切る前に「兵糧攻め」―血管に富む髄膜腫と術前動脈塞栓術
第101回医師国家試験 B問題 第112問
国試問題にチャレンジ
血管に富む髄膜腫の摘出手術前に行われるのはどれか。
- a.全脳照射
- b.動脈塞栓術
- c.抗腫瘍薬動注療法
- d.脳室ドレナージ
- e.内視鏡下生検
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
髄膜腫はくも膜帽細胞から発生する原発性脳腫瘍で最も多い腫瘍で、大部分は良性であり、治療の基本は付着硬膜を含めた外科的全摘出です。多くは中硬膜動脈など外頸動脈系から豊富な血流を受けるため、術前に脳血管造影で栄養動脈を確認し、動脈塞栓術を行うことで術中出血の軽減や摘出の容易化、手術時間の短縮が期待できます。全脳照射は多発性脳転移などの悪性疾患、抗腫瘍薬動注療法は化学療法を前提とする治療、脳室ドレナージは水頭症への処置、内視鏡下生検は胚腫などの深部腫瘍で意義をもつ手技であり、いずれも髄膜腫の術前処置にはあたりません。髄膜腫への放射線治療は残存・再発・手術困難例などに対する局所の定位照射として行われます。「腫瘍の性質と血流」から術前戦略を考える視点は、多血性腫瘍の外科治療全般に通じる考え方です。
解答・解説
正解はbです
髄膜腫は、脳を包むくも膜の細胞(くも膜帽細胞)から発生する腫瘍で、原発性脳腫瘍の中で最も頻度が高い。大部分はWHO分類grade 1の良性腫瘍であり、硬膜に付着して脳の外側から脳を圧排するように、ゆっくり増大する。治療の基本は外科的全摘出で、腫瘍と付着した硬膜まで取り切れれば再発はまれである。 髄膜腫の多くは血流が豊富で、主に硬膜を栄養する外頸動脈系の枝(中硬膜動脈など)から血液を受けている。造影CT・MRIでは均一に強く造影され、腫瘍に接する硬膜が尾を引くように造影される所見(dural tail sign)がみられることがある。血管に富む腫瘍をそのまま摘出しようとすると、術中に大量出血をきたし、視野の悪化や手術時間の延長、輸血の増加を招く。 そこで、摘出術の前に脳血管造影で栄養動脈を確認し、カテーテルを用いてその血管を塞栓物質で詰める術前塞栓術が行われることがある。本問は「良性腫瘍で全摘出を目指す」「血管に富む」という2点から、術前に何をすべきかを考える問題である。
選択肢考察
- ×a. 全脳照射
全脳照射は脳全体に放射線を当てる治療で、多発性脳転移や中枢神経系原発悪性リンパ腫など、病変が脳内に広く及ぶ悪性疾患で用いられることがある。認知機能低下などの晩期障害が問題となるため、良性で局在性の髄膜腫に行うことはない。髄膜腫に対する放射線治療は、摘出困難な部位の腫瘍、残存・再発腫瘍、悪性度の高い(grade 2・3)腫瘍に対して、定位放射線照射などで病変局所に限って行われるものであり、術前処置として全脳に照射することはない。
- ○b. 動脈塞栓術
血管に富む髄膜腫では、手術に先立って脳血管造影を行い、腫瘍の栄養動脈(主に中硬膜動脈など外頸動脈系の分枝)にカテーテルを進めて、粒子状物質や液体塞栓物質などで塞栓する。これにより腫瘍への血流が減り、術中出血の軽減、腫瘍の軟化による摘出の容易化、手術時間の短縮が期待できる。術前の処置として行われるのはこの動脈塞栓術である。なお、内頸動脈系からの栄養血管は、塞栓物質が正常脳の血管へ流れ込み脳梗塞を起こす危険があるため、塞栓の対象は慎重に選ばれる。
- ×c. 抗腫瘍薬動注療法
抗腫瘍薬動注療法は、腫瘍を栄養する動脈から抗腫瘍薬を直接注入し、腫瘍局所の薬物濃度を高める方法である。髄膜腫は良性腫瘍で化学療法の効果が乏しく、全摘出を目指す手術の前処置としてこの方法を行うことはない。悪性神経膠腫に対して試みられた時期もあったが、明確な有効性は示されていない。
- ×d. 脳室ドレナージ
脳室ドレナージは、脳室内にカテーテルを留置して髄液を体外へ排出する処置で、閉塞性水頭症による頭蓋内圧亢進などの際に行われる。髄膜腫の摘出術で一般的に必要となる前処置ではなく、腫瘍が髄液の通り道を塞いで水頭症を合併している場合などに限って考慮される。
- ×e. 内視鏡下生検
内視鏡下生検は、主に脳室内や松果体部などの深部腫瘍に対し、神経内視鏡を用いて組織を採取する手技である。胚腫(ジャーミノーマ)や悪性リンパ腫のように、全摘出をしなくても病理診断が確定すれば放射線治療や化学療法で治療が期待できる腫瘍で意義がある。髄膜腫は画像所見から診断が推定でき、初めから全摘出を目指すため、術前に生検を行う意味は乏しい。
髄膜腫の概要
・原発性脳腫瘍で最多。中高年の女性に多い。 ・好発部位:大脳円蓋部、傍矢状洞部(大脳鎌)、蝶形骨縁、嗅溝、鞍結節、小脳橋角部、テント、脊柱管内など。 ・症状:多くは無症状で偶然発見される。増大すれば部位に応じた局所症状(けいれん、片麻痺、視力・視野障害、嗅覚障害など)や頭蓋内圧亢進症状を呈する。 ・画像:硬膜に広く付着する境界明瞭な腫瘤。造影で均一に強く増強され、dural tail signを伴うことがある。CTでは石灰化や接する頭蓋骨の肥厚(hyperostosis)を認めることがある。 ・病理:渦巻き状配列(whorl formation)や砂粒体(psammoma body)が特徴的。 ・治療:症候性や増大傾向のあるものは外科的摘出が基本。摘出の程度(腫瘍・付着硬膜・浸潤骨まで切除できたか)を示すSimpson分類が再発率と関係する。無症状の小さな腫瘍は経過観察も選択肢となる。残存・再発や手術困難例では定位放射線治療(ガンマナイフなど)が用いられる。
血管に富む脳腫瘍と術前塞栓術
・髄膜腫のほか、血管芽腫、傍神経節腫(グロムス腫瘍)、若年性血管線維腫などの多血性腫瘍でも、術中出血を減らす目的で術前塞栓術が考慮される。 ・塞栓術は通常、手術の数日前以内に行われる。
POINT
・髄膜腫は多くが良性で、治療の基本は外科的全摘出。 ・血管に富む髄膜腫では、術中出血を減らすため術前に栄養動脈(主に外頸動脈系)の動脈塞栓術を行う。 ・全脳照射や抗腫瘍薬動注療法は良性の髄膜腫には行わない。放射線治療を行う場合も局所への定位照射である。 ・内視鏡下生検は胚腫など、病理確定後に放射線・化学療法で治療できる深部腫瘍で意義がある。
