StudyMed医師国家試験

剝がれない胎盤はなぜ起こる?―「脱落膜の欠損」から読み解く癒着胎盤の危険因子

第101回医師国家試験 F問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第4問

癒着胎盤の危険因子とならないのはどれか。

  1. a.子宮奇形
  2. b.前置胎盤
  3. c.子宮内膜症
  4. d.帝王切開術の既往
  5. e.子宮内容除去術の既往

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は癒着胎盤の危険因子を問う問題だ。危険因子を丸暗記するより、癒着胎盤がどういう仕組みで起こるかを押さえれば、どれが当てはまらないかは自然に見えてくる。まずは正常な胎盤がどうやって剝がれるかから考えよう。
医学生医学生
分娩後、胎盤は子宮の壁から自然に剝がれて出てきますよね。どこで剝がれているのかは意識したことがありませんでした。
ドクタードクター
妊娠すると、着床部の子宮内膜は脱落膜という組織に変化する。胎盤の絨毛と子宮筋層のあいだにはこの脱落膜が挟まっていて、分娩後は脱落膜の海綿層で胎盤が剝がれるんだ。いわばクッション兼切り取り線だね。
医学生医学生
では、その脱落膜がうまくできないと、絨毛が筋層に直接くっついてしまうということですか。
ドクタードクター
その通り。基底脱落膜が欠損したり形成不全だったりすると、絨毛が筋層に直接付着・侵入して、胎盤が剝がれにくくなる。これが癒着胎盤だ。筋層に接するだけの楔入胎盤、筋層内に入り込む嵌入胎盤、筋層を貫いて漿膜や膀胱などに達する穿通胎盤に分けられ、近年はまとめてplacenta accreta spectrumと呼ぶよ。
医学生医学生
病理学の講義で、placenta accreta、increta、percretaと深さで分けると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。つまり危険因子の本質は「脱落膜がうまく作られない子宮内膜や子宮壁」なんだ。では、最も重要な危険因子は何だと思う?
医学生医学生
帝王切開の既往でしょうか。切開した部分は瘢痕になっていそうです。
ドクタードクター
正解。帝王切開の創は瘢痕となり、そこでは内膜や脱落膜が欠損し、筋層も薄くなっている。そこに胎盤が付着すると、絨毛が筋層に直接入り込み、ときに膀胱まで達する穿通胎盤になる。既往の回数が多いほどリスクは上がるんだ。
医学生医学生
子宮内容除去術も、内膜を掻き取るので同じように傷が残りそうですね。
ドクタードクター
そうだね。人工妊娠中絶や流産の処置で行う掻爬では、内膜の基底層が傷ついて瘢痕や子宮腔内の癒着、いわゆるAsherman症候群を生じることがある。基底層が損傷された部位では次の妊娠で脱落膜が十分にできず、癒着胎盤が起こりやすい。だからこれも危険因子だ。
医学生医学生
前置胎盤はどうでしょう。胎盤の位置の問題なので、癒着とは別の話に思えてしまいます。
ドクタードクター
そこは迷いやすいところだね。前置胎盤では胎盤が子宮下部に付着している。子宮下部は体部に比べて内膜・脱落膜の形成が乏しく、筋層も薄いから、絨毛が筋層に入り込みやすいんだ。しかも帝王切開は通常子宮下部を横切開するから、前回の創の上に前置胎盤ができるとリスクは大きく跳ね上がる。帝王切開既往と前置胎盤の組み合わせは、特に警戒すべき状況だよ。
医学生医学生
子宮奇形はどうですか。形の問題で、内膜そのものは正常な気もします。
ドクタードクター
たとえば中隔子宮の中隔部分は内膜が乏しく血流も不十分だから、そこに着床すると脱落膜がうまく作られず癒着しやすい。子宮形成術を受けていれば手術瘢痕も加わる。だから子宮奇形も危険因子になるんだ。
医学生医学生
残る子宮内膜症は、「子宮内膜」という名前が付いているので、内膜に問題がありそうで紛らわしいです。
ドクタードクター
名前に惑わされやすいところだね。子宮内膜症は、内膜に似た組織が卵巣やダグラス窩、骨盤腹膜など子宮の外に発生する病気だ。胎盤が付着する子宮内腔の内膜や筋層に瘢痕を作るわけではないから、癒着胎盤の危険因子とはならない。これが今回の正解だよ。
医学生医学生
婦人科の実習でチョコレート嚢胞の手術を見学しましたが、確かに病変は卵巣でした。では、子宮腺筋症はどうなりますか。
ドクタードクター
いい質問だ。子宮腺筋症は内膜類似組織が子宮筋層の中にある病態で、子宮壁そのものの病変だから、癒着胎盤のリスクとされている。内膜症と腺筋症をしっかり区別しておこう。ほかにも粘膜下筋腫、胎盤用手剝離や子宮内膜炎の既往、高年妊娠、体外受精による妊娠なども危険因子に挙げられるよ。
医学生医学生
「子宮の内側に傷や弱い部分があるか」で考えれば、整理しやすいですね。
ドクタードクター
その通り。臨床で大事なのは、癒着胎盤を無理に剝がそうとすると大量出血からショックやDICに至りうることだ。妊娠中は超音波で胎盤後方の低エコー域の消失や胎盤内の不整な血管腔、膀胱との境界の不整などを、MRIも併せて評価する。強く疑われる場合は、輸血準備や泌尿器科との連携を整えた高次施設で帝王切開を行い、胎盤を剝がさずに子宮摘出を行うのが基本だ。症例によっては胎盤を残して経過をみる保存的管理が選ばれることもある。
医学生医学生
帝王切開の既往がある妊婦さんで前置胎盤を見つけたら、癒着胎盤を必ず念頭に置く、ということですね。
ドクタードクター
そう。事前に疑えるかどうかが、母体の命を守るカギになるんだ。

まとめ

癒着胎盤は、基底脱落膜の欠損や形成不全によって絨毛が子宮筋層に直接付着・侵入し、胎盤が剝がれにくくなった状態で、侵入の深さにより楔入・嵌入・穿通胎盤に分けられます。危険因子の本質は子宮内膜・筋層の損傷や瘢痕、内膜の乏しい部位への着床であり、帝王切開既往、子宮内容除去術既往、前置胎盤、子宮奇形などが該当し、特に帝王切開既往と前置胎盤の合併は高リスクです。子宮内膜症は子宮外の病変で危険因子とはならず、子宮筋層内の病変である子宮腺筋症と区別することが重要です。癒着胎盤は無理な剝離で大量出血やDICをきたしうるため、画像による術前診断と高次施設での計画的な管理が欠かせません。発生の仕組みから危険因子を理解することは、産科出血に備える臨床判断の基礎になります。

解答・解説

正解はcです

【テーマ】癒着胎盤の成り立ちと危険因子 正常の妊娠では、着床部の子宮内膜が脱落膜に変化し、絨毛(胎盤側の組織)と子宮筋層の間に脱落膜の層が介在する。分娩後はこの脱落膜の海綿層で胎盤が剝がれるため、胎盤は自然に娩出される。 癒着胎盤とは、この脱落膜(特に基底脱落膜)が欠損あるいは形成不全であるために、絨毛が子宮筋層に直接付着・侵入し、胎盤の一部または全部が子宮壁から剝がれにくくなった状態である。侵入の深さにより、筋層に接するだけの楔入胎盤(placenta accreta)、筋層内へ侵入する嵌入胎盤(placenta increta)、筋層を貫いて漿膜や周囲臓器に達する穿通胎盤(placenta percreta)に分けられる。近年はこれらを総称して placenta accreta spectrum(PAS)と呼ぶ。 したがって危険因子の本質は「脱落膜がうまく形成されない子宮内膜・子宮壁」である。具体的には、 ・子宮内膜・筋層に瘢痕や損傷がある:帝王切開や筋腫核出術などの子宮手術の既往、子宮内容除去術(掻爬)の既往、子宮内膜炎の既往など。 ・もともと内膜が薄い、あるいは脱落膜化が不良な部位への着床:前置胎盤(子宮下部)、子宮奇形(中隔など)、粘膜下筋腫など。 が挙げられる。問われているのは危険因子とならないもの、すなわち子宮内腔の内膜・筋層に直接影響しない病態である。

選択肢考察

  1. ×a.  子宮奇形

    危険因子となる。中隔子宮の中隔部分は内膜が乏しく血流も不十分であるため、そこへ着床すると脱落膜形成が不良となり癒着が起こりやすい。また子宮奇形では正常位置への着床が妨げられやすく、さらに子宮形成術(中隔切除術やStrassmann手術など)を受けていれば手術瘢痕も加わる。これらの理由から子宮奇形は癒着胎盤のリスクを高める。

  2. ×b.  前置胎盤

    危険因子となる。前置胎盤は胎盤が子宮下部(峡部)に付着し内子宮口を覆う状態である。子宮下部は体部に比べて内膜・脱落膜の形成が乏しく、筋層も薄いため、絨毛が筋層へ直接付着・侵入しやすい。特に帝王切開の既往があり、前回の切開創(通常は子宮下部横切開)の上に前置胎盤が生じた場合は癒着胎盤の頻度が大きく上昇し、帝王切開の回数が増えるほどそのリスクは高くなる。

  3. ○c.  子宮内膜症

    子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が子宮内腔以外の場所(卵巣、ダグラス窩、骨盤腹膜など)に発生・増殖する疾患である。病変は子宮外にあり、胎盤が付着する子宮内腔の内膜や筋層に瘢痕を作るわけではないため、癒着胎盤の危険因子とはならない。一方、子宮内膜組織が子宮筋層内に存在する子宮腺筋症は、子宮壁そのものの病変であり癒着胎盤のリスクとされるため、両者を混同しないよう注意する。

  4. ×d.  帝王切開術の既往

    危険因子となり、最も重要な危険因子の一つである。帝王切開の切開創は瘢痕となり、その部位では内膜・脱落膜が欠損したり、筋層が薄くなったりしている。そこへ胎盤が付着すると、絨毛が直接筋層へ入り込み、ときに漿膜を越えて膀胱などへ達する穿通胎盤となる。帝王切開の既往回数が多いほどリスクは増大し、前置胎盤を合併するとさらに高くなる。

  5. ×e.  子宮内容除去術の既往

    危険因子となる。人工妊娠中絶や流産の処置として行う子宮内容除去術(掻爬)では、内膜の基底層が損傷され、瘢痕や癒着(Asherman症候群など)を生じることがある。基底層が傷ついた部位では次回妊娠時に脱落膜が十分形成されず、癒着胎盤が起こりやすい。同様に、胎盤用手剝離の既往、子宮内膜炎の既往、粘膜下筋腫の核出術後なども内膜・筋層の損傷を介してリスクとなる。

癒着胎盤の危険因子のまとめ

・子宮手術の既往:帝王切開(最重要)、子宮筋腫核出術、子宮形成術など。 ・子宮内操作・炎症の既往:子宮内容除去術、胎盤用手剝離、子宮内膜炎、Asherman症候群。 ・着床部位・子宮の性状:前置胎盤、子宮奇形、粘膜下筋腫、子宮腺筋症。 ・その他:高年妊娠、経産回数が多いこと、生殖補助医療(体外受精)による妊娠など。 ・特に「帝王切開既往+前置胎盤」の組み合わせは高リスクであり、既往帝王切開の回数とともに癒着胎盤の頻度は段階的に上昇する。

診断

・妊娠中は超音波検査(胎盤後方の低エコー域の消失、胎盤内の多数の不整な血管腔〔placental lacunae〕、膀胱壁との境界の不整、カラードプラでの豊富な血流など)やMRIで疑う。 ・確定は分娩時に胎盤が剝離しないこと、あるいは摘出子宮の病理診断による。

臨床的な問題と対応

・無理に胎盤を剝がそうとすると大量出血をきたし、出血性ショックや播種性血管内凝固(DIC)に至りうる。 ・術前に癒着胎盤が強く疑われる場合は、輸血の準備、泌尿器科など関連科との連携、高次施設での管理のうえで帝王切開を行い、胎盤を剝離せずそのまま子宮摘出術(帝王切開子宮全摘術)を行うのが基本である。症例によっては胎盤を子宮内に残して経過をみる保存的管理が選択されることもある。

子宮内膜症と子宮腺筋症の違い

・子宮内膜症:子宮内膜類似組織が子宮外(卵巣=チョコレート嚢胞、骨盤腹膜など)に存在。 ・子宮腺筋症:子宮内膜類似組織が子宮筋層内に存在し、子宮がびまん性に腫大する。 ・子宮壁そのものの病変である子宮腺筋症は癒着胎盤のリスクとなるが、子宮内膜症は通常危険因子に含めない。

POINT

・癒着胎盤は脱落膜(基底脱落膜)の欠損・形成不全により絨毛が子宮筋層に直接付着・侵入した状態。 ・危険因子の本質は「子宮内膜・筋層の損傷や瘢痕、内膜の乏しい部位への着床」。 ・最重要の危険因子は帝王切開既往と前置胎盤(両者の合併で特に高リスク)。 ・子宮内容除去術・子宮手術の既往、子宮奇形、粘膜下筋腫、子宮腺筋症もリスク。 ・子宮内膜症は子宮外の病変であり危険因子とはならない(子宮腺筋症との区別に注意)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。