頭も体も小さいのはなぜ?―均衡型FGRが教える「胎児側の原因」
第102回医師国家試験 A問題 第4問
国試問題にチャレンジ
均衡型の子宮内発育遅延をきたしやすいのはどれか。
- a.妊娠糖尿病
- b.18 trisomy
- c.血液型不適合妊娠
- d.胎児心室中隔欠損
- e.妊娠高血圧症候群〈妊娠中毒症〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
胎児発育不全(FGR)は、頭部と体幹がともに小さい均衡型と、頭部が保たれ体幹が小さい不均衡型に分けられます。均衡型は妊娠早期から胎児自身の細胞増殖が障害されて生じ、18トリソミーなどの染色体異常、先天奇形症候群、TORCHなどの先天性感染症が代表的原因です。不均衡型は妊娠後期の胎盤機能不全によるbrain sparingで生じ、妊娠高血圧症候群が典型例です。妊娠糖尿病はむしろ巨大児を、血液型不適合妊娠は胎児貧血や胎児水腫をきたし、単独の心室中隔欠損は胎児循環にほとんど影響しません。FGRの型から原因の所在と時期を推定する考え方は、妊婦健診での精査方針や分娩時期の判断に直結します。
解答・解説
正解はbです
子宮内発育遅延(現在は「胎児発育不全(fetal growth restriction:FGR)」と呼ぶ)は、胎児が在胎週数に見合った大きさに育っていない状態である。超音波で推定した胎児体重が基準値よりおおむね-1.5 SD以下の場合に疑われる。FGRは、頭部と体幹の発育のバランスによって「均衡型」と「不均衡型」に分けられ、それぞれ原因が異なる。
均衡型(symmetrical、タイプⅠ)
頭も体幹も同じ割合で小さい。細胞の数が増える時期、すなわち妊娠初期〜中期の早い段階から胎児そのものの発育能力が障害されるために起こる。原因は胎児側にあることが多く、染色体異常(18トリソミー、13トリソミーなど)、先天奇形症候群、先天性感染症(サイトメガロウイルス、風疹、トキソプラズマなどのTORCH症候群)、薬物・放射線などの影響が代表的である。予後は原因疾患に左右され、一般に不良なことが多い。
不均衡型(asymmetrical、タイプⅡ)
頭部の発育は比較的保たれ、体幹(腹部)の発育が遅れる。妊娠後期に胎盤からの酸素・栄養の供給が不足すると、胎児は血流を脳へ優先的に振り分け(brain sparing:脳保護効果)、肝臓や皮下脂肪への供給を削るため、腹囲が小さく頭囲は保たれる。原因は母体・胎盤側にあることが多く、妊娠高血圧症候群、血管障害を伴う母体の慢性疾患(腎疾患、膠原病、血管合併症のある糖尿病など)、喫煙、胎盤機能不全、臍帯異常などが代表的である。
設問の考え方
選択肢のうち、妊娠初期から胎児自身の細胞増殖が障害され均衡型FGRを起こす典型例は、染色体異常である18トリソミーである。胎盤の血流障害による不均衡型(妊娠高血圧症候群)や、そもそもFGRの典型的原因ではないもの(妊娠糖尿病、血液型不適合妊娠、心室中隔欠損)と区別する。
選択肢考察
- ×a. 妊娠糖尿病
誤り。母体が高血糖だとブドウ糖が胎盤を通って胎児も高血糖となり、胎児の膵臓からインスリンが多量に分泌される。インスリンは胎児にとって強力な成長因子であるため、妊娠糖尿病ではむしろ巨大児(heavy-for-dates児)になりやすい。均衡型FGRの原因とはならない。なお、妊娠前から糖尿病があり腎症・網膜症などの血管合併症を伴う場合や、妊娠高血圧症候群を合併した場合には、胎盤の血流が障害されて不均衡型のFGRをきたすことがある。
- ○b. 18 trisomy
正しい。18トリソミー(Edwards症候群)は18番染色体が3本ある染色体異常で、受精直後から全身の細胞の増殖・分化が障害されるため、頭部も体幹も一様に小さい均衡型FGRを呈する代表的疾患である。FGRは妊娠中期から明らかになることが多い。胎児期には羊水過多や、手指の重なり(握りしめた手)、揺り椅子状の足底(rocker-bottom foot)、心奇形(心室中隔欠損など)、脈絡叢嚢胞、臍帯ヘルニアなどの所見を伴いやすい。出生後の生命予後は不良で、多くが乳児期までに死亡する。13トリソミーなど他の染色体異常も同様に均衡型FGRの原因となる。
- ×c. 血液型不適合妊娠
誤り。血液型不適合妊娠(代表はRh(D)不適合)では、母体が産生したIgG型の抗体が胎盤を通過して胎児の赤血球を破壊し、胎児溶血性疾患を起こす。重症になると胎児貧血から高拍出性心不全となり、全身の浮腫や胸水・腹水を伴う胎児水腫をきたす。問題となるのは貧血と胎児水腫であり、FGR、特に均衡型FGRの典型的な原因ではない(胎児水腫ではむしろ浮腫によって体重が見かけ上増えることがある)。
- ×d. 胎児心室中隔欠損
誤り。胎児期は卵円孔と動脈管を通じて左右の心室がともに体循環に血液を送っており、肺もまだ使われていないため左右の心室圧はほぼ等しい。そのため単独の心室中隔欠損は胎児の循環にほとんど影響せず、胎児の発育を妨げることは通常ない。心室中隔欠損は出生後、肺血管抵抗が下がって左右短絡が生じてから症状が現れる疾患である。ただし18トリソミーなどの染色体異常の一所見として心室中隔欠損がみられることはあり、その場合にFGRを伴うのは染色体異常そのものによる。
- ×e. 妊娠高血圧症候群〈妊娠中毒症〉
誤り。妊娠高血圧症候群では、胎盤を形成する際のらせん動脈の再構築(リモデリング)が不十分であるため子宮胎盤循環が不良となり、胎盤機能不全を起こす。その結果、胎児への酸素・栄養の供給が妊娠中期以降に不足し、胎児は脳への血流を優先させるため、頭囲は保たれ腹囲が小さい不均衡型FGRを呈するのが典型である。不均衡型FGRの原因として最も代表的な疾患であり、均衡型ではない。なお「妊娠中毒症」は旧称であり、現在は妊娠高血圧症候群と呼ぶ。
胎児発育不全(FGR)の用語
かつては子宮内胎児発育遅延(IUGR)と呼ばれたが、現在わが国では胎児発育不全(FGR)の用語が用いられる。出生後の児の評価としては、在胎週数に比べて体重が小さいものをlight-for-dates(LFD)児、体重・身長ともに小さいものをsmall-for-gestational age(SGA)児という。
FGRの評価
・超音波で児頭大横径(BPD)、腹囲(AC)、大腿骨長(FL)を計測して推定胎児体重を算出し、週数ごとの基準値と比較する。 ・頭部と腹部の比(例:頭囲/腹囲比)から均衡型・不均衡型を推定する。不均衡型では腹囲の縮小が目立つ。 ・妊娠週数の確認(妊娠初期の頭殿長による週数補正)が前提となる。週数の誤りを除外することが大切である。 ・胎児の状態評価には、臍帯動脈や中大脳動脈の血流計測(ドプラ法)、ノンストレステスト、羊水量(胎盤機能不全では胎児尿量が減り羊水過少となる)などを用いる。
均衡型と不均衡型の比較
・均衡型(タイプⅠ) 時期:妊娠初期〜中期早期から 原因:主に胎児側(染色体異常、奇形症候群、先天性感染症、薬物・放射線など) 特徴:頭部・体幹ともに一様に小さい 予後:原因疾患によるが不良なことが多い ・不均衡型(タイプⅡ) 時期:主に妊娠後期 原因:主に母体・胎盤側(妊娠高血圧症候群、母体の血管障害を伴う疾患、喫煙、低栄養、胎盤機能不全、臍帯異常など) 特徴:頭部は保たれ体幹が小さい(brain sparing) 予後:適切な時期の娩出により比較的良好なことが多い。出生後は低血糖、多血症、低体温などに注意する。
18トリソミー(Edwards症候群)の主な特徴
FGR、羊水過多、手指の重なり(握りしめた手)、揺り椅子状足底、小顎、後頭部突出、心奇形(心室中隔欠損など)、食道閉鎖、臍帯ヘルニアなど。女児に多く、生命予後は不良である。母体年齢の上昇に伴い頻度が増える。
POINT
・均衡型FGR(頭も体幹も小さい)=妊娠早期からの胎児側の障害:染色体異常(18トリソミー、13トリソミー)、先天性感染症(TORCH)、奇形症候群、薬物・放射線。 ・不均衡型FGR(頭は保たれ体幹が小さい)=妊娠後期の胎盤機能不全:妊娠高血圧症候群、母体の血管障害、喫煙など。 ・妊娠糖尿病→巨大児になりやすい(血管合併症のある糖尿病ではFGRもありうる)。 ・血液型不適合妊娠→胎児貧血、胎児水腫。 ・単独の心室中隔欠損は胎児期の循環に影響せず、FGRの原因とならない。
