人工呼吸ができなくても手を止めるな―成人BLSの「正しい胸骨圧迫」を総点検
第102回医師国家試験 C問題 第10問
国試問題にチャレンジ
成人の一次救命処置で正しいのはどれか。
- a.胸骨圧迫は剣状突起部で行う。
- b.胸骨圧迫は1分間60回の速度で行う。
- c.人工呼吸と胸骨圧迫の回数は1対5で行う。
- d.口対口人工呼吸ができなければ胸骨圧迫のみでよい。
- e.除細動をするときは患者が動かないように押さえる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
成人の一次救命処置では、胸骨の下半分(胸の真ん中)を約5cm(6cmを超えない)の深さで、1分間100〜120回のテンポで圧迫し、中断を10秒未満に抑えることが基本です。人工呼吸の技術と意思があれば胸骨圧迫30回に人工呼吸2回の比で行い、できない・ためらう場合は胸骨圧迫のみのCPRでよいとされます。これは成人の心停止の多くが心原性で、発症直後は血中に酸素が残っているため、途切れない胸骨圧迫による血流維持が最優先だからです。剣状突起の圧迫は骨折や腹部臓器損傷の危険があり、AEDの解析中とショック時には誰も傷病者に触れてはいけません。手技の数字を理屈とともに理解しておくことが、実際の現場で迷わず動ける力につながります。
解答・解説
正解はdです
成人の一次救命処置(BLS:basic life support)の具体的な手技について問う問題である。一次救命処置とは、心停止または呼吸停止の傷病者に対し、特別な器具や薬剤を用いずに(AEDは含む)行う救命処置で、胸骨圧迫、人工呼吸、AED(automated external defibrillator、自動体外式除細動器)による電気ショックからなる。 現在の日本の蘇生ガイドライン(日本蘇生協議会 JRC蘇生ガイドライン2020)における成人BLSの要点は次のとおりである。 ・反応がなく、普段どおりの呼吸がない(死戦期呼吸を含む)場合は心停止と判断し、119番通報とAEDの手配を依頼して、ただちに胸骨圧迫を開始する。 ・胸骨圧迫の部位は胸骨の下半分(目安は胸の真ん中)。 ・深さは約5cm(6cmを超えない)、速さは1分間に100〜120回、毎回胸郭を元の位置に戻し、中断は最小限(10秒未満)にする。 ・人工呼吸の技術と意思があれば、胸骨圧迫30回と人工呼吸2回の組合せ(30:2)で行う。技術や意思がない場合、あるいは感染防護具がないなど実施をためらう場合は、胸骨圧迫のみのCPR(心肺蘇生)を行う。 ・AEDが到着したら直ちに装着し、解析・ショック時には誰も傷病者に触れない。ショック後はすぐに胸骨圧迫から再開する。 成人の心停止の多くは心室細動などの心原性のもので、発症直後は血液中にある程度の酸素が残っている。そのため、途切れない胸骨圧迫で脳や心臓への血流を保つことが最も重要であり、人工呼吸ができないことを理由に何もしないことこそ避けるべきである。この考え方から、人工呼吸ができなければ胸骨圧迫のみを行うという選択肢が正しい。
選択肢考察
- ×a. 胸骨圧迫は剣状突起部で行う。
誤りである。胸骨圧迫の部位は胸骨の下半分であり、目安は「胸の真ん中」である。剣状突起は胸骨下端の小さな突起で、ここを強く圧迫すると剣状突起の骨折や、その直下にある肝臓・胃などの腹部臓器の損傷を起こしうるうえ、心臓を効率よく圧迫できない。なお、かつては「両側乳頭を結ぶ線の中央」が目安とされたが、体格や性別によって乳頭の位置は異なるため、現在は胸骨の下半分を確実に圧迫することが重視されている。
- ×b. 胸骨圧迫は1分間60回の速度で行う。
誤りである。1分間60回では遅すぎ、十分な心拍出量(脳・冠動脈への血流)が得られない。現在のガイドラインでは1分間に100〜120回のテンポが推奨されている(本問出題当時は「約100回/分」とされていた)。逆に120回/分を超えて速すぎると、圧迫の深さが不十分になり、胸郭が元に戻りきらず心臓への静脈還流が減るため、これも好ましくない。このテンポは成人・小児・乳児で共通である。
- ×c. 人工呼吸と胸骨圧迫の回数は1対5で行う。
誤りである。成人では、胸骨圧迫30回に対して人工呼吸2回(30:2)の比で行う。1回の人工呼吸は約1秒かけて胸の上がりが見える程度の量を吹き込み、人工呼吸による胸骨圧迫の中断は10秒未満にとどめる。人工呼吸の割合を多くすると胸骨圧迫の中断が増え、冠動脈灌流圧が下がるため不利である。なお、かつては15:2などの比も用いられた。小児・乳児に対して医療従事者が2人で行う場合は15:2とする。
- ○d. 口対口人工呼吸ができなければ胸骨圧迫のみでよい。
正しい。人工呼吸の訓練を受けていない場合や、感染への懸念、感染防護具がないなどの理由で口対口人工呼吸を行えない、あるいは行うことをためらう場合には、胸骨圧迫のみのCPR(hands-only CPR)を行ってよい。成人の突然の心停止の多くは心原性で、発症から数分間は血液中に酸素が残っているため、絶え間なく胸骨圧迫を続けることで酸素を含んだ血液を脳や心臓に送ることができる。人工呼吸にこだわって胸骨圧迫の開始が遅れたり中断が長くなったりするほうが予後を悪くする。ただし、窒息や溺水による心停止、小児の心停止など呼吸原性の心停止では、人工呼吸の重要性が高く、技術があれば人工呼吸を組み合わせることが望ましい。
- ×e. 除細動をするときは患者が動かないように押さえる。
誤りである。電気ショックを行う際に傷病者に触れていると、救助者も感電する危険があるため、ショックボタンを押す前に「みんな離れて」と声をかけ、誰も傷病者に触れていないことを目視で確認しなければならない。また、AEDの心電図解析中に体に触れたり動かしたりすると、体動が雑音として混入し、正確な解析が妨げられる。したがって解析中およびショック時には傷病者から離れる。電気ショックの直後は、心拍再開を確認せずに直ちに胸骨圧迫から再開する。
成人一次救命処置(BLS)の流れ(JRC蘇生ガイドライン2020)
1. 周囲の安全を確認する。 2. 肩をたたき、大声で呼びかけて反応を確認する。 3. 反応がなければ大声で助けを呼び、119番通報とAEDの手配を依頼する。 4. 呼吸を観察する(10秒以内)。普段どおりの呼吸がない、または判断に迷う場合は心停止とみなす。しゃくりあげるような途切れ途切れの呼吸(死戦期呼吸)は心停止のサインである。 5. ただちに胸骨圧迫を開始する。人工呼吸の技術と意思があれば30:2で人工呼吸を加える。 6. AEDが到着したら電源を入れ、電極パッドを装着し、音声指示に従う。 7. 救急隊に引き継ぐまで、または傷病者に普段どおりの呼吸や目的のある仕草が現れるまで続ける。
質の高い胸骨圧迫の要素
・部位:胸骨の下半分(胸の真ん中) ・深さ:約5cm、6cmを超えない(小児は胸の厚さの約1/3) ・テンポ:100〜120回/分 ・毎回の圧迫後に胸を完全に元の位置に戻す ・中断を最小限にする(10秒未満) ・救助者が複数いれば1〜2分ごとに交代して疲労による質の低下を防ぐ
AED使用時の注意
・パッドは右前胸部(鎖骨の下)と左側胸部(脇の下)に貼る。 ・胸が濡れていれば拭き取る。貼付薬があればはがして拭く。 ・ペースメーカーなどの植込み型機器の膨らみの真上は避けて貼る。 ・解析中・ショック時は誰も触れない。
POINT
・成人BLS:胸骨の下半分を、約5cm(6cmを超えない)の深さで、100〜120回/分で圧迫する。 ・胸骨圧迫:人工呼吸=30:2。人工呼吸ができない・ためらう場合は胸骨圧迫のみでよい。 ・剣状突起を圧迫しない(骨折・腹部臓器損傷の危険)。 ・胸骨圧迫の中断は10秒未満に抑える。 ・AEDの解析中・ショック時は誰も傷病者に触れない。ショック後は直ちに胸骨圧迫を再開する。
