むくんだ胎児が教えること―胎児水腫は「心不全」と「原因探し」で読み解く
第101回医師国家試験 F問題 第5問
国試問題にチャレンジ
胎児水腫について正しいのはどれか。
- a.児の予後は良好である。
- b.児の腎機能低下で起こる。
- c.出生前診断は困難である。
- d.ウイルス感染が原因となる。
- e.染色体異常とは無関係である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胎児水腫は皮下浮腫・胸水・心嚢液・腹水のうち2か所以上に液体貯留を認める状態で、現在は大部分がRh不適合以外による非免疫性です。原因は心疾患、染色体異常(Turner症候群や21・18トリソミー)、胎児貧血、感染症など多彩で、ウイルスではパルボウイルスB19が代表的であり、赤芽球の産生抑制による重い貧血から高拍出性心不全を経て水腫に至ります。中心的な機序は胎児の心不全であり、胎児の腎機能低下はむしろ羊水過少をきたす点に注意が必要です。超音波で出生前診断が可能で、予後は一般に不良ですが、MCA-PSVで胎児貧血を見抜き胎児輸血につなげれば救命できる例もあります。定義・機序・原因を結びつけて理解しておくことが、周産期医療で原因検索と治療方針を考える土台になります。
解答・解説
正解はdです
胎児水腫(hydrops fetalis)とは、胎児の体内で水分の異常な貯留が起こった状態であり、一般に「皮下浮腫、胸水、心嚢液(心膜液)、腹水のうち2か所以上に液体貯留を認めるもの」と定義される。胎盤の肥厚や羊水過多を伴うことも多い。 本問は、胎児水腫の成り立ち(原因と機序)、診断法、予後という基本的な事項を問う一般問題である。考え方の軸は次の3点である。 1. 原因は非常に多岐にわたる。母児間の血液型不適合(主にRh(D)不適合)による免疫性胎児水腫と、それ以外のあらゆる原因による非免疫性胎児水腫(NIHF: non-immune hydrops fetalis)に大別される。抗D免疫グロブリンによる感作予防が普及した現在では、胎児水腫の約9割が非免疫性である。非免疫性の原因には心血管異常、染色体異常、胎児貧血(パルボウイルスB19感染、α-サラセミアなど)、感染症、双胎間輸血症候群、胸郭内占拠性病変などが含まれる。 2. 共通の病態は「心不全・静脈圧上昇」「膠質浸透圧の低下」「リンパ還流障害」「毛細血管透過性の亢進」のいずれかであり、特に胎児の心機能低下(高拍出性を含む心不全)が中心的な役割を果たす。 3. 診断は超音波検査で比較的容易に行え、診断後は原因検索(胎児心エコー、中大脳動脈血流速度、染色体検査、母体の感染症・抗体検査など)を進める。 これらを踏まえると、ウイルス感染(代表はヒトパルボウイルスB19)が原因となることを述べた選択肢が正しい。
選択肢考察
- ×a. 児の予後は良好である。
誤り。胎児水腫は胎児の全身状態が破綻しかけていることを示す所見であり、予後は一般に不良である。非免疫性胎児水腫の周産期死亡率はおおむね50%以上と報告され、染色体異常や重い心奇形が原因の場合は特に厳しい。一方、パルボウイルスB19感染による胎児貧血や血液型不適合のように、胎児輸血などの治療が可能な原因では救命できる例もある。予後は原因と発症週数に大きく左右されるが、「良好」とはいえない。
- ×b. 児の腎機能低下で起こる。
誤り。胎児水腫の中心的な機序は胎児の心機能低下(心不全)による中心静脈圧の上昇であり、ほかに低蛋白血症による膠質浸透圧低下、リンパ還流障害、毛細血管透過性亢進などが関与する。胎児の腎機能が低下すると胎児尿の産生が減るため、むしろ羊水過少となり、重症ではPotter sequence(肺低形成・特有顔貌・四肢変形)を生じる。なお、先天性ネフローゼ症候群のように尿中への蛋白喪失で低蛋白血症をきたす腎疾患がまれに水腫の原因となることはあるが、「腎機能低下」が胎児水腫の一般的な成因というわけではない。
- ×c. 出生前診断は困難である。
誤り。胎児水腫は超音波検査で皮下浮腫(頭皮や体幹の皮下組織の肥厚)、胸水、心嚢液、腹水を直接描出できるため、出生前診断は比較的容易である。さらに超音波ドプラ法で胎児中大脳動脈収縮期最高血流速度(MCA-PSV)を測定すると胎児貧血を非侵襲的に推定でき、原因検索にも役立つ。
- ○d. ウイルス感染が原因となる。
正解。代表的なのはヒトパルボウイルスB19(伝染性紅斑の原因ウイルス)である。このウイルスは赤血球系前駆細胞表面のP抗原を受容体として感染し、赤芽球の産生を抑える。胎児は赤血球寿命が短く造血の需要が大きいため重い貧血に陥り、高拍出性心不全を経て水腫を生じる。ウイルスが心筋炎を起こすことも心機能低下に加わる。ほかにサイトメガロウイルスなどのウイルス、さらにトキソプラズマや梅毒トレポネーマといった病原体の子宮内感染も原因となりうる。
- ×e. 染色体異常とは無関係である。
誤り。染色体異常は非免疫性胎児水腫の主要な原因の一つである。特に妊娠前半に発見される水腫ではTurner症候群(45,X)が多く、頸部のリンパ管の発生異常による嚢胞性ヒグローマ(cystic hygroma)を伴いやすい。Down症候群(21トリソミー)や18トリソミーでも水腫が起こる。妊娠11〜13週ごろの胎児後頸部浮腫(NT: nuchal translucency)の肥厚(おおむね3mm以上)は染色体異常の可能性を高める所見であり、確定には羊水検査や絨毛検査による染色体分析が必要となる。
定義
胎児の2つ以上の体腔・組織(皮下、胸腔、心嚢、腹腔)に液体貯留を認める状態。胎盤肥厚、羊水過多を伴うことが多い。
分類と主な原因
・免疫性胎児水腫:Rh(D)不適合などの血液型不適合妊娠。母体のIgG抗体が胎盤を通過して胎児赤血球を破壊し、溶血性貧血から心不全に至る。 ・非免疫性胎児水腫(現在の大部分) 心血管系:構造的心疾患、頻脈性・徐脈性不整脈(上室頻拍、先天性完全房室ブロックなど) 染色体異常:Turner症候群、21トリソミー、18トリソミーなど 胎児貧血:パルボウイルスB19感染、α-サラセミア(東南アジアに多いHb Bart's胎児水腫)、胎児-母体間出血 感染症:パルボウイルスB19、サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、梅毒など 双胎:双胎間輸血症候群(TTTS)の受血児など 胸郭内病変:先天性嚢胞性腺腫様奇形(CCAM、現在はCPAMとも呼ぶ)、横隔膜ヘルニア、乳び胸など そのほか:リンパ管異常、先天代謝異常、胎盤・臍帯の異常、原因不明(特発性)
機序
心不全による静脈圧上昇、低蛋白血症による膠質浸透圧低下、リンパ還流障害、低酸素などによる毛細血管透過性亢進。
パルボウイルスB19と胎児
母体が初感染すると経胎盤感染し、特に妊娠20週ごろまでの感染で胎児水腫のリスクが高い。母体は無症状のことも多い。胎児貧血はMCA-PSVの上昇(1.5 MoM以上)で推定し、臍帯静脈からの胎児輸血で治療できる。
母体への影響
胎児水腫に伴って母体に浮腫、高血圧、蛋白尿など妊娠高血圧腎症に似た症状が出ることがあり、ミラー症候群(mirror syndrome)と呼ばれる。
POINT
・胎児水腫=皮下浮腫・胸水・心嚢液・腹水のうち2か所以上の液体貯留。 ・免疫性(Rh不適合)と非免疫性に分かれ、現在は非免疫性が大部分。 ・原因:心疾患、染色体異常(Turner症候群、21・18トリソミー)、胎児貧血、ウイルス感染(パルボウイルスB19が代表)など。 ・中心的な機序は胎児の心不全。胎児の腎機能低下は羊水過少をきたす。 ・超音波検査で出生前診断が可能。予後は一般に不良だが、貧血が原因なら胎児輸血で改善しうる。
