PaCO2が下がっていてもアルカローシスとは限らない―尿pHが暴く遠位尿細管性アシドーシス
第100回医師国家試験 F問題 第41問
国試問題にチャレンジ
48歳の女性。2か月前から両手のしびれが持続するため来院した。尿所見:pH 7.6。血液生化学所見:Na 145mEq/L,K 2.7mEq/L,Cl 115mEq/L。動脈血ガス分析(自発呼吸,room air):pH 7.35,PaO2 98Torr,PaCO2 33Torr,HCO3- 18mEq/L。 基礎にある酸塩基平衡障害はどれか。
- a.呼吸性アルカローシス
- b.呼吸性アシドーシス
- c.代謝性アルカローシス
- d.アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシス
- e.アニオンギャップ増加の代謝性アシドーシス
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
血液ガスはpH→一次性変化→代償の妥当性→アニオンギャップの順に評価するのが基本です。pHが酸性側でHCO3-が低下していれば一次性は代謝性アシドーシスで、同時のPaCO2低下はWinterの式(予測PaCO2=1.5×HCO3-+8±2)で妥当性を確かめる呼吸性代償にすぎません。アニオンギャップが正常なら高クロール性アシドーシスで、主因は下痢と尿細管性アシドーシスですが、アシドーシス下でも尿pHが5.5を下回らなければ尿の酸性化障害、すなわち遠位(1型)尿細管性アシドーシスを考えます。低カリウム血症や腎石灰化を伴いやすく、中年女性ではシェーグレン症候群などの背景疾患を検索することが重要です。数値の一部に飛びつかず系統的に読む姿勢は、救急や病棟での電解質異常の評価にそのまま役立ちます。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
中年女性が2か月続く両手のしびれを訴えている。検査では、血清K 2.7mEq/L(基準 3.5〜5.0)と明らかな低カリウム血症、Cl 115mEq/L(基準 98〜108 程度)と高クロール血症がある。動脈血ガスは pH 7.35(基準 7.35〜7.45 の下限)、HCO3- 18mEq/L(基準 22〜26)、PaCO2 33Torr(基準 35〜45)である。尿 pH は 7.6 とアルカリ性である。
酸塩基平衡の読み方
1) pH:7.35 は基準の下限で、アシデミア寄り(酸性側)にある。 2) 一次性の変化:HCO3- が低下しているので、一次性の障害は代謝性アシドーシスである。PaCO2 も低下しているが、PaCO2 の低下は pH を上げる方向に働くため、pH が酸性側にあることを説明できない。したがって PaCO2 の低下は一次性ではなく、呼吸による代償(過換気で CO2 を吐き出して pH を戻そうとする反応)と考える。 3) 代償が適切か:代謝性アシドーシスに対する予測 PaCO2 は Winter の式で 1.5×HCO3-+8±2 = 1.5×18+8 = 35±2(33〜37Torr)となる。実測 33Torr はこの範囲に入り、別の呼吸性障害の合併は考えなくてよい。代償は pH を完全には正常の中央値(7.40)に戻さないため、pH 7.35 というやや酸性側の値は代償過程として矛盾しない。 4) アニオンギャップ(AG):AG = Na+ -(Cl- + HCO3-)= 145 -(115 + 18)= 12mEq/L で、基準(12±2 程度)内である。HCO3- の減少分がちょうど Cl- の増加で埋め合わされた、高クロール性(AG 正常)代謝性アシドーシスである。
原因の推定
AG 正常の代謝性アシドーシスの主な原因は、下痢などによる消化管からの HCO3- 喪失と、尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis:RTA)である。本例で低カリウム血症を伴うことはどちらとも合うが、全身性アシドーシスがあるのに尿 pH が 7.6 と高い点が決め手となる。正常な腎臓であればアシドーシス時には H+ を盛んに排泄し、尿 pH は 5.5 未満に下がるはずである。尿を酸性化できない状態は、集合管の α 間在細胞からの H+ 分泌が障害される遠位尿細管性アシドーシス(1型 RTA)を強く示唆する。下痢であれば腎の酸排泄能は保たれるため、尿は酸性になる。 両手のしびれは低カリウム血症に伴う神経筋症状として説明できる。中年女性の遠位 RTA では、原因としてシェーグレン症候群などの自己免疫疾患が代表的であり、背景疾患の検索が必要になる。
設問への考え方
問われているのは基礎にある(一次性の)酸塩基平衡障害である。呼吸性の変化は代償にすぎず、一次性の障害は AG 正常の代謝性アシドーシスとなる。
選択肢考察
- ×a. 呼吸性アルカローシス
PaCO2 は 33Torr と低下しているが、一次性の呼吸性アルカローシスなら pH はアルカリ側(7.45 超の方向)に傾くはずである。本例の pH は 7.35 と酸性側にあり、HCO3- も低下していることから、PaCO2 の低下は代謝性アシドーシスに対する呼吸性代償である。Winter の式による予測範囲(33〜37Torr)にも収まっており、呼吸性アルカローシスの合併を考える必要はない。
- ×b. 呼吸性アシドーシス
呼吸性アシドーシスは肺胞低換気により PaCO2 が上昇(45Torr 超)する病態である。本例の PaCO2 は 33Torr と逆に低下しており、該当しない。
- ×c. 代謝性アルカローシス
代謝性アルカローシスでは HCO3- が上昇し、pH はアルカリ側に傾く。低カリウム血症は代謝性アルカローシス(嘔吐、利尿薬、原発性アルドステロン症など)でもよくみられるが、本例は HCO3- 18mEq/L と低下し pH も酸性側であるため、アシドーシスである。
- ○d. アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシス
HCO3- 低下と酸性側の pH から一次性障害は代謝性アシドーシスであり、PaCO2 33Torr は適切な呼吸性代償である。AG は 145 -(115 + 18)= 12mEq/L と正常で、HCO3- の低下を Cl- の上昇が補う高クロール性アシドーシスである。低カリウム血症とアシドーシス下での尿 pH 7.6(尿酸性化障害)を合わせると、遠位尿細管性アシドーシスによる AG 正常の代謝性アシドーシスと判断できる。
- ×e. アニオンギャップ増加の代謝性アシドーシス
AG 増加型は、乳酸・ケトン体・腎不全で蓄積する硫酸やリン酸・メタノールなどの中毒物質といった、通常は測定しない陰イオン(酸)が体内に増えることで生じる。本例の AG は 12mEq/L と正常範囲であり、該当しない。
アニオンギャップ(AG)
AG = Na+ -(Cl- + HCO3-)で、基準はおよそ 12±2mEq/L である。主にアルブミンなど測定していない陰イオンを反映するため、低アルブミン血症ではみかけ上低くなる(アルブミン 1g/dL 低下ごとに約 2.5mEq/L 低下)。 ・AG 増加型:乳酸アシドーシス、糖尿病性ケトアシドーシス、アルコール性・飢餓性ケトアシドーシス、腎不全(尿毒症)、サリチル酸・メタノール・エチレングリコール中毒など ・AG 正常型(高 Cl 性):下痢・腸瘻などによる HCO3- 喪失、尿細管性アシドーシス、尿管 S 状結腸吻合、アセタゾラミド(炭酸脱水酵素阻害薬)、生理食塩液の大量輸液など
代謝性アシドーシスの呼吸性代償の目安
予測 PaCO2 = 1.5×HCO3- + 8±2(Winter の式)。簡便には ΔPaCO2 ≒ 1.0〜1.3×ΔHCO3- とする。実測値が予測より高ければ呼吸性アシドーシス、低ければ呼吸性アルカローシスの合併を考える。
尿細管性アシドーシス(RTA)の病型
・1型(遠位型):集合管 α 間在細胞の H+ 分泌障害。アシドーシスがあっても尿 pH が 5.5 未満に下がらない。低カリウム血症を伴う。尿中クエン酸排泄低下と高カルシウム尿により腎石灰化・尿路結石をきたしやすい。原因はシェーグレン症候群、関節リウマチなどの自己免疫疾患、薬剤(アムホテリシン B など)、高カルシウム尿症、遺伝性など。治療はアルカリ(クエン酸カリウムなど)の補充。 ・2型(近位型):近位尿細管での HCO3- 再吸収障害。重症時は尿 pH が酸性化しうる(血中 HCO3- が低下して再吸収閾値を下回ると尿中への HCO3- 漏出が減るため)。低カリウム血症を伴い、ファンコニ症候群(糖尿・アミノ酸尿・リン酸尿など)の一部として現れることが多い。原因は多発性骨髄腫、薬剤など。 ・4型:アルドステロン作用の低下(低レニン性低アルドステロン症、薬剤など)による。高カリウム血症を伴うのが特徴で、糖尿病性腎症などでみられる。
尿アニオンギャップ
尿 AG = 尿 Na+ + 尿 K+ - 尿 Cl-。AG 正常代謝性アシドーシスで、下痢では腎が NH4+ を盛んに排泄するため負となり、遠位 RTA では NH4+ 排泄が不十分なため正となる。両者の鑑別に役立つ。
POINT
・pH → 一次性変化(HCO3- か PaCO2 か)→ 代償の妥当性 → AG の順で評価する。 ・pH が酸性側で HCO3- 低下なら代謝性アシドーシス。同時の PaCO2 低下は代償である(予測 PaCO2 = 1.5×HCO3- + 8±2)。 ・AG = Na+ -(Cl- + HCO3-)、基準 12±2。本例は 12 で正常。 ・AG 正常代謝性アシドーシス+低カリウム血症+アシドーシスなのに尿 pH が高い(5.5 超) → 遠位(1型)尿細管性アシドーシス。 ・中年女性の遠位 RTA ではシェーグレン症候群を考える。
