StudyMed医師国家試験

かゆい紫の丘疹を見たら口の中をのぞけ―扁平苔癬が教える「皮膚の外」の診察

第113回医師国家試験 A問題 第41問

国試問題にチャレンジ

第113回 A問題 第41問

57歳の女性。下肢の皮疹を主訴に来院した。6か月前から激しい瘙痒を伴う皮疹が多発し,自宅近くの診療所で副腎皮質ステロイド外用薬を処方されているが,寛解と増悪を繰り返すため受診した。下肢の広範囲に米粒大から爪甲大の丘疹,結節が多発し,表面は紫紅色調で光沢を帯び,白色線条を伴う。既往歴に特記すべきことはない。内服している薬はない。皮膚生検を施行したところ,表皮基底細胞の液状変性と表皮直下の帯状細胞浸潤を認めた。下肢の写真(A)及び生検組織のH-E染色標本(B)を別に示す。  さらに確認すべき部位はどれか。

第113回 A問題 第41問の問題画像
  1. a.頭皮
  2. b.口腔粘膜
  3. c.腋窩
  4. d.背部
  5. e.臍部

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、慢性に続く強いかゆみの皮疹から診断をつけ、そのうえで「ほかにどこを診るべきか」を問う問題だ。皮疹の色調と表面の模様、そして病理の2つの所見がカギになる。まずは皮疹の見た目から何を考えるかな。
医学生医学生
紫紅色で光沢があって、白い線が入っている…というのは扁平苔癬の特徴だった気がします。
ドクタードクター
いいね。扁平苔癬の皮疹は、境界がはっきりした多角形の平たく盛り上がった丘疹で、紫がかった赤色とテカテカした光沢が特徴だ。表面にみえる白いレース状・網目状の線をWickham線条と呼ぶ。これが見えたら扁平苔癬をまず思い浮かべてほしい。
医学生医学生
皮膚科の臨床実習で、ダーモスコピーを当てると白い網目がよく見えると教わりました。
ドクタードクター
まさにそう。次に病理だ。H-E染色では、表皮の一番下の基底細胞が空胞化して壊れる液状変性と、そのすぐ下に帯のように並ぶリンパ球の浸潤がみられる。これはどういう炎症パターンだと思う?
医学生医学生
病理の講義で出てきたinterface dermatitisですね。表皮と真皮の境目に炎症が集中するタイプだったと思います。
ドクタードクター
正解。T細胞が基底細胞を標的にして攻撃している像で、扁平苔癬の典型だ。楔状の顆粒層肥厚や、変性した表皮細胞が好酸性に丸く見えるCivatte小体もよく一緒に出てくる。臨床像と病理がそろうので、診断は扁平苔癬でいい。
医学生医学生
でも薬疹の可能性はないんでしょうか。苔癬型薬疹という言葉も聞いたことがあります。
ドクタードクター
鋭い視点だね。降圧薬や抗結核薬などで同じような皮疹が出ることがあり、苔癬型薬疹と呼ぶ。ただ今回は内服薬がないので考えにくい。だから実際の診療でも、扁平苔癬を見たら必ず服薬歴を確認するんだ。では本題、さらに確認すべき部位はどこだろう。
医学生医学生
扁平苔癬は粘膜にも出ると習ったので、口腔粘膜でしょうか。
ドクタードクター
その通り、口腔粘膜が正解だ。扁平苔癬は皮膚だけでなく粘膜にも病変をつくり、特に口腔、なかでも頬粘膜に白い網目状の病変がよくみられる。ポイントは、口の病変は無症状のことが多く、患者が自分から訴えないこと。だから医師のほうから口を開けてもらって確認する必要がある。びらん型になると、食事でしみる痛みが出ることもある。
医学生医学生
頭皮はどうですか。扁平苔癬で脱毛が起きる病型があったような…。
ドクタードクター
よく覚えているね。毛孔一致性に生じる毛孔性扁平苔癬があり、瘢痕性脱毛をきたすことがある。ただ頻度は低く、診断時に真っ先に確認する部位ではない。背部などの体幹に皮疹が広がることもあるけれど、それも扁平苔癬に特徴的な部位とはいえないんだ。
医学生医学生
腋窩や臍部は、ほかの病気で見る場所というイメージです。
ドクタードクター
そうだね。腋窩のような皮膚どうしがこすれる間擦部は、カンジダ症や逆乾癬、黒色表皮腫、Hailey-Hailey病などで確認する部位。臍周囲は疥癬の丘疹を探すときに見る場所として知られている。疾患ごとに「ここを見る」という部位を整理しておくと、身体診察が一段と効率的になるよ。
医学生医学生
扁平苔癬なら、皮膚を見たら口の中、とセットで覚えておきます。
ドクタードクター
それでいい。もう一歩進めておこう。口腔扁平苔癬は長期経過のなかで扁平上皮癌が発生することがあり、前癌状態として経過観察が必要だ。治らないびらんや硬結が出てきたら生検を考える。また、C型肝炎ウイルス感染や歯科金属アレルギーとの関連も指摘されているので、肝炎ウイルス検査や金属パッチテストを検討することもある。
医学生医学生
歯科の先生との連携も大事になりそうですね。好発部位はほかにもありますか。
ドクタードクター
前腕屈側、手背、下腿、足背のほか、口唇、亀頭などの陰部、爪にも出る。爪では縦溝や菲薄化、翼状片形成がみられる。また、掻いたところに新しい皮疹が出るKöbner現象も特徴で、乾癬や尋常性白斑でもみられる。治療はステロイド外用が基本で、口腔には口腔用ステロイドを使う。慢性に経過しやすく、治った後に色素沈着を残しやすいことも患者さんに説明しておきたいね。

まとめ

強い瘙痒を伴う紫紅色で光沢のある扁平な丘疹にWickham線条を認め、病理で基底細胞の液状変性と表皮直下の帯状リンパ球浸潤(interface dermatitis)がみられれば扁平苔癬と診断できます。扁平苔癬は口腔粘膜、特に頬粘膜に白色網状の病変を高頻度に合併し、無症状で患者が訴えないことも多いため、皮膚病変をみたら必ず口腔内を診察します。口腔扁平苔癬は扁平上皮癌の発生母地となりうるため経過観察が必要で、薬剤(苔癬型薬疹)、C型肝炎、歯科金属アレルギーとの関連にも注意します。頭皮の毛孔性扁平苔癬はまれで、腋窩や臍部は別の疾患で確認する部位です。疾患ごとに「皮疹の外で確認すべき部位」を押さえておくことは、見落としのない身体診察につながります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・57歳女性。6か月前から下肢に強い瘙痒を伴う皮疹が多発し、ステロイド外用で寛解と増悪を繰り返している(慢性・難治性の炎症性皮膚疾患)。 ・皮疹は米粒大〜爪甲大の丘疹・結節で、表面は紫紅色調で光沢があり、白色の線条を伴う。この白い網目状・線状の模様はWickham線条と呼ばれ、扁平苔癬に特徴的である。 ・内服薬はないため、薬剤によって同様の皮疹が生じる扁平苔癬型(苔癬型)薬疹は考えにくい。 ・病理組織では表皮基底細胞の液状変性(基底層の細胞が空胞化して壊れる変化)と、表皮直下の帯状のリンパ球浸潤がみられる。これは表皮と真皮の境界部に炎症が集中する「interface dermatitis(境界部皮膚炎)」の代表的な像であり、扁平苔癬に典型的である。

診断

臨床像(瘙痒の強い紫紅色・光沢のある扁平隆起性丘疹、Wickham線条)と病理所見から扁平苔癬と診断する。

設問の考え方

扁平苔癬は皮膚だけでなく粘膜にも病変をつくる疾患であり、特に口腔粘膜には高頻度に病変がみられる。口腔の病変は自覚症状に乏しく患者が訴えないことも多いため、皮膚で扁平苔癬を診断したら口腔内を必ず診察する。口腔扁平苔癬は長期経過で扁平上皮癌が発生することがあり、経過観察が必要な点からも重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  頭皮

    誤り。頭皮に毛孔一致性の扁平苔癬(毛孔性扁平苔癬)が生じ、瘢痕性脱毛をきたすことはある。しかし頻度は低く、扁平苔癬の診断時にまず確認すべき部位ではない。

  2. ○b.  口腔粘膜

    正しい。口腔粘膜は扁平苔癬の代表的な好発部位で、皮膚に病変のある患者では口腔病変を合併することが多い。頬粘膜を中心に白色の網目状・レース状の線条がみられ、びらん型では接触痛や食事時のしみる痛みを伴う。無症状のことも多いので、医師が積極的に診察する必要がある。口腔扁平苔癬は前癌状態として扱われ、扁平上皮癌の発生に注意して経過をみる。C型肝炎ウイルス感染や歯科金属アレルギーとの関連も指摘されている。

  3. ×c.  腋窩

    誤り。腋窩は扁平苔癬の好発部位ではない。腋窩などの間擦部(皮膚どうしがこすれ合う部位)は、カンジダ症、逆乾癬、黒色表皮腫、Hailey-Hailey病などで確認すべき部位である。

  4. ×d.  背部

    誤り。体幹に皮疹が広がることもあるが、背部は扁平苔癬に特徴的な部位ではなく、診断上、優先して確認すべき部位ではない。

  5. ×e.  臍部

    誤り。臍部は扁平苔癬の好発部位ではない。臍部は疥癬(臍周囲・陰部の丘疹)や乾癬などで確認すべき部位として知られる。

扁平苔癬の概要

・中高年に多い、原因不明の慢性炎症性角化症である。表皮基底細胞を標的とするT細胞を介した免疫反応と考えられている。 ・誘因・関連: 薬剤(降圧薬、金製剤、抗結核薬など。この場合は扁平苔癬型〈苔癬型〉薬疹と呼ぶ)、C型肝炎ウイルス感染、歯科金属アレルギー、移植片対宿主病(GVHD)など。

臨床像

・好発部位: 前腕屈側、手背、下腿、足背、口腔粘膜、口唇(赤唇)、陰部(亀頭など)、爪。 ・皮疹: 境界明瞭で、多角形・扁平に隆起した紫紅色の光沢ある丘疹。融合して局面をつくる。強い瘙痒を伴う。表面にWickham線条を認める。 ・掻破などの物理的刺激が加わった部位に新たな皮疹が出る(Köbner現象)。 ・粘膜: 口腔では頬粘膜の白色網状病変、びらん。口唇・亀頭では白斑・紅斑・びらん。 ・爪: 縦溝、菲薄化、混濁、爪甲の消失、翼状片形成。 ・消退後に色素沈着を残しやすい。

病理組織

過角化、楔状の顆粒層肥厚、表皮突起の鋸歯状変化、基底細胞の液状変性、表皮真皮境界部の帯状リンパ球浸潤、Civatte小体(変性して好酸性に染まる表皮細胞)、真皮上層のメラニン失調(色素失調)。

治療

誘因(薬剤、金属)の除去、ステロイド外用(口腔には口腔用ステロイド)、タクロリムス外用、重症例ではステロイド内服、レチノイド内服、紫外線療法など。難治で慢性に経過することが多い。

Köbner現象がみられる主な疾患

乾癬、扁平苔癬、尋常性白斑、伝染性疣贅(自家接種)など。

POINT

・紫紅色で光沢のある扁平隆起性丘疹、強い瘙痒、Wickham線条→扁平苔癬。 ・病理: 基底細胞の液状変性+表皮直下の帯状リンパ球浸潤(interface dermatitis)。 ・皮膚病変をみたら口腔粘膜(頬粘膜の白色網状病変)を必ず確認する。 ・口腔扁平苔癬は扁平上皮癌の発生母地となりうる。C型肝炎、金属アレルギー、薬剤(苔癬型薬疹)との関連に注意する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。