StudyMed医師国家試験

粘液で捕まえ、線毛で運ぶ―気道の「エスカレーター」を支える2つの細胞

第101回医師国家試験 B問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第30問

気道クリアランスに関与する細胞はどれか。2つ選べ。

  1. a.杯細胞
  2. b.基底細胞
  3. c.線毛上皮細胞
  4. d.Ⅰ型肺胞上皮細胞
  5. e.Ⅱ型肺胞上皮細胞

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、気道が吸い込んだ異物をどうやって外へ追い出しているのか、その仕組みを担う細胞を問う問題だ。ポイントは「気道」と「肺胞」をきちんと分けて考えること。まず、気道クリアランスという言葉からどんなイメージが浮かぶかな。
医学生医学生
痰を出す仕組み、というイメージです。咳で異物を吐き出すことでしょうか。
ドクタードクター
咳も大事な要素だね。でも中心になるのは、普段から休まず働いている「粘液線毛クリアランス」なんだ。吸い込んだ粉塵や微生物を粘液で絡め取り、それを線毛が喉のほうへ運んでいく。よく「線毛エスカレーター」とたとえられるよ。
医学生医学生
組織学の実習で、気管の標本に多列線毛上皮が並んでいたのを思い出しました。あの中に白っぽく抜けた細胞も混じっていました。
ドクタードクター
それが杯細胞だね。ムチンを主成分とする粘液を分泌する細胞で、H-E染色では粘液が抜けて明るく見え、PAS染色では赤紫に染まる。この粘液が気道表面を覆って、異物をキャッチする役割を担う。粘膜下腺も粘液を供給しているけれど、上皮の中で捕捉を担うのは杯細胞だ。
医学生医学生
じゃあ、運ぶほうが線毛上皮細胞ですね。
ドクタードクター
その通り。線毛上皮細胞は気道上皮の主役で、1つの細胞に約200本の線毛がある。線毛は粘液層の下にあるさらさらした線毛周囲液層の中で、口側へ向かって協調して打つ。その上に載った粘液層が異物ごと咽頭へ送られ、飲み込まれるか痰として出される。つまり「捕まえる」杯細胞と「運ぶ」線毛上皮細胞、この2つがペアで正解になる。
医学生医学生
基底細胞も気道上皮にいるので、関与していそうな気がして迷いました。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。基底細胞は基底膜に接する小型の細胞で、線毛上皮細胞や杯細胞へ分化する前駆細胞なんだ。上皮が傷ついたときの修復には欠かせないけれど、異物を捕まえたり運んだりは直接しない。いわば「エスカレーターの補修係」で、運転係ではないということだ。
医学生医学生
肺胞上皮の2つは、そもそも場所が違いますよね。
ドクタードクター
そう、肺胞には線毛も杯細胞もない。I型肺胞上皮細胞は非常に薄く扁平で、肺胞表面の大部分を覆ってガス交換の場をつくる。II型肺胞上皮細胞は立方状で、サーファクタントを分泌して表面張力を下げ、肺胞がつぶれるのを防ぐ。さらにI型細胞が傷害されたときに増殖して補充する前駆細胞でもある。
医学生医学生
生理学の講義で、サーファクタント不足が新生児呼吸窮迫症候群の原因になると習いました。では肺胞まで届いた異物は誰が処理するんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。線毛のない肺胞では、肺胞マクロファージが貪食して処理する。気道は粘液線毛クリアランス、肺胞はマクロファージ、と防御の担当が分かれていると整理しておこう。
医学生医学生
気道は「捕まえて運ぶ」、肺胞は「食べる」ということですね。
ドクタードクター
うまいまとめだね。臨床的にも、この仕組みが壊れると何が起こるかを知っておくと理解が深まる。例えば線毛機能不全症候群、Kartagener症候群を含む病態では線毛がうまく動かず、慢性副鼻腔炎や気管支拡張症を繰り返す。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、内臓逆位と副鼻腔炎のある気管支拡張症の患者さんを見ました。あれが線毛の病気だったんですね。
ドクタードクター
まさにそれだね。ほかにも、嚢胞性線維症ではCFTRの異常で線毛周囲液層の水分が不足し、粘液が濃くなってクリアランスが破綻する。喫煙では線毛が減って機能が落ち、杯細胞が増える杯細胞化生が起こって痰が増える。術後や気管挿管中も痰が溜まりやすく、無気肺や肺炎の原因になるから、排痰ケアが大切になる。
医学生医学生
喫煙者の朝の痰が多いのは、粘液は増えるのに運ぶ力が落ちているからなんですね。
ドクタードクター
その通り。「作る量」と「運ぶ力」のバランスで考えると、多くの病態がすっきり理解できるよ。

まとめ

気道クリアランスの中心は粘液線毛クリアランスで、杯細胞(と粘膜下腺)が分泌する粘液が吸入した異物を捕捉し、線毛上皮細胞の協調した線毛運動がそれを咽頭へ運び出します。基底細胞は気道上皮の前駆細胞として修復を担い、I型肺胞上皮細胞はガス交換、II型肺胞上皮細胞はサーファクタント産生とI型細胞の補充を担うため、クリアランスの担い手ではありません。線毛のない肺胞に達した異物は肺胞マクロファージが処理し、気道と肺胞で防御の仕組みが異なります。線毛機能不全症候群、嚢胞性線維症、喫煙などでこの仕組みが崩れると、痰の貯留や反復感染、気管支拡張症につながります。「捕まえる細胞」と「運ぶ細胞」を役割で覚えることが、呼吸器の病態生理を理解する土台になります。

解答・解説

正解はa, cです

気道クリアランスとは、吸入された粉塵・微生物などの異物を気道から取り除き、下気道を清浄に保つ防御機構の総称である。中心となるのは粘液線毛クリアランス(mucociliary clearance)で、これに咳嗽によるクリアランスが加わる。 粘液線毛クリアランスは次の2つの要素の組み合わせで成り立つ。 (1) 粘液の産生:気道上皮の杯細胞と、粘膜下腺が粘液を分泌し、気道表面に粘液層を作る。吸入された異物はこの粘液に捕捉される。 (2) 粘液の輸送:線毛上皮細胞の線毛が一定方向に協調して打つ運動(エスカレーターにたとえられる)により、異物を含む粘液が咽頭へ向かって運ばれ、嚥下または喀出される。 したがって、気道クリアランスに直接関与する細胞は、粘液を作る杯細胞と、粘液を運ぶ線毛上皮細胞の2つである。基底細胞は上皮の再生、I型肺胞上皮細胞はガス交換、II型肺胞上皮細胞はサーファクタント産生がそれぞれ主な役割であり、区別して覚える。

選択肢考察

  1. ○a.  杯細胞

    杯細胞は気管・気管支の多列線毛上皮の中に散在する粘液分泌細胞で、ムチン(MUC5ACなど)を主成分とする粘液を分泌する。この粘液が気道表面を覆い、吸入された粉塵や微生物を絡め取ることで、線毛による排出の対象とする。粘液線毛クリアランスの「捕捉」を担う細胞であり、気道クリアランスに関与する。なお慢性気管支炎や喫煙では杯細胞が増生(杯細胞化生)し、粘液の過剰産生が喀痰増加の原因となる。

  2. ×b.  基底細胞

    基底細胞は気道上皮の基底膜に接して存在する小型の細胞で、分裂・増殖して線毛上皮細胞や杯細胞などへ分化する前駆細胞(幹細胞)としての役割をもつ。気道上皮が傷害された際の修復・再生に重要であるが、異物の捕捉や輸送を直接行うわけではなく、気道クリアランスそのものを担う細胞ではない。なお基底細胞は気道上皮の細胞であり、肺胞に存在する細胞ではない。

  3. ○c.  線毛上皮細胞

    線毛上皮細胞は気道上皮の主体をなす細胞で、1細胞あたり約200本の線毛をもつ。線毛は低粘稠な線毛周囲液層(ペリシリアリー層)の中で協調して口側へ速く打ち、その上に載った粘液層を異物ごと咽頭へ送り出す。粘液線毛クリアランスの「輸送」を担う細胞であり、気道クリアランスに関与する。線毛の構造異常である線毛機能不全症候群(Kartagener症候群を含む)では、このクリアランスが障害され、慢性副鼻腔炎や気管支拡張症を繰り返す。

  4. ×d.  Ⅰ型肺胞上皮細胞

    I型肺胞上皮細胞は非常に薄く扁平な細胞で、数のうえでは少ないが肺胞表面積の約95%を覆う。毛細血管内皮と基底膜を共有して薄い血液空気関門を作り、ガス交換の場となる。線毛や粘液分泌能はなく、気道クリアランスには関与しない。分裂能に乏しく、傷害されるとII型肺胞上皮細胞が増殖・分化して補充される。

  5. ×e.  Ⅱ型肺胞上皮細胞

    II型肺胞上皮細胞は立方状の細胞で、細胞内の層状封入体に蓄えた肺サーファクタント(表面活性物質、主成分はリン脂質のジパルミトイルホスファチジルコリン)を分泌する。サーファクタントは肺胞内面の表面張力を下げ、呼気時の肺胞虚脱を防ぐ。またI型肺胞上皮細胞の前駆細胞として肺胞上皮の修復も担う。粘液線毛による気道クリアランスには関与しない。サーファクタントの不足は新生児呼吸窮迫症候群の原因となる。

気道上皮の構成

気管〜気管支は多列線毛上皮で覆われ、主な細胞は線毛上皮細胞、杯細胞、基底細胞である。末梢の細気管支では杯細胞が減り、代わってクラブ細胞(旧称Clara細胞)が増える。クラブ細胞は分泌タンパクを産生し、細気管支上皮の前駆細胞としても働く。粘膜下腺は太い気道(気管・気管支)にあり、杯細胞とともに粘液を供給する。

気道表面液の2層構造

・線毛周囲液層(ペリシリアリー層):線毛が動く低粘稠な水層。水分量はCFTR(Cl-チャネル)などのイオン輸送で調節される。 ・粘液層:その上に載る粘稠な層で、異物を捕捉する。 嚢胞性線維症(CFTR遺伝子異常)では水分が不足して粘液が濃縮し、クリアランスが破綻して反復感染をきたす。

肺の防御機構の全体像

・物理的防御:鼻腔での濾過・加湿、咳嗽反射、粘液線毛クリアランス ・肺胞レベル:線毛のない肺胞に到達した微粒子は、肺胞マクロファージが貪食して処理する。 ・液性・細胞性免疫:分泌型IgA、リゾチーム、ラクトフェリン、ディフェンシンなど

クリアランスを障害する要因

喫煙(線毛の減少・機能低下、杯細胞増生)、ウイルス感染による上皮傷害、線毛機能不全症候群、嚢胞性線維症、脱水、麻酔・気管挿管など。障害されると痰の貯留から気道感染や無気肺を起こしやすくなる。

POINT

・粘液線毛クリアランス=杯細胞(+粘膜下腺)が粘液で異物を捕捉し、線毛上皮細胞が線毛運動で咽頭へ運ぶ。 ・基底細胞:気道上皮の前駆細胞(再生・修復)。 ・I型肺胞上皮細胞:肺胞表面の大部分を覆いガス交換を担う。 ・II型肺胞上皮細胞:サーファクタント産生、I型細胞の前駆細胞。 ・肺胞レベルの異物処理は肺胞マクロファージが担う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。