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「イー」で見抜く顔のゆがみ―口角の左右差が示す脳神経はどれか

第101回医師国家試験 C問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第101回 C問題 第25問

「イー」と言わせたとき,口角に左右差がみられる患者が障害を受けているのはどれか。

  1. a.第 Ⅳ 脳神経
  2. b.第 Ⅴ 脳神経
  3. c.第 Ⅵ 脳神経
  4. d.第 Ⅶ 脳神経
  5. e.第 Ⅷ 脳神経

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、診察手技と脳神経の対応を問う問題だ。「イー」と言ってもらうと口がどう動くか、その動きを担う筋はどの脳神経が支配しているか。この2段階で考えるとすっきり解ける。
医学生医学生
OSCEの脳神経診察で、「イーと歯を見せてください」と声をかける練習をしました。でも、何の筋を見ているのかまではあまり意識していなかったです。
ドクタードクター
そこを押さえるのが今日のテーマだ。「イー」と言うと口角が外側・上方へ引かれるよね。これを担うのは笑筋や大頬骨筋、口角挙筋といった表情筋で、首の広頸筋も一緒に収縮する。では、表情筋を支配する脳神経は?
医学生医学生
顔の筋肉なので、顔面の感覚を担う三叉神経かと一瞬思ってしまいました。
ドクタードクター
それは非常に多い混同だね。三叉神経は顔面の感覚と、咬筋や側頭筋、翼突筋といった咀嚼筋の運動を担う。表情筋は支配しないから、口角の左右差は生じない。三叉神経が障害されると、顔面の感覚低下や噛む力の低下、口を開けたときに下顎が患側へ偏る、といった所見になる。
医学生医学生
咀嚼筋は三叉神経、表情筋は顔面神経、ですね。解剖学の講義で「噛むのはV、表情はVII」と習ったのを思い出しました。
ドクタードクター
その語呂で十分だ。正解は第Ⅶ脳神経、顔面神経。片側の顔面神経が障害されると、「イー」と言ったときに患側の口角が十分に引かれず、健側に引っ張られるように口がゆがむ。だから口角の左右差は顔面神経障害を示す所見になるんだ。
医学生医学生
ほかの選択肢は眼や耳の神経ばかりで、口とは関係なさそうですね。
ドクタードクター
そうだね、一つずつ確認しておこう。第Ⅳ脳神経の滑車神経は上斜筋だけを支配する。障害されると垂直性の複視が出て、それを代償するために健側へ頭を傾ける姿勢をとる。
医学生医学生
第Ⅵ脳神経の外転神経は外直筋なので、眼が外に向かなくなって水平方向の複視が出るんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。どちらも外眼筋の神経で、表情筋とは無関係だ。第Ⅷ脳神経の内耳神経は、蝸牛神経が聴覚、前庭神経が平衡覚を伝える純粋な感覚神経。障害では難聴や耳鳴、めまい、眼振が出るけれど、運動線維を含まないから口角は動かせる。ただし、小脳橋角部の聴神経鞘腫のように、すぐ隣を走る顔面神経まで巻き込む病変もあることは覚えておこう。
医学生医学生
内耳道を顔面神経と内耳神経が一緒に通るからですね。神経解剖の実習で確認した気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。顔面神経は表情筋のほかにも仕事が多い。アブミ骨筋の支配、鼓索神経を介した舌の前2/3の味覚、涙腺・顎下腺・舌下腺の分泌も担っている。
医学生医学生
顔面神経麻痺には中枢性と末梢性があると習いましたが、「イー」だけで区別できますか。
ドクタードクター
いい質問だ。実は「イー」での口角の左右差は、どちらでも出る。区別のカギは額のしわ寄せだ。顔面上部を支配する顔面神経核の部分は両側の大脳皮質から入力を受けるけれど、顔面下部の部分は主に対側の皮質からしか入力を受けない。
医学生医学生
だから脳梗塞のような中枢性だと、片側の皮質が障害されても額は反対側からの入力で動かせる、ということですか。
ドクタードクター
その通り。中枢性麻痺では病変と反対側の顔面下部の麻痺が目立ち、額のしわ寄せは保たれる。一方、Bell麻痺やRamsay Hunt症候群のような末梢性麻痺では、障害側の額も含めて顔の半分全体が動かなくなり、目を閉じきれない兎眼や、閉眼しようとすると眼球が上転して白目が見えるBell現象がみられる。
医学生医学生
救急外来の実習で、顔のゆがみを訴える患者さんに先生がまず額のしわ寄せを確認していたのは、脳卒中かどうかを見分けるためだったんですね。
ドクタードクター
まさにそう。「イー」で異常を見つけたら、額のしわ寄せ、強い閉眼、頬をふくらませる、といった他の表情筋の診察を組み合わせて障害部位を推定する。この流れを身につけておくと、救急でも外来でも役に立つよ。

まとめ

「イー」と言わせて歯を見せる手技は、口角を外上方へ引く笑筋・大頬骨筋などの表情筋の機能をみる診察法であり、表情筋はすべて第Ⅶ脳神経(顔面神経)に支配されるため、口角の左右差は顔面神経の障害を示します。顔面の感覚と咀嚼筋を担う三叉神経(Ⅴ)は表情筋を支配しないため、「表情はⅦ、噛むのはⅤ」と区別することが重要で、滑車神経(Ⅳ)は上斜筋、外転神経(Ⅵ)は外直筋、内耳神経(Ⅷ)は聴覚・平衡覚を担う感覚神経です。顔面神経は表情筋のほかアブミ骨筋、舌前2/3の味覚、涙腺・唾液腺の分泌にも関わります。口角の左右差は中枢性・末梢性のどちらの麻痺でも生じるため、額のしわ寄せが保たれるか(中枢性)、額も麻痺するか(末梢性)を合わせて評価することで、脳卒中とBell麻痺などを見分ける臨床判断につながります。

解答・解説

正解はdです

「イー」と発声させる(歯を見せて口を横に引かせる)手技は、顔面下部の表情筋の機能をみる代表的な診察法である。このとき口角を外側・上方へ引くのは、笑筋・大頬骨筋・口角挙筋などの表情筋であり、同時に広頸筋も収縮する。これらの表情筋はすべて第Ⅶ脳神経(顔面神経)の運動線維に支配されている。 片側の顔面神経に障害があると、「イー」と言わせたときに障害側の口角が十分に引かれず、健側に引っ張られるように口がゆがむ。したがって、口角の左右差は顔面神経の障害を示す所見である。 設問を解く考え方としては、各脳神経の運動支配を整理し、「口角を動かす筋=表情筋=顔面神経支配」と結びつければよい。咀嚼筋(咬筋など)を支配する三叉神経と混同しないことがポイントである。

選択肢考察

  1. ×a.  第 Ⅳ 脳神経

    第Ⅳ脳神経は滑車神経で、外眼筋のうち上斜筋のみを支配する。上斜筋は眼球を内下方へ向ける(内転位での下転)・内旋させる働きをもち、障害されると垂直性の複視が生じ、代償として健側へ頭部を傾ける頭位をとる。口角の運動には関与しない。

  2. ×b.  第 Ⅴ 脳神経

    第Ⅴ脳神経は三叉神経で、顔面の感覚(眼神経・上顎神経・下顎神経の3枝)と、咀嚼筋(咬筋・側頭筋・内側翼突筋・外側翼突筋)の運動を担う。角膜反射の求心路でもある。障害では顔面の感覚低下、咬合力低下、開口時の下顎の患側への偏位などがみられるが、表情筋は支配しないので口角の左右差は生じない。

  3. ×c.  第 Ⅵ 脳神経

    第Ⅵ脳神経は外転神経で、外直筋を支配し眼球を外転させる。障害されると患側眼の外転障害と水平性の複視が生じる。表情筋とは無関係である。

  4. ○d.  第 Ⅶ 脳神経

    第Ⅶ脳神経は顔面神経で、口角を引く笑筋・大頬骨筋・口角挙筋、口を閉じる口輪筋、眼を閉じる眼輪筋、額にしわを寄せる前頭筋、広頸筋などの表情筋を支配する。そのため片側の顔面神経が障害されると「イー」と言わせたときに患側の口角が引かれず、左右差が生じる。顔面神経はほかにアブミ骨筋、舌前2/3の味覚(鼓索神経)、涙腺・顎下腺・舌下腺の分泌も担う。

  5. ×e.  第 Ⅷ 脳神経

    第Ⅷ脳神経は内耳神経(聴神経)で、蝸牛神経が聴覚を、前庭神経が平衡覚を伝える純粋な感覚神経である。障害では難聴・耳鳴・めまい・眼振などがみられるが、運動線維を含まないため口角の運動には影響しない。ただし小脳橋角部腫瘍(聴神経鞘腫など)では隣接する顔面神経も巻き込まれることがある。

顔面神経の主な機能

・運動: 表情筋(前頭筋、眼輪筋、口輪筋、頬筋、笑筋、大頬骨筋、広頸筋など)、アブミ骨筋、茎突舌骨筋、顎二腹筋後腹 ・副交感: 涙腺、顎下腺・舌下腺の分泌 ・感覚: 舌前2/3の味覚(鼓索神経)

表情筋の診察

額にしわを寄せさせる(前頭筋)、強く目を閉じさせる(眼輪筋)、「イー」と歯を見せる(笑筋・大頬骨筋など)、頬をふくらませる・口笛を吹かせる(頬筋・口輪筋)などで左右差を観察する。

中枢性と末梢性の顔面神経麻痺の鑑別

顔面上部(前頭筋など)を支配する顔面神経核の部分は両側の大脳皮質から入力を受けるのに対し、顔面下部を支配する部分は主に対側の皮質から入力を受ける。このため、 ・中枢性(核上性)麻痺(脳梗塞など): 麻痺は病変と反対側の顔面下部に目立ち、額のしわ寄せは保たれる。 ・末梢性麻痺(Bell麻痺、Ramsay Hunt症候群など): 障害側の顔面上部・下部とも麻痺し、額のしわ寄せもできず、閉眼不全(兎眼)やBell現象がみられる。 「イー」での口角の左右差はどちらでも生じるため、額のしわ寄せなど他の所見と組み合わせて障害部位を推定する。

POINT

・「イー」と言わせたときの口角の左右差=表情筋の麻痺=第Ⅶ脳神経(顔面神経)障害。 ・咀嚼筋は三叉神経(Ⅴ)、表情筋は顔面神経(Ⅶ)と区別する。 ・Ⅳ: 上斜筋、Ⅵ: 外直筋、Ⅷ: 聴覚・平衡覚(感覚神経のみ)。 ・中枢性顔面麻痺は額のしわ寄せが保たれ、末梢性は額も麻痺する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。