StudyMed医師国家試験

夜に忍び寄る心室細動―Brugada症候群と「薬では防げない」突然死

第102回医師国家試験 A問題 第58問

国試問題にチャレンジ

第102回 A問題 第58問

44歳の男性。深夜に帰宅後,意識を失う発作を繰り返したため搬入された。1か月前から就寝時に時々胸苦しさを自覚していた。最近仕事が忙しく疲れ気味であった。40歳時に健康診断で心電図異常を指摘されていた。家族歴に特記すべきことはない。救急車の中で記録された発作時の心電図(A)と来院時の安静時心電図(B)とを別に示す。  対応として適切なのはどれか。

第102回 A問題 第58問の問題画像
  1. a.β遮断薬投与
  2. b.ベラパミル投与
  3. c.ジギタリス投与
  4. d.除細動器植え込み
  5. e.心臓ペースメーカー植え込み

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、繰り返す意識消失の原因を2枚の心電図から突き止め、再発をどう防ぐかを考える問題だ。ポイントは、発作がいつ起きているかという状況と、発作時・非発作時それぞれの心電図の意味。まず発作時の心電図から見てみよう。
医学生医学生
途中から波形がバラバラで、QRSとT波の区別がつかなくなっています。心室細動でしょうか。
ドクタードクター
正解。よく見ると、先行するT波の下り坂、つまり心室の受攻期に心室期外収縮が重なって、そこから不規則な波形が始まっている。いわゆるR on Tからの心室細動だ。意識消失はこの心室細動による心原性失神と考えられる。
医学生医学生
心室細動なら、まず心筋梗塞を疑います。胸苦しさもあったようですし。
ドクタードクター
その発想は大切だよ。心室細動の原因として、まず心筋梗塞や心筋症などの器質的心疾患を考えるのが基本だ。ただ、この方の胸苦しさは労作時ではなく就寝時に出ていて、発作も深夜の帰宅後という安静に近い場面で起きている。そして4年前から心電図異常を指摘されていた。ここで安静時の心電図を見てほしい。
医学生医学生
右脚ブロックのような形で、V1とV2のSTが上がっています。V1はSTが高く立ち上がってそのまま陰性T波につながる形、V2は少し下がってからまた上がる形です。
ドクタードクター
よく読めたね。V1のような形をcoved型、V2のような馬の鞍の形をsaddle back型という。右側胸部誘導のこうした特徴的なST上昇があり、器質的心疾患のない中年男性が夜間・安静時に心室細動を起こした。これはBrugada症候群に典型的な組み合わせなんだ。
医学生医学生
循環器の講義で、東南アジアの「ぽっくり病」の原因のひとつと聞いた疾患ですね。
ドクタードクター
そう。男性に圧倒的に多く、30〜50歳代で発症しやすい。心筋のナトリウムチャネル遺伝子SCN5Aの異常が見つかる例もあるが、一部にとどまる。発作は睡眠中、安静時、食後、飲酒後、発熱時など副交感神経が優位な状況で起こりやすい。今回の「深夜」「就寝時」「過労」という背景はよく合っているね。
医学生医学生
器質的心疾患のない人の心室細動というと、QT延長症候群も鑑別に挙がりませんか。
ドクタードクター
いい鑑別だ。先天性QT延長症候群は運動や突然の音、情動ストレスなど交感神経の緊張で発作が起きやすい型があり、そこが大きな違いだ。では本題の治療。Brugada症候群で心室細動の記録や心停止からの蘇生歴がある例は、再発による突然死の危険が非常に高い。どうする?
医学生医学生
心室細動を予防する薬を使いたいです。抗不整脈薬といえば、まずβ遮断薬が思い浮かびます。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だ。β遮断薬はQT延長症候群では治療の中心だけれど、Brugada症候群では交感神経を抑えることで副交感神経優位の状態に傾け、ST上昇を増強して心室細動を誘発するおそれがある。むしろ心室細動が頻発する急性期には、β刺激薬のイソプロテレノール静注が有効とされるくらいなんだ。
医学生医学生
正反対なんですね。ではベラパミルやジギタリスはどうですか。
ドクタードクター
ベラパミルはカルシウム拮抗薬で、発作性上室頻拍の停止や心房細動のレートコントロール、ベラパミル感受性心室頻拍に使う薬だ。Brugada症候群の心室細動を防ぐ効果はなく、カルシウム電流を抑える薬はかえってST上昇を増強しうるとされる。ジギタリスは心不全や心房細動のレートコントロールに使うもので、心室不整脈の予防作用はなく、中毒域ではむしろ心室性不整脈を誘発する。
医学生医学生
薬で確実に防げないなら、起きた心室細動をその場で止めるしかない、ということですか。
ドクタードクター
その通り。心室細動を確実に予防できる薬は存在しないから、突然死を防ぐ唯一確実な方法は植込み型除細動器、ICDだ。心室頻拍や心室細動を自動で検出して電気ショックで停止させる装置で、心室細動の記録や心停止の既往がある例ではガイドラインでも最も推奨度の高い治療とされている。この方は発作時に心室細動が記録され、失神を繰り返しているから、明確な適応だね。
医学生医学生
ペースメーカーも植え込む機械ですが、こちらは徐脈の治療でしたね。
ドクタードクター
そう。洞不全症候群や高度房室ブロックで心拍数を保つための装置で、除細動の機能はない。今回の失神の原因は徐脈ではなく心室細動だから役に立たない。
医学生医学生
Brugada症候群のICD適応は、心室細動や心停止の既往、不整脈による失神がある人、と整理すればよさそうですね。無症状の人はどうなりますか。
ドクタードクター
無症状でcoved型の心電図だけの例は突然死の危険が比較的低く、原則は経過観察で、家族歴や電気生理検査などを参考に個別に判断する。診断面では、心電図所見が日によって変動するので、1〜2肋間上で右側胸部誘導を記録したり、ピルシカイニドなどのナトリウムチャネル遮断薬でcoved型が顕在化するかを見る薬物負荷試験を行ったりする。なお確定診断に必要なのはcoved型で、saddle back型だけでは確定しない。
医学生医学生
臨床実習で健診の心電図を見る機会があったら、V1・V2のSTの形を意識して見てみます。
ドクタードクター
ぜひ。臨床での注意点として、Ic群抗不整脈薬、β遮断薬、過度の飲酒、発熱の放置は心室細動を誘発しうるから、患者さんには発熱時は早めに解熱するよう指導する。心室細動が頻発する場合には、ICDを補助する形でキニジンやシロスタゾールが使われることもある。「交感神経を上げる方向が味方」というQT延長症候群との違いを、誘因と薬の効き方のセットで覚えておこう。

まとめ

器質的心疾患のない中年男性が夜間・安静時に心室細動を起こし、安静時心電図で右脚ブロック様波形と右側胸部誘導のST上昇(coved型、saddle back型)を認める場合は、Brugada症候群を考えます。本症候群は睡眠中や飲酒後、発熱時など副交感神経優位の状況で発作が起きやすく、心室細動を確実に予防できる薬物は存在しないため、心室細動の記録や心停止・不整脈性失神の既往がある例では植込み型除細動器(ICD)が唯一確実な突然死予防策となります。β遮断薬やIc群抗不整脈薬はST上昇を増強して心室細動を誘発しうる一方、急性期の心室細動頻発にはイソプロテレノール、補助的にキニジンやシロスタゾールが用いられます。ペースメーカーは徐脈の治療でありVFには無効です。交感神経緊張で発作が起きβ遮断薬が有効なQT延長症候群との対比で理解すると、遺伝性不整脈の誘因と治療を体系的に整理できます。

解答・解説

正解はdです

病歴の整理

・44歳男性が、深夜の帰宅後という安静に近い状況で、意識消失発作を繰り返した。 ・1か月前から就寝時に胸苦しさがあり、症状は労作時ではなく夜間・安静時に出ている。 ・最近は多忙で疲労がたまっていた(過労が誘因となりうる)。 ・40歳時の健診で心電図異常を指摘されており、発作のないときにも心電図に異常が出る疾患が背景にあると考えられる。 ・家族歴に特記事項はない。

心電図の読み方

発作時の心電図(A)では、先行するT波の下り坂(心室の受攻期=わずかな刺激で細動を起こしやすい時期)に重なるように心室期外収縮が出現し(R on T)、その直後から形も間隔も不規則な波形が続いている。QRS波とT波の区別がつかないこの波形は心室細動(VF)であり、意識消失はVFによる心原性失神と判断できる。 安静時の心電図(B)では、右脚ブロックに似たQRS波形とともに、右側胸部誘導(V1〜V2)でST上昇がみられる。V1ではJ点から高く立ち上がったSTがそのまま下降して陰性T波につながる形(coved型)、V2では馬の鞍のようにSTがいったん下がって再び上がる形(saddle back型)を示す。これはBrugada症候群に典型的な所見である。

診断に至る考え方

心室細動の原因としては、まず心筋梗塞・心筋症・大動脈弁狭窄症などの器質的心疾患を考えるが、本例では病歴上それらを示唆する情報はない。明らかな心疾患のない中年男性が夜間安静時にVFを起こし、非発作時にも右側胸部誘導の特徴的なST上昇がある点から、Brugada症候群と診断できる。同じく器質的心疾患のない人のVFの原因として先天性QT延長症候群も鑑別に挙がるが、QT延長症候群は運動や情動ストレスなど交感神経の緊張で発作が起きやすい点がBrugada症候群と異なる。

設問への考え方

Brugada症候群のうち、心室細動の記録や心停止からの蘇生歴がある例は、再発による突然死の危険が非常に高い。VFを確実に予防できる薬物は存在しないため、突然死を防ぐ唯一確実な方法は植込み型除細動器(ICD)である。本例は発作時にVFが記録され、失神を繰り返しているので、ICD植え込みの明確な適応である。

選択肢考察

  1. ×a.  β遮断薬投与

    β遮断薬は、先天性QT延長症候群(特にLQT1、LQT2)やカテコラミン誘発多形性心室頻拍の治療の中心となる薬である。しかし、Brugada症候群では副交感神経優位の状態でST上昇が強まり、VFが起きやすくなる。β遮断薬は交感神経の作用を抑えるので、むしろST上昇を増強し、VFを誘発するおそれがある。Brugada症候群のVF予防には無効であり、用いるべきではない。なお、VFが頻発する状態(electrical storm)の急性期には、逆にβ刺激薬のイソプロテレノール持続静注が有効とされる。

  2. ×b.  ベラパミル投与

    ベラパミルはカルシウム拮抗薬(Vaughan Williams分類IV群)であり、発作性上室頻拍の停止や、心房細動の心拍数調節、ベラパミル感受性心室頻拍(特発性左室起源心室頻拍)の治療に使われる。しかし、Brugada症候群のVFを予防する効果はない。カルシウム電流を抑える薬は、かえってBrugada型のST上昇を増強しうるとされる。

  3. ×c.  ジギタリス投与

    ジギタリスは心不全における心収縮力の補助や、心房細動の心拍数調節に用いる薬である。心室の不整脈を予防する作用はなく、むしろ中毒域では心室期外収縮や心室頻拍を誘発する。Brugada症候群のVF予防には役立たない。

  4. ○d.  除細動器植え込み

    植込み型除細動器(ICD)は、心室頻拍や心室細動を自動で検出し、電気ショックなどで停止させる体内植込み型の装置である。Brugada症候群では、VFの記録や心停止からの蘇生歴がある例に対して、ICD植え込みが最も推奨度の高い治療(ガイドラインでクラスI)とされる。VFの発生そのものを確実に防ぐ薬はないため、発生したVFをその場で止めて突然死を防ぐICDが唯一確実な方法である。本例は発作時にVFが記録されており、失神を繰り返しているので、ICDの適応である。

  5. ×e.  心臓ペースメーカー植え込み

    心臓ペースメーカーは、洞不全症候群や高度房室ブロックなどの徐脈性不整脈に対して、一定の心拍数を保つために用いる装置である。除細動(電気ショック)の機能はないので、VFを止めることも予防することもできない。本例の失神の原因は徐脈ではなくVFであり、適応はない。

Brugada症候群の概要

Brugada症候群は、器質的な心疾患がないにもかかわらず、右側胸部誘導(V1〜V3)の特徴的なST上昇を示し、心室細動によって失神や突然死を起こす遺伝性の不整脈疾患である。心筋のナトリウムチャネルをつくる遺伝子(SCN5A)の異常が見つかる例があるが、遺伝子異常が同定されるのは一部にとどまる。 ・疫学: 圧倒的に男性に多く(約9割)、30〜50歳代で発症しやすい。日本を含む東南アジアに多く、かつて東南アジアで「ぽっくり病」などと呼ばれた若年〜中年男性の夜間突然死の原因の一つと考えられている。 ・発作の特徴: 夜間の睡眠中、安静時、食後、飲酒後、発熱時など、副交感神経(迷走神経)が優位な状況で発作が起こりやすい。夜間の苦しそうな呼吸(うめき声のような呼吸)が発作のサインとなることもある。

心電図

・coved型(タイプ1): J点から2mm以上高く上昇したSTが下に凸の形で下降し、陰性T波につながる。診断に必要なのはこの型である。 ・saddle back型(タイプ2): STがいったん下がった後、再び上昇して陽性T波につながる、馬の鞍のような形。これだけでは確定診断にならない。 ・心電図所見は日によって変動し、正常に見える時期もある。通常より1〜2肋間上の位置で右側胸部誘導を記録すると、coved型が見つかりやすくなる。 ・ナトリウムチャネル遮断薬(ピルシカイニド、フレカイニドなど)の静注でcoved型が顕在化するかどうかをみる薬物負荷試験も、診断に用いられる。

治療

・VFの既往や心停止からの蘇生歴がある例: ICD植え込みが第一の治療である。 ・不整脈によると考えられる失神歴がある例: ICD植え込みが推奨される。 ・無症状でcoved型の心電図のみの例: 突然死の危険は比較的低く、原則として経過観察となる。家族歴や電気生理検査などを参考に個別に判断する。 ・薬物療法はICDを補助するものであり、VFが頻発する場合にキニジン(一過性外向き電流を抑える)、シロスタゾール、イソプロテレノール(急性期の静注)などが用いられる。 ・避けるべき状態・薬: ナトリウムチャネル遮断薬(Ic群抗不整脈薬)、β遮断薬、過度の飲酒、発熱の放置などはST上昇を増強し、VFを誘発しうる。発熱時は解熱薬で速やかに熱を下げるよう指導する。

QT延長症候群との違い

先天性QT延長症候群は心電図でQT時間が延長し、トルサード・ド・ポアント(QRS波の軸がねじれるように変化する多形性心室頻拍)からVFに移行して失神や突然死を起こす。運動(LQT1)、突然の音や情動ストレス(LQT2)など交感神経の緊張が誘因となりやすい型ではβ遮断薬が治療の基本である。一方、Brugada症候群は副交感神経優位の状況で発作が起こり、β遮断薬は有害となりうる。両者の誘因と薬物の効き方の違いは、試験で問われやすい。

POINT

・器質的心疾患のない中年男性が、夜間・安静時に失神や心室細動を起こしたら、Brugada症候群を考える。 ・安静時心電図の特徴は、右脚ブロック様波形と、V1〜V2のST上昇(coved型、saddle back型)である。診断に必要なのはcoved型である。 ・VFの記録や心停止の既往、不整脈による失神がある例には、植込み型除細動器(ICD)を植え込む。VFを確実に予防できる薬物はない。 ・β遮断薬、Ic群抗不整脈薬、飲酒、発熱はST上昇を増強しVFを誘発しうる。VFが頻発するときはイソプロテレノール、キニジン、シロスタゾールが用いられる。 ・ペースメーカーは徐脈に対する治療であり、VFには無効である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。