StudyMed医師国家試験

母乳が出るのはプロラクチンが増えるから?―産褥期の生理を「ブレーキ解除」で読み解く

第101回医師国家試験 B問題 第51問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第51問

産褥期の生理学的特徴で誤っているのはどれか。

  1. a.造血能が高い。
  2. b.初乳には免疫グロブリンが多い。
  3. c.母乳保育は子宮復古を促進する。
  4. d.循環血液量は経日的に減少する。
  5. e.プロラクチンの血中濃度は妊娠末期よりも高い。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は産褥期の母体の生理的変化について、誤っているものを選ぶ問題だ。産褥期は分娩後、妊娠で変化した体が非妊時に戻るまでの約6〜8週間を指す。変化を「妊娠中に増えたものが戻る」「分娩での喪失を補う」「授乳が始まる」の3つの流れで整理すると見通しがよくなるよ。
医学生医学生
産褥期は母乳がたくさん出る時期なので、プロラクチンが一番高いのも産褥期だと思っていました。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるんだけど、実はそこが本問の答えなんだ。プロラクチンは妊娠経過とともに上昇し続け、妊娠末期から分娩時に最高値、非妊時の10倍以上に達する。分娩後の基礎値はむしろ下がっていくんだよ。
医学生医学生
えっ、じゃあ妊娠中にプロラクチンがそんなに高いのに、どうして妊娠中は母乳が本格的に出ないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。妊娠中は胎盤から大量のエストロゲンとプロゲステロンが分泌されていて、これが乳腺でのプロラクチンの乳汁分泌作用を抑えている。いわばアクセルは踏まれているのにブレーキもかかっている状態だ。胎盤が娩出されると性ステロイドが急減してブレーキが外れ、乳汁分泌が本格化する。
医学生医学生
プロラクチンが増えるからではなく、ブレーキが外れるから出始めるということですね。だから妊娠末期より高いという記述が誤り。
ドクタードクター
その通り。授乳婦では吸啜のたびにプロラクチンが一過性に上がるけれど、基礎値は妊娠末期より低い。非授乳婦なら数週間で非妊時レベルに戻る。では他の選択肢も確認しよう。産褥期の造血能はどうだと思う?
医学生医学生
出産後は貧血の人が多いので、造血は落ちているのかなと思いました。
ドクタードクター
そこは逆なんだ。分娩ではある程度の出血が避けられないから、それを補うために骨髄の造血能はむしろ亢進する。エリスロポエチンの上昇や網状赤血球の増加がみられるよ。貧血があるからこそ造血が高まっている、と考えるとわかりやすい。
医学生医学生
なるほど、喪失を補う変化ですね。初乳に免疫グロブリンが多いのは、生化学か免疫学の講義で分泌型IgAとして習った記憶があります。
ドクタードクター
よく覚えているね。初乳は分娩後数日間に出る黄色みを帯びた乳汁で、蛋白質、特に分泌型IgAが豊富だ。新生児の消化管粘膜で病原体の付着や侵入を防いでくれる。ラクトフェリンや白血球も多い。産褥10日前後以降の成乳になると、脂肪や乳糖が増えてエネルギーが高くなる。
医学生医学生
母乳保育が子宮復古を促進するのは、オキシトシンが関係していますか。
ドクタードクター
正解。児が乳頭を吸うと、その刺激が視床下部に伝わって下垂体後葉からオキシトシンが分泌される。オキシトシンは乳腺の筋上皮細胞を収縮させて射乳を起こすと同時に、子宮筋も収縮させる。だから授乳は子宮復古を助けるんだ。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で、褥婦さんが「授乳中にお腹が痛くなる」と話していました。あれは後陣痛だったんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。授乳と子宮収縮がつながっている実感がわくよね。最後に循環血液量はどうかな。
医学生医学生
妊娠中に増えた分が元に戻るので、日を追って減っていく、で正しいと思います。
ドクタードクター
その通り。妊娠中、循環血液量は非妊時より約40〜50%増える。分娩時の出血と、産褥早期の生理的な利尿によって経日的に減少し、産褥3〜6週ごろまでに非妊時の水準に戻る。産褥早期に尿量が増えるのは正常な反応なんだ。
医学生医学生
プロラクチンが乳汁産生、オキシトシンが射乳と子宮収縮、エストロゲンとプロゲステロンはブレーキ役、という整理でいいですか。
ドクタードクター
完璧だ。臨床での注意点も押さえておこう。まず、凝固能は産褥早期も亢進した状態が続くので、深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症のリスクが高い。帝王切開後などは特に早期離床や予防策が大切だ。また、子宮の収縮が悪い子宮復古不全は出血の原因になる。子宮は産褥10日前後で腹壁上から触れなくなり、約6週で非妊時の大きさに戻るのが目安だよ。
医学生医学生
授乳していると月経の再開が遅れると聞いたことがありますが、これもプロラクチンですか。
ドクタードクター
そう。授乳による高プロラクチン状態はGnRHの分泌を抑え、排卵や月経の再開を遅らせる。授乳性無月経と呼ばれるものだ。ただし排卵が再開する時期には個人差があるから、避妊の面では過信しないよう伝えることも大事だね。

まとめ

産褥期は、妊娠中に増えたものが戻る変化、分娩による喪失を補う変化、授乳の開始に伴う変化の3つで整理できます。プロラクチンは妊娠末期から分娩時に最高値となり産褥期には低下していき、乳汁分泌が本格化するのは、胎盤娩出でエストロゲンとプロゲステロンが急減し、プロラクチン作用への抑制が外れるためです。一方、失血を補うため造血能は亢進し、循環血液量は経日的に減少して数週で非妊時に戻り、初乳には分泌型IgAが豊富に含まれます。授乳時の吸啜刺激はオキシトシン分泌を介して射乳と子宮収縮を起こし、子宮復古を促進します。こうしたホルモンの働きを理解しておくことは、授乳指導や子宮復古不全、産褥期の血栓症リスクへの対応など、褥婦の診療とケアの基盤になります。

解答・解説

正解はeです

産褥期(分娩終了後、妊娠・分娩で変化した母体が非妊時の状態へ戻るまでの約6〜8週間)の生理的変化について、「誤っているもの」を選ぶ一般問題である。 産褥期の変化は大きく次の3つの流れで整理すると理解しやすい。 (1)妊娠中に増えたものが元に戻る変化:子宮の縮小(子宮復古)、増加していた循環血液量の減少、妊娠期ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン、hCG、hPL)の急速な低下。 (2)分娩による喪失を補う変化:分娩時出血を代償するための造血の亢進。 (3)授乳の開始に伴う変化:胎盤娩出によってエストロゲン・プロゲステロンが急減し、それまで抑えられていたプロラクチンの乳汁分泌作用が発揮されて乳汁分泌が本格化する。吸啜刺激はプロラクチンとオキシトシンの分泌を促す。 判断のポイントはプロラクチンである。プロラクチンは妊娠経過とともに上昇し続け、妊娠末期から分娩時に最高値となる。産褥期に乳汁分泌が盛んになるのはプロラクチンが増えるからではなく、プロラクチンの作用を抑えていた性ステロイドが低下するためである。産褥期のプロラクチン基礎値はむしろ妊娠末期より低下していく。この仕組みを押さえれば、選択肢eが誤りであると判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  造血能が高い。

    正しい記述である。分娩時には一定量の出血が避けられず、産褥期にはその失血を補うために骨髄の造血能が亢進する。エリスロポエチンの上昇や網状赤血球(幼若な赤血球)の増加がみられる。誤りと判断しやすい選択肢なので注意が必要である。

  2. ×b.  初乳には免疫グロブリンが多い。

    正しい記述である。初乳(分娩後数日間に分泌される黄色みを帯びた乳汁)は、成乳に比べて蛋白質、とくに免疫グロブリンが豊富である。主体は分泌型IgAで、新生児の消化管粘膜表面で病原体の付着・侵入を防ぐ。ラクトフェリンや白血球なども多く含まれ、新生児の感染防御に役立つ。

  3. ×c.  母乳保育は子宮復古を促進する。

    正しい記述である。児が乳頭を吸うと、その刺激が神経を介して視床下部に伝わり、下垂体後葉からオキシトシンが分泌される(吸啜反射)。オキシトシンは乳腺の筋上皮細胞を収縮させて射乳を起こすとともに、子宮筋を収縮させる。このため授乳は子宮復古を促進し、授乳中に下腹部痛(後陣痛)を感じることがある。

  4. ×d.  循環血液量は経日的に減少する。

    正しい記述である。妊娠中、循環血液量は非妊時より約40〜50%増加する。分娩後は、分娩時の出血に加え、産褥早期の生理的な利尿(組織間液の血管内への戻りと尿中への排泄)により、循環血液量は日を追って減少し、産褥3〜6週ごろまでに非妊時の水準へ戻る。

  5. ○e.  プロラクチンの血中濃度は妊娠末期よりも高い。

    誤った記述であり、これが正解である。プロラクチンは妊娠中に増加するエストロゲンの刺激などにより下垂体からの分泌が増え、妊娠末期から分娩時に最高値(非妊時の10倍以上)に達する。分娩後の基礎値は徐々に低下し、非授乳婦では数週間で非妊時レベルに戻る。授乳婦では吸啜のたびに一過性に上昇するが、基礎値は妊娠末期より低い。妊娠中にプロラクチンが高くても乳汁が本格的に出ないのは、胎盤由来の大量のエストロゲン・プロゲステロンが乳腺におけるプロラクチンの作用を抑えているためであり、胎盤娩出後にこの抑制が外れることで乳汁分泌が始まる。

産褥期の主な変化

・子宮:分娩直後は臍下2〜3横指程度だが、産褥10日前後で腹壁上から触れなくなり、約6週で非妊時の大きさに戻る。子宮収縮不良(子宮復古不全)は出血の原因となる。 ・悪露:赤色悪露(産褥数日)→褐色悪露→黄色悪露→白色悪露と変化し、約4〜6週で消失する。 ・循環:循環血液量・心拍出量は徐々に減少し、数週で非妊時に戻る。産褥早期には生理的な多尿がみられる。 ・血液:造血能が亢進する。凝固能は産褥早期も亢進した状態が続くため、深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症のリスクが高い。 ・内分泌:胎盤娩出後、エストロゲン・プロゲステロン・hCG・hPLは急速に低下する。プロラクチンは分娩時ピークから低下し、授乳時の吸啜刺激で一過性に上昇する。

乳汁分泌に関わるホルモン

・プロラクチン(下垂体前葉):乳汁の産生(生成)を促す。 ・オキシトシン(下垂体後葉):乳腺筋上皮を収縮させて射乳を起こす。同時に子宮収縮を促し、子宮復古を助ける。 ・エストロゲン・プロゲステロン:妊娠中に乳腺を発育させる一方、プロラクチンの乳汁分泌作用を抑制する。

初乳と成乳

・初乳:分娩後数日間の乳汁。蛋白質(分泌型IgA、ラクトフェリン)や免疫細胞が多く、脂肪・乳糖は比較的少ない。 ・成乳:産褥10日前後以降に移行する。脂肪・乳糖が多くエネルギーが高い。 ・授乳による高プロラクチン状態はGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)の分泌を抑え、排卵・月経の再開を遅らせる(授乳性無月経)。

POINT

・プロラクチンは妊娠末期〜分娩時に最高値となり、産褥期には低下していく。 ・産褥期に乳汁分泌が始まるのは、胎盤娩出でエストロゲン・プロゲステロンが急減し、プロラクチン作用への抑制が外れるため。 ・授乳(吸啜)→オキシトシン分泌→射乳+子宮収縮→子宮復古促進。 ・初乳は分泌型IgAなど免疫物質が豊富。 ・産褥期は造血能が亢進し、循環血液量は経日的に減少して数週で非妊時に戻る。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。