突然の動悸、規則正しく速い脈―房室結節を「止める」薬を選べるか
第101回医師国家試験 D問題 第18問
国試問題にチャレンジ
29歳の女性。突然の動悸を主訴に来院した。これまで心電図に異常を指摘されたことはない。意識は清明。血圧118/70 mmHg。心電図を示す。 治療薬として適切なのはどれか。

- a.アトロピン
- b.アドレナリン
- c.イソプロテレノール
- d.ベラパミル
- e.リドカイン
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
突然発症し、RR間隔が整で、QRS幅が狭く、P波が不明瞭な頻拍は発作性上室性頻拍を考えます。その多くは房室結節を回路に含むリエントリーで、房室結節の伝導を抑えれば停止するため、循環動態が安定していれば迷走神経刺激に続いてATP急速静注やベラパミルなどのCa拮抗薬静注を行い、不安定なら同期下電気ショックを選びます。アトロピン、アドレナリン、イソプロテレノールは心拍数を上げる徐脈・心停止用の薬で頻拍を悪化させ、Ib群のリドカインは心室性不整脈の薬で上室性頻拍には無効です。WPW症候群に合併した心房細動では房室結節抑制薬が禁忌であること、反復例ではカテーテルアブレーションが根治療法となることも押さえておきましょう。頻拍の起源と回路を意識して薬の作用部位を選ぶ考え方は、不整脈診療全般の基礎になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
29歳の女性が突然始まった動悸で来院した。意識は清明で血圧118/70mmHgと保たれており、循環動態は安定している。これまで心電図異常を指摘されたことはない。
心電図の読み方
・心拍数:RR 間隔は非常に短く、おおよそ200/分前後の高度の頻拍である。 ・規則性:RR 間隔はほぼ一定で整である。したがって RR 間隔が不規則になる心房細動は否定的である。 ・QRS 幅:狭い(0.12秒未満)。心室内の刺激伝導系を正常に通って心室が興奮しており、上室(心房または房室接合部)起源の頻拍である。 ・P 波:明瞭な P 波は同定できず、QRS 波や T 波に重なって隠れていると考えられる。心房粗動を示す鋸歯状の F 波もみられない。 以上より、規則正しい狭い QRS 幅の頻拍(narrow QRS regular tachycardia)で、突然始まる発作性の経過をあわせて、発作性上室性頻拍(paroxysmal supraventricular tachycardia:PSVT)と診断できる。
PSVT の機序
PSVT の大部分はリエントリー(興奮が回路をぐるぐる旋回し続ける現象)による。代表は房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT:房室結節内の速い伝導路と遅い伝導路を回路とする)と、房室回帰性頻拍(AVRT:副伝導路を介するもので、WPW症候群や潜在性副伝導路でみられる)である。どちらも回路の一部に房室結節が含まれている。
治療の考え方
房室結節での伝導を一時的に遮断すれば、リエントリー回路が断ち切られて頻拍は停止する。循環動態が安定していれば、まず迷走神経刺激(バルサルバ手技、顔面冷水浸水など)を試み、無効なら房室結節の伝導を抑制する薬剤を静注する。ATP(アデノシン三リン酸)の急速静注、またはベラパミルなどの Ca 拮抗薬の静注が代表である。血圧低下や意識障害など循環動態が不安定な場合は同期下電気ショック(カルディオバージョン)を行う。選択肢の中で房室結節伝導を抑制する薬はベラパミルのみである。
選択肢考察
- ×a. アトロピン
アトロピンは抗コリン薬で、ムスカリン受容体でアセチルコリンと競合して迷走神経の作用を遮断する。その結果、洞結節の自動能と房室伝導が促進され心拍数が増えるため、洞性徐脈や房室ブロックなどの症候性徐脈に用いる。PSVT の停止には逆に迷走神経緊張を高めて房室伝導を抑えることが必要であり、アトロピンはその反対の作用をもつ。頻拍を悪化させるため適切でない。
- ×b. アドレナリン
アドレナリンは α・β 受容体作動薬で、β1 作用により心拍数と心収縮力を増大させ、房室伝導も促進する。心停止時の心肺蘇生やアナフィラキシーショックの治療に用いる薬である。すでに頻拍を呈している本例に投与すると心拍数がさらに増加し、心筋酸素消費量の増大や不整脈の悪化を招くため不適切である。
- ×c. イソプロテレノール
イソプロテレノールは純粋な β 受容体作動薬(β1・β2)であり、強力な陽性変時作用(心拍数増加)と房室伝導促進作用をもつ。高度房室ブロックや洞不全症候群などの徐脈に対し、ペースメーカー導入までのつなぎとして用いられる。頻拍に投与すると頻拍を増悪させるため不適切である。
- ○d. ベラパミル
ベラパミルは非ジヒドロピリジン系 Ca 拮抗薬(Vaughan Williams 分類 IV 群)である。洞結節や房室結節の細胞は活動電位の立ち上がりを L 型 Ca チャネルからの Ca 流入に依存しているため、ベラパミルはこれらの自動能と伝導を抑制し、特に房室結節の伝導を遅らせ不応期を延長する。PSVT の多くは房室結節を回路に含むリエントリーであるため、房室結節伝導を抑えることで回路が遮断され、頻拍が停止する。循環動態の安定した本例で、迷走神経刺激が無効な場合に用いる薬剤として適切である。ただし陰性変力作用があるため心機能低下例には慎重に用い、また WPW 症候群に心房細動を合併した偽性心室頻拍では副伝導路の伝導を相対的に促進しうるため禁忌である。
- ×e. リドカイン
リドカインは Na チャネル遮断薬(Vaughan Williams 分類 Ib 群)で、主に心室筋や Purkinje 線維に作用し、心室性期外収縮や心室頻拍などの心室性不整脈に用いられる。房室結節の伝導にはほとんど影響せず、上室性の頻拍である PSVT を停止させる効果は期待できないため不適切である。
頻拍の心電図による鑑別
・狭い QRS 幅・整:発作性上室性頻拍(PSVT)、心房粗動(伝導比一定の場合、鋸歯状 F 波)、洞性頻脈(P 波が明瞭で徐々に始まり徐々に終わる) ・狭い QRS 幅・不整:心房細動(f 波、RR 間隔が絶対的に不整)、伝導比が変動する心房粗動 ・広い QRS 幅:心室頻拍、変行伝導や脚ブロックを伴う上室性頻拍、WPW 症候群での逆方向性房室回帰性頻拍や偽性心室頻拍
PSVT の急性期治療の流れ
1. 循環動態が不安定(低血圧、意識障害、ショック、心不全など):同期下カルディオバージョン 2. 安定している場合: ・迷走神経刺激:バルサルバ手技(息こらえ)、顔面の冷水浸水、頸動脈洞マッサージ(高齢者では脳梗塞のリスクがあり注意)。眼球圧迫は網膜剝離の危険があり現在は推奨されない。 ・ATP(アデノシン)の急速静注:房室結節伝導を一過性に遮断する。作用時間が極めて短い(半減期は数秒)。気管支喘息患者では気管支攣縮を起こしうるため注意する。 ・Ca 拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)の静注 ・β 遮断薬の静注
再発予防・根治
発作を繰り返す場合は、カテーテルアブレーション(遅伝導路や副伝導路の焼灼)が高い成功率をもつ根治療法である。薬物による予防として Ca 拮抗薬や β 遮断薬の内服も用いられる。
抗不整脈薬の Vaughan Williams 分類
・I 群:Na チャネル遮断薬(Ia:プロカインアミド、ジソピラミド、Ib:リドカイン、メキシレチン、Ic:フレカイニド、ピルシカイニド) ・II 群:β 遮断薬 ・III 群:K チャネル遮断薬(アミオダロン、ソタロール) ・IV 群:Ca 拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)
POINT
・突然発症・規則正しい・狭い QRS 幅・P 波が不明瞭な頻拍は発作性上室性頻拍(PSVT)である。 ・PSVT の多くは房室結節を回路に含むリエントリーで、房室結節伝導を抑えれば停止する。 ・安定例:迷走神経刺激 → ATP 急速静注またはベラパミル静注。不安定例:同期下カルディオバージョン。 ・アトロピン、アドレナリン、イソプロテレノールは心拍数を増やす薬で徐脈や心停止に使い、頻拍には用いない。 ・リドカイン(Ib 群)は心室性不整脈の薬で、PSVT には無効。 ・WPW 症候群に合併した心房細動(偽性心室頻拍)ではベラパミルなど房室結節抑制薬は禁忌。
