「気の持ちよう」ではない―うつ病の本当の姿を5つの誤解から読み解く
第100回医師国家試験 E問題 第35問
国試問題にチャレンジ
うつ病について正しいのはどれか。
- a.自殺は少ない。
- b.気分転換で改善する。
- c.薬物治療に反応しない。
- d.意欲の障害がみられる。
- e.気分の日内変動はみられない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
うつ病は抑うつ気分と興味・喜びの喪失を中核とし、意欲低下(精神運動制止)、思考制止、早朝覚醒、食欲低下などを伴う疾患で、意欲の障害は代表的な症状です。朝に悪く夕方に軽快する気分の日内変動が特徴的で、気分転換や励ましでは改善せず、むしろ負担になることがあります。治療は休養と抗うつ薬が基本で多くは治療に反応し、重症例や自殺の切迫例では修正型電気けいれん療法も選択肢となります。自殺の危険は発症初期と回復期に高まるため、率直に希死念慮を尋ねて評価することが重要です。双極性障害の除外や若年者の賦活症候群への配慮も含め、世間の誤解と医学的事実を区別して理解することが、適切な診療と患者支援の土台になります。
解答・解説
正解はdです
うつ病の症状・経過・治療の基本を問う一般問題である。 うつ病(大うつ病性障害)は、抑うつ気分や興味・喜びの喪失を中心とし、それに意欲・思考・身体面の症状が加わった状態が少なくとも2週間ほぼ毎日続き、社会生活に支障をきたす精神疾患である。症状は次のように整理すると理解しやすい。 ・感情(気分)の障害: 抑うつ気分、興味・喜びの喪失、不安・焦燥感。 ・意欲・行動の障害: 何をするにもおっくうで行動できない(精神運動制止)、易疲労感。重症では昏迷に至る。 ・思考の障害: 思考制止(考えが進まない、集中できない、決断できない)、自責感・無価値感、微小妄想(罪業・貧困・心気妄想)。 ・身体症状: 不眠(とくに早朝覚醒)、食欲低下と体重減少、便秘、性欲低下、頭痛や倦怠感など。 ・その他の特徴: 気分の日内変動(朝に悪く夕方に軽くなる)、希死念慮・自殺企図。 うつ病は日常的な「落ち込み」とは異なり、気分転換で改善するものではない。一方で、休養と抗うつ薬を中心とした治療によく反応し、多くは寛解する疾患である。最も注意すべきは自殺であり、診療では常に自殺の危険を評価する必要がある。 これらの基本事項に照らすと、正しい記述は意欲の障害を述べた選択肢である。
選択肢考察
- ×a. 自殺は少ない。
うつ病は自殺と最も関連の深い精神疾患の一つで、自殺既遂者の多くに何らかの精神疾患が認められ、そのなかでうつ病を含む気分障害が大きな割合を占める。自殺予防はうつ病治療の最重要課題である。とくに注意すべき時期は、症状が最も重い時期よりも、発症初期と回復期(治りかけ)である。重症期は意欲が低下して行動に移せないが、回復期には意欲・行動力が先に戻る一方で抑うつ気分や絶望感が残るため、自殺を実行に移しやすくなる。
- ×b. 気分転換で改善する。
誰にでも起こる一時的な落ち込みは、趣味や旅行などの気分転換で晴れることが多い。しかしうつ病は脳の機能的な変化を伴う病態であり、気分転換では改善しない。興味・喜びの喪失のため楽しいはずの活動も楽しめず、「気晴らし」を勧めることはかえって本人の負担や自責感を強めることがある。また、「頑張れ」という励ましも避けるべきで、まずは十分な休養を勧めることが基本である。
- ×c. 薬物治療に反応しない。
うつ病治療の基本は休養と薬物療法であり、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA;ミルタザピン)、三環系抗うつ薬などの抗うつ薬がよく用いられ、多くの患者が反応する。効果の発現には通常2〜4週間ほどかかるため、十分量・十分期間の使用が必要である。薬物療法が無効な重症例や、自殺の危険が切迫している例、昏迷例では修正型電気けいれん療法(m-ECT)も有効である。
- ○d. 意欲の障害がみられる。
うつ病では抑うつ気分・興味の喪失とともに、意欲の低下が中核的な症状として現れる。「やらなければいけないと分かっていても体が動かない」「身だしなみを整えるのもおっくう」といった状態で、行動量が減り、動作や話し方も遅くなる(精神運動制止)。重症になると外からの刺激にほとんど反応しない抑うつ性昏迷に至ることもある。反対に、じっとしていられず落ち着かない焦燥(精神運動焦燥)として現れる場合もあり、とくに高齢者で目立つ。
- ×e. 気分の日内変動はみられない。
うつ病、とくにメランコリー型(内因性)のうつ病では、朝から午前中に抑うつ気分や意欲低下が最も強く、夕方から夜にかけて軽くなる日内変動が特徴的にみられる。早朝覚醒とあわせて診断の手がかりとなる。症状経過を評価する際もこの波を考慮する必要がある。
うつ病の診断基準(DSM-5の要点)
以下の9項目のうち5つ以上が2週間以上ほぼ毎日続き、そのうち少なくとも1つは①または②であることが必要である。 ①抑うつ気分、②興味または喜びの著しい減退、③体重・食欲の変化、④不眠または過眠、⑤精神運動焦燥または制止、⑥疲労感・気力の減退、⑦無価値感・過剰な罪責感、⑧思考力・集中力の減退や決断困難、⑨死についての反復思考・希死念慮・自殺企図。
病前性格
几帳面・責任感が強い・仕事熱心(執着気質、メランコリー親和型性格)の人が発症しやすいとされる。
誘因
喪失体験(死別など)、昇進・転居・結婚などの環境変化、身体疾患、産後、薬剤(インターフェロン、副腎皮質ステロイドなど)。
治療と対応の原則
・休養(重要な決定は先延ばしにするよう助言する)。 ・抗うつ薬による薬物療法。SSRIやSNRIは若年者で賦活症候群(不安・焦燥の増強、自殺念慮の増加)に注意。 ・励ましや気分転換の強要は避ける。 ・自殺について尋ねることは危険性を高めず、むしろ評価・予防に必要であり、率直に確認する。 ・重症例、自殺の切迫例、昏迷例では入院や修正型電気けいれん療法を検討する。 ・認知行動療法などの精神療法も有効である。
双極性障害との鑑別
過去の躁病・軽躁病エピソードの有無を必ず確認する。双極性障害のうつ状態に抗うつ薬を単独で用いると躁転の危険があり、気分安定薬が治療の中心となる。
POINT
・うつ病の中核症状は抑うつ気分と興味・喜びの喪失で、意欲低下(精神運動制止)、思考制止、不眠(早朝覚醒)、食欲低下を伴う。 ・気分の日内変動(朝に悪く夕方に軽快)が特徴的。 ・自殺の危険が高く、特に発症初期と回復期に注意する。 ・治療は休養と抗うつ薬が基本で、多くは治療に反応する。重症例には修正型電気けいれん療法。 ・気分転換や励ましでは改善せず、むしろ負担となる。
