StudyMed医師国家試験

足の血圧は腕より高い―健常者の循環器身体所見を「正常」から見直す

第102回医師国家試験 C問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第102回 C問題 第7問

健常成人で正しいのはどれか。

  1. a.心尖拍動は前腋窩線で触知する。
  2. b.坐位で内頸静脈の拍動がみられる。
  3. c.収縮期血圧は上肢よりも下肢が高い。
  4. d.Ⅱ音は呼気時に分裂して聴取される。
  5. e.Ⅲ音はベル型聴診器よりも膜型聴診器で聴取しやすい。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、健常成人の循環器の身体所見について正しいものを選ぶ問題だ。触診、視診、血圧、聴診と診察の基本が一通り並んでいる。それぞれ「正常ならどうなるか」「ずれていたら何を意味するか」をセットで考えるのがコツだよ。
医学生医学生
OSCEの練習で一通りやったはずなんですが、正常値を改めて聞かれると自信がないものもあります。
ドクタードクター
それで大丈夫、一つずつ確認しよう。まず心尖拍動の位置はどこだったかな。
医学生医学生
左第5肋間の鎖骨中線上ですよね。前腋窩線まで外にあるのは正常ではないと思います。
ドクタードクター
正解。正常では鎖骨中線上かやや内側で、範囲は直径2cm程度以内の短く軽い拍動だ。前腋窩線まで外側にずれて範囲が広がっていれば、拡張型心筋症や弁膜症による左室拡大を疑う。逆に、位置は正常でも持続的で強い拍動なら左室肥大、つまり圧負荷を考えるんだ。
医学生医学生
次の内頸静脈ですが、首の静脈が見えるのは普通のことのような気もします。
ドクタードクター
そこが落とし穴だ。内頸静脈の拍動は右房圧を反映していて、通常は上半身を45度起こした半坐位で観察する。健常者は静脈圧が低いので、上半身を垂直にした坐位では拍動の頂点が鎖骨より下に隠れて見えないんだ。仰臥位なら健常者でも見えることがあるけれどね。
医学生医学生
つまり、座っていても首で拍動が見えるなら、静脈圧が上がっているということですか。
ドクタードクター
その通り。右心不全、収縮性心膜炎、心タンポナーデ、輸液過剰などが考えられる。循環器内科の実習で心不全の患者さんを診たら、座った姿勢で耳の下まで拍動が見えることもあるから、ぜひ観察してみてほしい。では血圧はどうかな。
医学生医学生
上肢と下肢なら、心臓から遠い下肢のほうが低くなりそうに思えます。
ドクタードクター
直感的にはそう考えがちだけど、実は健常者では下肢の収縮期血圧のほうが上肢より10〜20mmHg程度高い。これが正解だ。動脈は末梢へ行くほど細く硬くなり、分岐部などで生じた反射波が前向きの脈波に重なるから、末梢ほど収縮期圧が増幅されるんだ。ただし平均血圧はむしろわずかに下がる。
医学生医学生
だからABIの正常値は1.0以上なんですね。CBTで覚えた数字がやっとつながりました。
ドクタードクター
そう、正常は1.00〜1.40だ。0.90以下なら下肢の末梢動脈疾患を示唆するし、逆に下肢のほうが上肢より低ければ、大動脈縮窄症や高安動脈炎による腹部大動脈病変も考える。上肢の左右差が大きいときは鎖骨下動脈狭窄や大動脈解離を疑うよ。では聴診に移ろう。II音の分裂はいつ聞こえる?
医学生医学生
吸気時です。吸うと胸腔内圧が下がって右心への還流が増えるので、肺動脈弁の閉鎖が遅れるからだったと思います。
ドクタードクター
完璧だ。健常者は吸気時に分裂して呼気時には単一に聞こえる、これが生理的分裂だね。呼気時に分裂するのは奇異性分裂で、左脚ブロックや大動脈弁狭窄症のように大動脈弁の閉鎖が遅れる病態でみられる。ほかに、呼吸で分裂幅が変わらない固定性分裂は心房中隔欠損症、呼気でも分裂して吸気で広がる幅広い分裂は右脚ブロックや肺動脈弁狭窄症だ。
医学生医学生
最後のIII音は、膜型とベル型のどちらで聞くかの問題ですね。III音は低い音だった気がします。
ドクタードクター
そう。III音は拡張早期に血液が心室へ急速に流れ込んで心室壁が振動する低調な音だから、ベル型を皮膚に軽く当てて聴くほうが聞き取りやすい。膜型はI音・II音や大動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音のような高調音向きだ。IV音や僧帽弁狭窄症の拡張期ランブルも低調音なのでベル型で聴くよ。
医学生医学生
ベル型を強く押し当てると皮膚が膜の代わりになって高音寄りになる、とOSCEの指導で注意されました。
ドクタードクター
よく覚えているね。だから「軽く当てる」のがポイントなんだ。最後に臨床での注意点だ。III音は小児や若年者では生理的に聞こえることがあるけれど、中高年で聞こえたら心不全や僧帽弁閉鎖不全症を疑う。IV音は左室のコンプライアンス低下を示し原則として病的だ。頸静脈では、半坐位で拍動の頂点が胸骨角から3〜4cmを超える高さにあれば静脈圧上昇と考える。肝臓部を圧迫して怒張が続く肝頸静脈逆流や、吸気で頸静脈圧が上がるKussmaul徴候も覚えておこう。
医学生医学生
どの所見も「正常」をきちんと知っていてこそ、異常に気づけるんですね。
ドクタードクター
その通り。身体診察は検査機器がなくてもベッドサイドでできる最初の評価だから、正常像を体で覚えておくことが何より大切だよ。

まとめ

健常成人では、脈波が末梢へ伝わる過程で反射波が重なって収縮期圧が増幅されるため、下肢の収縮期血圧は上肢より10〜20mmHg程度高く、ABIの正常値は1.00〜1.40となります。心尖拍動は左第5肋間鎖骨中線付近で触れ、外側偏位は左室拡大を示唆します。内頸静脈は半坐位45度で観察し、坐位でも拍動が見えれば中心静脈圧上昇を疑います。II音は吸気時に生理的に分裂し、呼気時の分裂は左脚ブロックや大動脈弁狭窄症による奇異性分裂、III音・IV音などの低調音はベル型を軽く当てて聴取します。それぞれの正常所見とその逸脱が示す病態をセットで理解することが、ベッドサイドで心不全や血管疾患をいち早く見抜く力の土台になります。

解答・解説

正解はcです

健常成人の循環器系の身体所見(触診・視診・血圧測定・聴診)の基本を問う問題である。それぞれの選択肢について、正常ではどうなるか、異常所見ならばどのような病態を示唆するかを整理して判断する。 ・触診:心尖拍動の正常位置 ・視診:内頸静脈の観察方法と、静脈圧上昇の評価 ・血圧:上肢と下肢の収縮期血圧の関係(脈波の増幅) ・聴診:II音の生理的分裂のタイミング、III音の周波数と聴診器の使い分け 特に、下肢の収縮期血圧が上肢より高いのは、動脈脈波が末梢へ伝わる過程で反射波が重なり、収縮期圧が増幅されるためである。この関係は足関節上腕血圧比(ABI)の正常値が1.0以上であることにも反映されている。

選択肢考察

  1. ×a.  心尖拍動は前腋窩線で触知する。

    健常成人の心尖拍動は、左第5肋間の鎖骨中線上(またはそのやや内側)で触知し、範囲は直径2cm程度以内である。前腋窩線まで外側に偏位している場合は、拡張型心筋症や大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁閉鎖不全症などによる左室拡大を疑う所見であり、正常ではない。

  2. ×b.  坐位で内頸静脈の拍動がみられる。

    内頸静脈の拍動は右房圧を反映し、通常は上半身を約45度挙上した半坐位で観察する。健常者では静脈圧が低いため、坐位(上半身を垂直にした状態)では静脈拍動の頂点が鎖骨より下になり、頸部に拍動はみえない。坐位でも内頸静脈の拍動がみえるのは、右心不全・うっ血性心不全、収縮性心膜炎、心タンポナーデ、輸液過剰などで中心静脈圧が上昇していることを示す異常所見である。なお仰臥位では健常者でも内頸静脈が怒張・拍動してみえることがある。

  3. ○c.  収縮期血圧は上肢よりも下肢が高い。

    健常者では、下肢の収縮期血圧は上肢より10〜20mmHg程度(約10%)高い。大動脈から末梢へ向かうにつれて動脈は細く硬くなり、分岐部などで生じた反射波が前進波に重なるため、末梢ほど収縮期圧が増幅されるからである(平均血圧はむしろわずかに低下する)。このため足関節上腕血圧比(ABI)の正常値は1.00〜1.40となる。逆に下肢の血圧が上肢より低い場合は、大動脈縮窄症、高安動脈炎(大動脈炎症候群)による腹部大動脈病変(異型大動脈縮窄症)、閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)などを疑う。

  4. ×d.  Ⅱ音は呼気時に分裂して聴取される。

    II音は大動脈弁閉鎖音(IIA)と肺動脈弁閉鎖音(IIP)からなる。吸気時には胸腔内圧が低下して右心への静脈還流が増え、右室の駆出時間が延長してIIPが遅れる(同時に肺血管床の容量増大や左心への還流減少も分裂を広げる方向に働く)。そのため健常者では吸気時に分裂し、呼気時には単一に聞こえる(生理的分裂)。呼気時に分裂し吸気時に狭くなる奇異性分裂は、左脚ブロックや大動脈弁狭窄症などIIAが遅れる病態でみられる異常所見である。

  5. ×e.  Ⅲ音はベル型聴診器よりも膜型聴診器で聴取しやすい。

    III音は拡張早期、心室の急速充満期に血液が流入して心室壁が振動することで生じる低周波(低調)の音である。低調音はベル型聴診器を皮膚に軽く当てて聴くと聴取しやすい。膜型は高調音(I音・II音、駆出性クリック、大動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音など)の聴取に適する。III音は小児や若年者では生理的に聴取されることがあるが、中高年では心不全や僧帽弁閉鎖不全症などを示唆する病的所見である。

心音の基本

・I音:房室弁(僧帽弁・三尖弁)の閉鎖音。心尖部で大きい。 ・II音:半月弁(大動脈弁・肺動脈弁)の閉鎖音。心基部で大きい。 ・III音:拡張早期の急速充満音(低調)。若年者では生理的、中高年では心不全などで出現。 ・IV音:拡張末期の心房収縮に伴う音(低調)。左室肥大や高血圧性心疾患など左室のコンプライアンス低下で出現し、原則として病的。 聴診器の使い分け:膜型=高調音、ベル型(軽く当てる)=低調音(III音、IV音、僧帽弁狭窄症の拡張期ランブル)。

II音の分裂の種類

・生理的分裂:吸気時に分裂、呼気時に単一。 ・幅広い分裂:右脚ブロック、肺動脈弁狭窄症など(呼気時にも分裂し、吸気で拡大)。 ・固定性分裂:心房中隔欠損症(呼吸で分裂幅が変化しない)。 ・奇異性分裂:左脚ブロック、大動脈弁狭窄症、右室ペーシングなど(呼気時に分裂)。

頸静脈の評価

半坐位45度で内頸静脈拍動の頂点と胸骨角との垂直距離を測る。右房は胸骨角の約5cm下にあるとされ、垂直距離が3〜4cmを超える場合は中心静脈圧の上昇と考える。関連所見として、腹部(肝臓部)を圧迫すると頸静脈怒張が持続する肝頸静脈逆流(腹部頸静脈逆流)は右心不全を、吸気時に頸静脈圧がかえって上昇するKussmaul徴候は収縮性心膜炎などを示唆する。

上下肢の血圧差

正常:下肢>上肢(ABI 1.00〜1.40)。ABI 0.90以下は下肢の末梢動脈疾患を示唆し、1.40を超える場合は動脈壁の石灰化で血管が圧迫されにくく正確な評価ができない可能性がある。 上肢の左右差が大きい場合は、鎖骨下動脈狭窄(高安動脈炎、動脈硬化)や大動脈解離を考える。

心尖拍動

正常:左第5肋間・鎖骨中線付近、直径2cm程度以内、短く軽い拍動。 左下方外側への偏位と範囲の拡大:左室拡大。持続的で強い拍動:左室肥大(圧負荷)。

POINT

・健常者の下肢収縮期血圧は上肢より約10〜20mmHg高い(脈波の反射による増幅)。ABI正常値は1.00〜1.40。下肢が低ければ大動脈縮窄症・高安動脈炎・末梢動脈疾患を疑う。 ・心尖拍動は左第5肋間鎖骨中線上。外側偏位は左室拡大。 ・内頸静脈は半坐位45度で観察し、坐位で拍動がみえれば静脈圧上昇(右心不全など)。 ・II音の生理的分裂は吸気時。呼気時の分裂は奇異性分裂(左脚ブロック、大動脈弁狭窄症)。 ・III音・IV音は低調音でベル型、I音・II音など高調音は膜型で聴く。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。