ごはんを食べても動かない値―クレアチニンが「食事に左右されない」理由
第101回医師国家試験 C問題 第32問
国試問題にチャレンジ
血液検査で食後に増加しないのはどれか。
- a.クレアチニン
- b.β-リポ蛋白
- c.インスリン
- d.中性脂肪
- e.血糖
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
血液検査の値は採血のタイミングで変動し、食後には摂取した栄養素が直接増える血糖や中性脂肪、それに反応して分泌されるインスリンが増加し、脂質検査の値もカイロミクロンの影響を受けるため、評価は早朝空腹時採血が原則です。これに対しクレアチニンは、筋肉のクレアチンリン酸からほぼ一定の速度で産生され、血中濃度は筋肉量と腎機能で決まるため、通常の食事ではほとんど変動しません。ただし筋肉量に依存するため、高齢者や長期臥床の患者では腎機能低下を過小評価しやすく、eGFRやシスタチンCを併用して評価します。また、食後にはインスリンの作用でカリウムやリン、遊離脂肪酸が低下しうる点も押さえておきたいところです。各検査項目が「何に由来し、何で決まるのか」を理解しておくことは、採血条件を踏まえた正しい検査値の解釈につながります。
解答・解説
正解はaです
血液検査の多くの項目は、採血のタイミング、とくに食事との関係によって値が変動する。食後には、消化・吸収された栄養素(糖・脂質)が血中に流入し、それに反応してホルモン分泌も変化する。そのため血糖・脂質・インスリンなどを正しく評価するには、原則として早朝空腹時(前夜から10時間以上の絶食後)に採血する。 本問は「食後に増加しない」項目を選ぶ問題である。各項目について、食事で摂取した栄養素が直接血中に増えるのか(血糖・中性脂肪)、その栄養素に反応して分泌が増えるのか(インスリン)、食後の脂質の流入によって測定値が影響を受けるのか(β-リポ蛋白)、それとも食事とはほぼ無関係に一定の速度で産生されるのか(クレアチニン)を考えると、正解を導ける。 クレアチニンは筋肉内のクレアチンリン酸から非酵素的に一定の速度で生じる代謝産物であり、血中濃度は主に筋肉量と腎機能(糸球体濾過量)で決まる。通常の食事の前後で値はほとんど変動しないため、これが正解となる。
選択肢考察
- ○a. クレアチニン
正解。クレアチニンは筋肉のクレアチン・クレアチンリン酸が非酵素的に代謝されて1日あたりほぼ一定量生じ、主に糸球体で濾過されて尿中に排泄される。そのため血清クレアチニン値は筋肉量(男性>女性、若年者>高齢者)と腎機能で決まり、食事による影響はほとんど受けない。筋肉量が少ない人(高齢者、るい痩、長期臥床など)では低値となり、腎機能低下を過小評価しやすい点に注意が必要である。なお、加熱した肉を大量に摂取した直後には一過性に軽度上昇しうるが、日常的な食事で臨床的に問題となる変動はなく、本問の選択肢の中では食後に増加しない項目にあたる。
- ×b. β-リポ蛋白
β-リポ蛋白は電気泳動でβ位に泳動されるリポ蛋白で、主に低比重リポ蛋白(LDL)に相当する。LDL自体は食事による短時間の変動は比較的小さいが、食後には小腸から吸収された脂質を運ぶカイロミクロン(乳び)やそのレムナントが血中に増え、血清が白濁する。β-リポ蛋白の測定値はこの食後の脂質流入の影響を受けて高く出ることがあり、特に高脂肪食の後では増加する。したがって空腹時に採血して評価するのが原則であり、食後に増加しない項目とはいえない。
- ×c. インスリン
インスリンは膵ランゲルハンス島のβ細胞から分泌されるホルモンで、食後に血糖が上昇すると分泌が強く刺激される。さらに、食事摂取に伴って消化管から分泌されるインクレチン(GLP-1、GIP)もインスリン分泌を促進する。したがって血中インスリン濃度は食後に明らかに増加する。
- ×d. 中性脂肪
食事中の脂肪は小腸で吸収された後、中性脂肪(トリグリセリド)としてカイロミクロンに組み込まれ、リンパ管を経て血中に入る。そのため食後数時間にわたって血清中性脂肪は明らかに増加する。脂質異常症の診断では空腹時(10時間以上絶食)の中性脂肪150 mg/dL以上を高トリグリセリド血症とし、随時(非空腹時)採血では175 mg/dL以上を基準とする。
- ×e. 血糖
食事中の炭水化物は消化されてブドウ糖となり、小腸から吸収されて血中に入るため、食後に血糖は上昇する。健常者では通常、食後30分~1時間程度でピークとなり、インスリンの作用で2~3時間後には食前の値近くに戻る。糖尿病の診断では空腹時血糖(126 mg/dL以上)と随時血糖(200 mg/dL以上)で基準値が区別されている。
採血と食事の影響
食後に増加する主な項目: 血糖、インスリン、C-ペプチド、中性脂肪(カイロミクロン)など。 食後に低下しうる項目: 遊離脂肪酸(インスリンにより脂肪分解が抑制されるため)、カリウム・リン(インスリンにより細胞内へ移動するため)など。 食事の影響をほとんど受けない項目: クレアチニン、尿酸(短期的には影響が小さい)、総コレステロール・HDLコレステロール(短時間の変動は小さい)など。
リポ蛋白の分類(電気泳動による呼称との対応)
・カイロミクロン: 原点に留まる。食事由来の中性脂肪を運ぶ。食後に増加し、血清が白濁(乳び)する。 ・β-リポ蛋白: LDLに相当。コレステロールを末梢に運ぶ。 ・pre-β-リポ蛋白: VLDLに相当。肝臓で合成された中性脂肪を運ぶ。 ・α-リポ蛋白: HDLに相当。末梢のコレステロールを肝臓へ戻す。
クレアチニンと腎機能
血清クレアチニンは筋肉量に依存するため、性別・年齢を加味した推算糸球体濾過量(eGFR)で腎機能を評価する。筋肉量の影響を受けにくい指標としてシスタチンCも用いられる。
POINT
・クレアチニンは筋肉量と腎機能で決まり、食事の影響をほとんど受けない。 ・血糖・インスリン・中性脂肪は食後に増加するため、評価は空腹時採血が原則である。 ・β-リポ蛋白=LDL。食後はカイロミクロン(乳び)の影響を受けるため、脂質検査は空腹時に行う。
