噴き出す潰瘍出血、最初の一手は?―内視鏡が「診断」と「治療」を同時にこなす理由
第100回医師国家試験 G問題 第120問
国試問題にチャレンジ
動脈性出血を伴う胃潰瘍に対してまず行う止血処置はどれか。
- a.止血薬投与
- b.内視鏡的止血術
- c.経カテーテル的動脈塞栓術
- d.腹腔鏡下胃切開止血術
- e.胃切除
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
上部消化管出血の原因として最も多い消化性潰瘍のうち、動脈性(噴出性)出血は自然止血しにくく再出血リスクが高いため、輸液・輸血で循環を安定させたうえで緊急内視鏡を行い、内視鏡的止血術で止めるのが第一選択です。クリップ法、熱凝固法、局注法などがあり、成功率は90%以上と高く、診断と治療を同時に行えます。止血薬では血管の物理的な破綻は止められず、経カテーテル的動脈塞栓術は内視鏡で止まらない場合の二次治療、胃切除などの外科手術はそれでも止血できない場合の最終手段です。Forrest分類のIa・Ib・IIaが内視鏡的止血の適応であり、止血後はPPI投与、ピロリ菌除菌、NSAIDsの見直しで再発を防ぎます。この段階的な治療の流れは、救急で出血患者を診るときの基本的な判断の枠組みになります。
解答・解説
正解はbです
上部消化管出血の原因として最も多いのは消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)である。潰瘍底に露出した血管から動脈性に噴出する出血は、自然止血しにくく再出血・死亡のリスクが高いため、速やかに確実な止血を得る必要がある。 出血性潰瘍への対応は段階的に考える。まず全身管理として、輸液・必要に応じた輸血で循環動態を安定させる。そのうえで緊急上部消化管内視鏡検査を行い、出血源を確認すると同時に内視鏡的止血術を施行する。内視鏡的止血の成功率は90%以上と高く、低侵襲で診断と治療を一度に行える点が最大の利点である。止血後はプロトンポンプ阻害薬(PPI)などの強力な酸分泌抑制薬で再出血を防ぎ、Helicobacter pylori(ピロリ菌)感染があれば除菌を行う。 内視鏡的止血が困難な場合や再出血を繰り返す場合には、経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)が次の選択肢となり、それでも止血が得られない場合に外科手術を考慮する。したがって、動脈性出血を伴う胃潰瘍に「まず」行う止血処置は内視鏡的止血術である。
選択肢考察
- ×a. 止血薬投与
トラネキサム酸などの止血薬(抗線溶薬)やカルバゾクロムなどは、太い血管が破綻して噴出している動脈性出血を止める力をもたない。出血の原因は凝固異常ではなく血管壁の物理的な破綻であり、局所で血管を直接処理しなければ止血は得られない。止血薬に頼って内視鏡を遅らせることは、かえって出血量を増やし予後を悪化させる。
- ○b. 内視鏡的止血術
出血性胃潰瘍の第一選択の止血法である。緊急内視鏡で出血点を直視下に確認し、クリップ法(露出血管を金属クリップで挟む)、熱凝固法(ヒータープローブ、高周波凝固、アルゴンプラズマ凝固など)、局注法(高張ナトリウム・エピネフリン液〔HSE〕や純エタノールの注入)などで止血する。成功率は90%以上と高く、診断と治療を同時に行え、侵襲も小さい。特に噴出性出血や露出血管を伴う潰瘍は再出血リスクが高いため、内視鏡的止血の良い適応である。
- ×c. 経カテーテル的動脈塞栓術
経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)は、血管造影で出血している動脈を同定し、コイルなどで塞栓して止血する方法である。消化性潰瘍出血においては、内視鏡的止血が不成功あるいは再出血を来した場合に、外科手術の前に選択される二次的治療として位置づけられる。有効な手段ではあるが、造影設備・専門医の確保や造影剤使用などの負担があり、最初に行う止血処置ではない。なおTAEは肝細胞癌の治療(TACE)や外傷性出血(骨盤骨折、肝・脾損傷など)でも広く用いられる。
- ×d. 腹腔鏡下胃切開止血術
腹腔鏡下に胃壁を切開して出血点を縫合止血する手技は、出血性胃潰瘍に対する標準的な治療ではなく一般的に行われない。外科的止血が必要になるのは内視鏡的止血やTAEで止血できない場合であり、その際も開腹による縫合止血や胃切除が主体となる。全身麻酔と手術侵襲を伴う方法を最初に選ぶ理由はない。
- ×e. 胃切除
胃切除は出血源を含む胃を切除する確実な止血法であるが、侵襲が大きく術後の合併症やQOL低下も伴う。内視鏡的止血やTAEが普及した現在では、これらで止血が得られない場合、穿孔を合併した場合、大量出血でショックが持続する場合などに限られる最終手段である。
上部消化管出血の初期対応
吐血・下血(タール便)で来院した患者では、まずバイタルサインを評価し、太い静脈路の確保、細胞外液の輸液、必要に応じた赤血球輸血を行う。循環動態が安定した段階で、原則として24時間以内(不安定例ではより早期)に緊急内視鏡を行う。
内視鏡所見と再出血リスク(Forrest分類)
・Ia:噴出性出血(spurting bleeding) ・Ib:湧出性出血(oozing bleeding) ・IIa:露出血管(non-bleeding visible vessel) ・IIb:凝血塊付着 ・IIc:黒色の潰瘍底(平坦な色素沈着) ・III:きれいな潰瘍底(出血所見なし) Ia・Ib・IIaは再出血リスクが高く、内視鏡的止血の適応である。IIbは凝血塊を除去して評価・処置を検討し、IIc・IIIは原則として止血処置を要さない。本問の「動脈性出血」はIa(噴出性)に相当する。
内視鏡的止血法の種類
・機械的止血:クリップ法、結紮法 ・熱凝固法:ヒータープローブ、高周波凝固(バイポーラ・ソフト凝固)、アルゴンプラズマ凝固(APC) ・局注法:HSE(高張ナトリウム・エピネフリン)液、純エタノール 局注法単独よりも、クリップ法や熱凝固法を単独または組み合わせて行う方が確実とされる。
止血後の管理
PPIの静注から開始し、経口投与へ移行する。ピロリ菌陽性なら除菌を行い、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や低用量アスピリンなど潰瘍の原因となる薬剤の使用状況を確認して、中止や予防策を検討する。
治療の段階
内視鏡的止血 → (不成功・再出血)→ 経カテーテル的動脈塞栓術(TAE) → (不成功)→ 外科手術(縫合止血・胃切除)
POINT
・出血性消化性潰瘍の止血は、全身管理のうえで緊急内視鏡による内視鏡的止血術が第一選択(成功率90%以上)。 ・噴出性・湧出性出血や露出血管(Forrest Ia・Ib・IIa)は内視鏡的止血の適応。 ・内視鏡で止まらなければTAE、それでも止まらなければ外科手術。 ・止血薬の投与では動脈性出血は止まらない。 ・止血後はPPI投与、ピロリ菌除菌、NSAIDsの見直しで再発を防ぐ。
