StudyMed医師国家試験

腎臓が止まると全身が叫ぶ―尿毒症の症候を「3つの機序」で整理する

第102回医師国家試験 C問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第102回 C問題 第11問

尿毒症でみられないのはどれか。

  1. a.嗄声
  2. b.乏尿
  3. c.貧血
  4. d.肺水腫
  5. e.意識障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は尿毒症の症候のなかで、仲間外れを探す問題だ。尿毒症は症状が多彩で丸暗記しようとすると混乱しやすい。そこで「腎臓が本来担っている仕事が失われると何が起きるか」という視点で整理してみよう。
医学生医学生
腎臓の仕事というと、老廃物を尿に出すことと、水や電解質の調節でしょうか。
ドクタードクター
それに加えて、もう一つ大事な仕事がある。生理学の講義で習ったはずだけど、思い出せるかな。
医学生医学生
あ、内分泌ですね。エリスロポエチンとか、ビタミンDの活性化とか。
ドクタードクター
その通り。尿毒症とは、腎機能が高度に低下して、排泄機能・体液や電解質の調節・内分泌機能が破綻し、全身に症状が出た状態のことだ。急性腎障害でも慢性腎臓病の末期でも起こりうる。この枠組みで選択肢を見ていこう。まず乏尿はどうかな。
医学生医学生
腎臓が働かなければ尿が減るのは当然な気がします。でも慢性腎臓病では、むしろ多尿になると習った記憶もあって……。
ドクタードクター
いいところに引っかかったね。慢性腎臓病の進行期では、残ったネフロンに溶質が集中して浸透圧利尿が起き、尿の濃縮力も失われるので、等張尿が一定量出て夜間多尿になることがある。ただ、末期にはネフロンが減りきって乏尿、そして無尿に至る。急性腎障害では早期から乏尿になることが多いね。だから乏尿は尿毒症でみられる症候だ。
医学生医学生
次の貧血は内分泌の話ですね。エリスロポエチンが出なくなる腎性貧血です。
ドクタードクター
そう。尿細管周囲の間質細胞で作られるエリスロポエチンが減るのが主因で、尿毒素による赤血球寿命の短縮や造血抑制、鉄の利用障害なども加わる。典型的には正球性正色素性貧血だ。治療ではESAやHIF-PH阻害薬、鉄剤が使われる。
医学生医学生
腎臓内科を回ったとき、透析患者さんがESAを注射されていたのを見ました。肺水腫は水が出せないから、でしょうか。
ドクタードクター
その理解でいい。水とナトリウムが排泄できず細胞外液が増えると、高血圧と循環血液量の増加で左心系に負担がかかり、肺水腫を起こす。尿毒素で肺毛細血管の透過性が上がることも関与して、尿毒症肺と呼ばれることもある。胸部エックス線では肺門を中心に広がる蝶形陰影が特徴的だ。
医学生医学生
意識障害は、尿毒素が脳に影響するということですか。
ドクタードクター
そう、尿毒症性脳症だ。最初は疲れやすさや集中力の低下程度だけど、進むと見当識障害、羽ばたき振戦、けいれんが出て、傾眠から昏睡に至る。羽ばたき振戦は肝性脳症の印象が強いかもしれないけれど、尿毒症でもみられるんだ。
医学生医学生
そうなると、残る嗄声がみられない症候ですね。声がかすれるのは腎臓とは結びつきません。
ドクタードクター
正解。嗄声は声帯がうまく振動できないときに起こる症状で、原因は声帯ポリープや喉頭癌などの声帯そのものの病変か、声帯を動かす反回神経の麻痺だ。反回神経麻痺は肺癌や食道癌、甲状腺癌の浸潤、胸部大動脈瘤、甲状腺手術後などで起こる。尿毒素の蓄積や体液異常とは直接の関係がない。
医学生医学生
左の反回神経は大動脈弓を回るので、大動脈瘤だと左側の麻痺が多いと解剖で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。甲状腺機能低下症でも粘液水腫で声が低くしわがれることがあるから、嗄声の鑑別として一緒に押さえておくといい。
医学生医学生
排泄の障害、内分泌の障害、その他の全身変化、と分けると、選択肢の4つはどれかに当てはまって、嗄声だけどこにも入らない、ということですね。
ドクタードクター
その整理ができれば十分だ。発展として、臨床で必ず押さえたいのが緊急透析の適応だ。治療に反応しない高カリウム血症、高度の代謝性アシドーシス、利尿薬が効かない肺水腫、そして脳症や心膜炎、出血といった尿毒症症状。これらは待ったなしで透析を考える状態だよ。
医学生医学生
心膜炎も尿毒症で起こるんですね。聴診で心膜摩擦音を聴き逃さないようにしないと。
ドクタードクター
そう、それに皮膚瘙痒や出血傾向、末梢神経障害、高リン血症からくる二次性副甲状腺機能亢進症などのCKD-MBDも尿毒症の一部だ。患者さんの訴えがバラバラに見えても、背景に腎機能の高度低下がないかを意識できると、診断がぐっと早くなるよ。

まとめ

尿毒症は、腎機能の高度低下によって老廃物の排泄、水・電解質・酸塩基平衡の調節、エリスロポエチン産生やビタミンD活性化といった内分泌機能が破綻し、全身に多彩な症状が現れる状態です。乏尿(慢性腎臓病では末期)、エリスロポエチン低下による腎性貧血、体液過剰と左心不全による肺水腫、尿毒症性脳症による意識障害はいずれも典型的な症候です。一方、嗄声は声帯病変や反回神経麻痺(肺癌・食道癌・甲状腺癌・胸部大動脈瘤など)によって生じ、尿毒症の症候には含まれません。脳症、心膜炎、治療抵抗性の肺水腫・高カリウム血症・アシドーシスは緊急透析の適応となります。症状を「腎臓のどの機能が失われた結果か」という機序で整理することが、尿毒症の全体像の理解と臨床での早期発見につながります。

解答・解説

正解はaです

尿毒症(uremia)の症候を問う問題である。尿毒症とは、腎機能が高度に低下した結果、本来尿中に排泄されるべき老廃物(尿毒素)の蓄積、水・電解質・酸塩基平衡の破綻、腎臓の内分泌機能(エリスロポエチン産生、ビタミンDの活性化など)の低下が起こり、全身の多彩な臓器に症状が現れた状態を指す。急性腎障害(AKI)の高度なものでも、慢性腎臓病(CKD)の末期でも生じうる。 尿毒症の症候は、次の3つの機序に分けて整理すると理解しやすい。 (1) 排泄機能の低下:尿量の減少(乏尿・無尿)、水・Naの貯留による浮腫・高血圧・肺水腫・心不全、高カリウム血症、代謝性アシドーシス、尿毒素の蓄積による中枢神経症状・消化器症状・心膜炎・出血傾向・皮膚瘙痒など。 (2) 内分泌機能の低下:エリスロポエチン不足による腎性貧血、活性型ビタミンD不足と高リン血症による二次性副甲状腺機能亢進症・骨病変(CKD-MBD)。 (3) その他の全身性変化:末梢神経障害、易感染性、耐糖能異常、脂質異常、性腺機能障害など。 選択肢のうち、乏尿・貧血・肺水腫・意識障害はいずれもこれらの機序で説明できる典型的な症候である。一方、嗄声(声のかすれ)は反回神経麻痺や声帯病変などで生じる症状であり、尿毒症の症候としては挙げられない。

選択肢考察

  1. ○a.  嗄声

    尿毒症でみられない症候であり、これが正解である。嗄声は声帯の振動が正常に行われないことで生じる声のかすれで、主な原因は、声帯そのものの病変(声帯ポリープ、声帯結節、喉頭癌、喉頭炎など)と、声帯の運動を支配する反回神経の麻痺(肺癌・食道癌・甲状腺癌の浸潤、胸部大動脈瘤、縦隔リンパ節腫大、甲状腺手術後など)である。このほか、甲状腺機能低下症やムコ多糖症では声帯への粘液水腫・ムコ多糖の沈着により声が低くしわがれることがある。いずれも尿毒症の病態(尿毒素の蓄積や体液・電解質異常など)とは直接関係しない。

  2. ×b.  乏尿

    尿毒症でみられる。乏尿とは1日尿量が400mL以下に減少した状態で、糸球体濾過量(GFR)の高度な低下によって生じる。急性腎障害では早期から乏尿となることが多い。一方、慢性腎臓病では、残存ネフロンに多くの溶質が負荷される浸透圧利尿や尿細管障害によって尿の濃縮力・希釈力が失われ、血漿とほぼ同じ浸透圧の尿(等張尿)が一定量出るため、進行期でも尿量は保たれやすく、むしろ夜間多尿を示すことがある。しかし末期に至るとネフロン数の減少により乏尿、さらに無尿となる。

  3. ×c.  貧血

    尿毒症でみられる。腎性貧血と呼ばれ、主な原因は、腎臓(尿細管周囲の間質細胞)で産生される造血ホルモンであるエリスロポエチンの産生低下である。そのほか、尿毒素による赤血球寿命の短縮や骨髄での造血抑制、鉄の利用障害、出血傾向による失血なども関与する。典型的には正球性正色素性貧血であり、GFRがおおむね30mL/分/1.73m²を下回る頃から頻度が高くなる。治療には赤血球造血刺激因子製剤(ESA)や、低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬、鉄剤の補充が用いられる。

  4. ×d.  肺水腫

    尿毒症でみられる。腎臓からの水とNaの排泄が低下すると細胞外液量が増加し、循環血液量の増大と高血圧によって左心系に負荷がかかり、左心不全から肺水腫をきたす。さらに尿毒素により肺毛細血管の透過性が亢進することも関与し、「尿毒症肺」と呼ばれることがある。症状は呼吸困難、起坐呼吸、泡沫状の痰などで、胸部エックス線では肺門部を中心に両側に広がる蝶形陰影(butterfly shadow)を示す。利尿薬に反応しない肺水腫は緊急透析の適応となる。

  5. ×e.  意識障害

    尿毒症でみられる。尿毒素の蓄積や電解質・酸塩基平衡の異常が中枢神経を障害し、尿毒症性脳症を起こす。初期には易疲労感、集中力・記銘力の低下、不眠や抑うつなどがみられ、進行すると見当識障害、幻覚、錯乱、羽ばたき振戦、けいれんを生じ、傾眠から昏睡に至る。意識障害などの中枢神経症状は、心膜炎や高度の高カリウム血症、治療抵抗性の肺水腫と並んで、緊急に透析を開始すべき状態である。

尿毒症の主な症候(臓器別)

・中枢神経:尿毒症性脳症(集中力低下、傾眠、羽ばたき振戦、けいれん、昏睡) ・末梢神経:尿毒症性末梢神経障害(下肢のしびれ・灼熱感、むずむず脚症候群) ・循環器:高血圧、心不全、肺水腫、尿毒症性心膜炎(心膜摩擦音) ・呼吸器:尿毒症肺(肺水腫)、代謝性アシドーシスによるKussmaul呼吸 ・消化器:食欲不振、悪心・嘔吐、口臭(アンモニア臭)、消化管出血 ・血液:腎性貧血、出血傾向(血小板機能障害)、易感染性(免疫能低下) ・電解質・酸塩基:高カリウム血症、高リン血症、低カルシウム血症、代謝性アシドーシス ・骨・ミネラル:二次性副甲状腺機能亢進症、線維性骨炎などの骨病変(現在は血管石灰化も含めてCKD-MBD:慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常として扱う。かつては腎性骨異栄養症と呼ばれた) ・皮膚:皮膚瘙痒症、色素沈着、尿素の析出(尿毒症性霜) ・内分泌・代謝:耐糖能異常、脂質異常症、性腺機能障害 ・尿所見:等張尿、夜間尿(進行期)、末期には乏尿・無尿

緊急透析を考慮する状態

治療抵抗性の高カリウム血症、高度の代謝性アシドーシス、利尿薬に反応しない体液過剰(肺水腫)、尿毒症症状(脳症・心膜炎・出血など)。

嗄声の主な原因

・声帯病変:声帯ポリープ、声帯結節、ポリープ様声帯、喉頭癌、急性・慢性喉頭炎 ・反回神経麻痺:肺癌、食道癌、甲状腺癌、胸部大動脈瘤(左反回神経が大動脈弓を回るため左側に多い)、縦隔腫瘍、甲状腺・心臓大血管手術後 ・その他:甲状腺機能低下症、ムコ多糖症、声の酷使

POINT

・尿毒症=高度腎機能低下による全身症候群(排泄障害+内分泌障害)。 ・乏尿(CKDでは末期)、腎性貧血(エリスロポエチン低下、正球性正色素性)、肺水腫(体液過剰・左心不全)、意識障害(尿毒症性脳症)はいずれも尿毒症の症候。 ・嗄声は反回神経麻痺や声帯病変による症状で、尿毒症の症候ではない。 ・脳症、心膜炎、治療抵抗性の肺水腫・高カリウム血症・アシドーシスは緊急透析の適応。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。