音を大きくしても届かない難聴―補聴器が「効く耳」と「効かない耳」の見分け方
第101回医師国家試験 B問題 第114問
国試問題にチャレンジ
補聴器の適応とならないのはどれか。
- a.耳硬化症
- b.老人性難聴
- c.機能性難聴
- d.慢性中耳炎
- e.乳幼児の高度難聴
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
補聴器は音を増幅する機器であり、外耳から聴神経までの器質的障害で実際に聴力が低下している難聴(伝音・感音・混合性)で、医学的治療で改善しない場合に適応となります。耳硬化症や慢性中耳炎は手術が第一選択となりえますが、手術を行わない例では内耳機能が保たれているため補聴器の効果が得られやすく、老人性難聴は補聴器が治療の中心、乳幼児の高度難聴は言語発達のため早期装用が必須で、効果不十分なら人工内耳を検討します。一方、心因性難聴や詐聴からなる機能性難聴は聴覚器に器質的異常がなく、補聴器の適応になりません。機能性難聴は純音聴力検査とABR・耳音響放射などの他覚的検査との乖離で見抜くことができます。「音を大きくすれば聞こえるのか」という視点は、難聴の分類と補聴器・人工聴覚機器の選択を理解する土台になります。
解答・解説
正解はcです
補聴器は、外から入る音をマイクで拾って増幅し、外耳道へ送り込む機器である。聞こえの経路(外耳・中耳・内耳・聴神経)のどこかに実際の障害があって音が届きにくい、あるいは感じにくい場合に、音を大きくすることで聞き取りを補う。したがって補聴器の適応となるのは、器質的な障害により聴力が実際に低下している難聴であり、伝音難聴・感音難聴・混合性難聴のいずれでも、医学的治療(薬物・手術)で改善が見込めないか、治療を望まない場合に対象となる。 本問では、選択肢の難聴が「聴覚器に器質的異常があり、音の増幅で聞こえが改善しうるか」を判断する。耳硬化症・慢性中耳炎は伝音難聴(または混合性難聴)、老人性難聴は感音難聴で、いずれも実際に聴力が低下しているため補聴器の対象となる。乳幼児の高度難聴は、言語発達のためにむしろ早期の装用が強く求められる。一方、機能性難聴は聴覚器に器質的な異常がなく、本来の聴覚機能は保たれているため、音を増幅しても意味がなく補聴器の適応とならない。
選択肢考察
- ×a. 耳硬化症
耳硬化症は、内耳を包む骨(耳嚢)に異常な骨の吸収と新生が起こり、アブミ骨底板が前庭窓(卵円窓)に固着して音の振動が内耳へ伝わりにくくなる疾患である。進行性の伝音難聴を示し、病変が内耳に及ぶと混合性難聴となる。治療の第一選択はアブミ骨手術(人工耳小骨で振動を伝える手術)であるが、手術を希望しない例や手術が難しい例では補聴器が有効であり、補聴器の適応となる。伝音難聴では内耳機能が保たれているため、増幅した音がよく聞き取れ、補聴器の効果は得られやすい。
- ×b. 老人性難聴
老人性難聴(加齢性難聴)は、加齢に伴う蝸牛の有毛細胞や聴神経の変性による両側性・対称性の感音難聴で、高音域から低下するのが特徴である。薬物や手術で聴力を回復させる方法はなく、日常のコミュニケーションに支障があれば補聴器が治療の中心となる。感音難聴では音を大きくしても言葉の明瞭さ(語音弁別能)が十分に改善しないことがあり、補聴器の調整や装用訓練が重要となる。
- ○c. 機能性難聴
機能性難聴は、聴覚器(外耳から聴覚中枢まで)に器質的な異常がないにもかかわらず、聴力検査で難聴を示す状態である。心因性難聴(ストレスなど心理的要因によるもの。学童期、特に女児に多い)と、意図的に聞こえないふりをする詐聴に分けられる。いずれも実際の聴覚機能は正常であり、音を増幅する必要がないため補聴器の適応とはならない。診断には、自覚的な純音聴力検査の結果と、他覚的聴力検査(聴性脳幹反応〈ABR〉、耳音響放射〈OAE〉、アブミ骨筋反射など)の結果との乖離が手がかりとなる。心因性難聴では心理的要因への対応が治療の中心となる。
- ×d. 慢性中耳炎
慢性中耳炎では、鼓膜穿孔や耳小骨の破壊・固着などにより伝音難聴を生じ、炎症が内耳に及ぶと混合性難聴となる。鼓膜形成術や鼓室形成術で聴力改善が期待できる例では手術が優先されるが、手術を希望しない、全身状態から手術が難しいなど手術の適応がない例では、補聴器のよい適応となる。伝音難聴が主体のため、補聴器による改善効果は得られやすい。ただし耳漏が続いているときは、イヤモールドで外耳道をふさぐと感染が悪化しうるため、耳漏のコントロールを行ったうえで装用する(骨導補聴器などを用いる場合もある)。
- ×e. 乳幼児の高度難聴
言語の習得には、乳幼児期に十分な音声刺激を受けることが不可欠であり、高度難聴を放置すると言語発達が著しく遅れる。そのため、新生児聴覚スクリーニングなどで難聴を早期に発見し、生後6か月頃までには補聴器を装用して療育(聴覚活用・言語訓練)を始めることが望ましい。補聴器で十分な効果が得られない重度の感音難聴では、人工内耳の適応が検討される。いずれにせよ補聴器の適応である。
難聴の分類
・伝音難聴:外耳・中耳の障害(耳垢栓塞、滲出性中耳炎、慢性中耳炎、耳硬化症、耳小骨奇形など)。オージオグラムで気骨導差(気導閾値と骨導閾値の差)がみられ、骨導は正常。語音明瞭度は保たれる。 ・感音難聴:内耳(蝸牛)や聴神経以降の障害(老人性難聴、騒音性難聴、突発性難聴、メニエール病、聴神経腫瘍など)。気導・骨導ともに低下し、気骨導差はない。語音明瞭度が低下しやすい。 ・混合性難聴:両者の合併。 ・機能性難聴:器質的異常を伴わない難聴(心因性難聴、詐聴)。
機能性難聴を疑う手がかり
・検査のたびに閾値が大きく変動する。 ・純音聴力検査の閾値に比べて、日常会話が問題なく成立する。 ・ABR、OAE、アブミ骨筋反射などの他覚的検査で正常反応が得られる。
補聴器・人工聴覚機器
・気導補聴器(耳かけ型、耳あな型など)が一般的。外耳道閉鎖症や耳漏の続く例では骨導補聴器や埋め込み型骨導補聴器が用いられる。 ・補聴器で効果が不十分な高度〜重度の感音難聴では人工内耳が適応となる。
POINT
・補聴器は器質的な障害による難聴(伝音・感音・混合性)で、医学的治療で改善しない場合に適応となる。 ・機能性難聴(心因性難聴・詐聴)は聴覚器に器質的異常がなく、補聴器の適応とならない。自覚的検査と他覚的検査(ABR、OAEなど)の乖離で診断する。 ・耳硬化症・慢性中耳炎は手術が第一選択となりうるが、手術適応がなければ補聴器のよい適応。 ・乳幼児の高度難聴は言語発達のため早期の補聴器装用・療育が必要で、効果不十分なら人工内耳を検討する。
