I誘導が真っ逆さま―右軸偏位でも右胸心でもない「電極の付け間違い」を見抜く
第100回医師国家試験 G問題 第96問
国試問題にチャレンジ
心電図を示す。 考えられるのはどれか。

- a.右軸偏位
- b.左軸偏位
- c.心房細動
- d.心筋梗塞
- e.誘導肢の取り違え
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
I誘導でP波・QRS波・T波がすべて陰性となり、aVRとaVLが入れ替わったような波形を示す場合は、左右上肢電極の付け間違いか右胸心を考えます。両者の鑑別には胸部誘導が有用で、V1からV6へR波が漸増する正常パターンなら電極の付け間違い、R波が漸減すれば右胸心を疑います。左右上肢を付け違えると、I誘導の極性が反転し、IIとIII、aVRとaVLが入れ替わり、aVFと胸部誘導は変化しないため、見かけ上の右軸偏位を呈します。整脈でP波が確認できれば心房細動は否定でき、P波まで含めた全体の反転は心筋梗塞とも合いません。異常所見を病気と即断せず、記録手技の誤りを疑う視点は、心電図判読の基本であり臨床での誤診防止に直結します。
解答・解説
正解はeです
心電図所見の整理
・リズム:RR間隔は一定で、各QRS波の前にP波がある。整脈である。 ・肢誘導:I誘導ではP波・QRS波・T波がすべて下向き(陰性)になっている。aVL誘導もQRS波・T波が下向きである。一方、aVR誘導は通常みられるはずの明らかな陰性波形ではなく、小さく上向き成分を含む波形になっている。またII誘導よりIII誘導のQRS波が大きい。 ・胸部誘導:V1からV6にかけてR波が順調に増高し(R波の漸増)、V5・V6では高い陽性R波と陽性T波がみられる。ST上昇や異常Q波はない。
考え方
正常の心臓では、心房・心室の興奮は右上から左下へ向かうため、左側から心臓を見るI誘導・aVL誘導では波形が上向きに、右上から見るaVR誘導では下向きになる。本例ではI誘導のP・QRS・Tがすべて陰性化し、aVRとaVLの関係が正常と入れ替わったような形になっている。 このようにI誘導が全体に反転する原因としては、「左右上肢の電極(誘導肢)の付け間違い」と「右胸心(心臓が右胸腔にある先天異常)」が代表的である。両者の鑑別には胸部誘導が役に立つ。右胸心では心臓そのものが右側にあるため、V1からV6へ進むにつれてR波がむしろ小さくなる。これに対し本例ではV5・V6で高いR波がみられ、胸部誘導は正常である。つまり心臓の位置や電気的興奮は正常で、肢誘導だけがおかしい。これは右手と左手の電極を逆に付けた場合に典型的な所見であり、誘導肢の取り違えと判断できる。
選択肢考察
- ×a. 右軸偏位
I誘導のQRS波が陰性で、III誘導・aVF誘導が陽性なので、記録されたままの波形から電気軸を求めると右軸偏位のように見える。しかしこれは左右上肢の電極を付け違えたことによる見かけ上の所見である。I誘導ではQRS波だけでなくP波やT波まで陰性になっており、胸部誘導はV5・V6で高いR波を示す正常パターンであることから、真の右軸偏位ではない。電極を正しく付け直せば、電気軸は正常範囲になると考えられる。
- ×b. 左軸偏位
左軸偏位はI誘導が陽性、II・aVF誘導が陰性優位となる所見で、左脚前枝ブロックなどでみられる。本例ではI誘導が陰性で、II・III・aVF誘導は陽性であり、左軸偏位の所見にはあてはまらない。
- ×c. 心房細動
心房細動ではP波が消失し、基線に細かく不規則な揺れ(f波)がみられ、RR間隔が全く不規則(絶対性不整脈)になる。本例はRR間隔が一定で、各QRS波の前にP波が確認できるため、心房細動は否定的である。
- ×d. 心筋梗塞
心筋梗塞では、急性期に梗塞部位に対応する誘導でST上昇がみられ、その後異常Q波や冠性T波(左右対称の深い陰性T波)が出現する。本例では胸部誘導に異常Q波やST変化はない。I・aVL誘導は陰性波形だが、P波まで含めて全体が反転していることから、側壁の梗塞ではなく電極の付け間違いによる変化と考えられる。
- ○e. 誘導肢の取り違え
右手と左手の電極を逆に付けると、I誘導は極性が反転してP・QRS・Tすべてが下向きになる。またaVRとaVL、IIとIIIがそれぞれ入れ替わり、aVFは変化しない。本例ではI誘導の全波形の陰性化、aVLの陰性化とaVRの上向き化、III誘導がII誘導より大きいことがみられ、この変化とよく合う。さらに胸部誘導はV1からV6へのR波の漸増が保たれた正常パターンであり、右胸心を否定できる。以上より左右上肢の誘導肢の取り違えと判断できる。
肢誘導の仕組み
・I誘導:左手(+)と右手(−)の電位差 ・II誘導:左足(+)と右手(−)の電位差 ・III誘導:左足(+)と左手(−)の電位差 ・aVR・aVL・aVF:それぞれ右手・左手・左足から心臓をみた増高単極肢誘導 右足の電極は基準電極(アース)で、波形には直接関与しない。
左右上肢の電極を付け違えたときの変化
・I誘導:極性が反転し、P・QRS・Tがすべて陰性になる ・IIとIII:入れ替わる ・aVRとaVL:入れ替わる ・aVF:変化しない ・胸部誘導:影響を受けない(正常のまま)
右胸心との鑑別
右胸心でもI誘導の全波形が陰性となり、aVRとaVLが入れ替わったような所見になる。しかし右胸心では心臓が右側にあるため、胸部誘導でV1からV6に向かってR波が次第に小さくなる(R波の漸減)。胸部誘導が正常であれば電極の付け間違い、胸部誘導でもR波の漸減があれば右胸心を考える。右胸心が疑われる場合は、右側胸部誘導(V3R〜V6R)を記録すると正常に近い波形が得られる。
電気軸の簡便な判定
I誘導とaVF誘導のQRSの向きで判定する。 ・I陽性・aVF陽性:正常軸 ・I陰性・aVF陽性:右軸偏位 ・I陽性・aVF陰性:左軸偏位の可能性(II誘導が陰性優位なら左軸偏位) 正常の電気軸はおおむね−30°〜+90°(文献によっては+110°)である。
POINT
・I誘導でP波・QRS波・T波がすべて陰性なら、左右上肢電極の付け間違いか右胸心を考える。 ・胸部誘導が正常なら電極の付け間違い、胸部誘導でR波の漸減があれば右胸心である。 ・左右上肢の付け違えでは、Iが反転し、IIとIII、aVRとaVLが入れ替わり、aVFは変わらない。 ・見かけの右軸偏位にだまされない。
