「誰に起こるか」で見抜く希少肺疾患―LAMは女性の病気
第102回医師国家試験 D問題 第2問
国試問題にチャレンジ
誤っているのはどれか。
- a.肺胞微石症は遺伝性疾患である。
- b.肺リンパ管筋腫症〈LAM〉は男性に多い。
- c.肺Langerhans組織球症は喫煙者に多い。
- d.肺胞蛋白症はマクロファージの機能異常によって生じる。
- e.アレルギー性気管支肺アスペルギルス症では気管支型粘性痰が認められる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
希少肺疾患は、疾患ごとの好発者と発症機序を押さえることで効率よく整理できます。リンパ脈管筋腫症(LAM)は妊娠可能年齢の女性に発症し、TSC遺伝子異常によるmTOR活性化が背景にあるため、mTOR阻害薬シロリムスが治療に用いられます。肺胞微石症は常染色体劣性遺伝、肺Langerhans細胞組織球症は喫煙者に多く禁煙が治療の基本、肺胞蛋白症は抗GM-CSF自己抗体による肺胞マクロファージの機能不全、ABPAは中枢性気管支拡張と気管支型の粘液栓が特徴です。嚢胞性肺疾患では、性別・喫煙歴・嚢胞の分布を組み合わせて鑑別することが大切で、若年女性の再発性気胸ではLAMを念頭に置く姿勢が臨床でも役立ちます。
解答・解説
正解はbです
テーマ
比較的まれな肺疾患(びまん性肺疾患を中心とする希少疾患)について、好発する人(性別・年齢・喫煙歴)、遺伝の有無、発症機序、特徴的な所見という基本事項を問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、記述内容が事実と異なるものを1つ選ぶ。
考え方
希少肺疾患は、疾患ごとに「誰に起こるか」「なぜ起こるか」を一つずつ押さえておけば解ける。 ・肺胞微石症:常染色体劣性遺伝。 ・リンパ脈管筋腫症(LAM):妊娠可能年齢の女性に起こり、女性ホルモンの関与が考えられている。 ・肺Langerhans細胞組織球症:若年〜中年の喫煙者に起こる。 ・肺胞蛋白症:肺胞マクロファージがサーファクタントを処理できなくなって起こる。 ・アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA):中枢気管支の拡張と粘液栓が特徴。 このうち、LAMを「男性に多い」とするbが事実に反しており、誤りの記述である。
選択肢考察
- ×a. 肺胞微石症は遺伝性疾患である。
記述は正しい。肺胞微石症は、肺胞腔内にリン酸カルシウムを主成分とする無数の微小な結石(微石)がたまる疾患で、常染色体劣性遺伝形式をとり、同胞発症がみられる。原因遺伝子は、肺胞Ⅱ型上皮細胞でリン酸を細胞内に取り込むナトリウム依存性リン酸輸送体(NaPi-IIb)をコードするSLC34A2である。この輸送体が働かないと肺胞腔内のリン酸が除去されず、カルシウムと結合して沈着する。胸部エックス線写真で両肺びまん性の砂粒状陰影(sandstorm appearance)を示すわりに、初期の自覚症状は乏しいのが特徴である。
- ○b. 肺リンパ管筋腫症〈LAM〉は男性に多い。
記述は誤りであり、これが正解となる。LAM(lymphangioleiomyomatosis:リンパ脈管筋腫症)は、ほぼ例外なく妊娠可能年齢(特に20〜40歳代)の女性に発症する。妊娠で悪化することや、病変の細胞(LAM細胞)がエストロゲン・プロゲステロン受容体を発現していることから、女性ホルモンの関与が強く考えられている。LAM細胞は平滑筋に似た異常細胞で、結節性硬化症の原因遺伝子であるTSC1/TSC2の異常によりmTOR(細胞増殖を調節するシグナル分子)が過剰に活性化されて増殖する。両肺にびまん性の薄壁嚢胞が多発し、繰り返す気胸、乳び胸水、労作時呼吸困難をきたす。治療にはmTOR阻害薬シロリムスが用いられる。
- ×c. 肺Langerhans組織球症は喫煙者に多い。
記述は正しい。肺Langerhans細胞組織球症(PLCH)は、Langerhans細胞(樹状細胞の一種)が細気管支周囲に増殖して結節をつくり、それが空洞化して嚢胞となる疾患である。患者の90%以上が喫煙者で、20〜40歳代に多い。胸部CTでは上・中肺野優位に小結節と不整形の嚢胞が混在し、肋骨横隔膜角付近は比較的保たれる。治療の基本は禁煙で、禁煙のみで改善・安定する例も多い。近年、病変細胞にBRAF V600E変異などが見つかり、腫瘍性の性格も指摘されている。
- ×d. 肺胞蛋白症はマクロファージの機能異常によって生じる。
記述は正しい。肺胞蛋白症(pulmonary alveolar proteinosis:PAP)は、肺胞腔内にサーファクタント(肺胞表面活性物質)由来の蛋白・脂質がたまる疾患である。サーファクタントの分解・除去は肺胞マクロファージが担っており、その成熟と機能にはGM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)が必要である。成人例の約90%を占める自己免疫性PAPでは、GM-CSFに対する自己抗体がGM-CSFの働きを妨げ、マクロファージがサーファクタントを処理できなくなる。ほかに、血液悪性腫瘍や粉じん吸入などに伴う続発性PAP、遺伝子異常による先天性PAPがある。
- ×e. アレルギー性気管支肺アスペルギルス症では気管支型粘性痰が認められる。
記述は正しい。ABPA(allergic bronchopulmonary aspergillosis)は、気道に定着したアスペルギルスに対するⅠ型およびⅢ型アレルギー反応により、中枢気管支の拡張と、その中を埋める粘稠な粘液栓が生じる疾患である。この粘液栓が喀出されると、気管支の枝分かれの形をそのまま写した褐色〜茶色の粘性痰(気管支型粘性痰、気管支鋳型)として認められる。粘液栓は胸部CTで手袋の指のような陰影(finger-in-glove sign)を示す。
疾患ごとの要点整理
・肺胞微石症:常染色体劣性遺伝(SLC34A2)。肺胞腔内にリン酸カルシウムの微石。両肺びまん性の微細な石灰化陰影に比べて症状が軽い(画像と症状の解離)。有効な治療は乏しく、進行例は肺移植の対象となる。 ・リンパ脈管筋腫症(LAM):妊娠可能年齢の女性。孤発性LAMと、結節性硬化症(TSC)に合併するTSC-LAMがある。TSC遺伝子異常 → mTOR活性化 → LAM細胞の増殖。肺の多発薄壁嚢胞、再発性気胸、乳び胸水・乳び腹水、腎血管筋脂肪腫の合併。血清VEGF-D上昇が診断の補助となる。治療はシロリムス(mTOR阻害薬)。妊娠やエストロゲン製剤で悪化しうる。 ・肺Langerhans細胞組織球症(PLCH):若年〜中年の喫煙者。上・中肺野優位の結節と嚢胞。気胸を起こすことがある。治療は禁煙が第一。 ・肺胞蛋白症(PAP):自己免疫性(抗GM-CSF自己抗体)が大部分。胸部CTで、すりガラス影に小葉間隔壁の肥厚が重なる「crazy-paving appearance(メロンの皮様)」、気管支肺胞洗浄(BAL)液は白濁した米のとぎ汁様でPAS染色陽性。治療は全肺洗浄、GM-CSF吸入療法。 ・ABPA:気管支喘息や嚢胞性線維症の患者に多い。末梢血好酸球増多、血清総IgE高値、アスペルギルス特異的IgE・沈降抗体陽性、中枢性気管支拡張、粘液栓(褐色の粘液栓の喀出)が特徴。治療は全身性ステロイドが中心で、抗真菌薬(イトラコナゾールなど)を併用する。
嚢胞を形成する主なびまん性肺疾患
LAM(女性、全肺野に均一な薄壁嚢胞)、PLCH(喫煙者、上肺野優位の結節と不整形嚢胞)、Birt-Hogg-Dubé症候群(下肺野・縦隔側優位の嚢胞、皮膚線維毛包腫、腎腫瘍)などが鑑別として重要である。
POINT
・LAMは妊娠可能年齢の女性に発症する(男性はほぼない)。TSC遺伝子異常とmTOR活性化、治療はシロリムス。 ・肺胞微石症は常染色体劣性遺伝。 ・肺Langerhans細胞組織球症は喫煙者に多く、治療の基本は禁煙。 ・肺胞蛋白症は抗GM-CSF自己抗体による肺胞マクロファージの機能不全が主な原因。 ・ABPAは中枢性気管支拡張と粘液栓(気管支型の粘性痰)が特徴。
