うつ病の薬は「何を増やすか」で選ぶ―モノアミン仮説から読み解く抗うつ薬
第100回医師国家試験 G問題 第113問
国試問題にチャレンジ
うつ病に最も適切な治療薬はどれか。
- a.モノアミン再取り込み阻害薬
- b.ベンゾジアゼピン系薬
- c.バルビツレート系薬
- d.抗ヒスタミン薬
- e.抗コリン薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
うつ病の病態仮説であるモノアミン仮説に基づき、抗うつ薬の多くはセロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害してシナプス間隙の濃度を高めます。三環系・SSRI・SNRIはいずれもモノアミン再取り込み阻害薬で、現在は副作用が少なく過量服薬時にも比較的安全なSSRI・SNRI・NaSSAが第一選択とされ、効果発現には2〜4週間を要します。ベンゾジアゼピン系薬は不眠・不安への短期的な補助、抗コリン薬や抗ヒスタミン薬は抗精神病薬の副作用対策や鎮静目的の補助薬であり、バルビツレート系薬は依存性と過量服薬時の危険からうつ病では特に避けます。三環系の副作用の多くが抗コリン作用・抗ヒスタミン作用によることや、双極性障害のうつ状態では抗うつ薬単独投与で躁転のおそれがあることも併せて理解しておくと、安全な薬物療法の土台になります。
解答・解説
正解はaです
うつ病の薬物療法の中心となる薬剤を問う問題である。 うつ病の病態仮説として古くから知られているのが「モノアミン仮説」である。これは、脳内のモノアミン(セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンなど、アミノ基を1つもつ神経伝達物質の総称)の機能が低下していることが抑うつ症状の背景にある、という考え方である。現在では、これだけで病態のすべてを説明できるとは考えられておらず、受容体の感受性変化、ストレスによる視床下部-下垂体-副腎系の過活動、神経可塑性の障害なども関与するとされる。しかし、実際に臨床で用いられている抗うつ薬の多くは、シナプス間隙のモノアミン濃度を高める作用を共通してもっている。 神経終末から放出されたモノアミンは、トランスポーターによって再び神経終末へ取り込まれ(再取り込み)、作用が終了する。この再取り込みを阻害すると、シナプス間隙のモノアミン濃度が上がり、神経伝達が強まる。三環系抗うつ薬、SSRI、SNRIなどはいずれもこの機序をもつため、「モノアミン再取り込み阻害薬」がうつ病治療の基本となる薬剤群である。 他の選択肢は、不眠・不安に対する補助薬や、向精神薬の副作用対策に使われる薬であり、うつ病そのものを治療する薬ではない。この区別ができれば正解を選べる。
選択肢考察
- ○a. モノアミン再取り込み阻害薬
セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害してシナプス間隙の濃度を高め、低下したモノアミン系の神経伝達を補う。代表として、三環系抗うつ薬(イミプラミン、アミトリプチリンなど)、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬:パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラムなど)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬:ミルナシプラン、デュロキセチン、ベンラファキシンなど)がある。四環系抗うつ薬のうちマプロチリンはノルアドレナリン再取り込み阻害作用をもつ。現在の第一選択は、副作用が比較的少なく過量服薬時にも安全性の高いSSRIやSNRI(あるいはNaSSAのミルタザピン)である。効果が現れるまでに通常2〜4週間ほどかかる点も押さえておきたい。
- ×b. ベンゾジアゼピン系薬
GABA_A受容体の働きを強めて抗不安・催眠・筋弛緩・抗けいれん作用を示す薬である。うつ病に伴う不眠や不安・焦燥が強いときに、抗うつ薬の効果が出るまでの対症療法として短期間併用されることはある。しかし、抑うつ気分や意欲低下といった中核症状を改善する作用はなく、単独ではうつ病の治療薬にならない。長期使用で依存・耐性が生じ、急に中止すると離脱症状が出るため、漫然と続けないことが原則である。
- ×c. バルビツレート系薬
GABA_A受容体に作用する鎮静・催眠薬で、かつては睡眠薬として広く使われた。耐性・依存性が強く、過量服薬で呼吸抑制を起こし致死的になりやすいため、現在は睡眠薬としてはほとんど用いられず、抗てんかん薬(フェノバルビタール)や麻酔導入(チオペンタールなど)に使用が限られる。うつ病の治療効果はない。さらに、うつ病患者では自殺目的の過量服薬の危険があるため、とくに避けるべき薬である。
- ×d. 抗ヒスタミン薬
ヒスタミンH1受容体を遮断する薬で、アレルギー疾患のほか、中枢移行性があるものは鎮静作用を利用して不眠に用いられることがある。プロメタジンのように抗コリン作用ももつものは、抗精神病薬による錐体外路症状(パーキンソニズム)の対策に使われることもある。いずれも補助的な使い方であり、うつ病の中核症状を改善する作用はない。なお、多くの抗うつ薬(三環系やミルタザピン)がもつ眠気や体重増加の副作用は、この抗ヒスタミン作用によるものである。
- ×e. 抗コリン薬
ムスカリン受容体を遮断する薬で、精神科領域ではトリヘキシフェニジルやビペリデンが、抗精神病薬による錐体外路症状(パーキンソニズム、急性ジストニアなど)の治療やParkinson病に用いられる。うつ病の治療薬ではない。むしろ三環系抗うつ薬の副作用(口渇、便秘、尿閉、かすみ目、せん妄など)は抗コリン作用によるものであり、抗コリン作用は抗うつ薬にとって「望ましくない作用」として理解しておくとよい。
抗うつ薬の分類と特徴
・三環系抗うつ薬(イミプラミン、アミトリプチリン、クロミプラミンなど):セロトニン・ノルアドレナリンの再取り込み阻害。効果は確実だが、抗コリン作用(口渇、便秘、尿閉、眼圧上昇)、抗α1作用(起立性低血圧)、抗H1作用(眠気、体重増加)、キニジン様作用(QT延長、不整脈)がある。過量服薬で致死的な不整脈を起こしうる。閉塞隅角緑内障、心筋梗塞回復初期、尿閉のある患者には禁忌。 ・四環系抗うつ薬(マプロチリン、ミアンセリンなど):三環系より抗コリン作用が弱い。 ・SSRI:セロトニン再取り込みを選択的に阻害。主な副作用は悪心などの消化器症状、性機能障害、若年者での賦活症候群(不安・焦燥・衝動性の亢進)、急な中止による中断症候群。他の薬との併用でセロトニン症候群に注意する。 ・SNRI:セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害。頻脈、血圧上昇、排尿困難などがみられることがある。 ・NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬:ミルタザピン):再取り込み阻害ではなく、α2受容体遮断によってモノアミンの放出を増やす。眠気・体重増加が目立つ。 ・その他:ボルチオキセチン(セロトニン再取り込み阻害+受容体調節作用)、トラゾドン(鎮静作用が強く不眠を伴う例に使われる)など。
うつ病治療の全体像
休養と心理教育、薬物療法、精神療法(認知行動療法など)を組み合わせる。薬物療法は抗うつ薬の単剤・十分量・十分期間が原則で、寛解後も再発予防のため数か月以上は継続する。重症例、昏迷、希死念慮が切迫している例、薬物療法が無効な例には修正型電気けいれん療法も選択肢となる。
双極性障害との区別
躁病エピソードの既往がある抑うつ(双極性障害のうつ状態)では、抗うつ薬単独投与は躁転や病相の不安定化を招くおそれがあり、炭酸リチウムなどの気分安定薬や一部の非定型抗精神病薬が中心となる。
POINT
・うつ病の病態仮説としてモノアミン仮説があり、抗うつ薬の多くはモノアミン(セロトニン、ノルアドレナリン)の再取り込み阻害を主な作用とする。 ・現在の第一選択はSSRI、SNRI、NaSSAなどの新規抗うつ薬で、効果発現まで2〜4週間かかる。 ・ベンゾジアゼピン系薬は不眠・不安に対する補助的な短期併用にとどめる。 ・抗コリン薬は抗精神病薬による錐体外路症状の治療に使う薬であり、三環系抗うつ薬の副作用の多くは抗コリン作用による。 ・バルビツレート系薬は依存性と過量服薬時の致死性が高く、うつ病患者ではとくに避ける。
