治験は「始めて終わり」ではない―IRBが最後まで見届ける理由
第101回医師国家試験 C問題 第1問
国試問題にチャレンジ
治験について正しいのはどれか。
- a.治験の結果は非公開である。
- b.遺伝カウンセリングは必須である。
- c.臨床研究の倫理指針の遵守は十分条件である。
- d.治験終了時はIRB〈施設内倫理委員会〉に終了報告する。
- e.治験実施医療機関には個人情報管理者の設置が必須である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
治験は医薬品・医療機器の製造販売承認申請のためのデータを集める臨床試験であり、医薬品医療機器等法とGCP省令に基づいて実施されます。治験審査委員会(IRB)は開始前の審査だけでなく、実施中の安全性情報をふまえた継続の判断にも関わり、治験の終了・中止時にはその旨と結果の概要が通知されます。研究一般向けの倫理指針は治験には適用されず、より厳格なGCPを満たす必要があるほか、ヘルシンキ宣言に基づき結果は好ましいか否かにかかわらず公表すべきとされています。治験の相の区別や出版バイアスの考え方とあわせて理解しておくと、研究倫理全般の問題に強くなり、将来治験に関わる際にも被験者を守る視点を持てます。
解答・解説
正解はdです
※この問題は、厚生労働省の発表により、正解した受験者は採点対象に含め、不正解の受験者は採点対象から除外する扱いとされています。
治験とは、医薬品や医療機器について、製造販売の承認を国に申請するためのデータを集める目的で行われる臨床試験のことである。臨床研究一般とは異なり、治験は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(医薬品医療機器等法、旧薬事法)に基づいて実施され、その具体的な実施基準は厚生労働省令「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(GCP: Good Clinical Practice)に定められている。GCPは日米EUの国際的な合意(ICH-GCP)に沿った内容で、被験者の人権・安全の保護と、得られるデータの科学的な信頼性の確保を二本柱としている。 GCPで押さえておくべき仕組みは次のとおりである。 ・治験を行う医療機関の長は、治験審査委員会(IRB: Institutional Review Board)を設置するか外部のIRBに依頼し、治験の実施の可否をあらかじめ審査させなければならない。 ・IRBは治験開始時だけでなく、実施中も重篤な有害事象や安全性情報の報告を受け、継続の適否を審査する。 ・被験者からは、文書による説明と文書による同意(インフォームド・コンセント)を得なければならない。 ・治験が終了・中止されたときは、その旨と結果の概要をIRBおよび治験依頼者(製薬企業等)へ通知する。 本問は、この「IRBの審査は治験の開始から終了まで一貫して関与する」という仕組みを理解しているかを問うている。そのうえで、治験を規律するのは研究一般向けの倫理指針ではなくGCPという法令であること、結果の公開は研究倫理上の要請であることなどを判断材料に、各選択肢を検討すればよい。 なお本問は、必修問題として出題されたが、試験後に「問題として適切であるが、必修問題としては妥当でない」とされ、正解した受験者は採点対象に含め、不正解の受験者は採点対象から除外する扱いとなった。GCPの細かな手続きを問う内容であり、医師として必ず身につけるべき基本事項を問う必修問題の水準を超えていると判断されたと考えられる。
選択肢考察
- ×a. 治験の結果は非公開である。
誤り。ヒトを対象とする研究の結果は、肯定的な結果か否定的な結果かにかかわらず公表すべきであることが、世界医師会のヘルシンキ宣言に明記されている。都合のよい結果だけが公表されると、治療効果が過大評価される「出版バイアス」を招くからである。現在、治験は開始前に公開データベース(国内では臨床研究等提出・公開システム〈jRCT〉など)へ登録し、その概要や結果を公開することが求められている。また承認された医薬品については、治験成績を含む審査報告書などが公開される。「非公開である」という決まりはない。
- ×b. 遺伝カウンセリングは必須である。
誤り。遺伝カウンセリングは、遺伝性疾患や遺伝学的検査に関して、患者や家族に情報提供と心理的支援を行うものである。遺伝学的検査を伴う研究や診療では必要に応じて提供される体制が求められるが、治験一般の実施要件ではなく、GCPにもそのような規定はない。
- ×c. 臨床研究の倫理指針の遵守は十分条件である。
誤り。研究一般に適用される倫理指針(出題当時は「臨床研究に関する倫理指針」、現在は「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」)は、法令に基づいて実施される研究を適用対象外としており、治験もこれに含まれる。治験を規律するのは医薬品医療機器等法とGCP省令であり、治験依頼者・医療機関・IRBの手続き、文書同意、有害事象報告、記録の保存など、より厳格で具体的な要件を満たす必要がある。倫理指針を守っただけでは治験を適正に実施したことにはならず、「十分条件」とはいえない。
- ○d. 治験終了時はIRB〈施設内倫理委員会〉に終了報告する。
正解。GCPでは、治験が終了または中止されたときは、その旨と結果の概要を治験審査委員会(IRB)および治験依頼者に通知することが定められている。手続きとしては、治験責任医師が実施医療機関の長に報告し、医療機関の長がIRBと治験依頼者に通知する流れである。IRBは治験の開始前の審査だけでなく、実施中の安全性情報をふまえた継続の可否の判断まで担っており、その審査を完結させるために終了の報告が必要となる。
- ×e. 治験実施医療機関には個人情報管理者の設置が必須である。
誤り。被験者の個人情報やプライバシーを保護する措置を講じることは当然求められ、GCPにも被験者の秘密の保全に関する規定がある。しかし、治験を実施する要件として「個人情報管理者」という特定の職を医療機関に設置することまでは義務づけられていない。施設によって設置されることはあるが、必須ではない。
治験と臨床研究の関係
・臨床研究: ヒトを対象として、疾病の予防・診断・治療の改善や病態の理解を目的に行われる医学研究の総称である。 ・臨床試験: 臨床研究のうち、薬や治療法などの介入を行ってその効果・安全性を評価するもの。 ・治験: 臨床試験のうち、医薬品・医療機器などの製造販売承認申請に用いるデータを集めるもの。医薬品医療機器等法とGCP省令で規律される。 ・医薬品の承認を目的としない臨床研究のうち、未承認・適応外の医薬品を用いる研究や、製薬企業から資金提供を受けて医薬品を評価する研究は「特定臨床研究」として臨床研究法(2018年施行)の対象となる。それ以外の研究は倫理指針に従って実施される。
治験の相
・第I相: 少数の健康成人(抗がん薬などでは患者)を対象に、安全性と薬物動態を調べる。 ・第II相: 少数の患者を対象に、有効性と安全性、適切な用法・用量を探索する。 ・第III相: 多数の患者を対象に、既存薬やプラセボと比較して有効性・安全性を検証する。 ・第IV相: 市販後に行われる臨床試験(製造販売後臨床試験)で、治験には含まれない。
研究倫理の基本文書
・ニュルンベルク綱領(1947年): 被験者の自発的同意の必要性を明文化した。 ・ヘルシンキ宣言(1964年、世界医師会): 医学研究の倫理原則。倫理委員会による審査、インフォームド・コンセント、研究の事前登録と結果の公表などを定め、改訂が重ねられている。
IRB(治験審査委員会)
・医学・薬学の専門家に加え、専門家以外の委員や、実施医療機関・設置者と利害関係のない委員を含めて構成される。 ・治験の実施の可否、実施中の継続の可否、同意説明文書の内容などを審査する。
POINT
・治験は医薬品医療機器等法とGCP省令に基づいて行われる。研究一般向けの倫理指針の遵守だけでは不十分である。 ・IRBは治験の開始前から終了まで関与し、終了・中止時にはその旨と結果の概要が報告される。 ・研究結果は好ましい結果か否かにかかわらず公表すべきである(ヘルシンキ宣言)。 ・被験者からは文書による説明・文書による同意を得る。 ・本問は必修問題として妥当でないとして、不正解者を採点対象から除外する扱いとなった。
