StudyMed医師国家試験

髪が結べない、帯が結べない―肩の可動域から読み解く日常生活動作

第101回医師国家試験 A問題 第45問

国試問題にチャレンジ

第101回 A問題 第45問

53歳の女性。3週前からの右肩関節痛を主訴に来院した。外傷の既往はない。肩関節可動域は屈曲70度,伸展20度,外転60度,内転30度,外旋20度,内旋45度で,特に外旋時に痛みが増強する。 日常動作で大きな支障をきたすのはどれか。2つ選べ。

  1. a.整髪
  2. b.結帯
  3. c.食事
  4. d.書字
  5. e.靴下着脱

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肩関節の可動域制限が、日常生活のどの動作に響くかを考える問題だ。病名を当てるのではなく、「その動作をするには肩がどの方向にどれだけ動く必要があるか」を具体的にイメージできるかがポイントになる。
医学生医学生
中年の女性で、外傷なく肩が痛くて動かない……五十肩でしょうか。
ドクタードクター
そう考えるのが自然だね。肩関節周囲炎、あるいはその一型の凍結肩が最も考えやすい。参考可動域は屈曲と外転が180度、伸展50度、外旋60度、内旋80度だから、本例はほぼ全方向で制限されていて、特に外旋で痛みが強い。外旋制限が目立つのは五十肩の典型的な特徴なんだ。
医学生医学生
整形外科の実習でゴニオメーターを使ってROMを測りましたが、正常値をすぐに言えなくて焦った覚えがあります。
ドクタードクター
測った数字を正常値と比べて、生活でどう困るかまで結びつけるのが臨床的な読み方だよ。では、設問の動作を一つずつ考えよう。まず整髪。髪をとかしたり結んだりするとき、肩はどう動いている?
医学生医学生
腕を上げて、手を頭の後ろに回すので……挙上だけでなく、外にひねる動きも要りそうです。
ドクタードクター
その通り。整髪は「結髪動作」とも呼ばれ、肩の屈曲または外転による挙上に、外旋を組み合わせた動きだ。本例は挙上が大きく制限され、しかも一番痛い外旋が必要になるから、非常に困難になる。
医学生医学生
もう一つの結帯というのは、帯を背中で結ぶ動作ですよね。
ドクタードクター
そう。エプロンの紐を後ろで結ぶ、背中のファスナーを上げる、ズボンの後ろポケットに手を入れる、といった動作だ。手を背中に回すには、肩の伸展・内転・内旋の組み合わせが必要になる。本例は伸展も内旋も制限されているから、手が背中の高い位置まで届かない。
医学生医学生
結髪と結帯は、外旋と内旋で向きが逆の動作なんですね。五十肩は全方向が制限されるから、両方とも困るということですか。
ドクタードクター
まさにそこが理解のカギ。だから肩の診察では「髪を結べますか」「帯を結べますか」と必ず確認するし、実際に手を頭の後ろと背中に回してもらうことも多いんだ。
医学生医学生
食事はどうでしょう。手を口に運ぶので、肩も使う気がしますが。
ドクタードクター
意外とそうでもない。食事は主に肘の屈曲と前腕・手関節の動きで行い、肩はわずかな屈曲・外転で足りる。首を少し前に傾ければ代償もできるから、本例程度の可動域があれば大きな支障はない。
医学生医学生
書字も机の上で手先を動かすだけなので、肩はほぼ下ろしたままですね。
ドクタードクター
その通り。手指と手関節の細かい動きが主体だ。そして靴下の着脱は、股関節と膝を曲げ、体幹を前屈して足先を手元に引き寄せる動作だから、肩より股関節が主役になる。変形性股関節症や人工股関節置換術後の患者さんで問題になる動作だね。
医学生医学生
リハビリテーション科の見学で、人工股関節の術後の方がソックスエイドを使っているのを見ました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。動作ごとに主役になる関節を押さえておくと、自助具や代償動作の工夫まで考えられるようになる。最後に五十肩の臨床的な注意点も整理しておこう。経過は、痛みの強い炎症期、拘縮が目立つ拘縮期、徐々に動きが戻る回復期をたどり、多くは1〜2年ほどで軽快するとされる。夜間痛もよくある訴えだ。
医学生医学生
自然に治るなら、様子を見ていればいいんでしょうか。
ドクタードクター
そこは要注意。腱板断裂や石灰性腱炎、変形性肩関節症、頸椎疾患による関連痛など、似た症状を示す疾患を画像などで除外することが大切だ。治療は、痛みの強い時期はNSAIDsや関節内注射で疼痛を抑え、落ち着いてきたら可動域訓練を進める。難治例では関節授動術を検討することもある。
医学生医学生
痛みの時期と拘縮の時期で、やることが変わるんですね。
ドクタードクター
そう。そして治療効果の判定でも、角度の数字だけでなく「髪が結べるようになったか」「背中に手が回るか」という生活の視点を持つことが、患者さんの満足につながるんだ。

まとめ

中年者に誘因なく生じる肩の痛みと全方向性の可動域制限、特に外旋制限は肩関節周囲炎(五十肩)に典型的です。整髪(結髪動作)には肩の屈曲・外転による挙上と外旋が、結帯動作には肩の伸展・内転・内旋が必要なため、この2つが肩の障害で最も困難となる代表的な日常生活動作です。一方、食事や書字は肘・手関節が主体で肩はほぼ下垂位で行え、靴下の着脱は股関節・膝関節の屈曲と体幹前屈が主体のため、肩の可動域制限の影響は小さくなります。肩関節周囲炎は多くが1〜2年で軽快しますが、腱板断裂や石灰性腱炎などの除外と、病期に応じた疼痛管理・運動療法が重要です。関節可動域を「数字」ではなく「生活動作」と結びつけて理解することは、診察・リハビリテーション・自助具の選択まで一貫して役立つ視点です。

解答・解説

正解はa, bです

所見の整理

53歳女性で、外傷の既往なく3週前から右肩関節痛が出現している。肩関節の可動域(ROM: range of motion)は以下のとおりで、日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の参考可動域と比べると多方向に制限がある。 ・屈曲 70度(参考値180度)→ 著明に制限 ・伸展 20度(参考値50度)→ 制限 ・外転 60度(参考値180度)→ 著明に制限 ・外旋 20度(参考値60度)→ 制限、しかも外旋時に痛みが増強 ・内旋 45度(参考値80度)→ 制限

診断の考え方

中年(50歳代)で誘因なく肩の痛みと全方向性の可動域制限(とくに外旋制限)がみられることから、肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)、あるいはその一型である凍結肩(癒着性関節包炎)が最も考えやすい。鑑別として腱板断裂、石灰性腱炎、変形性肩関節症、頸椎疾患による関連痛などがあるが、設問はあくまで可動域制限が日常生活動作(ADL: activities of daily living)に与える影響である。

設問の考え方

各ADL動作で肩関節がどの方向にどれだけ動く必要があるかを考え、今回の制限(屈曲・外転・外旋・伸展・内旋)で遂行できなくなる動作を選ぶ。 ・整髪(結髪動作): 手を頭の後ろへ回す動作で、肩の屈曲または外転と外旋の組み合わせが必要。 ・結帯動作: 手を背中(腰の後ろ)へ回す動作で、肩の伸展・内旋・内転の組み合わせが必要。 この2つは肩関節周囲炎で障害されやすい代表的な動作であり、診察でも「結髪・結帯動作ができるか」を必ず確認する。一方、食事・書字は肩をほとんど挙上せず肘・手関節で行う動作であり、靴下の着脱は主に股関節・膝関節・体幹の屈曲で行う動作である。

選択肢考察

  1. ○a.  整髪

    大きな支障をきたす。髪をとかす・結ぶといった整髪動作では、手を頭頂部から後頭部へ持っていくため、肩の屈曲または外転(おおよそ90度以上の挙上)に加えて外旋が必要になる。本例は屈曲70度・外転60度と挙上が大きく制限され、外旋も20度に制限されているうえ外旋時の痛みが最も強いため、この動作は非常に困難である。

  2. ○b.  結帯

    大きな支障をきたす。結帯動作(エプロンや帯を背中で結ぶ、背中に手を回してファスナーを上げる、ズボンの後ろに手を入れるなど)では、肩の伸展・内転・内旋を組み合わせて手を背部に回す。本例は伸展20度(参考値50度)、内旋45度(参考値80度)と制限されているため、手を背中に回して十分に高い位置まで届かせることができない。

  3. ×c.  食事

    支障は少ない。食事動作では手を口元まで運ぶが、主に肘関節の屈曲と前腕・手関節の動きで行われ、肩関節は軽度の屈曲・外転で足りる。首を少し前に傾けることでも代償できるため、本例程度の肩の可動域(屈曲70度、外転60度)があれば遂行可能である。

  4. ×d.  書字

    支障は少ない。書字は机上で手指と手関節を細かく動かす動作で、肩関節はほぼ下垂位のまま軽度の動きがあれば十分である。本例の可動域制限でも大きな支障は生じない。

  5. ×e.  靴下着脱

    支障は少ない。靴下の着脱は股関節・膝関節の屈曲と体幹の前屈によって足先を手元に引き寄せて行う動作であり、肩関節の大きな可動域は必要としない。股関節の屈曲制限がある変形性股関節症や人工股関節置換術後などで問題となる動作である。

肩関節の参考可動域(日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会)

屈曲(前方挙上)180度、伸展(後方挙上)50度、外転(側方挙上)180度、外旋60度、内旋80度。なお内転は基本肢位(上肢下垂位)では0度とされる。

代表的なADL動作と必要な関節運動

・結髪(整髪)動作: 肩の屈曲・外転+外旋、肘屈曲。 ・結帯動作: 肩の伸展・内転+内旋、肘屈曲。 ・洗顔・食事: 主に肘屈曲と前腕回内外。 ・靴下着脱・足の爪切り: 股関節屈曲(+外旋)、膝屈曲、体幹前屈。 ・和式トイレ・正座: 膝関節・足関節の深い屈曲。

肩関節周囲炎(五十肩)

・40〜60歳代に多く、明らかな誘因なく肩の痛みと可動域制限が生じる。関節包や腱板・滑液包などの肩周囲組織の炎症・線維化によると考えられる。 ・経過は一般に、痛みの強い炎症期(疼痛期)→ 痛みは和らぐが拘縮が目立つ拘縮期(凍結期)→ 可動域が徐々に回復する回復期(解凍期)をたどり、多くは1〜2年程度で自然軽快する。 ・夜間痛、結髪・結帯動作の障害が特徴的である。とくに外旋制限が目立つ。 ・診断には、腱板断裂(MRI・超音波)、石灰性腱炎(単純X線での石灰沈着)、変形性肩関節症、頸椎疾患などの除外が重要である。 ・治療: 急性期は安静・NSAIDs・関節内注射(ステロイドやヒアルロン酸)、疼痛が落ち着けば可動域訓練などの運動療法。難治例では関節授動術(非観血的・鏡視下)を行うことがある。

POINT

・肩関節周囲炎では全方向、とくに外旋の可動域が制限され、夜間痛を伴うことが多い。 ・結髪(整髪)動作=屈曲・外転+外旋、結帯動作=伸展・内転+内旋。この2つが肩の障害で困難となる代表的ADLである。 ・食事・書字は肘・手関節主体、靴下着脱は股関節・膝関節主体の動作であり、肩の可動域制限の影響は小さい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。