ドパミン、早期介入、そして「100人に1人」―統合失調症の基本を総点検
第102回医師国家試験 A問題 第5問
国試問題にチャレンジ
統合失調症で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.モノアミンが関与している。
- b.大脳に炎症性変化が存在する。
- c.陰性症状に対する薬物効果は高い。
- d.発症初期の積極的な治療的介入が重要である。
- e.有病率は人口10万当たり約10である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
統合失調症の病態ではドパミン仮説が中心で、ドパミンやセロトニンといったモノアミンの関与が考えられています。一方、脳に炎症や明らかな神経変性はなく、炎症を伴う場合はむしろ抗NMDA受容体脳炎などの器質的疾患を鑑別すべきです。抗精神病薬は幻覚・妄想などの陽性症状によく効きますが、陰性症状や認知機能障害への効果は限られるため、SSTやデイケアなど心理社会的治療の併用が重要です。精神病未治療期間(DUP)が長いほど予後が悪いことから早期介入が重視され、生涯有病率は約1%と頻度の高い疾患です。病態・薬理・経過・疫学を結びつけて理解しておくことは、初発精神病の診療や長期支援の基盤になります。
解答・解説
正解はa, dです
統合失調症の病態仮説、症状と薬物療法の関係、治療開始時期の重要性、疫学を横断的に確認する一般問題である。 【病態】統合失調症の原因はいまだ特定されていない。遺伝的な素因に、胎生期〜思春期の脳発達の問題や環境ストレスが重なって発症すると考えられている(神経発達障害仮説、ストレス脆弱性モデル)。神経伝達物質の面では、モノアミンの一つであるドパミンの働きが中脳辺縁系で過剰になることが幻覚・妄想に関わるとするドパミン仮説が中心である。セロトニン(これもモノアミン)やグルタミン酸の関与も指摘されている。一方、脳炎のような炎症や、アルツハイマー病のような明らかな神経変性は認められない。 【症状と薬物療法】症状は、幻覚・妄想・思考の解体などの陽性症状と、感情の平板化・意欲低下・社会的ひきこもりなどの陰性症状、さらに認知機能障害に分けて整理される。抗精神病薬はドパミンD2受容体の遮断によって陽性症状をよく抑える。しかし陰性症状や認知機能障害への効果は限られている。 【経過と早期介入】多くは思春期〜青年期に発症し、再発と寛解を繰り返しながら慢性に経過しやすい。発症してから治療を始めるまでの期間(精神病未治療期間)が長いほど予後が悪いことが示されている。このため早期発見・早期治療が重視される。 【疫学】生涯有病率は約1%(およそ100人に1人)で、頻度の高い精神疾患である。 以上から、モノアミンの関与(a)と早期介入の重要性(d)が正しい。
選択肢考察
- ○a. モノアミンが関与している。
正しい。モノアミンとは、ドパミン・ノルアドレナリン(カテコールアミン)やセロトニン(インドールアミン)など、アミノ基を一つもつ神経伝達物質の総称である。統合失調症ではドパミン仮説が中心的な病態仮説となっている。中脳辺縁系ドパミン経路の過剰な活動が陽性症状を、中脳皮質系ドパミン経路の機能低下が陰性症状や認知機能障害を生むと考えられている。この仮説は、抗精神病薬のD2受容体への結合の強さと臨床用量(抗幻覚妄想作用)が相関すること、覚醒剤(アンフェタミン類)などドパミン作動薬で幻覚妄想状態が起こりうることから支持されてきた。セロトニン2A受容体も関与するとされ、非定型抗精神病薬(セロトニン・ドパミン拮抗薬など)はD2受容体と5-HT2A受容体の両方を遮断する。
- ×b. 大脳に炎症性変化が存在する。
誤り。統合失調症の患者脳には、画像検査や病理検査で側脳室の軽度拡大や前頭葉・側頭葉の体積のわずかな減少などが報告されている。しかしその変化は軽微で非特異的であり、炎症や明らかな神経変性(神経細胞の脱落とグリオーシス)は認められない。はっきりした器質的病変が見出されないことが、病因がいまだ不明である大きな理由の一つである。なお、抗NMDA受容体脳炎のような自己免疫性脳炎は統合失調症に似た精神症状を示すことがあるため、初発例では器質的疾患として鑑別する必要がある。
- ×c. 陰性症状に対する薬物効果は高い。
誤り。抗精神病薬は主にD2受容体を遮断して、幻覚・妄想などの陽性症状を改善する。一方で、感情の平板化、意欲低下(無為)、会話の貧困、社会的ひきこもりといった陰性症状への効果は十分ではない。非定型抗精神病薬は、定型抗精神病薬に比べて錐体外路症状が少なく、陰性症状にもやや有利とされたこともある。しかしその効果は限られており、陰性症状は現在も治療上の大きな課題である。そのため、心理社会的治療(生活技能訓練〈SST〉、作業療法、デイケアなど)を組み合わせることが重要である。
- ○d. 発症初期の積極的な治療的介入が重要である。
正しい。精神病症状が出てから治療を始めるまでの期間を精神病未治療期間(duration of untreated psychosis:DUP)という。DUPが長いほど、抗精神病薬への反応が悪く、症状の残存や社会機能の低下が強くなることが知られている。初回エピソードの患者は比較的少量の抗精神病薬によく反応するため、発症後の数年間(臨界期)に適切な薬物療法と心理社会的支援を行うことが、長期予後の改善につながる。こうした考えから、早期発見・早期介入が重視されるようになった。
- ×e. 有病率は人口10万当たり約10である。
誤り。統合失調症の生涯有病率は、国や地域、調査方法による差はあるものの、およそ0.7〜1%(100人に1人弱)とされる。人口10万当たりに換算すると約700〜1,000人となり、選択肢の「約10」は100倍近く過小である。国内の報告でも人口1,000人当たり2〜11人程度の値が示されており、人口10万当たりでは数百〜千程度となる。統合失調症は頻度の高い精神疾患である。
統合失調症の概要
・好発年齢:思春期〜30歳代前半。男性はやや早く(10歳代後半〜20歳代前半)、女性はやや遅く発症する傾向がある。 ・生涯有病率:約1%。性差はほとんどない。 ・病因:遺伝要因(一卵性双生児の一致率は約50%)と環境要因の相互作用によると考えられている。ストレス脆弱性モデルや神経発達障害仮説が提唱されている。
主な症状の整理
・陽性症状:幻覚(特に幻聴)、妄想(被害妄想、関係妄想など)、思考の解体、奇異な行動、緊張病症状。 ・陰性症状:感情の平板化、意欲低下、会話の貧困(思考の貧困)、快感消失、社会的ひきこもり。 ・認知機能障害:注意、作業記憶、実行機能などの低下。社会復帰に大きく影響する。
ドパミン経路と抗精神病薬
・中脳辺縁系:過剰な活動が陽性症状に関係する。遮断すると陽性症状が改善する。 ・中脳皮質系:機能低下が陰性症状・認知機能障害に関係する。 ・黒質線条体系:遮断すると錐体外路症状(パーキンソニズム、アカシジア、ジストニア、遅発性ジスキネジア)が出る。 ・漏斗下垂体系:遮断すると高プロラクチン血症(乳汁分泌、無月経など)が出る。 ・定型抗精神病薬(ハロペリドール、クロルプロマジンなど)はD2遮断が主体である。非定型抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾールなど)は錐体外路症状が少ない。治療抵抗性統合失調症にはクロザピンが用いられる。
経過と予後
再発と寛解を繰り返しやすい慢性疾患であるが、転帰はさまざまで、社会生活を送れる程度まで回復する例も少なくない。再発を防ぐには服薬の継続が重要で、治療を中断すると再発率が大きく上がる。
POINT
・統合失調症の中心的な病態仮説はドパミン仮説であり、モノアミン(ドパミン、セロトニン)が関与する。 ・脳に炎症や明らかな神経変性はなく、原因はいまだ不明である。 ・抗精神病薬は陽性症状によく効くが、陰性症状への効果は限られている。 ・精神病未治療期間(DUP)が長いほど予後が悪いため、早期介入が重要である。 ・生涯有病率は約1%(人口10万当たり約700〜1,000)である。
