「重い病気」と「よくある病気」は違う―小児の腹痛、最多の原因は便秘症
第100回医師国家試験 E問題 第36問
国試問題にチャレンジ
小児の腹痛の原因として最も多いのはどれか。
- a.便秘症
- b.胆囊炎
- c.腸重積症
- d.急性虫垂炎
- e.鼠径ヘルニア
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
小児の腹痛の原因として最も多いのは便秘症で、急性胃腸炎や機能性(心因性)腹痛がこれに続きます。便秘症は強い腹痛で救急受診することもあり、便塊の触知、腹部X線での多量の便、浣腸後の症状軽快が診断の手がかりです。急性虫垂炎は「小児の急性腹症の原因として最多」であって腹痛全体での最多ではなく、腸重積症(乳幼児)や鼠径ヘルニア嵌頓(乳児)も頻度は低いものの見逃してはならない緊急疾患です。胆囊炎は小児ではまれで、みられた場合は先天性胆道拡張症や溶血性貧血などの基礎疾患を考えます。「頻度」と「重要度」を区別しつつ、胆汁性嘔吐や血便、腹膜刺激症状などのレッドフラッグや腹部外の原因に注意を払うことが、小児の腹痛を安全に診療するための基本となります。
解答・解説
正解はaです
小児が「おなかが痛い」と訴える原因を頻度の面から問う一般問題である。 小児の腹痛は外来で非常によく遭遇する主訴だが、その大部分は手術を要しない内科的な原因による。頻度の高い原因としては、便秘症、急性胃腸炎(ウイルス性が多い)、心因性腹痛(反復性腹痛・機能性腹痛)が挙げられ、なかでも便秘症が最も多いとされる。 一方、急性虫垂炎・腸重積症・鼠径ヘルニア嵌頓などの外科的疾患は、見逃すと重篤化するため臨床上きわめて重要であるが、腹痛を訴える小児全体の中に占める割合は小さい。「重要度(緊急性)」と「頻度」を区別して考えることが本問の鍵である。特に「急性腹症(緊急の対応、とくに手術の要否判断を要する腹痛)の原因として最多」の急性虫垂炎と、「腹痛全体の原因として最多」の便秘症を混同しないよう注意する。
選択肢考察
- ○a. 便秘症
小児の腹痛の原因として最も頻度が高い。幼児期のトイレットトレーニング、就学に伴う排便習慣の変化、排便時痛による便の我慢(排便回避行動)などを契機に、便が直腸・結腸に貯留して腹痛を生じる。腹痛は間欠的で、左下腹部や臍周囲に訴えることが多い。腹部触診で便塊を触れる、腹部単純X線写真で結腸内に多量の便を認める、浣腸で排便後に症状が軽快する、といった所見が診断の手がかりとなる。急性の強い腹痛として救急外来を受診することも少なくない。
- ×b. 胆囊炎
胆囊炎は胆石などによる胆囊管閉塞を背景に起こり、右季肋部痛・発熱・Murphy徴候(右季肋部を圧迫したまま深吸気させると痛みで吸気が止まる所見)を呈する。成人、特に中高年に多い疾患であり、小児ではまれである。小児で胆道系の腹痛をみた場合には、先天性胆道拡張症や溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症など)に伴うビリルビン結石などの基礎疾患を考える。
- ×c. 腸重積症
腸重積症は口側の腸管が肛門側の腸管内に入り込む疾患で、多くは回腸末端が結腸に入り込む回腸結腸型である。生後3か月〜2歳頃(特に乳児期後半)に好発し、間欠的な啼泣(腹痛)、嘔吐、イチゴゼリー状の粘血便が三主徴である。小児に特徴的な急性腹症で、放置すると腸管壊死に至るため重要だが、小児の腹痛全体の中での頻度は便秘症よりはるかに低い。
- ×d. 急性虫垂炎
急性虫垂炎は小児の急性腹症(手術を要する腹痛)の原因として最も多い疾患であり、学童期以降に多い。心窩部〜臍周囲痛から右下腹部痛へ移動する痛み、McBurney点の圧痛、発熱などが典型的である。幼児では症状を訴えにくく、穿孔してから診断されることも多い。ただし、腹痛を訴える小児全体の中では便秘症や急性胃腸炎のほうがはるかに多く、「最も多い原因」とはいえない。重要疾患であるため誤って選ばれやすい選択肢である。
- ×e. 鼠径ヘルニア
小児の鼠径ヘルニアは腹膜鞘状突起の開存による外鼠径ヘルニアがほとんどで、小児外科手術の中では最も多い疾患の一つである。しかし通常は鼠径部の膨隆のみで痛みを伴わず、腹痛を生じるのは脱出した腸管などが戻らなくなる嵌頓を起こした場合に限られる。嵌頓は乳児期に起こりやすく緊急の整復・手術を要するが、腹痛の原因としての頻度は低い。
小児の腹痛の主な原因(年齢別の目安)
・新生児〜乳児期: 乳児コリック、急性胃腸炎、便秘、腸重積症、鼠径ヘルニア嵌頓、中腸軸捻転(腸回転異常症) ・幼児期: 便秘症、急性胃腸炎、腸重積症、急性虫垂炎、尿路感染症、IgA血管炎(腹痛が紫斑に先行することがある) ・学童期〜思春期: 便秘症、急性胃腸炎、機能性腹痛(過敏性腸症候群を含む)、急性虫垂炎、消化性潰瘍、卵巣茎捻転・精巣捻転(下腹部痛として訴えることがある)
腹部以外の原因にも注意
肺炎(特に下葉)、溶連菌性咽頭炎、糖尿病ケトアシドーシスなども小児では腹痛として表れることがある。精巣捻転は羞恥心から陰囊痛を言わずに腹痛のみを訴えることがあるため、男児では陰囊の診察を忘れない。
見逃してはならない徴候(レッドフラッグ)
胆汁性嘔吐、血便、腹膜刺激症状(筋性防御・反跳痛)、腹部膨満、ぐったりしている、持続する強い痛み、体重減少や成長障害などを伴う場合は器質的・外科的疾患を積極的に疑って精査する。
小児の便秘症
慢性機能性便秘症の診断にはRome IV基準が用いられ、排便回数の減少(週2回以下)、便の我慢、排便時痛、硬便・大きな便、直腸内の大きな便塊などの項目から判断する。治療は便塊除去(浣腸など)、浸透圧性下剤などによる維持療法、生活・排便習慣の指導である。
POINT
・小児の腹痛の原因で最も多いのは便秘症であり、急性胃腸炎、心因性(機能性)腹痛がこれに続く。 ・急性虫垂炎は「小児の急性腹症(手術を要する腹痛)の原因として最多」であり、「腹痛全体で最多」ではない。 ・腸重積症は乳幼児(生後3か月〜2歳)、鼠径ヘルニア嵌頓は乳児に多い緊急疾患で、頻度は低いが見逃してはならない。 ・胆囊炎は小児ではまれ。
