足りない肺血流を「横から足す」―Blalock-Taussig短絡手術の適応を見抜く
第101回医師国家試験 F問題 第25問
国試問題にチャレンジ
Blalock-Taussig短絡手術の適応はどれか。2つ選べ。
- a.大動脈縮窄症
- b.肺動脈閉鎖症
- c.Fallot四徴症
- d.房室中隔欠損症〈心内膜床欠損症〉
- e.総肺静脈還流異常症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Blalock-Taussig短絡手術は、鎖骨下動脈(現在は人工血管を用いる変法が主流)と肺動脈をつないで肺血流を増やす姑息手術で、肺血流減少型のチアノーゼ性心疾患が適応となります。代表がFallot四徴症と肺動脈閉鎖症で、前者は肺動脈が細い例や無酸素発作を繰り返す例、後者は動脈管依存性肺循環をPGE1でしのいだ後の肺血流確保として行われ、いずれも根治手術への橋渡しとなります。一方、房室中隔欠損症や総肺静脈還流異常症は肺血流増加型で、BT短絡術はかえって病態を悪化させ、心内修復術や肺動脈絞扼術、肺静脈と左房の吻合術が選ばれます。大動脈縮窄症は左心系の閉塞性病変であり、狭窄部の解除が治療です。チアノーゼの有無ではなく「肺血流の多寡」で疾患を分類する視点は、先天性心疾患の病態理解と治療選択の基盤となります。
解答・解説
正解はb, cです
Blalock-Taussig(BT)短絡手術は、体循環の動脈(鎖骨下動脈)から肺動脈へ血液を流す通路をつくり、肺血流を増やす姑息手術(根本的な修復ではなく、症状を和らげて次の手術まで生命を維持するための手術)である。原法は鎖骨下動脈を切離して肺動脈に直接吻合する方法であったが、現在は鎖骨下動脈(または腕頭動脈)と肺動脈の間を人工血管(ePTFE:延伸ポリテトラフルオロエチレン製グラフト)でつなぐ変法(modified BT shunt)が主流である。 適応を考える軸は「肺血流が多いか少ないか」である。 ・肺血流減少型の先天性心疾患(右室流出路や肺動脈の狭窄・閉鎖があり、右→左短絡によるチアノーゼを呈するもの)→ 肺血流を増やす体肺動脈短絡術(BT短絡術)の適応 ・肺血流増加型の先天性心疾患(左→右短絡が大きいもの)→ 肺血流を減らす肺動脈絞扼術、あるいは心内修復術の適応 ・左心系の閉塞性病変 → 狭窄部の解除・再建 選択肢のうち肺血流減少型に当たるのは肺動脈閉鎖症とFallot四徴症であり、これらがBT短絡手術の適応となる。
選択肢考察
- ×a. 大動脈縮窄症
大動脈縮窄症は大動脈峡部(左鎖骨下動脈起始部と動脈管付着部の付近)が狭くなる疾患で、上肢高血圧と下肢の脈拍減弱・血圧低下が特徴である。問題は体循環側(左心系)の閉塞であり、肺血流を増やす必要はない。治療は狭窄部の切除と端々吻合、鎖骨下動脈フラップ法による拡大形成、パッチ形成などの外科的再建、あるいはバルーン拡張・ステント留置などのカテーテル治療で狭窄を解除する。新生児の重症例では動脈管を開存させるためにプロスタグランジンE1を投与する。BT短絡手術の適応ではない。
- ○b. 肺動脈閉鎖症
肺動脈閉鎖症では右室から肺動脈への出口が閉じているため、肺への血流は動脈管(または主要体肺側副動脈)に依存しており、動脈管が閉じると高度のチアノーゼに陥る(動脈管依存性肺循環)。新生児期にはプロスタグランジンE1で動脈管を開存させて循環を保ち、そのうえで動脈管に代わる安定した肺血流路としてBT短絡手術を行う。肺血流を確保して低酸素血症を改善するとともに肺動脈の発育を促し、その後の根治手術(心室中隔欠損を伴う型では心内修復術、心室中隔欠損を伴わず右室が小さい型ではFontan型手術など)へつなげる。
- ○c. Fallot四徴症
Fallot四徴症は、心室中隔欠損、肺動脈狭窄(右室流出路狭窄)、大動脈騎乗、右室肥大の4つを特徴とし、右室流出路狭窄のために肺血流が減少し、心室中隔欠損を介した右→左短絡でチアノーゼを呈する。通常は乳児期に心内修復術(心室中隔欠損のパッチ閉鎖と右室流出路の拡大)を行うが、肺動脈が細い例、低出生体重児、無酸素発作(低酸素発作)を繰り返す例などで早期の根治手術が難しい場合には、まずBT短絡手術で肺血流を増やしてチアノーゼを軽減し、肺動脈の発育を待ってから心内修復術を行う。BT短絡手術は元来、本症に対して開発された手術である。
- ×d. 房室中隔欠損症〈心内膜床欠損症〉
房室中隔欠損症は心内膜床(心房中隔下部・心室中隔上部・房室弁を形成する組織)の発生異常で、心房・心室レベルの大きな左→右短絡と房室弁逆流を伴う肺血流増加型の疾患である。Down症候群に高率に合併する。肺血流が過剰で心不全や肺高血圧をきたしやすいため、肺血流を増やすBT短絡手術はむしろ病態を悪化させる。治療は乳児期の心内修復術(欠損孔のパッチ閉鎖と房室弁形成)が原則で、状態により先に肺動脈絞扼術を行って肺血流を制限することがある。
- ×e. 総肺静脈還流異常症
総肺静脈還流異常症は、すべての肺静脈が左房ではなく体静脈系(垂直静脈、上大静脈、冠静脈洞、門脈など)を経て右房に還流する疾患である。体循環へ血液が回る経路は心房間交通(卵円孔・心房中隔欠損)を介した右→左短絡のみで、右心系には全肺静脈血が流入するため肺血流は増加する。特に下心臓型など肺静脈の還流路に狭窄(肺静脈閉塞)を伴う例は肺うっ血・高度の低酸素血症をきたし、緊急手術を要する。治療は共通肺静脈腔と左房を吻合し、異常な還流路を遮断して心房間交通を閉鎖する根治手術であり、BT短絡手術の適応ではない。
先天性心疾患に対する主な姑息手術
・体肺動脈短絡術(BT短絡術など):肺血流減少型疾患に対し、体動脈から肺動脈へ血流を送り肺血流を増やす。対象:Fallot四徴症、肺動脈閉鎖症、三尖弁閉鎖症(肺血流減少型)、肺動脈狭窄を伴う単心室など。 ・肺動脈絞扼術(PAバンディング):肺血流増加型疾患に対し、肺動脈をテープで締めて肺血流を減らし、心不全と肺血管病変の進行を防ぐ。対象:大きな心室中隔欠損症、房室中隔欠損症、肺血流の多い単心室など。 ・心房中隔裂開術(BAS:バルーンを用いた心房中隔裂開術):心房間の混合を改善する。対象:完全大血管転位症(I型)など。 ・両方向性Glenn手術(上大静脈-肺動脈吻合)、Fontan手術(下大静脈血も肺動脈へ導く):機能的単心室に対する段階的手術。
肺血流による先天性心疾患の分類
・肺血流増加:心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、動脈管開存症、房室中隔欠損症、総動脈幹症、総肺静脈還流異常症など ・肺血流減少:Fallot四徴症、肺動脈閉鎖症、三尖弁閉鎖症(多く)、重症肺動脈狭窄、Ebstein奇形(重症例)など
BT短絡術の歴史
1944年、Blalock(外科医)、Taussig(小児循環器医)らがFallot四徴症の乳児に対して初めて行った手術で、チアノーゼ性心疾患の外科治療の幕開けとなった。原法は鎖骨下動脈の直接吻合で患側上肢の血流が減少する欠点があったため、現在は人工血管を用いる変法が標準である。
POINT
・BT短絡手術は鎖骨下動脈と肺動脈をつなぎ肺血流を増やす姑息手術である。 ・適応は肺血流減少型のチアノーゼ性心疾患(Fallot四徴症、肺動脈閉鎖症、三尖弁閉鎖症など)である。 ・肺血流増加型(心室中隔欠損症、房室中隔欠損症など)には逆に肺動脈絞扼術を行う。 ・大動脈縮窄症は狭窄部の再建、総肺静脈還流異常症は共通肺静脈と左房の吻合が根治手術である。
