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ごはんを食べても動かない値―クレアチニンが「食事に左右されない」理由

第101回医師国家試験 C問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第101回 C問題 第32問

血液検査で食後に増加しないのはどれか。

  1. a.クレアチニン
  2. b.β-リポ蛋白
  3. c.インスリン
  4. d.中性脂肪
  5. e.血糖

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、採血のタイミング、特に食事との関係で検査値がどう動くかを問う問題だ。考え方のコツは、各項目が「食べた栄養素そのもの」なのか、「栄養素に反応して増えるもの」なのか、それとも「食事とは無関係に作られるもの」なのかを分類すること。これで一気に整理できるよ。
医学生医学生
健康診断で「前日の夜から何も食べないで」と言われるのは、食事で変わる項目があるからですよね。
ドクタードクター
その通り。原則は早朝空腹時、前夜から10時間以上絶食してからの採血だ。ではまず、いちばんわかりやすい血糖から考えてみよう。
医学生医学生
炭水化物が消化されてブドウ糖になって吸収されるので、食後に上がります。生理学の実習でブドウ糖負荷試験をやったとき、30分から1時間くらいでピークになりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。健常者ならインスリンの働きで2〜3時間後には食前近くに戻る。糖尿病の診断基準で空腹時血糖と随時血糖の基準値が分かれているのも、この食後変動があるからだ。
医学生医学生
インスリンは、血糖が上がったのに反応して分泌されるので、こちらも食後に増えますね。
ドクタードクター
そう。さらに食事が消化管に入ると、GLP-1やGIPといったインクレチンが分泌されて、インスリン分泌を後押しする。だから血中インスリンははっきり増加する。次は中性脂肪。
医学生医学生
脂肪は小腸で吸収されてカイロミクロンになり、リンパ管から血中に入るんでしたね。だから食後に増える。
ドクタードクター
正解。食後数時間は中性脂肪が明らかに高くなる。脂質異常症の診断でも、空腹時は150 mg/dL以上、随時採血なら175 mg/dL以上と基準を分けている。少し迷いやすいのがβ-リポ蛋白だね。
医学生医学生
正直、β-リポ蛋白が何を指すのかピンときません。名前だけ見ると食事と関係なさそうに思えて、ちょっと迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。これは電気泳動での呼び名で、β位に泳動されるリポ蛋白、主にLDLに相当する。LDLそのものは短時間ではあまり変動しないけれど、食後はカイロミクロンやそのレムナントが血中に増えて血清が白く濁る。その影響で測定値が高く出ることがあり、特に脂っこい食事の後では増加しうる。だから脂質検査は空腹時採血が原則なんだ。
医学生医学生
なるほど。そうすると残るクレアチニンが、食後に増加しない項目ということですね。
ドクタードクター
その通り、それが正解だ。クレアチニンは筋肉のクレアチンやクレアチンリン酸から、酵素を介さずにほぼ一定の速度で作られる代謝産物だ。主に糸球体で濾過されて尿に出るから、血中濃度は筋肉量と腎機能で決まり、ふだんの食事ではほとんど動かない。
医学生医学生
だから腎機能の指標として使いやすいんですね。でも、焼肉をたくさん食べた後でも変わらないんですか。
ドクタードクター
鋭い質問だね。加熱した肉を大量に食べた直後には、一過性に軽く上がることもありうる。ただ、日常の食事で臨床的に問題になるほどの変動はない。選択肢の中では、食事の影響を受けない項目と考えていい。
医学生医学生
腎臓内科の実習で、寝たきりの高齢の方のクレアチニンが正常範囲なのに、eGFRで見ると腎機能がかなり落ちていて驚きました。
ドクタードクター
それは大切な経験だ。クレアチニンは筋肉量に依存するから、高齢者、るい痩、長期臥床の人では低めに出て、腎機能低下を見逃しやすい。だから性別や年齢を加味したeGFRで評価し、筋肉量の影響を受けにくいシスタチンCを併用することもある。逆に、食後に下がる項目もあるのは知っているかな。
医学生医学生
インスリンが働くとカリウムが細胞内に入るので、カリウムは下がりそうです。
ドクタードクター
そう、カリウムやリンはインスリンで細胞内に移動するし、遊離脂肪酸は脂肪分解が抑えられて低下しうる。検査値を見るときは「いつ採血したか」を必ず確認する習慣をつけておこう。食後採血だと知らずに高血糖や高中性脂肪と判断してしまうのは、臨床でよくある落とし穴だよ。

まとめ

血液検査の値は採血のタイミングで変動し、食後には摂取した栄養素が直接増える血糖や中性脂肪、それに反応して分泌されるインスリンが増加し、脂質検査の値もカイロミクロンの影響を受けるため、評価は早朝空腹時採血が原則です。これに対しクレアチニンは、筋肉のクレアチンリン酸からほぼ一定の速度で産生され、血中濃度は筋肉量と腎機能で決まるため、通常の食事ではほとんど変動しません。ただし筋肉量に依存するため、高齢者や長期臥床の患者では腎機能低下を過小評価しやすく、eGFRやシスタチンCを併用して評価します。また、食後にはインスリンの作用でカリウムやリン、遊離脂肪酸が低下しうる点も押さえておきたいところです。各検査項目が「何に由来し、何で決まるのか」を理解しておくことは、採血条件を踏まえた正しい検査値の解釈につながります。

解答・解説

正解はaです

血液検査の多くの項目は、採血のタイミング、とくに食事との関係によって値が変動する。食後には、消化・吸収された栄養素(糖・脂質)が血中に流入し、それに反応してホルモン分泌も変化する。そのため血糖・脂質・インスリンなどを正しく評価するには、原則として早朝空腹時(前夜から10時間以上の絶食後)に採血する。 本問は「食後に増加しない」項目を選ぶ問題である。各項目について、食事で摂取した栄養素が直接血中に増えるのか(血糖・中性脂肪)、その栄養素に反応して分泌が増えるのか(インスリン)、食後の脂質の流入によって測定値が影響を受けるのか(β-リポ蛋白)、それとも食事とはほぼ無関係に一定の速度で産生されるのか(クレアチニン)を考えると、正解を導ける。 クレアチニンは筋肉内のクレアチンリン酸から非酵素的に一定の速度で生じる代謝産物であり、血中濃度は主に筋肉量と腎機能(糸球体濾過量)で決まる。通常の食事の前後で値はほとんど変動しないため、これが正解となる。

選択肢考察

  1. ○a.  クレアチニン

    正解。クレアチニンは筋肉のクレアチン・クレアチンリン酸が非酵素的に代謝されて1日あたりほぼ一定量生じ、主に糸球体で濾過されて尿中に排泄される。そのため血清クレアチニン値は筋肉量(男性>女性、若年者>高齢者)と腎機能で決まり、食事による影響はほとんど受けない。筋肉量が少ない人(高齢者、るい痩、長期臥床など)では低値となり、腎機能低下を過小評価しやすい点に注意が必要である。なお、加熱した肉を大量に摂取した直後には一過性に軽度上昇しうるが、日常的な食事で臨床的に問題となる変動はなく、本問の選択肢の中では食後に増加しない項目にあたる。

  2. ×b.  β-リポ蛋白

    β-リポ蛋白は電気泳動でβ位に泳動されるリポ蛋白で、主に低比重リポ蛋白(LDL)に相当する。LDL自体は食事による短時間の変動は比較的小さいが、食後には小腸から吸収された脂質を運ぶカイロミクロン(乳び)やそのレムナントが血中に増え、血清が白濁する。β-リポ蛋白の測定値はこの食後の脂質流入の影響を受けて高く出ることがあり、特に高脂肪食の後では増加する。したがって空腹時に採血して評価するのが原則であり、食後に増加しない項目とはいえない。

  3. ×c.  インスリン

    インスリンは膵ランゲルハンス島のβ細胞から分泌されるホルモンで、食後に血糖が上昇すると分泌が強く刺激される。さらに、食事摂取に伴って消化管から分泌されるインクレチン(GLP-1、GIP)もインスリン分泌を促進する。したがって血中インスリン濃度は食後に明らかに増加する。

  4. ×d.  中性脂肪

    食事中の脂肪は小腸で吸収された後、中性脂肪(トリグリセリド)としてカイロミクロンに組み込まれ、リンパ管を経て血中に入る。そのため食後数時間にわたって血清中性脂肪は明らかに増加する。脂質異常症の診断では空腹時(10時間以上絶食)の中性脂肪150 mg/dL以上を高トリグリセリド血症とし、随時(非空腹時)採血では175 mg/dL以上を基準とする。

  5. ×e.  血糖

    食事中の炭水化物は消化されてブドウ糖となり、小腸から吸収されて血中に入るため、食後に血糖は上昇する。健常者では通常、食後30分~1時間程度でピークとなり、インスリンの作用で2~3時間後には食前の値近くに戻る。糖尿病の診断では空腹時血糖(126 mg/dL以上)と随時血糖(200 mg/dL以上)で基準値が区別されている。

採血と食事の影響

食後に増加する主な項目: 血糖、インスリン、C-ペプチド、中性脂肪(カイロミクロン)など。 食後に低下しうる項目: 遊離脂肪酸(インスリンにより脂肪分解が抑制されるため)、カリウム・リン(インスリンにより細胞内へ移動するため)など。 食事の影響をほとんど受けない項目: クレアチニン、尿酸(短期的には影響が小さい)、総コレステロール・HDLコレステロール(短時間の変動は小さい)など。

リポ蛋白の分類(電気泳動による呼称との対応)

・カイロミクロン: 原点に留まる。食事由来の中性脂肪を運ぶ。食後に増加し、血清が白濁(乳び)する。 ・β-リポ蛋白: LDLに相当。コレステロールを末梢に運ぶ。 ・pre-β-リポ蛋白: VLDLに相当。肝臓で合成された中性脂肪を運ぶ。 ・α-リポ蛋白: HDLに相当。末梢のコレステロールを肝臓へ戻す。

クレアチニンと腎機能

血清クレアチニンは筋肉量に依存するため、性別・年齢を加味した推算糸球体濾過量(eGFR)で腎機能を評価する。筋肉量の影響を受けにくい指標としてシスタチンCも用いられる。

POINT

・クレアチニンは筋肉量と腎機能で決まり、食事の影響をほとんど受けない。 ・血糖・インスリン・中性脂肪は食後に増加するため、評価は空腹時採血が原則である。 ・β-リポ蛋白=LDL。食後はカイロミクロン(乳び)の影響を受けるため、脂質検査は空腹時に行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。