硬く縮む肺が教えてくれること―特発性肺線維症の検査所見を病態から読み解く
第102回医師国家試験 D問題 第1問
国試問題にチャレンジ
特発性肺線維症でみられるのはどれか。2つ選べ。
- a.PaCO2上昇
- b.一秒率低下
- c.血清KL-6上昇
- d.肺拡散能低下
- e.全肺気量増加
対話形式の解説
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ドクターまとめ
特発性肺線維症は、原因不明の間質性肺炎の中で最も多く、UIPパターンを示す慢性進行性の予後不良疾患です。肺胞壁の線維化で肺が硬く縮むため、肺活量・全肺気量が減る拘束性換気障害となり、気道閉塞はないので一秒率は正常〜上昇します。壁の肥厚とガス交換面積の減少で肺拡散能が早期から低下し、労作時低酸素血症をきたしますが、換気亢進とCO2の拡散しやすさからPaCO2は正常〜低下するⅠ型呼吸不全です。肺胞上皮の傷害と再生を反映してKL-6やSP-A・SP-Dが上昇し、身体所見では捻髪音とばち指、HRCTでは下葉・胸膜直下優位の蜂巣肺が特徴です。「肺が硬くなる」という病態から所見を導く考え方は、閉塞性と拘束性の鑑別や呼吸不全の分類など、呼吸器領域全体の理解の土台になります。
解答・解説
正解はc, dです
テーマ
特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)は、原因の特定できない間質性肺炎(特発性間質性肺炎)の中で最も頻度が高く、慢性・進行性に肺の線維化が進む予後不良の疾患である。病理組織像は通常型間質性肺炎(usual interstitial pneumonia:UIP)パターンを示し、中高年の男性、喫煙者に多い。
病態から所見を導く
IPFの所見は、「肺胞の壁(間質)が線維化して厚く硬くなる」という一点から理解できる。 1.肺が硬くなる(コンプライアンス低下)→ 肺が十分に膨らまない → 肺活量(VC)・全肺気量(TLC)が減少する拘束性換気障害(%VC<80%)。気道の閉塞はないため、一秒率(FEV1/FVC)は正常か、むしろ高くなる。 2.肺胞壁が厚くなり、ガス交換面積も減る → 酸素が血液へ移りにくくなる → 肺拡散能(DLCO)低下。これにより、特に労作時に低酸素血症が生じ、A-aDO2(肺胞気-動脈血酸素分圧較差)が開大する。 3.低酸素血症や、硬い肺にある伸展受容器などの刺激で呼吸が浅く速くなり、換気が亢進する → CO2は十分に排出され、PaCO2は正常か低下する(Ⅰ型呼吸不全)。 4.肺胞上皮の傷害と再生 → 再生したⅡ型肺胞上皮細胞がつくるKL-6やSP-A・SP-Dが血中に増加する。 したがって、IPFでみられるのは血清KL-6上昇と肺拡散能低下である。
選択肢考察
- ×a. PaCO2上昇
IPFの呼吸不全は、拡散障害と換気血流比の不均等による低酸素血症が主体であり、PaCO2の上がらないⅠ型呼吸不全(PaO2 60Torr以下かつPaCO2 45Torr以下)となる。低酸素による呼吸の刺激と、硬い肺による浅く速い呼吸のため換気は亢進し、PaCO2はむしろ正常〜低下する。CO2は酸素よりはるかに拡散しやすいため、拡散障害の影響も受けにくい。PaCO2が上昇するのは、呼吸筋疲労を伴う末期や、他疾患を合併した場合に限られる。
- ×b. 一秒率低下
一秒率(FEV1/FVC)70%未満は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や気管支喘息などの閉塞性換気障害でみられる。IPFは拘束性換気障害であり、FEV1とFVCがともに減るため一秒率は正常に保たれる。さらに、線維化した肺の収縮力(弾性収縮力)が強く、周囲から気道が引っ張られて広がるため、一秒率はむしろ上昇することも多い。
- ○c. 血清KL-6上昇
KL-6(シアル化糖鎖抗原)は、主に再生・増殖したⅡ型肺胞上皮細胞から産生される糖蛋白で、間質性肺炎の血清マーカーとして用いられる(基準値の目安は500U/mL未満)。IPFをはじめとする間質性肺炎では肺胞上皮の傷害と再生が続くため、KL-6が上昇する。同様のマーカーとしてSP-A、SP-D(肺サーファクタント蛋白)があり、いずれも病勢の評価や経過観察に利用される。
- ○d. 肺拡散能低下
肺拡散能(DLCO:一酸化炭素を用いて測る肺拡散能力)は、肺胞から毛細血管へのガスの移りやすさを示す。IPFでは肺胞壁(間質)が線維化して厚くなり、ガス交換に使える肺胞と毛細血管の面積も減るため、DLCOが低下する。DLCO低下はIPFの早期から現れやすく、肺活量より鋭敏な指標とされ、労作時の低酸素血症(SpO2低下)の原因となる。
- ×e. 全肺気量増加
全肺気量(TLC:最大に吸った時に肺に入っている空気の総量)が増加するのは、肺が過膨張するCOPD(特に肺気腫)である。IPFは線維化で肺が硬く縮むため、TLC・肺活量・機能的残気量はいずれも減少する。これが拘束性換気障害の本質である。
IPFの概要
・好発:50歳以上、男性、喫煙者。 ・症状:乾性咳嗽、労作時呼吸困難が緩徐に進行する。 ・身体所見:両側下肺野背側で聴取される捻髪音(fine crackles、ベルクロラ音)、ばち指。 ・胸部HRCT(高分解能CT):両側下葉・胸膜直下優位の網状影、蜂巣肺(honeycombing)、牽引性気管支拡張。これらがそろうとUIPパターンと判断される。 ・経過:慢性進行性で、診断後の平均生存期間は3〜5年程度とされる。経過中に急激に悪化する急性増悪を起こすことがあり、主要な死因となる。肺癌の合併も多い。 ・治療:抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)で呼吸機能の低下を遅らせる。低酸素血症には在宅酸素療法。適応があれば肺移植。
換気障害の整理
・拘束性換気障害:%VC<80%。間質性肺炎・肺線維症、胸郭変形、神経筋疾患など。TLC減少、一秒率は正常〜上昇。 ・閉塞性換気障害:一秒率<70%。COPD、気管支喘息など。TLC・残気量は正常〜増加(過膨張)。
拡散能が低下する主な病態
間質性肺炎・肺線維症、肺気腫(肺胞壁の破壊による面積減少)、肺血管疾患(肺血栓塞栓症、肺高血圧症)、貧血(Hb量で補正して評価する)。気管支喘息では拡散能は正常〜上昇する。
呼吸不全の分類
呼吸不全は室内気吸入時のPaO2が60Torr以下の状態で、PaCO2 45Torr以下をⅠ型(拡散障害、換気血流比不均等、シャントによる)、45Torrを超えるものをⅡ型(肺胞低換気による。COPD増悪、神経筋疾患など)と分類する。
POINT
・IPFは拘束性換気障害:%VC低下、TLC低下、一秒率は正常〜上昇。 ・拡散障害でDLCO低下、A-aDO2開大、労作時低酸素血症。 ・呼吸不全はⅠ型で、PaCO2は正常〜低下(上昇は末期など)。 ・血清マーカーはKL-6、SP-A、SP-Dの上昇。 ・身体所見は捻髪音とばち指、HRCTは下葉・胸膜直下優位の蜂巣肺。
