胎児の血液は肺を素通りする―動脈管が担う「バイパス」と閉じるしくみ
第100回医師国家試験 G問題 第33問
国試問題にチャレンジ
動脈管について正しいのはどれか。
- a.肺静脈と大動脈を連結している。
- b.機能的閉鎖は生後3か月である。
- c.アスピリンによって拡張する。
- d.胎児では心拍出量の50% 以上が流れる。
- e.動脈血二酸化炭素分圧の上昇によって閉鎖する。
対話形式の解説
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医学生まとめ
動脈管は肺動脈と下行大動脈を結ぶ胎児期の短絡路で、肺血管抵抗の高い胎児では右心室拍出量の大部分が肺を迂回してここを流れ、総心拍出量でみても半分以上に相当するとされます。開存は低酸素とPGE2によって保たれ、出生後の動脈血酸素分圧上昇とPGE2低下によって正期産児では生後1、2日以内に機能的に閉鎖し、数週〜3か月ほどで器質的に閉鎖して動脈管索となります。この原理から、アスピリンやインドメタシンなどのCOX阻害薬は閉鎖を促し、PGE1製剤は開存を維持することが導かれ、未熟児動脈管開存症の治療や動脈管依存性先天性心疾患の管理、妊娠後期のNSAIDs回避に応用されます。胎児循環の生理を理解しておくことは、新生児の循環適応や先天性心疾患を学ぶうえでの土台になります。
解答・解説
正解はdです
【テーマ】動脈管(ductus arteriosus、Botallo管)の解剖・胎児循環での役割・出生後の閉鎖機序・薬理を問う問題である。
胎児循環における動脈管の役割
胎児は肺で呼吸をしておらず、酸素は胎盤から臍静脈を通じて供給される。肺は液体で満たされて虚脱しており、肺血管抵抗は非常に高い。そのため右心室から肺動脈へ駆出された血液の大部分は、抵抗の高い肺へは向かわず、肺動脈と大動脈(下行大動脈の起始部、左鎖骨下動脈分岐の直後付近)をつなぐ動脈管を通って体循環側へ流れる(右→左短絡)。右心室の拍出量の大部分(約9割)が動脈管を通り、左右両心室を合わせた総心拍出量でみても約半分以上がこの経路を流れる。つまり胎児期の動脈管は「肺をバイパスする主要な血管」であり、細い付属血管ではない。
開存の維持と出生後の閉鎖
胎児期に動脈管が開いているのは、低い酸素分圧に加えて、胎盤や動脈管自身で産生されるプロスタグランジンE2(PGE2)などの血管拡張物質が平滑筋を弛緩させているためである。出生して肺呼吸が始まると、(1) 動脈血酸素分圧(PaO2)の上昇が動脈管の平滑筋を直接収縮させる、(2) 胎盤の娩出と肺での代謝亢進により血中PGE2濃度が低下する、という2つの変化が起こり、動脈管は収縮して閉じる。正期産児では生後十数時間~1、2日程度で機能的に閉鎖し、その後内膜の肥厚・線維化により数週~3か月ほどで器質的(解剖学的)に閉鎖して動脈管索となる。
解答の考え方
閉鎖を促すのは「酸素分圧の上昇」と「PGE2の低下」であり、逆に開存を保つのは「低酸素」と「PGE2」である。この原理から、PG合成を阻害する薬剤(NSAIDs)は閉鎖方向、PGE1製剤は開存方向に働くことが導ける。これらを押さえれば、胎児期に動脈管を流れる血流量が非常に大きいことを述べた選択肢が正しいと判断できる。
選択肢考察
- ×a. 肺静脈と大動脈を連結している。
動脈管が連結しているのは肺動脈(主肺動脈~左肺動脈起始部付近)と大動脈(下行大動脈起始部、左鎖骨下動脈分岐部の遠位)である。肺静脈ではない。胎児期には高い肺血管抵抗のために肺動脈圧が大動脈圧より高く、血液は肺動脈から大動脈へ流れる。なお肺静脈は左心房に還流する血管であり、動脈管とは関係しない。
- ×b. 機能的閉鎖は生後3か月である。
正期産児の動脈管は、生後おおむね10~15時間、遅くとも1~3日以内に機能的に閉鎖する(平滑筋の収縮による血流途絶)。生後数週~3か月ほどかかるのは、内膜の肥厚と線維化によって完全に索状物(動脈管索)となる器質的(解剖学的)閉鎖のほうである。したがって「機能的閉鎖が生後3か月」は誤りである。なお早産児では平滑筋が未熟で酸素への反応も弱く、PGE2への感受性が高いため、動脈管の閉鎖が遅れやすく、未熟児動脈管開存症が問題となる。卵円孔は出生直後に左房圧が右房圧を上回ることで弁状に押し付けられて機能的に閉じ、器質的閉鎖には数か月~1年程度かかる(成人の約4人に1人は卵円孔開存が残る)。
- ×c. アスピリンによって拡張する。
アスピリンはシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害してアラキドン酸からのプロスタグランジン産生を抑える。動脈管の開存はPGE2によって維持されているため、PG産生が低下すると動脈管は収縮・閉鎖する方向に働く。したがって「拡張する」は逆である。この作用を利用し、未熟児動脈管開存症ではインドメタシンやイブプロフェン(いずれもCOX阻害薬)が閉鎖目的で投与される。一方で、妊娠後期の妊婦がNSAIDsを使用すると胎児の動脈管が子宮内で収縮・閉鎖し、胎児の右心不全や新生児遷延性肺高血圧症を来しうるため、妊娠後期のNSAIDs使用は原則禁忌とされている。逆に動脈管の開存を保ちたい場合(肺血流や体血流を動脈管に依存する先天性心疾患)にはPGE1製剤(リポPGE1など)を投与する。
- ○d. 胎児では心拍出量の50% 以上が流れる。
胎児期は肺血管抵抗が非常に高く、右心室から駆出された血液の大部分(約9割)は肺へ向かわず動脈管を通って下行大動脈へ流れる。胎児では右心室が左心室よりも多くの血液を拍出しており(総心拍出量のおよそ6割前後)、その大半が動脈管を通過するため、動脈管の血流量は左右両心室を合わせた総心拍出量の半分以上に相当する。たとえば臍静脈から右心房へ還流する血液量を100とすると、右心室拍出量は約67、左心室拍出量は約40、動脈管を流れる血液量は約60と見積もられる。このように動脈管は胎児循環の主要な経路であり、この記述は正しい。動脈管を通った比較的酸素飽和度の低い血液は、下行大動脈から下半身や臍動脈を経て胎盤へ戻り、そこで再び酸素化される。
- ×e. 動脈血二酸化炭素分圧の上昇によって閉鎖する。
動脈管の閉鎖を引き起こすのは、出生後の肺呼吸開始に伴う動脈血酸素分圧(PaO2)の上昇である。酸素は動脈管平滑筋のカリウムチャネルの抑制などを介して細胞内カルシウムを増やし、平滑筋を収縮させる。これに胎盤からのPGE2供給の途絶と肺でのPGE2分解の亢進が加わって閉鎖が進む。二酸化炭素分圧の上昇は閉鎖因子ではない。逆に、出生後も低酸素状態が続くと動脈管は開存しやすくなり、高地で出生した児で動脈管開存症が多いことが知られている。
胎児循環の3つの短絡路
・静脈管(Arantius管): 臍静脈と下大静脈を結び、胎盤からの酸素に富む血液の一部が肝臓を迂回して下大静脈へ入る。出生後に閉鎖して静脈管索となる。 ・卵円孔: 右心房から左心房への短絡。下大静脈から入った酸素に富む血液が主にここを通って左心系へ流れ、上行大動脈から冠動脈や脳へ優先的に供給される。出生後に左房圧が上昇して機能的に閉鎖する。 ・動脈管: 肺動脈から大動脈への短絡。上大静脈から戻った酸素の少ない血液が主に右心室→肺動脈→動脈管を通り下行大動脈へ流れる。出生後に閉鎖して動脈管索となる。 このほか、臍動脈(2本、内腸骨動脈から分岐し胎盤へ向かう)は出生後に閉鎖して内側臍索となり、臍静脈(1本)は肝円索となる。
出生時の循環の変化
肺の拡張と酸素化により肺血管抵抗が急激に低下し、肺血流が増加する。肺から左心房への還流が増えて左房圧が上昇し、胎盤の切り離しで体血管抵抗が上昇、右房圧は低下する。その結果、卵円孔が閉じ、PaO2上昇とPGE2低下により動脈管も閉じて、成人型の直列循環が完成する。
動脈管開存症(PDA)と薬物療法
・閉鎖させたい場合(未熟児PDAなど): インドメタシン、イブプロフェンなどのCOX阻害薬。無効例や禁忌例ではクリッピングなどの外科的閉鎖を行う。 ・開存を維持したい場合(動脈管依存性の先天性心疾患): PGE1製剤。肺血流を動脈管に依存する疾患(肺動脈閉鎖、重症Fallot四徴症など)や、体血流を動脈管に依存する疾患(左心低形成症候群、大動脈縮窄・離断など)、完全大血管転位で血液の混合を保つ目的などで用いる。副作用として無呼吸発作、発熱などに注意する。
POINT
・動脈管は肺動脈と大動脈を結ぶ胎児期の短絡路で、右室拍出量の約9割、総心拍出量の半分以上が流れる。 ・開存維持因子: 低酸素、PGE2。閉鎖因子: PaO2上昇、PGE2低下。 ・機能的閉鎖は生後十数時間~1、2日程度、器質的閉鎖は数週~3か月程度。 ・COX阻害薬(インドメタシン、イブプロフェン、アスピリン)→閉鎖、PGE1製剤→開存維持。 ・妊娠後期のNSAIDsは胎児動脈管の早期収縮を来すため避ける。
