StudyMed医師国家試験

「40」は分圧か飽和度か―静脈血の数字の取り違えを見抜く

第101回医師国家試験 B問題 第31問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第31問

健常者安静時の値として異常なのはどれか。

  1. a.動脈血pH ―― 7.40
  2. b.動脈血酸素分圧 ―― 90Torr
  3. c.中心静脈血酸素飽和度 ―― 40%
  4. d.動脈血重炭酸イオン濃度 ―― 24mEq/L
  5. e.肺胞気-動脈血酸素分圧較差 ―― 10Torr

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、血液ガスと酸素化に関する基準値を正しく覚えているかを問う問題だ。5つの数値のうち健常者で異常なものを1つ選ぶわけだけど、カギは「どの血液の、どの指標か」をきちんと区別すること。まずは動脈血の値から確認していこうか。
医学生医学生
pH 7.40とHCO3- 24は、どちらも教科書どおりの真ん中の値ですよね。
ドクタードクター
その通り。pHは7.35〜7.45、HCO3-は22〜26mEq/Lが基準で、どちらも中央値だ。Henderson-Hasselbalchの式にHCO3- 24、PaCO2 40を当てはめると、比が20対1でpHがほぼ7.4になる。この組み合わせが「正常の酸塩基平衡」の基本形だね。
医学生医学生
生理学の講義で計算した記憶があります。PaO2の90Torrは、100より低いので少し気になりました。
ドクタードクター
そこは心配いらない。PaO2は若い人で約100Torrだけど、加齢とともに換気血流比の不均等が増えて少しずつ下がる。80〜100Torrが目安で、90Torrは十分に正常範囲だ。呼吸不全の定義は60Torr以下だから、それと比べてもかなり余裕がある。
医学生医学生
A-aDO2の10Torrも正常でしょうか。
ドクタードクター
計算してみよう。室内気なら肺胞気酸素分圧はおよそ150からPaCO2を0.8で割った値を引いたもの。PaCO2 40なら約100Torrで、PaO2 90Torrなら差は約10Torr。健常若年者ではおおむね10Torr以下が目安で、年齢とともに大きくなるから、これも異常とはいえない。
医学生医学生
となると残るのは中心静脈血の酸素飽和度40%ですね。でも、静脈血ってたしか「40」という数字が出てきた気がして……。
ドクタードクター
まさにそこが出題の狙いだ。静脈血の酸素「分圧」が約40Torr、酸素「飽和度」が約70〜75%。この2つを取り違えると、40%を正常と思い込んでしまう。
医学生医学生
酸素解離曲線で、分圧40Torrのところが飽和度75%くらいでしたね。
ドクタードクター
その通り。S字の曲線の上で、PO2 100で約98%、60で約90%、40で約75%、そして約27TorrでちょうどSO2 50%、これがP50だ。飽和度40%となるとPO2は20Torr強に相当し、組織に酸素が十分届いていない重い状態を意味する。だから健常者の安静時の値としては明らかに異常で、これが正解になる。
医学生医学生
そもそも、静脈血の飽和度が75%もあるのは意外です。組織でもっと酸素を使っていると思っていました。
ドクタードクター
いい気づきだね。安静時、組織は動脈血が運んできた酸素のうち約25%しか取り込んでいない。残りは予備として戻ってくるわけだ。だから運動や発熱で需要が増えたり、供給が減ったりすると、この予備が削られて静脈血の飽和度が下がる。
医学生医学生
ということは、ScvO2が下がっていたら、供給不足か消費増大を疑えばいいんですね。
ドクタードクター
そう。酸素供給量は心拍出量と動脈血酸素含量の積で、酸素含量はおもにヘモグロビンと飽和度で決まる。つまり心不全やショックによる心拍出量低下、高度の貧血、低酸素血症が「供給の低下」、発熱やシバリング、痙攣が「消費の増大」にあたる。
医学生医学生
救急科の実習で、敗血症性ショックの患者さんに中心静脈カテーテルが入っていて、ScvO2を見ながら輸液をしていました。
ドクタードクター
ScvO2は循環管理のモニタリングに使われてきた指標だね。ただ注意点として、敗血症では組織が酸素をうまく利用できず、逆にScvO2が高めに出ることもある。値が正常だから安心、とは限らないということも頭に入れておこう。
医学生医学生
A-aDO2のほうは、臨床ではどう使い分けるんでしょうか。
ドクタードクター
低酸素血症の原因を絞るのに役立つ。拡散障害、換気血流比不均等、シャントではA-aDO2が開大するけれど、薬物による呼吸抑制のような肺胞低換気だけならA-aDO2は開大しない。「肺そのものが悪いのか、換気量が足りないだけか」を見分ける道具になるんだ。
医学生医学生
数値を丸暗記するより、どの指標が何を反映しているのかを押さえるほうが大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。基準値は臨床判断の物差しだから、意味とセットで覚えておくと、実際の血液ガスを読むときにも迷わなくなるよ。

まとめ

健常者安静時の動脈血は、pH 7.40前後、PaCO2 40Torr前後、HCO3- 24mEq/L前後、PaO2 80〜100Torr(加齢で低下)、A-aDO2はおおむね10Torr以下が目安です。一方、静脈血(混合静脈血・中心静脈血)は酸素分圧が約40Torr、酸素飽和度が約70〜75%であり、酸素飽和度40%は分圧と取り違えた異常値です。安静時に組織が取り込む酸素は動脈血で運ばれる量の約25%にすぎず、静脈血の酸素飽和度は心拍出量低下・貧血・低酸素血症による供給低下や、発熱などによる消費増大で低下します。A-aDO2の開大は拡散障害・換気血流比不均等・シャントを示し、肺胞低換気のみでは開大しない点も低酸素血症の鑑別に重要です。酸素解離曲線を軸に「分圧」と「飽和度」を対応づけて理解することが、血液ガスを正しく読む基礎となります。

解答・解説

正解はcです

本問は、動脈血ガス分析と酸素化に関する基本的な基準値を正しく記憶しているかを問う問題である。健常者の安静時(室内気吸入下)のおおよその値は次のとおりである。 ・動脈血pH:7.40(7.35〜7.45) ・動脈血酸素分圧(PaO2):80〜100Torr(加齢で低下) ・動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2):40Torr(35〜45Torr) ・動脈血重炭酸イオン濃度(HCO3-):24mEq/L(22〜26mEq/L) ・肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2):おおむね10Torr以下(加齢で増大) ・動脈血酸素飽和度(SaO2):96〜98%以上 ・混合静脈血・中心静脈血の酸素飽和度:約70〜75%、酸素分圧は約40Torr 問題を解くうえで注意すべきなのは、「静脈血の酸素分圧は約40Torr」と「静脈血の酸素飽和度は約75%」という2つの数値を取り違えないことである。酸素解離曲線上、PO2 40Torrに対応するヘモグロビン酸素飽和度は約75%である。選択肢の「中心静脈血酸素飽和度 40%」は、分圧の値を飽和度と混同したものであり、健常者の安静時としては明らかに低すぎる。飽和度40%はPO2でおよそ20Torr強に相当し、組織への酸素供給が需要に追いつかない重度の病的状態を意味する。

選択肢考察

  1. ×a.  動脈血pH ―― 7.40

    動脈血pHは緩衝系(主に重炭酸緩衝系)と肺・腎の調節により7.35〜7.45の狭い範囲に保たれ、7.40はその中央値である。7.35未満をアシデミア、7.45を超えるものをアルカレミアとよぶ。正常値であり、異常ではない。

  2. ×b.  動脈血酸素分圧 ―― 90Torr

    PaO2の基準値は若年者で約100Torrで、加齢とともに換気血流比の不均等が増すため徐々に低下する。目安として80〜100Torrが正常範囲であり、90Torrは健常者として問題のない値である。一般に60Torr以下を呼吸不全と定義する。

  3. ○c.  中心静脈血酸素飽和度 ―― 40%

    中心静脈血酸素飽和度(ScvO2、上大静脈〜右房付近の血液の値)は健常者では約70%以上(おおむね70〜80%)であり、肺動脈で測る混合静脈血酸素飽和度(SvO2)も約75%である。これは動脈血が運んだ酸素のうち、安静時に組織が取り込むのは約25%にすぎないことを反映している。40%という値は酸素供給の低下(心拍出量低下、高度の貧血、低酸素血症)や酸素消費の著しい増大がある場合にみられる異常値である。静脈血の酸素分圧が約40Torrであることと混同しないことが重要で、本選択肢が健常者の値として異常なものである。

  4. ×d.  動脈血重炭酸イオン濃度 ―― 24mEq/L

    HCO3-の基準値は22〜26mEq/Lで、24mEq/Lは中央値である。Henderson-Hasselbalchの式 pH=6.1+log(HCO3-/(0.03×PaCO2))に24mEq/LとPaCO2 40Torrを代入すると、24/1.2=20、log20≒1.3でpH≒7.4となり、正常の酸塩基平衡と整合する。異常ではない。

  5. ×e.  肺胞気-動脈血酸素分圧較差 ―― 10Torr

    A-aDO2は肺胞気酸素分圧(PAO2)とPaO2の差で、室内気吸入下では PAO2≒150-PaCO2/0.8 として求める(150は吸入気酸素分圧、0.8は呼吸商)。例えばPaCO2 40Torrなら PAO2≒100Torr となり、PaO2 90Torrであれば A-aDO2≒10Torr である。健常若年者ではおおむね10Torr以下で、加齢とともに増大する。したがって10Torrは正常範囲であり、異常ではない。A-aDO2の開大は拡散障害、換気血流比不均等、シャントなどのガス交換障害を示唆し、一方で肺胞低換気による低酸素血症ではA-aDO2は開大しない。

酸素解離曲線と代表的な対応値

・PO2 約100Torr → SO2 約97〜98%(動脈血) ・PO2 60Torr → SO2 約90%(呼吸不全の基準付近。これより下で飽和度が急低下する) ・PO2 40Torr → SO2 約75%(混合静脈血) ・PO2 約27Torr → SO2 50%(P50) 曲線はS字状で、アシドーシス、高CO2、体温上昇、2,3-BPG増加で右方移動(酸素を放しやすくなる)する。

静脈血酸素飽和度の意味

酸素供給量(DO2)=心拍出量×動脈血酸素含量、動脈血酸素含量≒1.34×Hb×SaO2+0.003×PaO2 である。SvO2・ScvO2は、酸素の供給と消費のバランスを反映する指標であり、次の場合に低下する。 ・供給の低下:心拍出量低下(心不全、ショック)、貧血、低酸素血症 ・消費の増大:発熱、シバリング、痙攣、激しい運動 逆に敗血症などで組織の酸素利用が障害されると高値になることもある。ScvO2は中心静脈カテーテルで測定でき、敗血症性ショックなどの循環管理でモニタリングに用いられてきた。

動脈血ガスの基準値のまとめ

pH 7.40±0.05、PaCO2 40±5Torr、HCO3- 24±2mEq/L、PaO2 80〜100Torr、BE 0±2mEq/L、A-aDO2 10Torr以下(高齢者では20Torr前後まで許容されることがある)。

POINT

・静脈血(混合静脈血・中心静脈血):PO2 約40Torr、SO2 約70〜75%。分圧と飽和度を取り違えない。 ・動脈血:pH 7.35〜7.45、PaCO2 35〜45Torr、HCO3- 22〜26mEq/L、PaO2 80〜100Torr(加齢で低下)。 ・A-aDO2=(150-PaCO2/0.8)-PaO2。正常は約10Torr以下で、開大はガス交換障害を示す。肺胞低換気のみでは開大しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。