「寝かせて治す」は通用しない―高齢者の大腿骨頸部骨折は早期手術と健側トレーニング
第101回医師国家試験 G問題 第47問
国試問題にチャレンジ
78歳の女性。自宅内の段差につまずいて転倒し,右大腿骨頸部骨折(内側骨折)を生じた。全身状態は良好である。 適切な処置はどれか。2つ選べ。
- a.自己導尿指導
- b.右下肢ギプス固定
- c.左下肢の運動療法
- d.早期の車椅子処方
- e.早期の人工骨頭置換術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高齢者の大腿骨頸部内側骨折は、骨頭への血流が途絶えやすいこと、関節包内のため仮骨形成が期待できないこと、剪断力がかかりやすいことから保存療法では骨癒合しにくく、偽関節や大腿骨頭壊死を来しやすいため、原則として手術を行います。転位のある型では人工骨頭置換術が基本で、術後早期から全荷重での歩行訓練が可能となり、早期離床によって廃用症候群や寝たきりを防げます。あわせて健側下肢の運動療法で筋力を保つことは、術後のリハビリを円滑にし深部静脈血栓症の予防にもつながる一方、ギプス固定による長期臥床や最初からの車椅子処方は活動性を下げるため適切ではありません。骨折を治すだけでなく、骨粗鬆症治療や転倒予防を含めて「再び歩ける生活」を目指すという考え方は、高齢者医療全般に通じる重要な視点です。
解答・解説
正解はc, eです
状況の整理
・78歳の女性が、自宅内の段差でつまずくという軽微な外力で転倒し、右大腿骨頸部骨折(内側骨折)を生じた。高齢女性で骨粗鬆症を背景とした脆弱性骨折の典型例である。 ・全身状態は良好であり、手術や早期リハビリテーションの妨げとなる重篤な合併症はない。
治療方針の考え方
大腿骨頸部骨折のうち内側骨折(関節包の内側で起こる骨折)は、次の理由で保存療法では骨癒合が得られにくい。 1)大腿骨頭を栄養する血管(主に内側大腿回旋動脈の枝)が頸部に沿って走行しており、骨折によって損傷されやすく、骨頭への血流が途絶えやすい。 2)関節包内にあるため骨膜性の仮骨形成が期待できず、関節液が骨折部に入り込んで治癒を妨げる。 3)骨折線に剪断力が加わりやすい。 このため偽関節や大腿骨頭壊死を起こしやすく、原則として手術療法を行う。 また高齢者は、長期臥床によって短期間のうちに廃用症候群(筋力低下、関節拘縮、褥瘡、深部静脈血栓症・肺塞栓症、肺炎、尿路感染症、認知機能低下など)に陥り、寝たきりとなる危険が高い。したがって、全身状態が許す限り早期に手術を行い、術後すぐに離床・荷重歩行訓練を進めること、そして手術を待つ間や術後にも健側(左下肢)や上肢の筋力を維持する訓練を行うことが重要である。 本問では、骨折のずれの程度(Garden分類)は示されていないが、高齢者の内側骨折で全身状態が良好であれば、術後早期から全荷重が可能な人工骨頭置換術が標準的な選択肢となる。
選択肢考察
- ×a. 自己導尿指導
自己導尿(清潔間欠自己導尿)は、神経因性膀胱などで自力で十分に排尿できない患者に対し、尿道カテーテルの長期留置による尿路感染などの弊害を避ける目的で指導するものである。本例は骨折のために一時的に動けないだけで、排尿機能そのものに障害はない。周術期に排尿介助が必要でも、尿器・便器の使用や一時的なカテーテル留置で対応でき、自己導尿を指導する必要はない。
- ×b. 右下肢ギプス固定
大腿骨頸部内側骨折は、骨頭への血流障害や関節包内骨折であることなどから、ギプス固定などの保存療法では骨癒合が得られにくく、偽関節や大腿骨頭壊死を来しやすい。さらに股関節部の骨折をギプスで確実に固定することは難しく、長期の安静臥床が必要となるため、高齢者では廃用症候群や寝たきりを招く。保存療法は、全身状態が悪く手術に耐えられない場合などに限られ、全身状態が良好な本例では適切でない。
- ○c. 左下肢の運動療法
高齢者は数日の安静でも健側の筋力が急速に低下する(廃用性筋萎縮)。健側である左下肢の筋力を保っておくことは、術後の起立・移乗・歩行訓練を円滑に進め、寝たきりを防ぐうえで不可欠である。また、健側下肢を動かすことは下肢の静脈還流を促し、深部静脈血栓症の予防にも役立つ。手術前から開始できる、適切な処置である。
- ×d. 早期の車椅子処方
全身状態が良好な本例では、人工骨頭置換術を行えば術翌日から全荷重での起立・歩行訓練を開始でき、歩行能力の再獲得を目指せる。術後の離床の過程で一時的に車椅子を用いることはあっても、はじめから車椅子を処方することは、歩行再獲得という目標を放棄し、活動性の低下を招くことにつながるため適切でない。車椅子の処方は、リハビリテーションを行っても歩行が困難な場合に検討するものである。
- ○e. 早期の人工骨頭置換術
高齢者の大腿骨頸部内側骨折、特に転位のある型(Garden分類のstage III・IV)では、骨接合術を行っても骨癒合不全や骨頭壊死の危険が高いため、骨頭を人工物に置き換える人工骨頭置換術が選択される。術後早期から全荷重が可能で、速やかな離床と歩行訓練が行えるため、廃用症候群の予防に有効である。手術はできるだけ早期(受傷後48時間以内が望ましいとされる)に行うことで、合併症の減少や死亡率の低下が期待できる。なお、転位のない型(stage I・II)では、骨接合術(スクリューやピンによる内固定)が選ばれることが多い。
大腿骨近位部骨折の分類
・大腿骨頸部骨折(旧称:内側骨折):関節包の内側で生じる。骨頭への血流が障害されやすく、骨癒合が得にくい。偽関節・大腿骨頭壊死を来しやすい。 ・大腿骨転子部骨折(旧称:外側骨折):関節包の外側で生じる。血流が豊富で骨癒合は得られやすいが、出血量が多い。治療は主に骨接合術(γネイルなどの髄内釘、CHS:compression hip screw)。 ※かつては頸部骨折を内側骨折・外側骨折に分けていたが、現在は「大腿骨頸部骨折」と「大腿骨転子部骨折」と呼び分けるのが一般的である。
Garden分類(頸部骨折の転位の程度)
・stage I:不完全骨折(外反嵌入型を含む) ・stage II:完全骨折で転位なし ・stage III:完全骨折で部分的な転位あり ・stage IV:完全骨折で高度の転位あり 治療は、非転位型(I・II)では骨接合術、転位型(III・IV)では高齢者なら人工骨頭置換術(または人工股関節全置換術)が基本である。
高齢者の大腿骨近位部骨折の特徴
・骨粗鬆症を背景に、立った高さからの転倒などの軽微な外力で起こる。 ・症状は股関節部痛と起立・歩行不能で、患肢は短縮・外旋位をとることが多い。嵌入型では歩行可能なこともあり、見逃しに注意する。 ・受傷後の長期臥床は、肺炎・褥瘡・深部静脈血栓症・尿路感染症・認知症の悪化などを招き、生命予後にも影響する。 ・早期手術・早期離床・早期リハビリテーションが原則であり、再骨折予防のための骨粗鬆症治療や転倒予防も重要である。
POINT
・高齢者の大腿骨頸部(内側)骨折は、血流障害と関節包内骨折のため保存療法では骨癒合しにくい → 原則手術。 ・転位型(Garden III・IV)は人工骨頭置換術、非転位型(Garden I・II)は骨接合術。 ・人工骨頭置換術は術後早期から全荷重が可能 → 早期離床で廃用症候群を防ぐ。 ・健側下肢・上肢の筋力訓練を早期から行う。 ・ギプス固定による長期臥床、はじめからの車椅子処方は寝たきりを招くため不適切。
