赤ちゃんのお尻のしこりは「待てば治る」?―乳児の肛門周囲膿瘍を成人と比べて理解する
第101回医師国家試験 F問題 第32問
国試問題にチャレンジ
小児の肛門周囲膿瘍について正しいのはどれか。
- a.結核性が多い。
- b.乳児期に好発する。
- c.自然治癒はまれである。
- d.真菌感染が原因である。
- e.おむつかぶれから発生する。
対話形式の解説
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医学生まとめ
小児の肛門周囲膿瘍は、肛門陰窩・肛門腺に大腸菌などの腸内細菌が感染して起こる陰窩腺感染で、1歳未満、とくに生後数か月の男児に好発します。結核菌や真菌が原因ではなく、おむつかぶれのような皮膚表面の炎症から生じるものでもありません。自潰すると乳児痔瘻となり再発を繰り返すこともありますが、成長とともに陰窩が浅くなり、多くは1〜2歳頃までに自然治癒するため、切開排膿・座浴・漢方薬などの保存的治療が基本です。手術が原則となる成人の痔瘻との違いを押さえ、女児例や難治・多発例ではCrohn病や免疫不全症などの基礎疾患を疑う視点を持つことが、適切な診療と保護者への説明につながります。
解答・解説
正解はbです
小児、特に乳児の肛門周囲膿瘍は、成人の痔瘻・肛門周囲膿瘍とは異なる特徴をもつ独立した病態として理解しておく必要がある。
病態の要点
肛門管の歯状線には肛門陰窩(crypt)と呼ばれる小さなくぼみが並び、その奥に肛門腺が開口している。乳児ではこの陰窩が深く、そこへ腸内細菌(大腸菌などのグラム陰性桿菌や嫌気性菌、ブドウ球菌など)が入り込んで感染が起こり、肛門周囲の皮下に膿瘍を形成する。これを「陰窩腺感染(cryptoglandular infection)」と呼ぶ。膿瘍が皮膚側へ自潰すると、肛門陰窩(一次口)と皮膚の開口部(二次口)を結ぶ瘻管ができ、乳児痔瘻となる。
疫学
生後1歳未満、とりわけ生後数か月の乳児に好発し、男児に圧倒的に多い(9割以上とされる)。男児に多い理由として、胎生期〜新生児期の母体由来・自己のアンドロゲンの影響で肛門陰窩が深くなりやすいことが推測されている。部位は肛門の側方(3時・9時方向)に多い。
経過と治療
膿瘍は切開排膿や自潰によって軽快するが、再発を繰り返すことがある。しかし成長とともに陰窩が浅くなり、多くは1〜2歳頃までに自然治癒する。このため乳児では原則として保存的治療(切開排膿、清潔保持、座浴、漢方薬として排膿散及湯・十全大補湯など)が選ばれ、成人のような根治手術(瘻管切開・切除)は、2歳を過ぎても治らない例や難治例に限られる。 以上から、「乳児期に好発する」が正しい記述となる。
選択肢考察
- ×a. 結核性が多い。
起炎菌は大腸菌をはじめとする腸内細菌が主体であり、結核菌によるものはまれである。結核性の痔瘻は成人の肺結核や腸結核に合併することがあるが、乳児の肛門周囲膿瘍の原因として考慮すべきものではない。
- ○b. 乳児期に好発する。
小児の肛門周囲膿瘍は1歳未満、特に生後数か月の乳児に集中して発症し、そのほとんどが男児である。乳児期は肛門陰窩が深く細菌が侵入しやすいことが背景にあると考えられている。幼児期以降の小児では発症頻度が大きく下がる。
- ×c. 自然治癒はまれである。
乳児の肛門周囲膿瘍・乳児痔瘻は、切開排膿や自潰後に再発を繰り返すことはあっても、成長に伴い1〜2歳頃までに自然に治癒することが多い。そのため治療は保存的治療が基本であり、自然治癒がまれとする記述は誤りである。成人の痔瘻は自然治癒しにくく手術が必要となる点と対比して覚えるとよい。
- ×d. 真菌感染が原因である。
原因は肛門陰窩から侵入する細菌の感染であり、大腸菌などの腸内細菌が主な起炎菌である。真菌(カンジダなど)はおむつ皮膚炎(カンジダ性皮膚炎)の原因にはなるが、肛門周囲膿瘍の原因ではない。
- ×e. おむつかぶれから発生する。
肛門周囲膿瘍は皮膚表面の炎症から始まるのではなく、肛門管内の肛門陰窩・肛門腺への細菌感染が起点である。下痢などで肛門周囲の皮膚が荒れていると誘因になりうるとはいえるが、おむつかぶれが発生源であるという記述は病態として正確でない。
乳児痔瘻と成人痔瘻の比較
・好発年齢:乳児(1歳未満)/成人(20〜40歳代) ・性差:いずれも男性に多いが、乳児では特に顕著 ・発生機序:いずれも肛門陰窩・肛門腺からの細菌感染(陰窩腺感染) ・瘻管:乳児では浅く単純で、側方に多い/成人では複雑型(坐骨直腸窩・骨盤直腸窩に及ぶもの)もある ・自然治癒:乳児では多い/成人ではほとんどない ・治療:乳児は保存的治療(切開排膿、座浴、漢方薬)が基本で、難治例のみ手術/成人は手術(瘻管開放術、括約筋温存術、シートン法など)が基本
鑑別として注意すべき状態
・Crohn病:若年者で難治性・多発性の痔瘻をみた場合に疑う。乳児期発症の場合は超早期発症型炎症性腸疾患も考慮する。 ・免疫不全症(慢性肉芽腫症、好中球減少症など):肛門周囲膿瘍を繰り返す、女児に発症する、非典型的な経過をとる場合には基礎疾患の検索を考える。 ・おむつ皮膚炎・カンジダ皮膚炎:皮膚表面の発赤・びらんが主体で、膿瘍(波動を触れる腫瘤)は形成しない。
POINT
・小児の肛門周囲膿瘍は1歳未満の乳児、特に男児に好発する。 ・原因は肛門陰窩・肛門腺への細菌(大腸菌など腸内細菌)感染であり、結核菌や真菌ではない。 ・膿瘍が自潰すると乳児痔瘻となるが、1〜2歳頃までに自然治癒することが多い。 ・治療は切開排膿・座浴・漢方薬など保存的治療が基本で、成人のような根治手術はまれにしか必要としない。
