StudyMed医師国家試験

5日かけて忍び寄る片麻痺―「見えにくい血腫」を間接所見で見抜く慢性硬膜下血腫

第101回医師国家試験 G問題 第46問

国試問題にチャレンジ

第101回 G問題 第46問

75歳の男性。5日前から徐々に増悪する頭痛と左上下肢の脱力とを主訴に来院した。意識は清明。左上下肢の不全麻痺と左半身の感覚低下とを認める。頭部単純CTを示す。 最も考えられるのはどれか。

第101回 G問題 第46問の問題画像
  1. a.くも膜下出血
  2. b.急性硬膜外血腫
  3. c.慢性硬膜下血腫
  4. d.右中大脳動脈塞栓症
  5. e.右基底核部ラクナ梗塞

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者で数日かけて進む頭痛と片麻痺から、頭部CTで原因を突き止める問題だ。着眼点は3つ。「発症の仕方は突然か、ゆっくりか」「病変は脳の中か、外か」「CTでの形と濃度」。まずは症状の左右から考えてみよう。左の上下肢に麻痺と感覚低下があるね。
医学生医学生
運動路も感覚路も途中で交叉するので、責任病巣は右の大脳半球だと思います。
ドクタードクター
その通り。では経過はどうだろう。脳卒中と聞くと、どんな発症を思い浮かべる?
医学生医学生
脳梗塞もくも膜下出血も「突然」というイメージです。救急科の実習でも、発症時刻をまず確認するように言われました。
ドクタードクター
いい習慣だね。血管が詰まる、破れるといった脳血管障害は、多くが突然発症して最初から症状が強い。それに対して今回は5日かけて「徐々に」悪くなっている。これは、何かがゆっくり大きくなって脳を圧迫しているときの経過なんだ。
医学生医学生
腫瘍か、あるいはゆっくり溜まる出血、ということでしょうか。
ドクタードクター
いい推論だ。そこでCTを見てみよう。向かって左が患者の右側だよ。右側の頭蓋骨の内側に沿って、前頭部から後頭部まで脳表を広く覆う三日月状の病変がある。濃度は脳実質とほぼ同じ等吸収で、一部にやや高い部分が混じっている。
医学生医学生
正直、最初は脳と同じ色なので病変があることに気づきませんでした……。
ドクタードクター
そこがこの問題の一番の落とし穴なんだ。等吸収の血腫は、それ自体が目立たない。だから間接所見を探す。右側だけ脳溝が見えにくい、右の側脳室が押されて細くなっている、正中構造が左へずれている。左右を比べると、右側に何かが場所を取っているのがわかるよね。
医学生医学生
左右差を見るんですね。脳実質の外にあって三日月型で縫合線を越えている、ということは硬膜下血腫ですか。
ドクタードクター
正解。硬膜とくも膜の間は広い潜在腔なので、血液が脳表に沿って薄く広く広がり、三日月型になる。そして高齢男性、緩徐な進行、等吸収という濃度を合わせると、慢性硬膜下血腫が最も考えられる。ほかの選択肢も確認しよう。まず急性硬膜外血腫はどうかな。
医学生医学生
凸レンズ型の高吸収域で、意識清明期があるのが特徴だったと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。頭蓋骨骨折で中硬膜動脈が傷つき、骨と硬膜の間に血液がたまる。硬膜は縫合部で骨に強く付着しているから、血腫は縫合線を越えにくく凸レンズ型になる。経過も数時間単位で急激だ。外傷歴もなく、5日かけて進む今回とは合わないね。
医学生医学生
くも膜下出血はペンタゴンが有名ですよね。CBTの画像問題で何度も見ました。
ドクタードクター
そう、脳底槽の五角形の高吸収域や、シルビウス裂・脳溝に沿う高吸収域が典型だ。臨床的には突然のこれまでにない激しい頭痛で発症し、片麻痺は目立たないことが多い。今回は経過も画像も違う。では脳梗塞の2つは?
医学生医学生
右の中大脳動脈塞栓症なら左片麻痺で、左右は合っていますよね。
ドクタードクター
左右が合うのは鋭い指摘だ。ただ心原性塞栓は突然発症で、最初から症状が強いことが多い。CTでは時間とともに中大脳動脈の灌流域に一致した脳実質内の低吸収域が出てくる。ラクナ梗塞は穿通枝が詰まる15mm未満の小さな梗塞で、頭痛はまれだし、正中偏位を起こすほどの占拠性効果は普通ない。どちらも「脳の中」の病変で、今回の「脳の外」の病変とは場所が違うんだ。
医学生医学生
部位、形、濃度、発症様式の4つで整理すると、迷わずに済みますね。
ドクタードクター
その通り。発展知識も押さえておこう。慢性硬膜下血腫は軽い頭部外傷の数週から数か月後に発症することが多く、本人が外傷を覚えていないことも珍しくない。脳萎縮で架橋静脈が引き伸ばされている高齢者、飲酒の多い人、抗凝固薬や抗血小板薬を飲んでいる人に多い。血腫の周りにできる被膜から出血を繰り返して、少しずつ大きくなるんだ。
医学生医学生
精神科の講義で、慢性硬膜下血腫は「治る認知症」の一つだと習いました。
ドクタードクター
大事なポイントだね。頭痛や片麻痺だけでなく、物忘れ、意欲低下、歩行障害、尿失禁で受診することもあり、認知症と誤られやすい。治療は局所麻酔下の穿頭血腫洗浄・ドレナージ術が標準で、劇的に良くなることが多い。再発は1割前後あるから術後の経過観察も必要だ。それから、両側性の等吸収血腫は正中偏位が目立たないので特に見落としやすい。迷ったらMRIも有用だよ。
医学生医学生
高齢者が「なんとなく最近おかしい」と来たら、転倒歴や内服薬を確認して、CTの左右差を丁寧に見る、ということですね。
ドクタードクター
まさにそれ。「脳と同じ色だから異常なし」と思い込まないことが、臨床での一番の注意点だ。

まとめ

高齢者で数日〜数週かけて徐々に進む頭痛や片麻痺は、突然発症する脳血管障害ではなく、ゆっくり増大する占拠性病変を考える手がかりになります。慢性硬膜下血腫はCTで頭蓋骨内板に沿う三日月型の脳実質外病変として描出され、濃度は低・等・高・混合とさまざまで、等吸収の場合は脳溝の消失、側脳室の圧排、正中偏位といった間接所見で見抜くことが重要です。急性硬膜外血腫は縫合線を越えない凸レンズ型、くも膜下出血は脳槽・脳溝に沿う高吸収域、脳梗塞は脳実質内の低吸収域と、部位・形・濃度・発症様式で鑑別できます。軽微な外傷の数週後に起こり、認知機能低下で受診することもある「治る認知症」の代表で、穿頭血腫洗浄・ドレナージ術で改善が期待できるため、見逃さないことが臨床的に大きな意味を持ちます。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・75歳の高齢男性 ・5日前から「徐々に」増悪する頭痛と左上下肢の脱力(亜急性~緩徐な経過) ・意識清明 ・左上下肢の不全麻痺と左半身の感覚低下 → 運動路・感覚路はいずれも延髄で交叉するため、右大脳半球の病変が示唆される

頭部単純CTの読影

画像の向きは、向かって左が患者の右である。患者の右側では、頭蓋骨の内側に沿って前頭部から頭頂・後頭部まで、脳表を広く覆う三日月状の病変がみられる。濃度は脳実質とほぼ同じ(等吸収域)で、一部はやや高い部分が混じる。右側の脳溝は見えにくくなり、右側脳室は圧排されて細くなり、正中構造は左側へ偏位している(mass effect:占拠性効果)。一方で、脳実質内に明らかな出血や梗塞を示す低吸収域はなく、脳溝や脳底槽に沿った高吸収域もない。

診断へのプロセス

病変は脳実質の外(頭蓋骨と脳表の間)にあり、縫合線を越えて大脳半球の表面に沿って広がる三日月型である。この形は、硬膜とくも膜の間の広い潜在腔に血液がたまる硬膜下血腫の特徴である。さらに、数日かけて緩徐に進行する頭痛・片麻痺という経過と、高齢男性という背景は、慢性硬膜下血腫に典型的である。等吸収域の血腫は脳実質との区別がつきにくいが、脳溝の消失、脳室の圧排、正中偏位といった間接所見を手がかりに見つけ出すことが大切である。 以上から、右慢性硬膜下血腫による左片麻痺・感覚障害と頭蓋内圧亢進(頭痛)と考えられる。

設問の考え方

選択肢の病態は、病変の部位(脳実質外か脳実質内か)、CTでの形・濃度、発症様式(突然か緩徐か)で鑑別できる。脳実質外にあり、三日月型で、緩徐な経過をたどるものを選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  くも膜下出血

    くも膜下出血は、多くが脳動脈瘤の破裂によって、くも膜下腔(脳の表面と脳槽)に血液が流れ込む病態である。典型例では「突然の、これまで経験したことのない激しい頭痛」で発症し、片麻痺などの局所症状は乏しいことが多い。CTでは脳底槽(鞍上槽)に五角形(ペンタゴン)状、あるいはシルビウス裂や脳溝に沿って広がる高吸収域がみられる。本例は5日間かけて徐々に悪化する経過であり、CTでも脳槽・脳溝の高吸収域はなく、脳表を覆う三日月状の病変であるため合致しない。

  2. ×b.  急性硬膜外血腫

    急性硬膜外血腫は、頭部外傷に伴う頭蓋骨骨折で主に中硬膜動脈が損傷され、頭蓋骨と硬膜の間に血液がたまる病態である。硬膜は頭蓋縫合部で骨に強く付着しているため、血腫は縫合線を越えにくく、CTでは両凸レンズ型(凸レンズ型)の高吸収域となる。受傷直後に一時的に意識が回復する「意識清明期(lucid interval)」を経て、数時間のうちに急速に悪化するのが典型的である。本例には外傷のエピソードがなく、経過は5日と緩徐で、病変は縫合線を越えて広がる三日月型の等吸収域であるため否定的である。

  3. ○c.  慢性硬膜下血腫

    高齢男性で、数日にわたり徐々に進行する頭痛と片側の運動・感覚障害がみられ、CTで症状と反対側(右)の大脳半球表面を覆う三日月状の脳実質外病変と、脳溝消失・側脳室の圧排・正中偏位を認めることから、最も考えられる。慢性硬膜下血腫は、軽微な頭部外傷の数週~数か月後(おおむね3週間以降)に発症することが多く、外傷自体を本人が覚えていないことも少なくない。CTの濃度は、血腫の時期や再出血の有無によって低吸収・等吸収・高吸収・混合吸収とさまざまであり、本例のような等吸収域の血腫は見落とされやすい。形は三日月型が多いが、厚くなると凸レンズ型に近くなることもある。

  4. ×d.  右中大脳動脈塞栓症

    心房細動などで心臓内にできた血栓が流れて中大脳動脈を閉塞する心原性脳塞栓症では、反対側の片麻痺・感覚障害(右病変なら左側)を生じるため、症状の左右は本例と矛盾しない。しかし発症様式は突然で、症状は発症時に最も強いことが多い。CTでは、発症早期には変化が乏しい(early CT signとして皮髄境界の不明瞭化などがみられる)が、時間の経過とともに中大脳動脈の灌流域に一致した脳実質内の低吸収域が出現する。本例は緩徐進行性であり、病変も脳実質外にあるため合致しない。

  5. ×e.  右基底核部ラクナ梗塞

    ラクナ梗塞は、高血圧などによる動脈硬化で、基底核や内包などを栄養する細い穿通枝が閉塞して生じる、直径15mm未満の小さな梗塞である。純粋運動性片麻痺や純粋感覚性脳卒中などを呈し、頭痛や意識障害はまれである。CTでは基底核などの脳深部に小さな低吸収域がみられ、占拠性効果(正中偏位や脳室の圧排)はほとんど生じない。本例は頭痛を伴い、脳実質外に正中偏位を来す病変があるため合致しない。

慢性硬膜下血腫の概要

・硬膜とくも膜の間(硬膜下腔)に、被膜に包まれた血腫が徐々に貯留する病態である。 ・高齢者、男性、アルコール多飲者、抗凝固薬・抗血小板薬の服用者、脳萎縮のある人、透析患者などに多い。脳萎縮があると脳表と硬膜の間の架橋静脈が引き伸ばされ、軽微な外傷でも破綻しやすい。 ・発症機序:軽い頭部外傷を契機に硬膜下に少量の出血や液体貯留が生じ、その周囲に新生血管に富む被膜が形成される。被膜からの反復する微小出血や、線溶系の亢進による血液の液状化によって、数週~数か月かけて血腫が増大する。 ・症状:頭痛、片麻痺、歩行障害、認知機能低下・意欲低下(認知症と誤られやすい)、尿失禁など。症状は緩徐に進行する。

CT所見

・頭蓋骨内板に沿った三日月型の脳実質外病変で、縫合線を越えて広がる。 ・濃度は低吸収・等吸収・高吸収・混合(鏡面形成を含む)とさまざまである。 ・等吸収域の場合は、脳溝の消失、脳室の圧排・変形、正中偏位、脳表と骨の間の皮質の内方偏位などの間接所見が診断の手がかりとなる。両側性の等吸収血腫では正中偏位が目立たず、特に見落としやすい。MRIも診断に有用である。

治療

・症状があり血腫が厚い場合は、局所麻酔下での穿頭血腫洗浄・ドレナージ術が標準的で、多くは劇的に症状が改善する。 ・無症候性で小さな血腫は経過観察とし、五苓散などの漢方薬が用いられることもある。 ・再発率はおよそ1割前後とされる。

頭蓋内出血のCT像の比較

・急性硬膜外血腫:凸レンズ型の高吸収域、縫合線を越えない、意識清明期 ・急性硬膜下血腫:三日月型の高吸収域、縫合線を越える、強い外傷・脳挫傷を伴い予後不良が多い ・慢性硬膜下血腫:三日月型、濃度はさまざま(低~等~高・混合)、高齢者で緩徐進行 ・くも膜下出血:脳底槽の五角形(ペンタゴン)状高吸収域、脳溝・シルビウス裂に沿う高吸収域

POINT

・高齢者で数日~数週かけて進行する頭痛・片麻痺・認知機能低下 → 慢性硬膜下血腫を疑う。 ・CTでは頭蓋骨内板に沿う三日月型の脳実質外病変。濃度は低・等・高・混合とさまざま。 ・等吸収域の血腫は、脳溝消失・脳室圧排・正中偏位などの間接所見で見抜く。 ・硬膜外血腫は凸レンズ型、硬膜下血腫は三日月型、くも膜下出血は脳槽・脳溝に沿う高吸収域。 ・治療は穿頭血腫洗浄・ドレナージ術で、治る認知症(treatable dementia)の一つとして重要。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。