「眠れない夜」は昼に作られる―睡眠衛生指導の3つの柱
第101回医師国家試験 C問題 第45問
国試問題にチャレンジ
不眠を訴える患者の生活指導で適切なのはどれか。
- a.就床直前に長く入浴する。
- b.日光をできるだけ浴びない。
- c.日中はできるだけ仮眠しない。
- d.就床直前に激しい運動をする。
- e.夕食はできるだけ遅い時刻に摂る。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
不眠への非薬物的対応の基本は睡眠衛生指導であり、「体内時計を整える」「睡眠圧を溜める」「就床前に体を興奮させない」の3つの柱で整理できます。日中の長い仮眠は夜までに蓄積すべき睡眠圧を解消してしまうため控えるよう指導し、必要なら午後早めの短い昼寝にとどめます。朝の日光はリズムを整えるため積極的に浴び、入浴・運動・夕食は就床直前を避けて時間帯を工夫することが重要です。慢性不眠症では刺激制御法などを含むCBT-Iが第一選択とされ、背景にある身体・精神疾患や嗜好品の影響の評価も欠かせません。睡眠の生理を理解して指導の根拠を説明できることは、どの診療科でも役立つ臨床能力の基礎となります。
解答・解説
正解はcです
不眠に対する非薬物的な対応の基本は「睡眠衛生指導」である。睡眠衛生とは、良い睡眠をとるための生活習慣や環境の整え方を指し、薬物療法に先立って、あるいは並行して必ず行われる。 睡眠と覚醒は主に2つの仕組みで調節されている。1つは概日リズム(サーカディアンリズム、約24時間周期の体内時計)で、朝の光によってリセットされ、夜になるとメラトニンの分泌が高まって眠気が生じる。もう1つは睡眠圧(恒常性維持機構)で、起きている時間が長くなるほど眠気の元となる物質(アデノシンなど)が蓄積し、眠りやすくなる。さらに、入眠時には深部体温が下がり、交感神経の活動が鎮まることが必要である。 したがって指導の方向性は、(1)体内時計を整える(朝に光を浴びる、起床時刻を一定にする)、(2)夜に向けて睡眠圧をしっかり溜める(日中の長い昼寝を避け、適度に活動する)、(3)就床前は体温・血圧・交感神経を高めない(直前の長風呂・激しい運動・遅い食事・カフェインやアルコールを避ける)、の3点に整理できる。選択肢のうちこの方向性に合致するのは、日中の仮眠を控えるという指導だけである。
選択肢考察
- ×a. 就床直前に長く入浴する。
入浴自体にはリラックス効果があるが、就床直前に長く湯につかると深部体温が上昇し、血圧上昇や交感神経の興奮も伴うため、かえって寝つきが悪くなる。入眠は深部体温が下がっていく過程で起こりやすいので、ぬるめ(38〜40℃程度)の湯に就床の1〜2時間前に入り、その後体温が下がるタイミングで床に就くのが望ましい。直前の長風呂は不適切である。
- ×b. 日光をできるだけ浴びない。
日光(特に朝の強い光)は網膜から視交叉上核(体内時計の中枢)に伝わり、概日リズムをリセットする最も強力な同調因子である。朝に光を浴びるとメラトニン分泌が抑えられて覚醒が促され、その約14〜16時間後に再びメラトニンが分泌されて自然な眠気が生じる。日光を避けるとリズムが乱れ、夜の眠気が生じにくくなるため不適切である。逆に夜間の強い照明やスマートフォンなどの光は避けるよう指導する。
- ○c. 日中はできるだけ仮眠しない。
日中に長く眠ると、夜までに蓄積されるはずの睡眠圧が解消されてしまい、夜間の入眠困難や中途覚醒の原因となる。不眠患者では「夜眠れない→日中眠い→昼寝する→夜さらに眠れない」という悪循環に陥りやすく、日中の仮眠を控えて夜にまとまって眠る生活リズムをつくることが指導の基本である。なお、どうしても眠い場合には午後早い時間帯に20〜30分以内の短い昼寝にとどめるのであれば、夜間睡眠への影響は少ないとされる。
- ×d. 就床直前に激しい運動をする。
激しい運動は交感神経を興奮させ、心拍数・血圧・体温を上昇させるため、直後は覚醒度が高まり入眠を妨げる。一方、日中や夕方に行う適度な運動(ウォーキングなど)は睡眠の質を高めることが知られている。運動は就床の数時間前までに済ませるよう指導する。
- ×e. 夕食はできるだけ遅い時刻に摂る。
食後しばらくは消化管が活発に働き、胃内容の停滞による不快感や胃食道逆流も起こりやすいため、睡眠が妨げられる。夕食は就床の2〜3時間前までに済ませるのが望ましい。また、食事の時刻が不規則に遅くなると体内時計の乱れにもつながる。遅い時刻の夕食を勧めるのは不適切である。なお、空腹が強すぎても眠りにくいため、軽い食事や温かい飲み物程度はかまわない。
睡眠衛生指導の主な内容
・起床時刻を毎日一定にする(休日の寝だめを避ける)。就床時刻にこだわるより起床時刻をそろえることが重要である。 ・起床後に日光を浴びる。夜は照明を落とし、就床前の電子機器の使用を控える。 ・日中は適度に体を動かし、長い昼寝は避ける(昼寝をするなら午後早めに30分以内)。 ・カフェイン(コーヒー、緑茶、エナジードリンク)は就床の数時間前から控える。ニコチンにも覚醒作用がある。 ・寝酒は寝つきを一時的に良くするが、睡眠後半を浅くし中途覚醒を増やし、耐性や依存も生じるため勧めない。 ・入浴はぬるめの湯で就床1〜2時間前に。激しい運動や遅い食事は就床直前を避ける。 ・眠くなってから床に就き、眠れないまま長時間床の中で過ごさない(床に入って眠れなければいったん離れる)。寝床を「眠る場所」と条件づけることを目的とする(刺激制御法)。 ・寝室は静かで暗く、快適な温度・湿度に保つ。
不眠症への対応の流れ
不眠を訴える患者では、まず身体疾患(疼痛、瘙痒、夜間頻尿、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群など)、精神疾患(うつ病、不安症など)、薬物・嗜好品の影響を鑑別する。そのうえで睡眠衛生指導を行い、慢性不眠症には不眠に対する認知行動療法(CBT-I:刺激制御法・睡眠制限法・認知再構成などを組み合わせた治療)が第一選択として推奨されている。薬物療法としては、ベンゾジアゼピン受容体作動薬のほか、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬などが用いられる。
POINT
・不眠の非薬物療法の基本は睡眠衛生指導である。 ・体内時計を整える:起床時刻を一定にし、朝に日光を浴びる。 ・睡眠圧を溜める:日中の長い昼寝を避け、適度に運動する。 ・就床直前は避ける:長風呂・激しい運動・遅い夕食・カフェイン・寝酒。 ・入浴や運動は「時間帯」が重要で、就床数時間前なら睡眠を助ける。
