StudyMed医師国家試験

その症状、皮質の声か?―Broca失語と二点識別覚で読み解く「局在診断」の基本

第101回医師国家試験 B問題 第79問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第79問

大脳皮質の障害に特徴的な症候はどれか。2つ選べ。

  1. a.運動失調
  2. b.Broca失語
  3. c.Kernig徴候
  4. d.Babinski徴候
  5. e.二点識別覚障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、神経症候を「どこが壊れると出るか」という局在の視点で整理する問題だ。ポイントは、大脳皮質そのものが障害されたときに初めて現れる症候と、皮質以外の場所の障害でも出る症候を区別できるかどうか。まず、皮質が担っている機能から思い浮かべてみよう。
医学生医学生
言語とか、認知とか、いわゆる高次脳機能ですよね。神経解剖の講義でBrodmannの脳地図を覚えさせられました。
ドクタードクター
そうだね。皮質は言語、行為、認知、そして感覚情報の統合といった「高度な処理」を担当している。だから皮質が障害されると、失語、失行、失認、半側空間無視、それに複合感覚の障害といった症候が出る。これらは脊髄や脳幹、小脳、末梢神経の障害では起こらないから、病変が皮質にあることの強い手がかりになるんだ。
医学生医学生
そうすると、Broca失語はまさに皮質症候ですね。優位半球の下前頭回後部でしたっけ。
ドクタードクター
その通り。Broca野とその周囲の障害で起こり、言語理解は比較的保たれるのに、発話が非流暢でたどたどしく、復唱も障害される。多くは中大脳動脈上枝領域の脳梗塞で、運動野に近いから右片麻痺を伴いやすい。言語という高次機能の障害だから、典型的な皮質症候だ。
医学生医学生
Babinski徴候も、運動野の障害で出るなら皮質症候に入りませんか。脳梗塞の患者さんでよく陽性になっていました。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。Babinski徴候は錐体路、つまり上位運動ニューロンの障害を示す病的反射だ。錐体路は運動野から放線冠、内包、脳幹を通って脊髄まで長く走っているから、そのどこが障害されても陽性になりうる。たとえば頸髄症でも陽性になるよね。だから「上位運動ニューロン障害がある」ことは言えても、「皮質に病変がある」とまでは言えないんだ。
医学生医学生
なるほど、出る場所が皮質に限らないから「特徴的」とは言えないわけですね。では運動失調はどうでしょう。
ドクタードクター
運動失調は筋力低下がないのに運動の協調が崩れる状態で、原因部位は主に3つ。小脳性、後索や末梢神経の障害による深部感覚障害からくる感覚性、そして前庭性だ。前頭葉病変などでまれに失調様の症状が出ることはあるけれど、皮質障害に特徴的とはいえない。
医学生医学生
感覚性失調はRomberg徴候が陽性になるタイプですね。OSCEの神経診察で練習しました。
ドクタードクター
よく覚えているね。閉眼で悪化するのが感覚性、開眼でもふらつくのが小脳性、と区別する。もう一つ、Kernig徴候はどうかな。
医学生医学生
髄膜刺激徴候ですよね。髄膜炎やくも膜下出血で出るものなので、皮質の機能障害とは別物だと思います。
ドクタードクター
正解。仰臥位で股関節と膝を90度に曲げた状態から膝を伸ばそうとすると、抵抗や痛みで伸ばせない所見だ。項部硬直やBrudzinski徴候とともに、髄膜の炎症や刺激を示すもので、皮質の障害を示すものではない。では最後、二点識別覚障害はどうだろう。
医学生医学生
感覚障害なので、正直なところ末梢神経や脊髄の病変でも起こりそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
もっともな疑問だね。ここで大事なのが「一次感覚」と「複合感覚」の区別だ。触覚や痛覚、振動覚のような一次感覚は情報そのもの。二点識別覚は、その情報を頭頂葉の一次体性感覚野と感覚連合野で統合して、はじめて「2点だ」と判断できる。立体覚や皮膚書字覚と同じく、複合感覚、あるいは皮質性感覚と呼ばれるものなんだ。
医学生医学生
つまり、触覚自体は分かるのに二点識別ができないなら、頭頂葉の皮質が怪しいということですね。
ドクタードクター
そういうこと。後索などの上行路が障害されても二点識別覚は低下しうるけれど、その場合は触覚や深部感覚といった一次感覚の障害も伴う。だから複合感覚は、一次感覚が保たれていることを確認したうえで評価するのが原則だ。というわけで、正解はBroca失語と二点識別覚障害の2つになる。
医学生医学生
症候を見たら「どの経路のどこで起こりうるか」を考えると、皮質特有かどうかが見えてきますね。
ドクタードクター
その姿勢が大切だよ。発展として、皮質の機能局在もまとめておこう。優位半球の角回が障害されると失書、失算、手指失認、左右失認のGerstmann症候群、劣位半球の頭頂葉なら左半側空間無視や着衣失行、病態失認が出る。側頭葉ではWernicke野の障害で流暢だが理解の悪い感覚性失語、後頭葉では対側同名半盲や相貌失認などの視覚失認だ。
医学生医学生
脳神経内科の実習で、左半側空間無視の患者さんが食事の左半分だけ残していたのが印象的でした。
ドクタードクター
まさに劣位半球頭頂葉の皮質症候だね。こうした症候は、画像を撮る前のベッドサイドで病変部位を推定する大きな武器になる。救急で脳卒中を疑ったときも、失語や無視があれば皮質を含む病変、つまり大きな血管の閉塞を考える手がかりになるから、意識して診察してほしい。

まとめ

大脳皮質の障害に特徴的な症候とは、言語・行為・認知・感覚統合といった皮質固有の機能が失われて現れるもので、失語、失行、失認、半側空間無視、複合感覚(二点識別覚・立体覚・皮膚書字覚)障害が代表です。Broca失語は優位半球下前頭回後部の障害で生じる非流暢性失語であり、二点識別覚障害は一次感覚が保たれたうえで出現すれば頭頂葉皮質病変を示唆します。一方、Babinski徴候は皮質から脊髄までの錐体路のどこが障害されても陽性となり、運動失調は小脳・深部感覚・前庭の障害、Kernig徴候は髄膜刺激を示すため、いずれも皮質に特異的ではありません。症候ごとに「その経路のどこで起こりうるか」を考える習慣は、ベッドサイドでの局在診断や脳卒中の初期評価の基盤となります。

解答・解説

正解はb, eです

神経症候は「どこが障害されると出るか」という局在の観点で整理することが重要である。本問では、大脳皮質そのものの機能が失われたときに初めて現れる症候(皮質症候)を選ぶ。

皮質症候とは

大脳皮質は、言語・行為・認知・高次の感覚統合などを担う。皮質の障害で特徴的に現れるのは、失語、失行、失認、半側空間無視、そして複合感覚(皮質性感覚)の障害などである。これらは脊髄・脳幹・小脳・末梢神経の障害では生じないため、病変が皮質にあることを示す手がかりとなる。

選択肢の整理

・Broca失語:優位半球前頭葉のBroca野(下前頭回後部)の障害で生じる言語障害であり、典型的な皮質症候である。 ・二点識別覚障害:二点識別覚は、一次感覚で得た情報を頭頂葉の感覚連合野で統合して判断する複合感覚であり、頭頂葉皮質の障害で障害される。 ・運動失調は小脳・深部感覚・前庭の障害、Kernig徴候は髄膜刺激、Babinski徴候は錐体路(上位運動ニューロン)の障害を示す徴候であり、いずれも皮質に特異的なものではない。

選択肢考察

  1. ×a.  運動失調

    運動失調は、筋力低下がないのに運動の協調が障害され、円滑で正確な運動ができなくなる状態である。原因部位により、小脳性(小脳半球・虫部の障害)、脊髄性・感覚性(後索や末梢神経の障害による深部感覚障害。閉眼で増悪しRomberg徴候陽性)、前庭性(内耳・前庭神経の障害)に分類される。大脳病変(前頭葉など)でまれに失調様症状を呈することはあるが、大脳皮質障害に特徴的な症候とはいえない。

  2. ○b.  Broca失語

    Broca失語(運動性失語)は、優位半球(多くは左)前頭葉の下前頭回後部にあるBroca野とその周囲の皮質・皮質下の障害で生じる。言語理解は比較的保たれるが、発話は非流暢でたどたどしく、復唱も障害される。多くは中大脳動脈上枝領域の脳梗塞で起こり、右片麻痺を伴いやすい。言語という高次機能の障害であり、大脳皮質障害に特徴的な症候である。

  3. ×c.  Kernig徴候

    Kernig徴候は、仰臥位で股関節と膝関節を90度に曲げた状態から膝を伸展させようとすると、抵抗や痛みのため十分に伸ばせない所見である。項部硬直、Brudzinski徴候とともに髄膜刺激徴候の一つで、髄膜炎やくも膜下出血でみられる。髄膜の炎症・刺激を示すものであり、大脳皮質の障害を示す症候ではない。

  4. ×d.  Babinski徴候

    Babinski徴候は、足底外側を踵からつま先に向けてこすると母趾が背屈する(しばしば他の趾が扇状に開く)病的反射で、錐体路徴候の代表である。錐体路は大脳皮質運動野から放線冠・内包・脳幹を経て脊髄に至るため、この経路のどこが障害されても陽性となりうる。したがって皮質に特異的な症候ではなく、上位運動ニューロン障害の存在を示すにとどまる。なお、錐体路の髄鞘化が未完成な乳児(おおむね1〜2歳頃まで)では正常でも陽性となる。

  5. ○e.  二点識別覚障害

    二点識別覚は、皮膚の2点を同時に触れたときに2点として区別できる能力で、立体覚(触って物の形を認識する)、皮膚書字覚などとともに複合感覚(皮質性感覚)に分類される。末梢からの触覚情報を頭頂葉(一次体性感覚野と感覚連合野)で統合して初めて成立するため、触覚・痛覚などの一次感覚が保たれているのに二点識別覚が障害される場合は、対側頭頂葉皮質の障害を示唆する。なお、後索など上行路の障害でも低下しうるが、その場合は一次感覚(触覚・深部感覚)の障害を伴う点で区別される。

大脳皮質の主な機能局在と障害時の症候

・前頭葉:一次運動野(対側の運動麻痺)、Broca野(運動性失語)、前頭前野(人格変化、脱抑制、発動性低下、遂行機能障害)、前頭眼野(病側への共同偏視) ・頭頂葉:一次体性感覚野(対側の感覚障害)、感覚連合野(複合感覚障害)、優位半球角回(Gerstmann症候群:失書、失算、手指失認、左右失認)、劣位半球(左半側空間無視、着衣失行、病態失認) ・側頭葉:Wernicke野(感覚性失語)、海馬(記憶障害)、一次聴覚野、上1/4同名半盲 ・後頭葉:一次視覚野(対側同名半盲、黄斑回避)、視覚連合野(視覚失認、相貌失認)

失語の分類の基本

・Broca失語:非流暢、理解は比較的良好、復唱障害あり ・Wernicke失語:流暢だが錯語が多い、理解不良、復唱障害あり ・伝導失語:流暢、理解良好、復唱が特に障害される(弓状束の障害) ・全失語:発話・理解とも高度に障害

症候と病変部位の対応

・運動失調:小脳、後索・末梢神経(深部感覚)、前庭 ・髄膜刺激徴候(項部硬直、Kernig徴候、Brudzinski徴候):髄膜炎、くも膜下出血 ・錐体路徴候(Babinski徴候、腱反射亢進、痙性麻痺):大脳皮質〜脊髄までの上位運動ニューロン

複合感覚(皮質性感覚)

二点識別覚、立体覚、皮膚書字覚、触覚定位、2点同時刺激識別(消去現象の有無)など。一次感覚が保たれていることを前提に評価し、障害があれば頭頂葉病変を疑う。

POINT

・大脳皮質障害に特徴的な症候:失語、失行、失認、半側空間無視、複合感覚障害(二点識別覚・立体覚・皮膚書字覚)。 ・Broca失語は優位半球前頭葉(下前頭回後部)、二点識別覚障害は頭頂葉の障害。 ・運動失調=小脳・深部感覚・前庭、Kernig徴候=髄膜刺激、Babinski徴候=錐体路障害(部位は皮質〜脊髄のどこでもよい)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。