StudyMed医師国家試験

ガイドラインは「法律」でも「マニュアル」でもない―根拠に基づく意思決定の道しるべ

第102回医師国家試験 C問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第102回 C問題 第9問

診療ガイドラインについて正しいのはどれか。

  1. a.ガイドラインに従わないと医師法違反となる。
  2. b.画一的な診療を提供することが目的である。
  3. c.根拠に基づいた診療を中心に作成される。
  4. d.医療機関ごとに定めることとされている。
  5. e.患者には公開されない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、診療ガイドラインがどんな性格の文書なのかを問う問題だ。考えるポイントは4つ。どうやって作られるのか、何のためにあるのか、法的な拘束力はあるのか、誰が作って誰に公開されるのか。この4点を整理すれば答えは自然に見えてくるよ。
医学生医学生
臨床実習では指導医の先生が「ガイドラインではこうなっている」とよく言っていたので、守らなければいけないルールのようなイメージがあります。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。でも、まず法的な位置づけから確認しよう。ガイドラインに従わないと医師法違反になる、という考えはどうかな。
医学生医学生
医師法は免許や応招義務、診断書の交付義務、異状死体の届出なんかを定める法律だった気がします。ガイドラインのことは書いてないかもしれません。
ドクタードクター
その通り。医師法にガイドライン遵守を義務づける規定はないし、ガイドラインは学会などが作る指針だから法的拘束力はない。ただし医療訴訟では、当時の医療水準を示す資料の一つとして参照されることがある。だから、あえてガイドラインと違う診療をするときは、その理由を診療録に残しておくことが望ましいんだ。
医学生医学生
なるほど、法律ではないけれど、無視していいわけでもないんですね。では、目的は診療を画一化することでしょうか。
ドクタードクター
そこも誤解されやすい点だ。ガイドラインは多くの患者に当てはまる標準的な考え方を示すもので、全員に同じ診療を強制するためのものではない。実際には、エビデンスに加えて、患者さんの病態や併存疾患、本人の価値観、医療者の経験、医療資源を総合して方針を決める。目的は医療の質のばらつきを減らしつつ、個別の意思決定を支援することなんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習ったEBMの定義、「研究エビデンス・臨床家の専門技能・患者の価値観の統合」と同じ考え方ですね。
ドクタードクター
まさにそこにつながる。そして作り方もEBMそのものだ。根拠に基づいた診療を中心に作成される、という記述が正解になる。具体的にはどんな手順で作られると思う?
医学生医学生
まず臨床上の疑問を立てて、論文を集めて評価する…でしょうか。
ドクタードクター
いいね。クリニカルクエスチョンを設定し、関連する研究を系統的に検索・収集するシステマティックレビューを行う。次に研究デザインや質からエビデンスの確実性を評価し、益と害のバランス、患者の価値観、費用も考えて推奨の強さを決める。近年はこの評価の枠組みとしてGRADEシステムが広く使われているよ。
医学生医学生
CBTの勉強で、メタアナリシス、ランダム化比較試験、コホート研究、症例対照研究…とエビデンスレベルの順番を覚えました。
ドクタードクター
その序列は目安として大事だね。ただGRADEでは研究デザインだけでなく、バイアスのリスクや結果の一貫性、出版バイアスなども考えて確実性を上げ下げする。では残りの2つ。医療機関ごとに定めるもの、という記述はどうかな。
医学生医学生
病院ごとに決めているものといえば、クリニカルパスや院内マニュアルですよね。ガイドラインは学会が出しているイメージです。
ドクタードクター
正確だね。診療ガイドラインは主に専門学会や研究班が、専門家や方法論の専門家、ときには患者代表も交えた委員会で作る。医療機関ごとに作る入院中の標準計画はクリニカルパスで、これとは区別する必要がある。最後に、患者には公開されない、という記述は?
医学生医学生
学会のホームページで普通に読めますし、患者さん向けの解説版を見たこともあります。だから誤りですね。
ドクタードクター
その通り。書籍やMindsのウェブサイトなどで広く公開され、平易な言葉で書かれた患者・市民向けのガイドラインも作られている。医療者と患者が情報を共有して一緒に方針を決める共同意思決定を支えるのも、ガイドラインの大切な役割なんだ。
医学生医学生
ガイドラインは、根拠に基づいて作られ、公開され、医師と患者の判断を支える道具で、従う義務を課す法律ではない、ということですね。
ドクタードクター
うまくまとまったね。臨床で注意してほしいのは、ガイドラインは改訂されていくということ。新しいエビデンスが出れば推奨は変わるから、常に最新版を確認する習慣をつけよう。そして高齢者や多疾患併存の患者さんなど、ガイドラインの根拠となった研究の対象から外れる人には、そのまま当てはめられるかを吟味する姿勢も大切だよ。

まとめ

診療ガイドラインは、臨床上の疑問に対してシステマティックレビューでエビデンスを評価し、益と害のバランスを勘案して推奨を示す、EBMの手法に基づいた文書です。目的は医療者と患者の意思決定の支援であり、診療の画一化や強制ではなく、法的拘束力もないため従わなくても医師法違反にはなりませんが、訴訟では医療水準の参考資料とされうるため逸脱時は理由の記録が望まれます。作成主体は主に学会や研究班で、医療機関ごとに作るクリニカルパスとは区別され、一般に公開されて患者向け版もあり共同意思決定を支えます。エビデンスと患者個別の事情を統合して使いこなす姿勢は、日常診療で根拠ある判断を下すための基本となります。

解答・解説

正解はcです

診療ガイドライン(clinical practice guideline)の性格・目的・作成方法・位置づけについて問う基本問題である。 診療ガイドラインは、特定の臨床状況において、医療者と患者が適切な診療上の判断を行えるよう支援するために体系的に作成される文書である。日本で診療ガイドラインの作成と普及を支援しているMinds(Medical Information Distribution Service、公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する医療情報サービス)は、診療ガイドラインを「健康に関する重要な課題について、医療利用者と提供者の意思決定を支援するために、システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して、最適と考えられる推奨を提示する文書」と位置づけている。 正解を導くうえで押さえるべき点は次の4つである。 (1) 作成方法:EBM(evidence-based medicine、根拠に基づく医療)の手法に沿って、文献を系統的に収集・評価して作られる。 (2) 目的:意思決定の「支援」であり、診療を画一化・強制するものではない。 (3) 法的性格:法的拘束力はなく、従わないこと自体が法律違反になるわけではない。 (4) 作成主体と公開性:主に学会や研究班が作成し、書籍やインターネットで広く公開され、患者向け版も作られている。

選択肢考察

  1. ×a.  ガイドラインに従わないと医師法違反となる。

    誤りである。医師法は医師の免許、業務、義務(応招義務、診断書交付義務、異状死体の届出義務など)を定める法律であり、診療ガイドラインの遵守を義務づける規定は存在しない。ガイドラインは学会などが作成した指針にすぎず、法的な拘束力をもたない。個々の患者の病状や合併症、価値観によっては、ガイドラインと異なる判断が妥当な場合もある。ただし医療訴訟では、ガイドラインの内容が当時の医療水準を示す資料の一つとして参照されることがあるため、ガイドラインから外れた診療を行う場合は、その理由を診療録に記録しておくことが望ましい。

  2. ×b.  画一的な診療を提供することが目的である。

    誤りである。ガイドラインは多くの患者に当てはまる標準的な診療の考え方を示すものであり、すべての患者に同じ診療を行わせるためのものではない。実際の診療では、ガイドラインが示す科学的根拠に加えて、個々の患者の病態や併存疾患、患者本人の意向や価値観、医療者の臨床経験、医療資源などを総合して方針を決める。これはEBMの基本的な考え方そのものである。画一化ではなく、医療の質のばらつきを減らしつつ個別化した判断を支援することが目的である。

  3. ○c.  根拠に基づいた診療を中心に作成される。

    正しい。診療ガイドラインはEBMの手順に従って作成される。まず臨床上の疑問(クリニカルクエスチョン、CQ)を設定し、それに関する研究論文を系統的に検索・収集する(システマティックレビュー)。次に、ランダム化比較試験やメタアナリシスなど研究デザインや研究の質に基づいてエビデンスの確実性を評価し、益と害のバランス、患者の価値観、費用なども考慮して推奨の強さを決定する。近年はこの評価と推奨決定の枠組みとしてGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムが広く用いられている。

  4. ×d.  医療機関ごとに定めることとされている。

    誤りである。診療ガイドラインを医療機関ごとに定める義務や決まりはない。一般には、各専門学会や厚生労働省の研究班などが、専門家と方法論の専門家、場合によっては患者代表も交えた作成委員会を組織して作成する。個々の病院が院内で独自に定める診療手順は、クリニカルパス(入院中の標準的な診療計画)や院内マニュアルなどであり、学会等が作成する診療ガイドラインとは区別される。

  5. ×e.  患者には公開されない。

    誤りである。診療ガイドラインは書籍として市販されるほか、学会のホームページやMindsのウェブサイトなどで広く公開されており、誰でも閲覧できるものが多い。さらに、専門用語を避け、図やイラストを用いて平易に説明した患者・市民向けのガイドライン(患者向け解説)も作成されている。ガイドラインは医療者と患者が情報を共有して一緒に治療方針を決める過程(shared decision making、共同意思決定)を支える役割も担っている。

EBM(根拠に基づく医療)の5つのステップ

1. 患者の問題を定式化する(PICO:Patient 対象、Intervention 介入、Comparison 比較対照、Outcome 結果) 2. 問題に関する情報(文献)を検索する 3. 得られた情報の妥当性・信頼性を批判的に吟味する 4. 情報を目の前の患者に適用できるか判断する 5. 1〜4の過程と結果を評価する EBMは「最良の研究エビデンス」「臨床家の専門技能」「患者の価値観と意向」の3つを統合して意思決定することであり、研究結果の機械的な適用ではない。

エビデンスの強さ(研究デザインによる目安)

システマティックレビュー/メタアナリシス > ランダム化比較試験 > コホート研究などの非ランダム化比較研究 > 症例対照研究 > 症例集積・症例報告 > 専門家の意見。 ただしGRADEシステムでは、研究デザインだけでなく、バイアスのリスク、結果の非一貫性、非直接性、不精確さ、出版バイアスなどを考慮してエビデンスの確実性を評価する。

診療ガイドラインと関連する用語

・クリニカルパス:特定の疾患・手術について、入院から退院までの検査・治療・ケアを時系列で標準化した診療計画。医療機関ごとに作成される。 ・インフォームド・コンセント:説明を受けたうえでの患者の同意。ガイドラインは説明の際の根拠資料として役立つ。 ・Minds:日本の診療ガイドラインの作成支援、評価、公開を行う情報サービス。

POINT

・診療ガイドラインはEBMの手法(系統的な文献検索とエビデンス評価)に基づいて作成される。 ・目的は医療者と患者の意思決定の支援であり、画一的な診療の強制ではない。 ・法的拘束力はなく、従わなくても医師法違反にはならない。 ・主に学会や研究班が作成し、医療機関ごとに定めるものではない(医療機関ごとに作るのはクリニカルパスなど)。 ・一般に公開されており、患者向けのガイドラインもある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。