StudyMed医師国家試験

「かすれ声」の正体は声質の異常―嗄声を他の症状と切り分ける

第101回医師国家試験 C問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第101回 C問題 第12問

嗄声について正しいのはどれか。

  1. a.咳ができる。
  2. b.息がしにくい。
  3. c.高調な声である。
  4. d.呂律が回らない。
  5. e.大きな声が出せる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は「嗄声」という症状の定義そのものを問う問題だ。言葉の意味をあいまいにしたままだと、呼吸困難や構音障害と混同しやすい。嗄声とは何の異常なのか、そこに着目して選択肢を見ていこう。
医学生医学生
嗄声って「声がかれる」ことですよね。声が出にくいイメージなので、大きな声が出せないとか、息苦しいとかも含まれる気がしてしまいます。
ドクタードクター
その感覚はよくある誤解なんだ。嗄声は「声の音色、つまり声質の異常」を指す言葉で、かすれ声やがらがら声のこと。声は呼気が声門を通るときに左右の声帯粘膜が振動してつくられる。声帯にポリープや炎症、浮腫があったり、声帯の動きが悪くて声門がうまく閉じなかったりすると、振動が不規則になって音色が変わる。だから嗄声は主に喉頭、声帯レベルの発声の障害なんだ。
医学生医学生
生理学の講義で習った「声帯振動」の話ですね。声の質だけの問題ということなら、ほかの機能は保たれているんでしょうか。
ドクタードクター
そう考えるのがポイントだ。正解は「咳ができる」。咳は声門を閉じて胸腔内圧を高め、一気に開いて呼気を噴き出す反射運動で、声帯がきれいに振動するかどうかとは別の機能なんだ。声帯ポリープや声帯結節、喉頭炎で声がかすれていても、ふつうに咳はできるよね。
医学生医学生
でも反回神経麻痺だと声帯が閉じないので、咳もできなくなりませんか。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。反回神経麻痺で声門閉鎖が不十分だと、咳の力が弱くなって効果的に痰を出しにくくなることはある。ただ咳そのものが不可能になるわけではない。嗄声があることが、ただちに咳ができないことを意味するわけではない、という理解でいい。
医学生医学生
では「息がしにくい」はどうですか。喉頭癌の患者さんで呼吸が苦しそうな方を見た気がします。
ドクタードクター
呼吸困難は気道が狭くなることで起こる症状で、嗄声の定義には含まれない。小さなポリープでは声は変わっても呼吸は楽なままだ。進行した喉頭癌や両側反回神経麻痺、急性喉頭蓋炎などでは嗄声に加えて呼吸困難や吸気性喘鳴が出ることがあるけれど、それは原因疾患による合併症状であって、嗄声そのものの特徴ではないんだ。
医学生医学生
なるほど、症状の定義と原因疾患の随伴症状を分けて考えるんですね。「高調な声」はどうでしょう。かすれ声って甲高いイメージもあります。
ドクタードクター
声の高さは声帯の質量・長さ・緊張度で決まるから、原因によって上がることも下がることもある。たとえば喫煙者に多いポリープ様声帯、いわゆるラインケ浮腫では声帯の質量が増すので、低く太い声になる。甲状腺機能低下症でも声帯が浮腫んで低い声になる。だから一律に高調とはいえない。
医学生医学生
「呂律が回らない」は、神経内科の実習で脳梗塞の患者さんに見られた構音障害ですよね。
ドクタードクター
その通り。呂律が回らないのは、口唇・舌・軟口蓋などの構音器官の運動障害で、声帯でつくった声を言葉の音に加工する段階の問題だ。嗄声だけなら発音そのものは明瞭に保たれる。音声障害、構音障害、そして大脳の言語中枢の障害である失語、この3つは区別して覚えておこう。
医学生医学生
最後の「大きな声が出せる」は、正しいこともありそうで迷いました。
ドクタードクター
迷うのはもっともだ。声の大きさも原因次第なんだ。反回神経麻痺のように声門が閉じきらないと息が漏れてかすれる気息性嗄声になり、大きな声は出しにくい。一方、ポリープや喉頭炎によるがらがら声では大きな声が出ることもある。つまり嗄声の一般的な特徴として「大きな声が出せる」とはいえない。
医学生医学生
嗄声は声質の異常に限った言葉で、高さや大きさ、呼吸、発音は別の軸で考える、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、嗄声の聴覚的評価にはGRBAS尺度がある。総合的な程度のG、がらがら声の粗糙性R、息漏れの気息性B、弱々しい無力性A、力んだ努力性Sを、それぞれ0〜3の4段階で評価する。Rは声帯の振動が不規則になる病変、Bは声門閉鎖不全で目立つと覚えるといい。
医学生医学生
臨床で嗄声の患者さんが来たら、どこまで調べるべきでしょうか。
ドクタードクター
2週間以上続く嗄声、とくに喫煙歴のある中高年では、喉頭癌を念頭に喉頭内視鏡検査を行うことが大切だ。声門癌は早期から嗄声が出るので、見逃さなければ早期に見つけやすい。さらに声帯の動きが悪ければ反回神経麻痺を疑い、甲状腺癌、食道癌、肺癌、胸部大動脈瘤など、神経の走行に沿った病変も検索する。「たかが声がれ」と思わないことだね。

まとめ

嗄声は「かすれ声」「がらがら声」といった声質の異常であり、主に声帯の器質的病変や運動障害によって声帯振動が乱れることで生じます。嗄声それ自体は呼吸困難や構音障害(呂律が回らない)を意味せず、声の高さや大きさの変化も原因によって異なるため定義には含まれません。咳は声門の開閉による反射運動で、声帯振動の質とは別の機能のため、嗄声があっても通常は可能です(反回神経麻痺では弱くなることがあります)。嗄声はGRBAS尺度で評価し、持続する嗄声では喉頭癌や反回神経麻痺の原因となる悪性腫瘍・大動脈瘤の検索が重要です。症状の定義を正確に押さえ、関連症状と切り分ける姿勢は、問診と鑑別診断の基本となります。

解答・解説

正解はaです

嗄声(させい、hoarseness)という症状の定義を正しく理解しているかを問う問題である。

嗄声とは

嗄声は「声の音色(声質)の異常」であり、いわゆる「かすれ声」「がらがら声」を指す。声は、呼気が声門(左右の声帯の間)を通過するときに声帯粘膜が振動して作られる。声帯に腫瘤・炎症・浮腫があったり、声帯の動きが悪く声門がうまく閉じなかったりすると、振動が不規則・非対称になり、声質が変化する。つまり嗄声は主に喉頭(声帯)レベルの発声機能の障害である。

考え方

嗄声という言葉が表すのは声の音質の変化だけであり、それ自体は次のような症状を意味しない。 ・呼吸困難(気道の狭窄による症状) ・構音障害(口唇・舌・口蓋など発声後の音を言葉に加工する器官や、その神経支配の障害) ・声の高さや大きさの一定の変化(原因疾患によって高くも低くもなり、大きな声が出る場合も出ない場合もある) 一方、嗄声を呈する患者の多くは咳をすることができる。咳は声門を閉じて胸腔内圧を高め、一気に開いて呼気を噴出させる反射運動であり、声帯の振動の質とは別の機能である。反回神経麻痺などで声門閉鎖が不十分な場合には咳が弱く効果的でなくなることはあるが、嗄声があることがただちに咳ができないことを意味するわけではない。 このように「嗄声という症状の本質(声質の異常)」と、それ以外の症状(呼吸困難・構音障害など)を区別して選択肢を検討すると、咳ができるという記述が正しいと判断できる。

選択肢考察

  1. ○a.  咳ができる。

    嗄声は声質の異常であり、咳をする機能そのものが失われるわけではない。声帯ポリープ、声帯結節、ポリープ様声帯、急性・慢性喉頭炎、喉頭癌の初期などで嗄声があっても、通常は咳をすることができる。反回神経麻痺で声門が十分に閉じない場合は咳の力が弱くなる(気息性の咳)ことがあるが、咳自体は可能である。したがって嗄声の説明として正しい。

  2. ×b.  息がしにくい。

    呼吸困難は気道が狭くなることで生じる症状であり、嗄声の定義には含まれない。声帯ポリープや声帯結節のような小さな病変では、声質は変わっても呼吸には影響しない。ただし、進行した喉頭癌、高度のポリープ様声帯、両側反回神経麻痺(声帯が正中付近で固定する)、急性喉頭蓋炎などで声門や声門上が狭窄すると、嗄声に加えて呼吸困難や吸気性喘鳴を伴うことがある。これは原因疾患による合併症状であり、嗄声そのものの特徴ではない。

  3. ×c.  高調な声である。

    嗄声は声の高さ(ピッチ)の異常を意味しない。声の高さは声帯の質量・長さ・緊張度で決まり、原因によって変化の方向が異なる。例えば、喫煙者に多いポリープ様声帯(ラインケ浮腫)では声帯の質量が増すため低く太い声になる。嗄声が一律に高調な声になるという記述は誤りである。

  4. ×d.  呂律が回らない。

    呂律が回らないのは構音障害であり、口唇・舌・軟口蓋などの構音器官の運動障害(脳血管障害、神経変性疾患、筋疾患などによる麻痺性構音障害など)で起こる。声帯で作られた声を言葉の音に加工する段階の障害であって、声質の異常である嗄声とは別の症状である。嗄声のみでは発音は明瞭に保たれる。

  5. ×e.  大きな声が出せる。

    声の大きさは嗄声の定義とは関係せず、原因によって異なる。反回神経麻痺などで声門閉鎖が不十分な場合は、息が漏れてかすれた声(気息性嗄声)となり、大きな声を出すことが難しい。一方、声帯ポリープや喉頭炎などによるがらがら声(粗糙性嗄声)では大きな声を出せることもある。したがって嗄声の一般的な特徴として「大きな声が出せる」とはいえない。

音声障害と言語障害の区別

・音声障害:声そのもの(声質・高さ・大きさ)の異常。嗄声は声質の異常の代表で、主に喉頭の障害で起こる。 ・構音障害:声を言葉の音に加工する構音器官(口唇・舌・口蓋など)の障害。呂律が回らない、発音が不明瞭になる。 ・失語:大脳の言語中枢の障害による、言語の理解・表出の障害。

嗄声の聴覚的分類(GRBAS尺度)

G(grade):嗄声の総合的な程度 R(rough):粗糙性。がらがらした声。声帯の振動が不規則になる病変(ポリープ、喉頭炎、喉頭癌など)で目立つ。 B(breathy):気息性。息漏れのあるかすれた声。声門閉鎖不全(反回神経麻痺、声帯溝症など)で目立つ。 A(asthenic):無力性。弱々しく力のない声。 S(strained):努力性。のどを締めつけたような力んだ声(痙攣性発声障害など)。 各項目を0〜3の4段階で評価する。

嗄声の主な原因

・声帯の器質的病変:声帯ポリープ、声帯結節、ポリープ様声帯(ラインケ浮腫)、喉頭乳頭腫、喉頭癌(特に声門癌は早期から嗄声を呈する) ・炎症:急性・慢性喉頭炎 ・声帯運動障害:反回神経麻痺(甲状腺癌、食道癌、肺癌、胸部大動脈瘤、甲状腺・頸部・胸部手術後など) ・機能性:心因性発声障害、痙攣性発声障害 ・その他:甲状腺機能低下症(声帯の浮腫による低く太い声)

受診時の注意

2週間以上持続する嗄声、特に喫煙歴のある中高年では、喉頭癌や反回神経麻痺の原因となる悪性腫瘍を念頭に置いて喉頭内視鏡検査を行う。

POINT

・嗄声は「声質の異常」(かすれ声・がらがら声)であり、主に声帯の障害で起こる。 ・嗄声それ自体は呼吸困難や構音障害(呂律が回らない)を意味しない。 ・声の高さや大きさの変化は原因によって異なり、嗄声の定義には含まれない(ポリープ様声帯では低い声、気息性嗄声では大きな声が出しにくい)。 ・嗄声の分類:粗糙性(R)、気息性(B)、無力性(A)、努力性(S)=GRBAS尺度。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。