StudyMed医師国家試験

ドパミン、早期介入、そして「100人に1人」―統合失調症の基本を総点検

第102回医師国家試験 A問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第102回 A問題 第5問

統合失調症で正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.モノアミンが関与している。
  2. b.大脳に炎症性変化が存在する。
  3. c.陰性症状に対する薬物効果は高い。
  4. d.発症初期の積極的な治療的介入が重要である。
  5. e.有病率は人口10万当たり約10である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は統合失調症の基本知識を横断的に問う問題だ。病態の仮説、症状ごとの薬の効き方、治療開始のタイミング、そして疫学。この4つの軸で選択肢を整理していくと迷いにくいよ。まず、統合失調症の原因について、今わかっていることを挙げてみてくれるかな。
医学生医学生
薬理学の講義で「ドパミン仮説」を習いました。ドパミンが過剰になって幻覚や妄想が出る、という説ですよね。
ドクタードクター
その通り。中脳辺縁系のドパミン経路が過剰に働くことが、幻覚・妄想といった陽性症状に関わると考えられている。根拠としては、抗精神病薬のD2受容体への結合の強さと臨床用量がよく相関すること、そして覚醒剤のようなドパミン作動薬で幻覚妄想状態が起こりうることが挙げられる。
医学生医学生
ドパミンはモノアミンの一つなので、「モノアミンが関与している」は正しいと言えそうですね。
ドクタードクター
そう。モノアミンはドパミンやノルアドレナリン、セロトニンなどの総称だ。統合失調症ではセロトニン2A受容体の関与も指摘されていて、非定型抗精神病薬はD2と5-HT2Aの両方を遮断する。グルタミン酸の関与も研究されているけれど、モノアミンが関わっていること自体は確かだね。
医学生医学生
では「大脳に炎症性変化がある」はどうでしょう。病理実習で脳炎の標本は見ましたが、統合失調症の脳は見た記憶がありません。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。統合失調症の脳では、側脳室の軽度拡大や前頭葉・側頭葉の体積のわずかな減少が報告されているけれど、変化は軽微で非特異的だ。炎症や、神経細胞の脱落とグリオーシスのような明らかな神経変性は認められない。だからこそ原因がいまだ特定されていないんだ。
医学生医学生
逆に、炎症があったら別の病気を疑うべき、ということですか。
ドクタードクター
まさにそこが臨床で大事な点。抗NMDA受容体脳炎のような自己免疫性脳炎は、統合失調症によく似た精神症状で始まることがある。初発の精神病症状をみたら、器質的疾患を除外する姿勢を忘れないでほしい。次は薬の効き方だ。陰性症状に薬はよく効くと思う?
医学生医学生
非定型抗精神病薬は陰性症状にも効く、と聞いたことがあるので、効果は高いのかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。抗精神病薬はD2遮断によって陽性症状をよく抑えるけれど、感情の平板化や意欲低下、社会的ひきこもりといった陰性症状、そして認知機能障害への効果は限られている。非定型薬がやや有利とされた時期もあったけれど、陰性症状は今も治療上の大きな課題なんだ。
医学生医学生
精神科の臨床実習で、デイケアや作業療法に通っている患者さんが多かったのは、そのためなんですね。
ドクタードクター
そう、生活技能訓練(SST)や作業療法、デイケアなどの心理社会的治療を組み合わせることが欠かせない。では、治療のタイミングについてはどうかな。
医学生医学生
早く治療を始めたほうがいい、というのは感覚的にはわかります。根拠はあるんですか。
ドクタードクター
精神病症状が出てから治療を始めるまでの期間を精神病未治療期間、英語でduration of untreated psychosis、略してDUPという。DUPが長いほど薬への反応が悪く、症状が残りやすく、社会機能も落ちやすいことが示されている。初回エピソードの患者は比較的少量の抗精神病薬によく反応するから、発症後数年の「臨界期」に適切に介入することが長期予後を左右するんだ。だから「発症初期の積極的な治療的介入が重要」は正しい。
医学生医学生
最後の有病率ですが、10万人に10人だとかなり珍しい病気になってしまいますね。公衆衛生学で「100人に1人」と習った気がします。
ドクタードクター
その記憶で合っている。生涯有病率はおよそ0.7〜1%で、10万人あたりに直すと700〜1,000人ほど。選択肢の数字は100倍近く少ない。統合失調症はありふれた精神疾患の一つなんだ。
医学生医学生
整理すると、正しいのはモノアミンの関与と早期介入の重要性の2つですね。
ドクタードクター
正解。最後に発展知識をまとめておこう。ドパミン経路は4つで整理すると便利だ。中脳辺縁系の過剰が陽性症状、中脳皮質系の機能低下が陰性症状や認知機能障害に関わる。薬で黒質線条体系を遮断すると錐体外路症状、漏斗下垂体系を遮断すると高プロラクチン血症が出る。治療抵抗性の場合にはクロザピンが用いられる。
医学生医学生
副作用まで経路で説明できると覚えやすいです。服薬を続けることも大事なんですよね。
ドクタードクター
その通り。統合失調症は再発と寛解を繰り返しやすく、服薬を中断すると再発率が大きく上がる。一方で、社会生活を送れるまで回復する人も少なくない。早期に介入し、薬物療法と心理社会的支援を続けていくことが、患者さんの人生を支えることにつながるんだ。

まとめ

統合失調症の病態ではドパミン仮説が中心で、ドパミンやセロトニンといったモノアミンの関与が考えられています。一方、脳に炎症や明らかな神経変性はなく、炎症を伴う場合はむしろ抗NMDA受容体脳炎などの器質的疾患を鑑別すべきです。抗精神病薬は幻覚・妄想などの陽性症状によく効きますが、陰性症状や認知機能障害への効果は限られるため、SSTやデイケアなど心理社会的治療の併用が重要です。精神病未治療期間(DUP)が長いほど予後が悪いことから早期介入が重視され、生涯有病率は約1%と頻度の高い疾患です。病態・薬理・経過・疫学を結びつけて理解しておくことは、初発精神病の診療や長期支援の基盤になります。

解答・解説

正解はa, dです

統合失調症の病態仮説、症状と薬物療法の関係、治療開始時期の重要性、疫学を横断的に確認する一般問題である。 【病態】統合失調症の原因はいまだ特定されていない。遺伝的な素因に、胎生期〜思春期の脳発達の問題や環境ストレスが重なって発症すると考えられている(神経発達障害仮説、ストレス脆弱性モデル)。神経伝達物質の面では、モノアミンの一つであるドパミンの働きが中脳辺縁系で過剰になることが幻覚・妄想に関わるとするドパミン仮説が中心である。セロトニン(これもモノアミン)やグルタミン酸の関与も指摘されている。一方、脳炎のような炎症や、アルツハイマー病のような明らかな神経変性は認められない。 【症状と薬物療法】症状は、幻覚・妄想・思考の解体などの陽性症状と、感情の平板化・意欲低下・社会的ひきこもりなどの陰性症状、さらに認知機能障害に分けて整理される。抗精神病薬はドパミンD2受容体の遮断によって陽性症状をよく抑える。しかし陰性症状や認知機能障害への効果は限られている。 【経過と早期介入】多くは思春期〜青年期に発症し、再発と寛解を繰り返しながら慢性に経過しやすい。発症してから治療を始めるまでの期間(精神病未治療期間)が長いほど予後が悪いことが示されている。このため早期発見・早期治療が重視される。 【疫学】生涯有病率は約1%(およそ100人に1人)で、頻度の高い精神疾患である。 以上から、モノアミンの関与(a)と早期介入の重要性(d)が正しい。

選択肢考察

  1. ○a.  モノアミンが関与している。

    正しい。モノアミンとは、ドパミン・ノルアドレナリン(カテコールアミン)やセロトニン(インドールアミン)など、アミノ基を一つもつ神経伝達物質の総称である。統合失調症ではドパミン仮説が中心的な病態仮説となっている。中脳辺縁系ドパミン経路の過剰な活動が陽性症状を、中脳皮質系ドパミン経路の機能低下が陰性症状や認知機能障害を生むと考えられている。この仮説は、抗精神病薬のD2受容体への結合の強さと臨床用量(抗幻覚妄想作用)が相関すること、覚醒剤(アンフェタミン類)などドパミン作動薬で幻覚妄想状態が起こりうることから支持されてきた。セロトニン2A受容体も関与するとされ、非定型抗精神病薬(セロトニン・ドパミン拮抗薬など)はD2受容体と5-HT2A受容体の両方を遮断する。

  2. ×b.  大脳に炎症性変化が存在する。

    誤り。統合失調症の患者脳には、画像検査や病理検査で側脳室の軽度拡大や前頭葉・側頭葉の体積のわずかな減少などが報告されている。しかしその変化は軽微で非特異的であり、炎症や明らかな神経変性(神経細胞の脱落とグリオーシス)は認められない。はっきりした器質的病変が見出されないことが、病因がいまだ不明である大きな理由の一つである。なお、抗NMDA受容体脳炎のような自己免疫性脳炎は統合失調症に似た精神症状を示すことがあるため、初発例では器質的疾患として鑑別する必要がある。

  3. ×c.  陰性症状に対する薬物効果は高い。

    誤り。抗精神病薬は主にD2受容体を遮断して、幻覚・妄想などの陽性症状を改善する。一方で、感情の平板化、意欲低下(無為)、会話の貧困、社会的ひきこもりといった陰性症状への効果は十分ではない。非定型抗精神病薬は、定型抗精神病薬に比べて錐体外路症状が少なく、陰性症状にもやや有利とされたこともある。しかしその効果は限られており、陰性症状は現在も治療上の大きな課題である。そのため、心理社会的治療(生活技能訓練〈SST〉、作業療法、デイケアなど)を組み合わせることが重要である。

  4. ○d.  発症初期の積極的な治療的介入が重要である。

    正しい。精神病症状が出てから治療を始めるまでの期間を精神病未治療期間(duration of untreated psychosis:DUP)という。DUPが長いほど、抗精神病薬への反応が悪く、症状の残存や社会機能の低下が強くなることが知られている。初回エピソードの患者は比較的少量の抗精神病薬によく反応するため、発症後の数年間(臨界期)に適切な薬物療法と心理社会的支援を行うことが、長期予後の改善につながる。こうした考えから、早期発見・早期介入が重視されるようになった。

  5. ×e.  有病率は人口10万当たり約10である。

    誤り。統合失調症の生涯有病率は、国や地域、調査方法による差はあるものの、およそ0.7〜1%(100人に1人弱)とされる。人口10万当たりに換算すると約700〜1,000人となり、選択肢の「約10」は100倍近く過小である。国内の報告でも人口1,000人当たり2〜11人程度の値が示されており、人口10万当たりでは数百〜千程度となる。統合失調症は頻度の高い精神疾患である。

統合失調症の概要

・好発年齢:思春期〜30歳代前半。男性はやや早く(10歳代後半〜20歳代前半)、女性はやや遅く発症する傾向がある。 ・生涯有病率:約1%。性差はほとんどない。 ・病因:遺伝要因(一卵性双生児の一致率は約50%)と環境要因の相互作用によると考えられている。ストレス脆弱性モデルや神経発達障害仮説が提唱されている。

主な症状の整理

・陽性症状:幻覚(特に幻聴)、妄想(被害妄想、関係妄想など)、思考の解体、奇異な行動、緊張病症状。 ・陰性症状:感情の平板化、意欲低下、会話の貧困(思考の貧困)、快感消失、社会的ひきこもり。 ・認知機能障害:注意、作業記憶、実行機能などの低下。社会復帰に大きく影響する。

ドパミン経路と抗精神病薬

・中脳辺縁系:過剰な活動が陽性症状に関係する。遮断すると陽性症状が改善する。 ・中脳皮質系:機能低下が陰性症状・認知機能障害に関係する。 ・黒質線条体系:遮断すると錐体外路症状(パーキンソニズム、アカシジア、ジストニア、遅発性ジスキネジア)が出る。 ・漏斗下垂体系:遮断すると高プロラクチン血症(乳汁分泌、無月経など)が出る。 ・定型抗精神病薬(ハロペリドール、クロルプロマジンなど)はD2遮断が主体である。非定型抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾールなど)は錐体外路症状が少ない。治療抵抗性統合失調症にはクロザピンが用いられる。

経過と予後

再発と寛解を繰り返しやすい慢性疾患であるが、転帰はさまざまで、社会生活を送れる程度まで回復する例も少なくない。再発を防ぐには服薬の継続が重要で、治療を中断すると再発率が大きく上がる。

POINT

・統合失調症の中心的な病態仮説はドパミン仮説であり、モノアミン(ドパミン、セロトニン)が関与する。 ・脳に炎症や明らかな神経変性はなく、原因はいまだ不明である。 ・抗精神病薬は陽性症状によく効くが、陰性症状への効果は限られている。 ・精神病未治療期間(DUP)が長いほど予後が悪いため、早期介入が重要である。 ・生涯有病率は約1%(人口10万当たり約700〜1,000)である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。