よどむ左房に血栓が生まれる―弁膜症で脳塞栓が最も多いのはどれか
第101回医師国家試験 F問題 第26問
国試問題にチャレンジ
心原性脳塞栓症を起こす頻度が最も高いのはどれか。
- a.三尖弁閉鎖不全症
- b.僧帽弁閉鎖不全症
- c.僧帽弁狭窄症
- d.大動脈弁閉鎖不全症
- e.大動脈弁狭窄症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
心原性脳塞栓症は、主に左房・左心耳や左室にできた血栓が脳動脈を閉塞する脳梗塞で、最大の原因は左房内の血流うっ滞をもたらす心房細動です。弁膜症のなかでは僧帽弁狭窄症が、左房の著明な拡大、高率な心房細動の合併、狭い弁口手前での血液停滞により、左房内血栓と脳塞栓症を最も起こしやすい疾患です。僧帽弁閉鎖不全症では逆流ジェットが血液をかき混ぜるためうっ滞が起こりにくく、三尖弁疾患の血栓は奇異性塞栓を除けば肺へ向かい、大動脈弁疾患は左室負荷が中心で頻度は低くなります。中等度以上の僧帽弁狭窄症を伴う心房細動や機械弁置換後の抗凝固療法はワルファリンで行い、DOACは用いない点も臨床上重要です。Virchowの3要素と血流の向きから塞栓のリスクを考える姿勢は、脳卒中予防や抗凝固療法の判断に直結します。
解答・解説
正解はcです
心原性脳塞栓症は、心臓内(主に左房・左心耳や左室)でできた血栓がはがれて血流に乗り、脳動脈を突然閉塞する脳梗塞である。塞栓子が大きいため中大脳動脈などの太い血管が詰まりやすく、突発完成型の重い神経症状(片麻痺、失語、意識障害など)で発症し、出血性梗塞に移行しやすい。 血栓ができる条件として、Virchowの3要素(血流のうっ滞、血管内皮・心内膜の障害、凝固能亢進)が知られている。心臓では特に「左房内の血流うっ滞」が重要で、その最大の原因が心房細動である。心房細動では心房が有効に収縮せず、左心耳を中心に血液がよどんで血栓が形成される。 したがって本問は、弁膜症のなかで「左房の拡大と血流うっ滞をきたし、心房細動を高率に合併するもの」を選べばよい。僧帽弁狭窄症では左房から左室への流入が妨げられて左房圧が上昇し、左房は拡大して心房細動を高率に合併する。しかも左房内の血液は狭い弁口の手前で停滞しやすいため、弁膜症のなかで左房内血栓と心原性脳塞栓症の頻度が最も高い。 なお右心系の弁膜症(三尖弁疾患)で右房に血栓ができた場合、その塞栓は肺動脈へ流れるため、卵円孔開存などの右→左短絡がない限り脳塞栓症の原因にはならない。
選択肢考察
- ×a. 三尖弁閉鎖不全症
三尖弁閉鎖不全症では収縮期に右室から右房へ血液が逆流し、右房・右室の容量負荷と体静脈圧上昇から頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫、腹水などの右心不全症状を呈する。多くは左心系疾患や肺高血圧に続発する二次性(機能性)である。右房で血栓が形成されても塞栓は肺動脈へ向かう(肺塞栓)ため、卵円孔開存などの右→左短絡を介した奇異性塞栓でない限り脳塞栓症は起こらない。心原性脳塞栓症の原因としての頻度は低い。
- ×b. 僧帽弁閉鎖不全症
僧帽弁閉鎖不全症では収縮期に左室から左房へ血液が逆流し、左房・左室に容量負荷がかかって左房拡大、肺うっ血をきたす。慢性例では左房拡大により心房細動を合併することがあり、その場合は塞栓症の危険が生じる。しかし逆流ジェットが左房内の血液をかき混ぜるため血流のうっ滞は起こりにくく、僧帽弁狭窄症に比べると左房内血栓・脳塞栓症の頻度は低い。
- ○c. 僧帽弁狭窄症
僧帽弁狭窄症は多くがリウマチ熱の後遺症として生じ、拡張期に左房から左室への血液流入が妨げられる。左房には圧負荷がかかって著明に拡大し、心房筋の線維化も加わって心房細動を高率に合併する。狭い弁口の手前で左房内(特に左心耳)の血流がうっ滞するため血栓が形成されやすく、洞調律であっても左房が大きい例では血栓を生じうる。これらの血栓が遊離して脳動脈を閉塞することで心原性脳塞栓症を起こし、弁膜症のなかでその頻度は最も高い。心房細動を伴う僧帽弁狭窄症ではワルファリンによる抗凝固療法が行われ、中等度以上の僧帽弁狭窄症では直接経口抗凝固薬(DOAC)は適応とならない。
- ×d. 大動脈弁閉鎖不全症
大動脈弁閉鎖不全症では拡張期に大動脈から左室へ血液が逆流し、左室に容量負荷がかかって左室が拡大する。脈圧の増大(収縮期血圧上昇・拡張期血圧低下)、速脈、拡張期灌水様雑音が特徴で、進行すると左心不全・肺うっ血をきたす。左房の血流うっ滞や心房細動は病態の中心ではなく、心原性脳塞栓症の原因となる頻度は低い。
- ×e. 大動脈弁狭窄症
大動脈弁狭窄症では収縮期に左室から大動脈への駆出が妨げられ、左室に圧負荷がかかって求心性肥大をきたす。狭心痛、失神、心不全が三大症状で、進行すると左室機能が低下して肺うっ血を生じる。石灰化した弁から石灰片が飛んで塞栓症を起こすことはあるものの(特にカテーテル操作時)、自然経過での心原性脳塞栓症の原因としての頻度は僧帽弁狭窄症に比べて低い。
心原性脳塞栓症の主な原因(塞栓源)
・心房細動(非弁膜症性・弁膜症性ともに):最も多い原因 ・僧帽弁狭窄症(特に心房細動合併例) ・人工弁(特に機械弁) ・急性心筋梗塞(前壁梗塞後の左室壁在血栓)、左室瘤、拡張型心筋症など左室収縮の低下した病態 ・感染性心内膜炎(疣贅の遊離) ・左房粘液腫(腫瘍片の塞栓) ・奇異性塞栓(卵円孔開存や心房中隔欠損を介し、深部静脈血栓などが右→左へ流れる)
心原性脳塞栓症の臨床的特徴
・日中の活動時に突然発症し、症状が短時間で完成する。 ・皮質を含む広範な梗塞となりやすく、失語・半側空間無視などの皮質症状や意識障害を伴いやすい。 ・閉塞血管が再開通して出血性梗塞に移行しやすい。 ・一過性に意識が回復しても再発率が高く、二次予防の抗凝固療法が重要である。
僧帽弁狭窄症の要点
・原因の大部分はリウマチ熱であるが、リウマチ熱の減少に伴い近年は高齢者の弁輪石灰化による狭窄も増えている。 ・聴診:Ⅰ音亢進、僧帽弁開放音(opening snap)、心尖部拡張期ランブル(心房細動がなければ前収縮期雑音を伴う)。 ・合併症:心房細動、左房内血栓・塞栓症、肺高血圧、右心不全、嗄声(拡大した左房・肺動脈による反回神経圧迫:Ortner症候群)。 ・左房内血栓、特に左心耳の血栓の検出には経食道心エコーが有用である。 ・治療:心房細動合併例ではワルファリンによる抗凝固療法、弁口面積が小さく症状のある例では経皮的僧帽弁交連切開術(PTMC)や外科的交連切開術・弁置換術。
非弁膜症性心房細動の塞栓リスク評価
CHADS2スコア(心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病が各1点、脳卒中・一過性脳虚血発作の既往が2点)などで評価し、抗凝固療法の適応を判断する。「弁膜症性」とされる中等度以上の僧帽弁狭窄症と機械弁置換後はこのスコアによらず抗凝固療法の対象で、薬剤はワルファリンを用いる。
POINT
・心原性脳塞栓症の最大の原因は心房細動であり、左房(左心耳)の血流うっ滞で血栓ができる。 ・弁膜症のなかで心房細動・左房内血栓・脳塞栓症を最も起こしやすいのは僧帽弁狭窄症である。 ・右心系の血栓は肺塞栓の原因となり、脳塞栓は卵円孔開存などを介した奇異性塞栓の場合に限られる。 ・心房細動を伴う僧帽弁狭窄症(中等度以上)や機械弁の抗凝固療法はワルファリンで行い、DOACは用いない。
