採血管の色には理由がある―検査項目と抗凝固薬の正しい組合せ
第101回医師国家試験 B問題 第86問
国試問題にチャレンジ
血液検査項目と抗凝固薬の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.赤沈 ―― ワルファリン
- b.血小板 ―― EDTA
- c.プロトロンビン時間 ―― ヘパリン
- d.血糖 ―― フッ化ナトリウム加EDTA
- e.動脈血ガス分析 ―― クエン酸ナトリウム
対話形式の解説
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医学生まとめ
採血管の抗凝固薬は検査目的に応じて使い分けられ、血算(血小板数を含む)にはEDTA-2K、PTやAPTTなどの凝固検査には3.2%クエン酸ナトリウム(血液9:1)、赤沈には3.8%クエン酸ナトリウム(血液4:1)、血糖には解糖を阻止するフッ化ナトリウムを加えた採血管、血液ガス分析にはヘパリンを用います。EDTAやクエン酸はCa2+をキレートし、ヘパリンはアンチトロンビンを介して凝固因子を阻害するという作用機序の違いが、使い分けの理由になっています。ワルファリンは体内で凝固因子の合成を抑える治療薬であり、採血管には使いません。EDTA依存性偽性血小板減少症や、EDTA混入による偽性高カリウム血症、採血量不足による凝固時間の延長など、検査前の要因による誤差も知っておくことで、臨床像と合わない検査値に気づき、正しく解釈できるようになります。
解答・解説
正解はb, dです
採血管に入れる抗凝固薬は、検査の目的に合わせて使い分けられている。本問は、代表的な検査項目ごとに正しい抗凝固薬を選べるかを問う。 抗凝固薬の作用機序は大きく2つに分けられる。 1. カルシウムイオン(Ca2+)を除去して凝固を止めるもの:EDTA(エチレンジアミン四酢酸)塩、クエン酸ナトリウム、シュウ酸塩など。凝固カスケードの多くの段階でCa2+が必要なため、これを結合(キレート)または沈殿させると血液は固まらない。 2. 凝固因子の働きを直接抑えるもの:ヘパリン。アンチトロンビンと結合してその作用を増強し、トロンビンや活性化第X因子を不活化する。Ca2+濃度を変えない。 検査ごとの原則は次のとおりである。 ・血算(血球数、血小板数、白血球分画など):EDTA-2K(EDTA二カリウム塩)。細胞の形態をよく保ち、血小板凝集も抑える。 ・凝固検査(PT、APTT、フィブリノゲンなど):3.2%クエン酸ナトリウム(血液9:抗凝固薬1)。Ca2+を後から加えて凝固反応を再開できる。 ・赤沈:3.8%クエン酸ナトリウム(血液4:抗凝固薬1)。 ・血糖:フッ化ナトリウム(解糖阻止)にEDTAやヘパリンなどの抗凝固薬を加えたもの。 ・血液ガス分析:ヘパリン(通常は乾燥ヘパリン入りシリンジ)。 なお、ワルファリンは体内で肝臓のビタミンK依存性凝固因子の合成を抑える経口薬であり、試験管内(採血管内)で血液の凝固を止める作用はない。この点も選択肢を絞るうえで重要である。
選択肢考察
- ×a. 赤沈 ―― ワルファリン
誤りである。赤沈(赤血球沈降速度)は3.8%クエン酸ナトリウムと血液を1:4の比で混ぜて測定する(Westergren法)。ワルファリンはビタミンKの働きを阻害し、肝臓で作られる第II・VII・IX・X因子などの機能をもった分子の合成を減らす経口抗凝固薬である。効果の発現には体内での代謝と既存の凝固因子の減少が必要で数日かかり、採血後の血液に加えても凝固を止めることはできないため、採血管の抗凝固薬としては用いられない。
- ○b. 血小板 ―― EDTA
正しい組合せである。血小板数を含む血球算定にはEDTA塩(主にEDTA-2K)が用いられる。EDTAはCa2+を強力にキレートして凝固を止めるとともに、血球の形態や大きさを比較的よく保ち、血小板の凝集も抑えるため、自動血球計数や塗抹標本の観察に適している。ただし、まれにEDTA存在下で血小板が凝集して見かけ上血小板数が低く出ることがある(EDTA依存性偽性血小板減少症)。臨床症状と合わない血小板減少をみた場合は、塗抹標本で血小板凝集の有無を確認し、クエン酸ナトリウムやヘパリン採血で再検する。
- ×c. プロトロンビン時間 ―― ヘパリン
誤りである。プロトロンビン時間(PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)などの凝固検査には、3.2%クエン酸ナトリウムを血液9:抗凝固薬1の比で用いる。クエン酸はCa2+を可逆的に結合するだけなので、測定時にCa2+を加えれば凝固反応を再開させて凝固時間を測ることができる。これに対し、ヘパリンはアンチトロンビンを介してトロンビンや活性化第X因子を直接阻害するため、試料中に入ると凝固時間そのものが延長し、正しい値が得られない。採血量が不足して血液と抗凝固薬の比が崩れた場合も凝固時間が延長するため、規定量の採血が重要である。
- ○d. 血糖 ―― フッ化ナトリウム加EDTA
正しい組合せである。採血後の血液中でも赤血球や白血球はブドウ糖を消費し続ける(解糖)ため、そのまま放置すると室温で1時間あたり5~10%程度血糖値が低下する。フッ化ナトリウムは解糖系の酵素エノラーゼを阻害して解糖を止める。フッ化ナトリウム自体の抗凝固作用は弱いため、EDTAやヘパリンなどの抗凝固薬と組み合わせた採血管が用いられる。なお、フッ化ナトリウムによる解糖阻止は効果が現れるまでに時間がかかるため、採血後の早期にもある程度の低下は起こりうる点に留意する。HbA1cは赤血球内のヘモグロビンを測定するためEDTA採血で測定されることが多い。
- ×e. 動脈血ガス分析 ―― クエン酸ナトリウム
誤りである。動脈血ガス分析(pH、PaO2、PaCO2、HCO3-など)には、ヘパリン(通常はヘパリンを塗布した専用シリンジ)が用いられる。クエン酸ナトリウムやEDTAは液体や塩として加えることで試料を希釈したり、酸・塩基としてpHを変化させたりするため、血液ガスの測定値に影響する。また、血液ガス分析装置では電解質やイオン化カルシウムを同時に測定することが多く、Ca2+をキレートする抗凝固薬ではイオン化カルシウムが正しく測れない。採血時には気泡の混入を避け、速やかに測定する(すぐに測定できない場合は冷却する)ことも重要である。
主な抗凝固薬と用途の整理
・EDTA-2K(Ca2+キレート):血算、血液像、網赤血球、HbA1c、血中アンモニア(施設により異なる)、交差適合試験用の血漿など。 ・3.2%クエン酸ナトリウム(Ca2+キレート、血液9:1):PT、APTT、フィブリノゲン、Dダイマーなどの凝固・線溶検査。 ・3.8%クエン酸ナトリウム(血液4:1):赤沈(Westergren法)。 ・ヘパリン(アンチトロンビン活性増強):血液ガス分析、一部の生化学検査(ヘパリン血漿)、染色体検査・リンパ球培養など。 ・フッ化ナトリウム(解糖阻止)+抗凝固薬:血糖、乳酸。 ・抗凝固薬なし(凝固促進剤・分離剤入りの場合あり):血清を用いる生化学検査・免疫学的検査。
検査前誤差の例
・EDTA採血管の血液が生化学検査に混入すると、見かけ上の高カリウム血症や低カルシウム血症を示すことがある。 ・凝固検査用採血管で採血量が不足すると、抗凝固薬が相対的に過剰となりPT・APTTが延長する。 ・血糖を抗凝固薬のみ(解糖阻止剤なし)の採血管に入れて放置すると、偽低値となる。 ・溶血や長時間放置では血清カリウムが高値となる。
体内で使う抗凝固薬との区別
ワルファリン(ビタミンK拮抗薬)や直接経口抗凝固薬(DOAC)は治療薬であり、採血管の抗凝固薬には用いない。ワルファリン内服中の効果判定にはPT-INRを用いる。
POINT
・血算(血小板数を含む):EDTA-2K。EDTA依存性偽性血小板減少症に注意。 ・凝固検査(PT、APTT):3.2%クエン酸ナトリウム(血液9:1)。 ・赤沈:3.8%クエン酸ナトリウム(血液4:1)。 ・血糖:フッ化ナトリウム(解糖阻止)を加えた採血管。 ・血液ガス分析:ヘパリン。 ・ワルファリンは体内で凝固因子の合成を阻害する薬で、採血管には使わない。
