上がる?下がる?―肝硬変の検査値は「2本の軸」で読み解く
第101回医師国家試験 F問題 第34問
国試問題にチャレンジ
肝硬変が進展すると低下するのはどれか。2つ選べ。
- a.白血球数
- b.食後血糖値
- c.血清AST/ALT比
- d.総コレステロール値
- e.ICG 15分停滞率
対話形式の解説
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ドクターまとめ
肝硬変の検査値は「肝細胞機能の低下」と「門脈圧亢進症」の2つの軸で整理すると理解しやすくなります。肝臓で合成される総コレステロール、アルブミン、コリンエステラーゼ、凝固因子は低下し、門脈圧亢進による脾腫・脾機能亢進で白血球・赤血球・血小板が減少します。一方、肝臓の処理能低下やシャントを反映するICG 15分停滞率、ビリルビン、アンモニアは上昇し、食後血糖は肝性糖尿病として上昇、AST/ALT比はAST優位に逆転して上昇します。特に血小板減少やFIB-4 indexは線維化の進行を推定する簡便な指標であり、検査値の動きを機序から説明できることが、日常診療で肝硬変を見逃さない力につながります。
解答・解説
正解はa, dです
肝硬変は、慢性の肝障害によって肝小葉構造が線維性隔壁と再生結節に置き換わった状態である。病態は大きく「肝細胞機能の低下(肝予備能の低下)」と「門脈圧亢進症」の2本柱で整理でき、検査値の変化もこの2つから説明できる。
肝細胞機能の低下で生じる変化
・合成能の低下:アルブミン、コリンエステラーゼ(ChE)、総コレステロール、凝固因子(プロトロンビン時間の延長)が低下する。 ・代謝・排泄能の低下:ビリルビン上昇、ICG(インドシアニングリーン)停滞率の上昇、アンモニア上昇。 ・糖代謝の異常:食後の糖を肝臓でグリコーゲンとして取り込む能力が落ち、食後高血糖を示す(肝性糖尿病)。一方、グリコーゲン貯蔵が少ないため空腹時にはむしろ低血糖傾向になりうる。
門脈圧亢進症で生じる変化
・門脈圧が上がると脾臓がうっ血して腫大し(脾腫)、脾機能亢進によって血球が脾臓に貯留・破壊される。その結果、血小板・白血球・赤血球が減少する(汎血球減少)。特に血小板減少は線維化の進行度とよく相関し、重要な指標である。 ・側副血行路(食道・胃静脈瘤、腹壁静脈怒張など)の発達、腹水。
トランスアミナーゼの変化
慢性肝炎ではALT優位(AST/ALT比<1)だが、肝硬変へ進むとAST優位(AST/ALT比>1)へ逆転する。 このように、項目ごとに「上がるのか下がるのか」をその機序とあわせて判断すれば、低下するのは白血球数と総コレステロール値の2つとわかる。
選択肢考察
- ○a. 白血球数
肝硬変が進むと門脈圧亢進により脾腫が起こり、脾機能亢進によって血球が脾臓で捕捉・破壊される。このため白血球数は低下し、血小板・赤血球とともに汎血球減少を呈する。さらに肝臓でのトロンボポエチン産生低下も血小板減少に関与する。
- ×b. 食後血糖値
肝臓はブドウ糖をグリコーゲンとして取り込み血糖を調節しているが、肝硬変ではこの処理能が低下する。さらに門脈-大循環短絡(シャント)によって吸収された糖が肝臓を経ずに体循環に入ること、インスリン抵抗性が生じることも加わり、食後血糖値は上昇する(肝性糖尿病)。低下ではなく上昇である。
- ×c. 血清AST/ALT比
慢性肝炎の段階ではALT優位でAST/ALT比は1未満であるが、肝硬変へ進展するとAST優位となり、比は1を超えて上昇する。その理由として、ALTが肝細胞の細胞質に多く肝細胞数の減少とともに産生が落ちること、ミトコンドリア由来のASTも逸脱すること、類洞でのASTのクリアランスが低下することなどが挙げられる。低下ではなく上昇する項目である。
- ○d. 総コレステロール値
コレステロールは主に肝臓で合成されるため、肝細胞機能が低下すると合成量が減り、血清総コレステロール値は低下する。アルブミンやコリンエステラーゼと同様に、肝の合成能(予備能)を反映する指標である。
- ×e. ICG 15分停滞率
ICGは静注後に肝細胞に取り込まれ、抱合を受けずに胆汁へ排泄される色素である。15分後の血中残存率(基準値はおおむね10%以下)は、肝血流量と肝細胞の取り込み・排泄能を反映する。肝硬変では肝細胞機能の低下と肝内外のシャントにより処理が遅れ、停滞率は上昇する(肝硬変ではしばしば20〜30%以上)。低下ではない。
肝硬変で変動する主な検査値の整理
低下するもの:アルブミン、コリンエステラーゼ、総コレステロール、凝固因子(プロトロンビン時間活性)、血小板・白血球・赤血球、ヘパプラスチンテスト、フィッシャー比(分岐鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸) 上昇するもの:ビリルビン、ICG15分停滞率、アンモニア、AST/ALT比、γグロブリン(IgG)、線維化マーカー(ヒアルロン酸、IV型コラーゲン、M2BPGiなど)、食後血糖
肝予備能の評価
肝硬変の重症度評価にはChild-Pugh分類が用いられ、血清ビリルビン、血清アルブミン、プロトロンビン時間、腹水、肝性脳症の5項目でA〜Cに分類する。肝切除の可否判断ではICG15分停滞率も重視される。
線維化の簡易指標
血小板数は線維化の進行とともに低下し、10万/μL未満では肝硬変を強く疑う目安とされる。またAST/ALT比の上昇や、AST・血小板数・年齢を組み合わせたFIB-4 indexなども線維化の推定に用いられる。
POINT
・肝硬変の検査値は「肝合成能低下」と「門脈圧亢進(脾機能亢進)」の2つの軸で考える。 ・低下:アルブミン、ChE、総コレステロール、凝固因子、血小板・白血球(汎血球減少)。 ・上昇:ビリルビン、ICG15分停滞率、アンモニア、AST/ALT比(肝硬変でAST優位に逆転)、食後血糖(肝性糖尿病)。
