直下優位の蜂巣肺。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。