StudyMed医師国家試験

声がかれたら首から胸まで疑え―嗄声と迷走神経・反回神経のつながり

第102回医師国家試験 C問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第102回 C問題 第6問

障害を受けると嗄声をきたすのはどれか。

  1. a.顔面神経
  2. b.舌咽神経
  3. c.迷走神経
  4. d.副神経
  5. e.舌下神経

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脳神経のうちどれが障害されると声がかれるか、つまり嗄声をきたすかを問う問題だ。ポイントは「声はどうやって出るのか」から考えること。声帯を動かす筋肉をどの神経が支配しているかがわかれば、答えは自然に出てくるよ。
医学生医学生
声は声帯が振動して出るんですよね。でも舌や咽頭も発声に関わる気がして、舌咽神経や舌下神経とも迷いそうです。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。ここで「発声」と「構音」を分けて考えよう。発声は、呼気が左右の閉じた声帯の間を通るときに声帯が振動して音源をつくること。構音は、その音を舌や口唇、口蓋で言葉の形に整えることだ。嗄声は声の質そのものの異常だから、発声、つまり声帯の問題なんだ。
医学生医学生
なるほど。舌がうまく動かなくて呂律が回らないのは構音障害で、嗄声とは別物ということですね。
ドクタードクター
その通り。では声帯を動かす内喉頭筋を支配するのはどの神経かな。
医学生医学生
解剖の講義で習った反回神経だと思います。反回神経は……迷走神経の枝でしたっけ。
ドクタードクター
正解。迷走神経から分かれた反回神経が、輪状甲状筋以外のすべての内喉頭筋を支配している。輪状甲状筋だけは同じく迷走神経の枝である上喉頭神経の外枝の支配だ。だから嗄声をきたすのは迷走神経ということになる。反回神経が麻痺すると患側の声帯が動かず声門がしっかり閉じないので、息が漏れるような気息性嗄声になるんだ。
医学生医学生
上喉頭神経外枝が障害されたらどうなるんですか。
ドクタードクター
輪状甲状筋は声帯を引き伸ばして緊張させる筋だから、その障害では高い声が出しにくくなる。歌手にとっては深刻な問題だね。では、ほかの神経がなぜ違うか確認しよう。まず顔面神経は?
医学生医学生
表情筋の支配で、障害されると閉眼できなかったり口角が下がったりします。脳神経内科の実習でBell麻痺の患者さんを診ました。
ドクタードクター
そうだね。顔面神経はほかにアブミ骨筋や舌前3分の2の味覚、涙腺・唾液腺の分泌にも関わるけれど、喉頭の筋は支配しないから嗄声は起こらない。次に舌咽神経はどうだろう。
医学生医学生
咽頭反射に関わるので、喉の神経というイメージがあって紛らわしいです。
ドクタードクター
そこが引っかけポイントだね。舌咽神経は舌の後ろ3分の1の味覚と感覚、咽頭の感覚、耳下腺の分泌、頸動脈洞からの情報伝達を担っていて、咽頭反射の求心路になる。一方、遠心路、つまり咽頭や軟口蓋を動かすのは主に迷走神経だ。舌咽神経が運動支配するのは茎突咽頭筋くらいで、声帯を動かす筋は支配しないから、単独障害では嗄声は生じない。
医学生医学生
副神経は胸鎖乳突筋と僧帽筋、舌下神経は舌筋ですね。舌下神経麻痺では舌を出すと患側に偏位する、とCBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
完璧。副神経は頸部リンパ節郭清で損傷されることがあり、肩が上がりにくくなる。舌下神経障害では構音障害は出るけれど、声帯は関係ないから嗄声にはならない。
医学生医学生
結局、声帯を動かせるのは迷走神経だけ、ということですね。
ドクタードクター
そう。ここからが臨床で大事な話だ。反回神経は迷走神経から分かれたあと胸の中まで下りて、左は大動脈弓、右は鎖骨下動脈の下をくぐってUターンし、気管と食道の間を上がって喉頭に戻る。この長い経路のどこで障害されても嗄声が出るんだ。
医学生医学生
左のほうが長く胸の中を走るので、左の麻痺が多いんでしょうか。
ドクタードクター
その通り。原因として、肺癌や縦隔リンパ節転移、食道癌、胸部大動脈瘤、甲状腺癌や甲状腺手術などが代表的だ。僧帽弁狭窄症で拡大した左房が圧迫するOrtner症候群も有名だね。だから「声がかれた」という訴えで耳鼻科に来た人の原因が、実は肺癌や大動脈瘤だったということもある。
医学生医学生
嗄声が続く患者さんでは、喉頭だけでなく胸部の画像も確認する必要があるんですね。
ドクタードクター
まさにそれが臨床での鉄則だ。もう一つ、中枢側の障害も押さえておこう。延髄の疑核が障害されるWallenberg症候群では嗄声と嚥下障害が出るし、頸静脈孔で舌咽・迷走・副神経がまとめて障害されるVernet症候群もある。迷走神経本幹の障害では、軟口蓋が健側に引かれるカーテン徴候もみられるよ。それから、唯一の声門開大筋である後輪状披裂筋も反回神経支配だから、両側の反回神経麻痺では声門が開かず呼吸困難をきたしうる点にも注意が必要だ。

まとめ

嗄声は声帯の振動異常による声の質の障害で、声帯を動かす内喉頭筋はすべて迷走神経の枝(輪状甲状筋は上喉頭神経外枝、それ以外は反回神経)が支配するため、迷走神経の障害で嗄声が生じます。顔面神経は表情筋、舌咽神経は舌後3分の1の味覚や咽頭反射の求心路、副神経は胸鎖乳突筋と僧帽筋、舌下神経は舌筋を担い、いずれも声帯運動には関与しません。反回神経は胸腔内まで下行して戻る長い走行をとり、特に左側は大動脈弓をくぐるため、肺癌・食道癌・大動脈瘤・甲状腺手術などで障害されやすいのが特徴です。嗄声を「喉の問題」と決めつけず、頸部から胸部までの病変を想定して検索する姿勢は、重大な疾患の早期発見につながる臨床の基本です。

解答・解説

正解はcです

嗄声(させい)とは、声がかれる・かすれるといった声の質の異常である。声は、呼気が閉じた左右の声帯の間を通り抜ける際に声帯が振動することで生じる。したがって、声帯を動かす喉頭の筋(内喉頭筋)が麻痺して声帯がうまく閉じなくなると、息が漏れて気息性の嗄声となる。 内喉頭筋を支配するのは迷走神経(第X脳神経)の枝であり、輪状甲状筋だけが上喉頭神経(外枝)、それ以外のすべての内喉頭筋が反回神経(下喉頭神経)の支配を受ける。反回神経は胸部まで下行してから喉頭へ戻る長い経路をとるため、胸部・頸部のさまざまな病変で障害されやすく、臨床的に嗄声の原因として最も重要な神経である。 本問は、選択肢の各脳神経の運動・感覚支配を思い出し、声帯運動に関わる神経を選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  顔面神経

    顔面神経(第VII脳神経)は表情筋を支配するほか、アブミ骨筋の支配、舌前3分の2の味覚、涙腺・顎下腺・舌下腺の分泌にも関わる。障害(末梢性顔面神経麻痺)では、患側の額のしわ寄せ不能、閉眼不能(兎眼)、口角下垂、口笛が吹けない、口から水がこぼれるなどの症状が生じ、障害部位によって聴覚過敏や味覚障害、涙液分泌低下を伴う。喉頭の筋は支配しないため嗄声はきたさない。

  2. ×b.  舌咽神経

    舌咽神経(第IX脳神経)は、舌後方3分の1の味覚・一般感覚、咽頭上部の感覚、茎突咽頭筋の運動、耳下腺の分泌、頸動脈洞・頸動脈小体からの情報伝達を担う。咽頭反射(絞扼反射)の求心路でもあり、障害では咽頭の感覚低下や咽頭反射の低下、軽度の嚥下障害がみられる。声帯を動かす筋は支配しないので、単独障害で嗄声は生じない。

  3. ○c.  迷走神経

    迷走神経(第X脳神経)は咽頭・喉頭の筋を支配する運動神経を含む。その枝である反回神経は輪状甲状筋以外の内喉頭筋を支配し、声帯の開閉を担っている。反回神経が障害されると患側の声帯が麻痺して声門が十分に閉じず、呼気が漏れて気息性嗄声となる。また、上喉頭神経外枝は輪状甲状筋を支配して声帯の緊張を調節するため、その障害では高音が出しにくくなる。迷走神経本幹の障害(延髄外側の病変や頸静脈孔の病変など)でも、嗄声に加え嚥下障害や軟口蓋の挙上障害(カーテン徴候)がみられる。

  4. ×d.  副神経

    副神経(第XI脳神経)の脊髄根は胸鎖乳突筋と僧帽筋を支配する。障害では、患側と反対方向への頸部回旋の筋力低下(胸鎖乳突筋)、患側の肩の挙上困難や肩の下垂(僧帽筋)が生じる。頸部リンパ節郭清などで損傷されることがある。声帯運動には関与しないため嗄声はきたさない。

  5. ×e.  舌下神経

    舌下神経(第XII脳神経)は舌筋を支配する運動神経である。一側の障害では、舌を突き出すと患側に偏位し、患側舌の萎縮や線維束性収縮がみられる。構音障害(特に舌音)や咀嚼・嚥下時の食塊移送障害を生じることはあるが、声帯の運動には関わらないため嗄声は生じない。

反回神経の走行と障害されやすい原因

迷走神経から分岐した反回神経は、左では大動脈弓の下を、右では鎖骨下動脈の下をくぐって反転し、気管と食道の間の溝を上行して喉頭に入る。左反回神経のほうが胸腔内を長く走行するため、左側の麻痺が多い。 主な原因: ・胸部疾患:肺癌(特に左上葉や縦隔リンパ節転移)、食道癌、縦隔腫瘍、胸部大動脈瘤(大動脈弓部) ・頸部疾患:甲状腺癌、甲状腺・副甲状腺手術後、頸部手術 ・心疾患:僧帽弁狭窄症で拡大した左房や肺動脈による圧迫(Ortner症候群) ・その他:気管挿管後、特発性

内喉頭筋の支配のまとめ

・後輪状披裂筋:唯一の声門開大筋(反回神経支配)。両側麻痺では声門が開かず呼吸困難をきたしうる。 ・外側輪状披裂筋、横披裂筋、甲状披裂筋(声帯筋を含む):声門閉鎖・声帯の調節(反回神経支配) ・輪状甲状筋:声帯の緊張(上喉頭神経外枝支配)

嗄声をきたす神経障害の部位

・延髄(疑核):Wallenberg症候群(延髄外側症候群)では嗄声・嚥下障害を伴う。 ・頸静脈孔:IX・X・XI脳神経がまとめて障害される頸静脈孔症候群(Vernet症候群)。 ・末梢:反回神経麻痺(上記の原因)。

下位脳神経の機能の整理

・舌咽神経(IX):舌後1/3の味覚・感覚、咽頭反射の求心路、耳下腺分泌 ・迷走神経(X):咽頭・喉頭の運動と感覚、発声、胸腹部臓器の副交感神経支配 ・副神経(XI):胸鎖乳突筋、僧帽筋 ・舌下神経(XII):舌筋(障害側へ偏位)

POINT

・嗄声の原因となる神経は迷走神経、特にその枝の反回神経である。 ・反回神経は輪状甲状筋以外の内喉頭筋を支配し、麻痺すると声門閉鎖不全による気息性嗄声が生じる。 ・左反回神経は大動脈弓をくぐるため走行が長く、肺癌・食道癌・大動脈瘤・甲状腺手術などで障害されやすい。 ・副神経は胸鎖乳突筋・僧帽筋、舌下神経は舌筋(障害側へ偏位)、顔面神経は表情筋を支配する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。