12週のはずが9週の大きさ―心拍のない胎児が語る稽留流産と次の一手
第100回医師国家試験 I問題 第14問
国試問題にチャレンジ
28歳の初妊婦。市販の妊娠診断薬で陽性反応を示したが,仕事が忙しく最終月経開始日から12週を経過して受診した。月経周期は28日,整。内診で子宮は手拳大,軟。超音波検査では頭殿長〈CRL〉28mmの胎児を認めるが,心拍動は観察されない。 対応として正しいのはどれか。
- a.2週後再診
- b.入院後経過観察
- c.腹部MRI
- d.尿中hCG測定
- e.子宮内容除去術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
月経周期が整で週数が確かな妊婦において、CRLが週数より明らかに小さく、十分な大きさの胎児に心拍動を認めなければ、胎児死亡と判断できます。出血や腹痛などの症状がなく妊娠組織が子宮内にとどまる状態は稽留流産であり、妊娠初期では子宮内容除去術が標準的な対応です。再診での待機は週数が不確かな場合、入院安静は胎児が生存する切迫流産の場合の対応であり、絨毛由来のhCGは胎児の生死判定に使えません。早期流産の多くは胎児の染色体異常によるもので、長期の胎児残留は死胎児症候群(DIC)のリスクとなることも押さえておきましょう。「確かな週数」と「胎児の大きさ・心拍」を照らし合わせる考え方は、妊娠初期の診療で迷わないための基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・28歳の初妊婦。市販の妊娠検査薬で陽性を確認している。 ・月経周期は28日型で整。したがって最終月経開始日から計算した妊娠週数(12週)は信頼性が高い。 ・内診で子宮は手拳大、軟。手拳大はおおよそ妊娠12週前後の子宮の大きさに相当する。 ・経腟(または経腹)超音波で胎児は確認できるが、頭殿長(CRL:crown-rump length、胎児の頭のてっぺんから殿部までの長さ)は28mmで、これは妊娠9週台に相当する。さらに心拍動が見えない。
診断へのプロセス
月経歴からは妊娠12週のはずなのに、胎児の大きさは9週台で止まっている。つまり胎児は数週間前に発育を停止し、その時点で死亡したと考えられる。CRLがある程度以上(目安として7mm以上)ある胎児で心拍動が確認できなければ、胎児死亡と判断してよい。本例は出血や腹痛などの症状がなく、死亡した胎児と付属物が子宮内にとどまっている状態であり、稽留流産と診断される。
設問の考え方
診断はすでに確定しているので、追加の検査や時間をおいた再評価は不要である。妊娠22週未満の胎児死亡(流産)であり、子宮内に残った妊娠組織を除去する治療に進む。国家試験の文脈では、妊娠初期の稽留流産に対する標準的対応は子宮内容除去術である。死亡した胎児が長く子宮内にとどまると、感染や、まれに凝固障害(死胎児症候群)の原因となりうるため、診断後は速やかに処置を計画する。
選択肢考察
- ×a. 2週後再診
時間をおいて再検査する意味があるのは、妊娠週数がはっきりせず胎児がまだ小さいため心拍動が見えないだけかもしれない場合(例:胎嚢のみでCRLが小さい、月経不順で週数が不確か)である。本例は月経周期が整で週数が確かであり、CRL 28mmと十分な大きさの胎児に心拍動がないため、胎児死亡はすでに確定している。再診を待っても結論は変わらず、処置を遅らせるだけである。
- ×b. 入院後経過観察
入院して安静・経過観察とする対応は、胎児が生存している切迫流産で妊娠継続を目指す場合の考え方である。本例は胎児が死亡しており、妊娠を継続させる目的の観察は意味をもたない。処置のために入院することはあっても、「経過観察」が目的ではない。
- ×c. 腹部MRI
超音波検査で胎児の大きさと心拍動の有無がすでに評価でき、診断は確定している。MRIを追加しても治療方針は変わらず、不要な検査である。妊娠初期の画像評価は超音波が基本であり、MRIは超音波で診断がつかない特殊な状況(付属器腫瘤の性状評価など)に限って用いられる。
- ×d. 尿中hCG測定
hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は胎児ではなく絨毛(胎盤のもとになる組織)から分泌される。胎児が死亡しても絨毛組織が残っていればhCGはしばらく陽性を示し、低下にも時間がかかる。したがって尿中hCGの陽性・陰性で胎児の生死を判定することはできず、すでに超音波で確定した診断に何も加えない。
- ○e. 子宮内容除去術
稽留流産と確定しているため、子宮内に残った胎児と付属物(絨毛・脱落膜)を除去する。子宮内容除去術(頸管拡張のうえ胎盤鉗子・キュレット、あるいは吸引によって内容を除去する手術)は、処置が短時間で終わり、残留による出血や感染、長期残留時の凝固障害のリスクを避けられる。妊娠12週未満の稽留流産に対する標準的な治療である。
流産の定義と分類
流産は妊娠22週未満で妊娠が終結することをいう。12週未満を早期流産、12週以降22週未満を後期流産と呼ぶ。早期流産の多くは胎児側の染色体異常が原因で、母体側に原因がないことが多い。
臨床経過による分類
・切迫流産:出血などの症状があるが胎児は生存し、妊娠継続の可能性がある状態。 ・進行流産:子宮口が開大し、妊娠組織が排出されつつある状態。 ・完全流産:妊娠組織がすべて排出された状態。 ・不全流産:一部が子宮内に残っている状態。 ・稽留流産:胎児が死亡しているが、症状がなく子宮内にとどまっている状態。
CRLと妊娠週数の目安
CRLは妊娠初期(おおむね8〜11週)の週数推定に最も有用な計測値で、妊娠8週0日で約15〜16mm、9週0日で約22〜23mm、10週0日で約30〜31mm程度である。本例の28mmは9週後半にあたり、月経歴の12週と3週近いずれがある。
稽留流産の治療選択肢
・外科的治療:子宮内容除去術(掻爬法・吸引法)。短時間で確実に内容を除去できる。 ・待機的管理:自然排出を待つ方法で、実臨床では選択されることもあるが、排出時期が予測できず出血で緊急処置となることもある。 ・薬物療法:わが国では2023年に経口中絶薬(ミフェプリストン・ミソプロストール)が妊娠9週0日までの人工妊娠中絶を適応として承認された。
死胎児症候群
死亡した胎児が長期間(おおむね4週以上)子宮内にとどまると、組織因子などが母体循環へ入り、低フィブリノゲン血症からDIC(播種性血管内凝固)を来すことがある。妊娠中期以降の子宮内胎児死亡で問題になりやすい。
POINT
・最終月経からの週数(確実)と胎児の大きさ(CRL)が合わず、心拍動がない → 稽留流産。 ・CRLが十分な大きさ(7mm以上が目安)で心拍動がなければ胎児死亡と判断できる。再診で待つ必要はない。 ・hCGは絨毛由来であり、胎児の生死判定には使えない。 ・妊娠初期の稽留流産の標準的治療は子宮内容除去術。 ・入院安静は胎児が生存する切迫流産の対応であり、稽留流産には当てはまらない。
