脈が飛ぶのに治療しない?―13歳のWenckebach型ブロックは「見守る」が正解
第101回医師国家試験 A問題 第18問
国試問題にチャレンジ
13歳の男子。不整脈を指摘され来院した。自覚症状はない。成長・発達に異常はない。体温36.5℃。脈拍60/分,不整。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部に異常を認めない。心電図を示す。 対応として適切なのはどれか。

- a.経過観察
- b.イソプロテレノール投与
- c.ペースメーカー挿入
- d.除細動器植え込み
- e.カテーテルアブレーション
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
PQ間隔が徐々に延長したのちQRSが脱落する心電図はWenckebach型(MobitzⅠ型)Ⅱ度房室ブロックで、障害部位は主に房室結節です。若年者では迷走神経緊張による機能的なものが多く、無症状で器質的心疾患がなければ予後良好で、経過観察が適切です。PQ一定のまま突然脱落するMobitzⅡ型や高度・Ⅲ度房室ブロック、症状を伴う徐脈はペースメーカーの適応となり、イソプロテレノールは症候性徐脈への一時的対応、植込み型除細動器は致死性心室性不整脈、カテーテルアブレーションは頻脈性不整脈に対する治療です。運動負荷やアトロピンで伝導が改善すれば機能的ブロックを支持します。心電図の型から障害部位を推定し、症状の有無と合わせて治療方針を決める考え方は、徐脈性不整脈全般の診療の基本となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
13歳の男子で、学校健診などで不整脈を指摘されて受診している。自覚症状(失神、めまい、動悸、易疲労感など)はなく、成長・発達も正常である。脈拍は60/分で不整だが、心音・呼吸音に異常はなく、心不全や器質的心疾患を示唆する所見は見当たらない。
心電図の読み方
心電図では、P波の後のPQ(PR)間隔が1拍ごとに少しずつ延びていき、最後にP波の後に続くはずのQRS波が1つ抜け落ちる。脱落の後はPQ間隔が短い状態に戻り、再び同じ周期を繰り返す。P波自体は規則正しく出ているため、洞結節からの刺激は正常に発生しており、心房から心室への伝導(房室伝導)が段階的に遅れて途切れていることがわかる。これはWenckebach型(MobitzⅠ型)Ⅱ度房室ブロックの典型像である。QRS脱落があるため脈は「不整」として触知される。
鑑別
・MobitzⅡ型Ⅱ度房室ブロック: PQ間隔は一定のまま突然QRSが脱落する。ヒス束以下の障害が多く、完全房室ブロックへ進行しやすい。 ・Ⅲ度(完全)房室ブロック: P波とQRS波が互いに無関係に出現する(房室解離)。 ・非伝導性の心房期外収縮: 早期に出現した異所性P波の後にQRSが続かないもので、P波の間隔が乱れる点で区別する。
対応の考え方
Wenckebach型ブロックの障害部位は多くの場合房室結節であり、若年者では迷走神経(副交感神経)の緊張が高いことによる機能的なものが大半である。徐脈による症状がなく、器質的心疾患もなければ予後は良好で、治療は不要である。したがって経過観察が適切となる。運動負荷で交感神経が優位になると伝導が改善し、ブロックが消失することも、機能的なものであることの裏付けとなる。
選択肢考察
- ○a. 経過観察
若年者の無症状のWenckebach型Ⅱ度房室ブロックは、迷走神経緊張による房室結節レベルの機能的な伝導遅延であることが多く、高度房室ブロックへの進行や突然死のリスクは低い。本例は自覚症状がなく、身体所見にも異常がないため、治療介入は不要であり経過観察とする。必要に応じてHolter心電図や運動負荷心電図で、症状を伴う徐脈やより高度なブロックがないことを確認しておくとよい。
- ×b. イソプロテレノール投与
イソプロテレノールはβ受容体刺激薬で、心拍数増加と房室伝導の促進作用をもつ。症状を伴う高度徐脈や房室ブロックで、ペースメーカー治療までの一時的な対応として用いられる薬剤である。本例は無症状で、脈拍60/分と血行動態にも問題がないため、薬物治療の適応はない。
- ×c. ペースメーカー挿入
恒久的ペースメーカーの適応となるのは、MobitzⅡ型Ⅱ度房室ブロック、高度房室ブロック、Ⅲ度(完全)房室ブロック、症状を伴う洞不全症候群などである。Wenckebach型ブロックでも、徐脈による失神やめまいなどの症状がある場合や、ヒス束以下の障害が証明された場合には適応となることがある。しかし、無症状の若年者の本例では適応はない。
- ×d. 除細動器植え込み
植込み型除細動器(ICD)は、心室頻拍や心室細動などの致死性心室性不整脈による突然死を予防するための装置である。対象は心停止からの蘇生例や、持続性心室頻拍の既往例、突然死リスクの高い心筋症・QT延長症候群・Brugada症候群などである。徐脈性不整脈の治療手段ではなく、本例に用いる理由はない。
- ×e. カテーテルアブレーション
カテーテルアブレーションは、頻拍の原因となる副伝導路や異常な興奮回路・発生源を高周波通電などで焼灼する治療で、WPW症候群、房室結節リエントリー性頻拍、心房粗動、心房細動、一部の心室頻拍などが対象となる。頻脈性不整脈の治療であり、伝導が遅れる房室ブロックに行うと、むしろ伝導障害を悪化させるおそれがある。
房室ブロックの分類
・Ⅰ度: PQ間隔が0.20秒を超えて延長するが、QRS脱落はない。 ・Ⅱ度Wenckebach型(MobitzⅠ型): PQ間隔が徐々に延長し、QRSが脱落する。障害部位は主に房室結節。 ・Ⅱ度MobitzⅡ型: PQ間隔は一定のまま、突然QRSが脱落する。障害部位は主にヒス束以下。 ・高度房室ブロック: 2拍以上連続してQRSが脱落する。 ・Ⅲ度(完全): 心房と心室の興奮が完全に独立し、補充調律で心室が動く。
予後と治療の目安
Ⅰ度とWenckebach型Ⅱ度は、無症状であれば原則として経過観察でよい。若年者やスポーツ選手では迷走神経緊張により睡眠中などにしばしばみられ、生理的な範囲のこともある。一方、MobitzⅡ型、高度房室ブロック、Ⅲ度房室ブロックは、失神(Adams-Stokes発作)や突然死につながる危険があり、症状がなくても恒久的ペースメーカーの適応となることが多い。
機能的ブロックの見分け方
房室結節は自律神経の影響を強く受けるため、運動負荷やアトロピン(副交感神経遮断薬)投与で伝導が改善すれば、迷走神経緊張による機能的なブロックと判断しやすい。逆にMobitzⅡ型のようなヒス束以下の障害では、心拍数が上がると伝導比がかえって悪化することがある。
POINT
・PQ間隔が徐々に延長してQRSが脱落するのはWenckebach型(MobitzⅠ型)Ⅱ度房室ブロック。 ・若年者の無症状例は迷走神経緊張による機能的なものが多く、経過観察でよい。 ・ペースメーカーの適応はMobitzⅡ型、高度・Ⅲ度房室ブロック、症状を伴う徐脈。 ・ICDは致死性心室性不整脈、アブレーションは頻脈性不整脈に対する治療。
