肝臓が数週間で燃え尽きるとき―日本の劇症肝炎、最多の原因はB型肝炎ウイルス
第100回医師国家試験 G問題 第112問
国試問題にチャレンジ
劇症肝炎の原因として最も多いのはどれか。
- a.A型肝炎ウイルス
- b.B型肝炎ウイルス
- c.C型肝炎ウイルス
- d.アルコール
- e.自己免疫
対話形式の解説
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ドクターまとめ
劇症肝炎は、初発症状から8週以内に昏睡II度以上の肝性脳症とプロトロンビン時間40%以下をきたす重篤な病態で、わが国での成因はウイルス性が最も多く、その中心はB型肝炎ウイルスです。B型には急性感染に加え、キャリアの急性増悪や、抗がん薬・免疫抑制薬などによる再活性化(de novo肝炎を含む)があり、特に後者は予後不良です。A型の劇症化は少なく、C型は慢性化が問題で劇症化は極めてまれ、アルコールによる重症例は重症型アルコール性肝炎として別に扱われ、自己免疫性肝炎は成因の一つですが頻度はB型より低くなります。欧米ではアセトアミノフェン中毒が急性肝不全の最多原因である点も対比して覚えておきましょう。免疫抑制療法前のHBVスクリーニングは、劇症化を未然に防ぐために診療科を問わず求められる重要な実践です。
解答・解説
正解はbです
問われていること
わが国の劇症肝炎の成因のうち、最も頻度が高いものを問う問題である。
劇症肝炎とは
劇症肝炎は、肝炎によって肝細胞が短期間に広範に壊死し、肝臓の働きが急激に失われる病態である。わが国では、初発症状が出てから8週以内に、高度の肝機能障害に基づく昏睡Ⅱ度以上の肝性脳症をきたし、プロトロンビン時間が40%以下(INR 1.5以上に相当)となるものと定義される。発症から昏睡出現までが10日以内のものを急性型、11日以降8週以内のものを亜急性型とよび、亜急性型のほうが予後不良である。現在は、肝炎以外の原因も含めた「急性肝不全」という概念の中で、組織学的に肝炎像を伴うものが劇症肝炎に相当すると整理されている。
成因の考え方
わが国の全国調査では、劇症肝炎の成因はウイルス性、自己免疫性、薬物性、成因不明に大別され、このうちウイルス性が最も多く、その中心は B型肝炎ウイルス(HBV)である。HBV によるものには、初めて感染した急性感染例と、もともと HBV を持っている人(キャリア)が急性増悪したり、免疫抑制・化学療法によって再活性化(de novo 肝炎を含む)したりした例が含まれる。特にキャリアからの発症例は予後が悪い。A型肝炎ウイルスによる劇症化は少なく、C型肝炎ウイルスによる劇症化は極めてまれである。自己免疫性肝炎や薬物も成因となるが、頻度は B型に及ばない。アルコールによる重症の肝障害は重症型アルコール性肝炎として別に扱われる。 なお欧米では、アセトアミノフェンの過量服用が急性肝不全の最多の原因であり、わが国とは成因の分布が大きく異なる。
選択肢考察
- ×a. A型肝炎ウイルス
A型肝炎は生牡蠣などの食品や水を介して経口感染し、急性肝炎を起こすが慢性化はしない。多くは自然に治癒し、劇症化する割合は0.1〜数%未満と低い。高齢者や、もともと慢性肝疾患をもつ人では劇症化しやすい。劇症肝炎の成因の一つではあるが、わが国での頻度は B型肝炎より低い。
- ○b. B型肝炎ウイルス
わが国の劇症肝炎の成因として最も多いのが HBV である。成人の B型急性肝炎の約1〜2%が劇症化するとされ、これに加えて HBV キャリアの急性増悪や、ステロイド・抗がん薬・免疫抑制薬・生物学的製剤の使用による HBV 再活性化(HBs抗原陰性でも HBc抗体や HBs抗体が陽性の既往感染者から起こる de novo 肝炎を含む)も劇症化の原因となる。特にキャリアからの発症例や再活性化例は内科的治療に反応しにくく予後不良である。このため免疫抑制療法の前には HBs抗原・HBc抗体・HBs抗体を確認し、必要に応じて HBV-DNA のモニタリングや核酸アナログの予防投与を行う。
- ×c. C型肝炎ウイルス
C型肝炎ウイルス(HCV)は急性感染後に高率(約70%)に慢性化し、慢性肝炎から肝硬変・肝細胞癌へ進行することが問題となるウイルスである。急性感染時の症状は軽いことが多く、劇症化は極めてまれである。したがって劇症肝炎の成因として多いものではない。
- ×d. アルコール
大量飲酒によってもアルコール性肝炎が起こり、なかには肝性脳症、凝固障害、腎不全、消化管出血などを伴って急速に悪化し、致死的となるものがある。しかしこれは重症型アルコール性肝炎として別の病型に分類され、劇症肝炎の成因には含めない。重症型アルコール性肝炎は通常、長期間の大量飲酒歴を背景に、肝臓がすでに障害されている状態で起こる点でも劇症肝炎とは異なる。
- ×e. 自己免疫
自己免疫性肝炎(AIH)は中年女性に多く、抗核抗体陽性や IgG 高値を特徴とし、多くは慢性の経過をとるが、急性発症して劇症化することもある。わが国の全国調査でも劇症肝炎・急性肝不全の成因の一つとして一定の割合を占める。急性発症例では抗核抗体や IgG 上昇が目立たないことがあり、診断が難しい。成因ではあるものの、頻度は B型肝炎ウイルスより低い。
劇症肝炎の主な成因(わが国)
・ウイルス性:B型(急性感染、キャリアの急性増悪、再活性化)が最多。A型・E型は少なく、C型は極めてまれ。E型は妊婦で重症化しやすいことが知られ、わが国ではブタ・イノシシ・シカ肉の生食や加熱不十分な摂取による感染が報告されている。 ・自己免疫性 ・薬物性(薬物アレルギー性・中毒性) ・成因不明:全体の約3割前後を占める。
臨床像と検査
・黄疸、全身倦怠感、食欲不振から始まり、羽ばたき振戦や意識障害(肝性脳症)が出現する。 ・プロトロンビン時間の著明な延長、ビリルビン上昇、直接/総ビリルビン比の低下、アンモニア上昇、肝萎縮(画像で肝臓の縮小)、血中の分岐鎖アミノ酸の低下などがみられる。 ・AST・ALT は発症初期に著明高値となるが、肝細胞が失われると急速に低下することがあり、改善と誤認しないよう注意する。
治療
・原因に対する治療:B型には核酸アナログ、自己免疫性にはステロイドなど ・人工肝補助療法:血漿交換と血液濾過透析の併用など ・合併症対策:脳浮腫、感染症、消化管出血、腎不全、凝固障害への対応 ・内科的治療で回復が見込めない場合は肝移植を検討する。
HBV 再活性化
抗がん薬、ステロイド、免疫抑制薬、リツキシマブなどの使用により HBV が再増殖し、重症化・劇症化することがある。治療前のスクリーニング(HBs抗原、HBc抗体、HBs抗体)と、陽性例での HBV-DNA モニタリングまたは核酸アナログの予防投与が重要である。
POINT
・わが国の劇症肝炎の成因で最も多いのは B型肝炎ウイルスである(急性感染、キャリアの急性増悪、再活性化)。 ・キャリアからの発症例や再活性化例は予後不良。免疫抑制療法前には HBV のスクリーニングを行う。 ・A型の劇症化は少なく、C型は極めてまれ。自己免疫性や薬物性も成因となる。 ・劇症肝炎の定義:発症8週以内、昏睡Ⅱ度以上、PT 40%以下。急性型(10日以内)と亜急性型(11日以降)があり、亜急性型が予後不良。 ・欧米の急性肝不全の最多原因はアセトアミノフェン中毒。
