粘液で捕まえ、線毛で運ぶ―気道の「エスカレーター」を支える2つの細胞
第101回医師国家試験 B問題 第30問
国試問題にチャレンジ
気道クリアランスに関与する細胞はどれか。2つ選べ。
- a.杯細胞
- b.基底細胞
- c.線毛上皮細胞
- d.Ⅰ型肺胞上皮細胞
- e.Ⅱ型肺胞上皮細胞
対話形式の解説
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ドクターまとめ
気道クリアランスの中心は粘液線毛クリアランスで、杯細胞(と粘膜下腺)が分泌する粘液が吸入した異物を捕捉し、線毛上皮細胞の協調した線毛運動がそれを咽頭へ運び出します。基底細胞は気道上皮の前駆細胞として修復を担い、I型肺胞上皮細胞はガス交換、II型肺胞上皮細胞はサーファクタント産生とI型細胞の補充を担うため、クリアランスの担い手ではありません。線毛のない肺胞に達した異物は肺胞マクロファージが処理し、気道と肺胞で防御の仕組みが異なります。線毛機能不全症候群、嚢胞性線維症、喫煙などでこの仕組みが崩れると、痰の貯留や反復感染、気管支拡張症につながります。「捕まえる細胞」と「運ぶ細胞」を役割で覚えることが、呼吸器の病態生理を理解する土台になります。
解答・解説
正解はa, cです
気道クリアランスとは、吸入された粉塵・微生物などの異物を気道から取り除き、下気道を清浄に保つ防御機構の総称である。中心となるのは粘液線毛クリアランス(mucociliary clearance)で、これに咳嗽によるクリアランスが加わる。 粘液線毛クリアランスは次の2つの要素の組み合わせで成り立つ。 (1) 粘液の産生:気道上皮の杯細胞と、粘膜下腺が粘液を分泌し、気道表面に粘液層を作る。吸入された異物はこの粘液に捕捉される。 (2) 粘液の輸送:線毛上皮細胞の線毛が一定方向に協調して打つ運動(エスカレーターにたとえられる)により、異物を含む粘液が咽頭へ向かって運ばれ、嚥下または喀出される。 したがって、気道クリアランスに直接関与する細胞は、粘液を作る杯細胞と、粘液を運ぶ線毛上皮細胞の2つである。基底細胞は上皮の再生、I型肺胞上皮細胞はガス交換、II型肺胞上皮細胞はサーファクタント産生がそれぞれ主な役割であり、区別して覚える。
選択肢考察
- ○a. 杯細胞
杯細胞は気管・気管支の多列線毛上皮の中に散在する粘液分泌細胞で、ムチン(MUC5ACなど)を主成分とする粘液を分泌する。この粘液が気道表面を覆い、吸入された粉塵や微生物を絡め取ることで、線毛による排出の対象とする。粘液線毛クリアランスの「捕捉」を担う細胞であり、気道クリアランスに関与する。なお慢性気管支炎や喫煙では杯細胞が増生(杯細胞化生)し、粘液の過剰産生が喀痰増加の原因となる。
- ×b. 基底細胞
基底細胞は気道上皮の基底膜に接して存在する小型の細胞で、分裂・増殖して線毛上皮細胞や杯細胞などへ分化する前駆細胞(幹細胞)としての役割をもつ。気道上皮が傷害された際の修復・再生に重要であるが、異物の捕捉や輸送を直接行うわけではなく、気道クリアランスそのものを担う細胞ではない。なお基底細胞は気道上皮の細胞であり、肺胞に存在する細胞ではない。
- ○c. 線毛上皮細胞
線毛上皮細胞は気道上皮の主体をなす細胞で、1細胞あたり約200本の線毛をもつ。線毛は低粘稠な線毛周囲液層(ペリシリアリー層)の中で協調して口側へ速く打ち、その上に載った粘液層を異物ごと咽頭へ送り出す。粘液線毛クリアランスの「輸送」を担う細胞であり、気道クリアランスに関与する。線毛の構造異常である線毛機能不全症候群(Kartagener症候群を含む)では、このクリアランスが障害され、慢性副鼻腔炎や気管支拡張症を繰り返す。
- ×d. Ⅰ型肺胞上皮細胞
I型肺胞上皮細胞は非常に薄く扁平な細胞で、数のうえでは少ないが肺胞表面積の約95%を覆う。毛細血管内皮と基底膜を共有して薄い血液空気関門を作り、ガス交換の場となる。線毛や粘液分泌能はなく、気道クリアランスには関与しない。分裂能に乏しく、傷害されるとII型肺胞上皮細胞が増殖・分化して補充される。
- ×e. Ⅱ型肺胞上皮細胞
II型肺胞上皮細胞は立方状の細胞で、細胞内の層状封入体に蓄えた肺サーファクタント(表面活性物質、主成分はリン脂質のジパルミトイルホスファチジルコリン)を分泌する。サーファクタントは肺胞内面の表面張力を下げ、呼気時の肺胞虚脱を防ぐ。またI型肺胞上皮細胞の前駆細胞として肺胞上皮の修復も担う。粘液線毛による気道クリアランスには関与しない。サーファクタントの不足は新生児呼吸窮迫症候群の原因となる。
気道上皮の構成
気管〜気管支は多列線毛上皮で覆われ、主な細胞は線毛上皮細胞、杯細胞、基底細胞である。末梢の細気管支では杯細胞が減り、代わってクラブ細胞(旧称Clara細胞)が増える。クラブ細胞は分泌タンパクを産生し、細気管支上皮の前駆細胞としても働く。粘膜下腺は太い気道(気管・気管支)にあり、杯細胞とともに粘液を供給する。
気道表面液の2層構造
・線毛周囲液層(ペリシリアリー層):線毛が動く低粘稠な水層。水分量はCFTR(Cl-チャネル)などのイオン輸送で調節される。 ・粘液層:その上に載る粘稠な層で、異物を捕捉する。 嚢胞性線維症(CFTR遺伝子異常)では水分が不足して粘液が濃縮し、クリアランスが破綻して反復感染をきたす。
肺の防御機構の全体像
・物理的防御:鼻腔での濾過・加湿、咳嗽反射、粘液線毛クリアランス ・肺胞レベル:線毛のない肺胞に到達した微粒子は、肺胞マクロファージが貪食して処理する。 ・液性・細胞性免疫:分泌型IgA、リゾチーム、ラクトフェリン、ディフェンシンなど
クリアランスを障害する要因
喫煙(線毛の減少・機能低下、杯細胞増生)、ウイルス感染による上皮傷害、線毛機能不全症候群、嚢胞性線維症、脱水、麻酔・気管挿管など。障害されると痰の貯留から気道感染や無気肺を起こしやすくなる。
POINT
・粘液線毛クリアランス=杯細胞(+粘膜下腺)が粘液で異物を捕捉し、線毛上皮細胞が線毛運動で咽頭へ運ぶ。 ・基底細胞:気道上皮の前駆細胞(再生・修復)。 ・I型肺胞上皮細胞:肺胞表面の大部分を覆いガス交換を担う。 ・II型肺胞上皮細胞:サーファクタント産生、I型細胞の前駆細胞。 ・肺胞レベルの異物処理は肺胞マクロファージが担う。
