大腸癌術後に肝臓へ散らばる輪っか―「取れるか、取れないか」で決まる肝転移の治療
第100回医師国家試験 F問題 第33問
国試問題にチャレンジ
62歳の男性。腹部不快感を主訴に来院した。1年前に大腸癌の手術を受けた。腹部造影CTを示す。 治療として適切なのはどれか。

- a.肝動脈塞栓術
- b.抗癌化学療法
- c.放射線治療
- d.ラジオ波焼灼
- e.肝切除
対話形式の解説
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ドクターまとめ
大腸癌術後に肝両葉へ多発するリング状増強の腫瘤は、門脈を介した大腸癌の肝転移を考えます。大腸癌肝転移は他臓器癌の肝転移と異なり、切除できれば長期生存が期待できるため、取り切れるか・残肝が十分か・肝外病変が制御できるかで切除の可否をまず判断します。両葉にびまん性に多発する本例は切除不能であり、FOLFOXやFOLFIRIなどに分子標的薬を併用する全身化学療法が中心となり、縮小すれば切除を再検討します(conversion therapy)。肝動脈塞栓術は多血性の肝細胞癌向け、ラジオ波焼灼は少数小病変向けであり、病変の性質と広がりに応じた治療選択の考え方は、癌診療全般の基本として重要です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
62歳の男性で、1年前に大腸癌の手術歴がある。今回は腹部不快感を訴えて来院した。腹部造影CTでは、肝臓の両葉にわたって低吸収の腫瘤が多数散在し、各腫瘤は辺縁部のみがリング状に造影される(ring enhancement)。
診断のプロセス
大腸癌は門脈を介して肝臓へ血行性に転移しやすく、肝臓は大腸癌の最も頻度の高い遠隔転移先である。大腸癌術後1年での肝内多発腫瘤という経過に加え、腫瘍辺縁の増殖の盛んな部分だけが造影され、中心部は壊死や線維化で造影されにくいというリング状増強効果は、腺癌の肝転移に典型的な所見である。多発しているうえ周囲にリング状造影を示す点は、単発の多血性腫瘤として早期濃染・後期相洗い出しを示すことが多い肝細胞癌とは異なる。以上から、大腸癌の多発肝転移(異時性肝転移)と診断できる。
治療選択の考え方
大腸癌の肝転移は、他臓器の癌の肝転移と異なり、切除できれば長期生存や治癒も期待できるため、まず切除の可否を検討するのが原則である。切除可能かどうかは、病変をすべて取り切れるか、切除後に十分な残肝機能(残肝容量)が保てるか、肝外に制御できない転移がないかで判断する。本例は肝両葉にびまん性に多数の転移巣があり、すべてを切除すると残肝が不足するため切除不能である。このように局所治療で制御できない多発転移に対しては、全身に作用する抗癌化学療法(薬物療法)が治療の中心となる。
選択肢考察
- ×a. 肝動脈塞栓術
肝動脈塞栓術(TAE、抗癌薬を併用する場合はTACE)は、主に肝動脈から血流を受ける多血性腫瘍、代表的には肝細胞癌に対して行われる治療である。大腸癌の肝転移は一般に乏血性で、腫瘍への動脈血流が少ないため塞栓による虚血効果が得られにくい。本例のような多発肝転移の標準治療にはならない。
- ○b. 抗癌化学療法
肝両葉に多発する大腸癌肝転移は切除や局所療法で制御できない全身性の病態と考えられ、全身化学療法が適応となる。大腸癌では、フッ化ピリミジン系薬(5-FU、カペシタビンなど)にオキサリプラチンやイリノテカンを組み合わせたレジメン(FOLFOX、CAPOX、FOLFIRIなど)に、分子標的薬(血管新生を阻害するベバシズマブ、RAS遺伝子野生型ではセツキシマブ・パニツムマブなどの抗EGFR抗体)を併用することが多い。化学療法によって腫瘍が縮小し、切除可能となることもある(conversion therapy)。
- ×c. 放射線治療
大腸癌の肝転移は腺癌であり、放射線感受性は高くない。さらに正常肝組織は放射線に弱く、肝全体に広がる多発病変に十分な線量を照射すると放射線肝障害を起こすため、本例の治療として適切ではない。放射線治療は、大腸癌では直腸癌の術前治療や骨転移・脳転移の症状緩和などで用いられる。
- ×d. ラジオ波焼灼
ラジオ波焼灼療法(RFA)は、経皮的に電極針を腫瘍に刺し、高周波電流による熱で腫瘍を凝固壊死させる局所療法である。主に小型で個数の少ない肝細胞癌(おおむね3cm以下・3個以下)に用いられ、大腸癌肝転移でも数が少なく小さい病変で切除が困難な場合に選択されることがある。しかし本例のように肝全体に多数の病変がある場合は、すべてを焼灼することはできず適応とならない。
- ×e. 肝切除
大腸癌肝転移では、病変をすべて切除でき、十分な残肝機能が保たれ、肝外病変が制御可能であれば、肝切除が最も根治性の高い治療である。しかし本例は肝の両葉にびまん性に多数の転移巣があり、すべて取り除くと残肝が不足するため切除適応とはならない。
転移性肝癌の特徴
肝臓は門脈と肝動脈の二重の血流を受けるため、癌の転移が非常に多い臓器である。とくに消化管(大腸、胃、膵)の癌は門脈を介して肝転移しやすい。転移性肝癌は、原発巣の組織像を反映し、大腸癌由来では腺癌である。 画像所見の特徴: ・多発することが多い。 ・造影CTで辺縁のリング状増強効果(ring enhancement)を示す。 ・超音波では辺縁低エコー帯を伴う腫瘤(bull's eye sign、target sign)として描出される。 ・大腸癌の転移巣では石灰化を伴うことがある。 ・肝硬変を背景とせず正常肝に生じることが多い点で、肝細胞癌と異なる。
大腸癌肝転移の治療方針
1. 切除可能: 肝切除が第一選択。完全切除できれば5年生存率はおおむね40〜50%程度と報告されている。 2. 切除不能: 全身化学療法を行う。奏効して切除可能となれば肝切除を検討する(conversion therapy)。 3. 切除は困難だが病変が少数: ラジオ波焼灼などの局所療法を選択肢として考慮する。 全身状態や臓器機能が不良で化学療法も困難な場合は、緩和ケアを中心とする。
肝細胞癌との治療の違い
肝細胞癌では、肝機能(Child-Pugh分類)と腫瘍の数・大きさに応じて、肝切除、ラジオ波焼灼、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、薬物療法、肝移植を使い分ける。TACEは多血性の肝細胞癌の特性を利用した治療で、乏血性の転移性肝癌には一般に向かない。
POINT
・大腸癌術後の肝内多発・リング状増強の腫瘤は大腸癌肝転移を考える。 ・大腸癌肝転移は切除可能なら肝切除が第一選択。 ・両葉多発など切除不能なら全身化学療法(FOLFOX、FOLFIRIなど+分子標的薬)。 ・化学療法で縮小すれば切除を再検討する(conversion therapy)。 ・肝動脈塞栓術は多血性の肝細胞癌向けで、乏血性の転移性肝癌には通常適さない。
