署名は「後から」では意味がない―予定手術の輸血で問われる同意のタイミング
第100回医師国家試験 E問題 第3問
国試問題にチャレンジ
待機的手術の輸血に際して適切でないのはどれか。
- a.輸血の副作用について説明する。
- b.輸血後に同意書に署名をもらう。
- c.改善が見込まれる症状について説明する。
- d.血液製剤の種類と量とについて説明する。
- e.輸血しない場合の危険性について説明する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
輸血は他人の血液成分を入れる臓器移植に近い治療であり、厚生労働省の指針では、実施前に文書で説明し同意書を作成することが求められています。説明内容は、輸血の必要性と期待される効果、血液製剤の種類と量、副作用や感染症のリスク、輸血しない場合の危険性、自己血輸血などの代替療法、被害救済制度などです。同意は治療を受けるかどうかを本人が事前に決めるためのものであり、輸血後に署名をもらっても同意として成立しません。生命の危機が迫る緊急時には事後説明が許容されることがありますが、時間的余裕のある待機的手術では必ず術前に同意を得る必要があります。説明の内容とタイミングの両方を理解しておくことは、輸血に限らずあらゆる医療行為のインフォームドコンセントの基本となります。
解答・解説
正解はbです
問われていること
輸血療法を行う前のインフォームドコンセント(説明と同意)について、適切でない対応を選ぶ問題である。
考え方
輸血は他人の血液成分を体内に入れる「臓器移植に近い」治療であり、アレルギー反応から致命的な合併症、感染症の伝播まで、一定の危険を避けられない。そのため厚生労働省の「輸血療法の実施に関する指針」では、輸血を行う前に患者(または代諾者)へ必要事項を文書で説明し、同意を得て同意書を作成することが求められている。 説明すべき内容は、おおむね次のとおりである。 ・輸血が必要な理由と、輸血によって期待される効果(改善が見込まれる症状) ・使用する血液製剤の種類と予定量 ・起こりうる副作用・合併症(感染症を含む)と、その対策 ・輸血を行わない場合の危険性(不利益や予後の見込み) ・代替療法(自己血輸血など)の有無 ・副作用が起きた際の救済制度(生物由来製品感染等被害救済制度)など 本問は「待機的手術」、すなわち日程をあらかじめ決めて行う予定手術である。緊急性がなく、説明と同意の手続きを行う時間は十分にある。同意とは治療を受けるか否かを本人が事前に決めるためのものであり、輸血を終えた後に署名をもらうのは同意の本質に反する。したがって「輸血後に同意書に署名をもらう」が適切でない対応である。
選択肢考察
- ×a. 輸血の副作用について説明する。
適切である。輸血では、発熱・蕁麻疹などの軽い反応のほか、アナフィラキシー、ABO型不適合による急性溶血反応、輸血関連急性肺障害(TRALI:輸血後6時間以内に起こる非心原性肺水腫)、輸血関連循環過負荷(TACO)、輸血後移植片対宿主病(輸血後GVHD:輸血製剤中のリンパ球が患者の組織を攻撃する重篤な病態)など、時に命にかかわる副作用が起こりうる。さらにB型・C型肝炎ウイルス、HIVなど既知の病原体や、未知の病原体が伝播する可能性もゼロにはできない。これらを事前に伝えることは、患者が判断するうえで欠かせない情報である。
- ○b. 輸血後に同意書に署名をもらう。
これが適切でない対応であり、正解である。インフォームドコンセントは、医療行為を受ける前に十分な説明を受け、本人がその実施を自ら決定することに意味がある。輸血を実施した後で署名を求めても、患者には輸血を受けるか否かを選ぶ機会がなかったことになり、同意の手続きとして成立しない。とりわけ待機的手術では時間的な余裕があるため、術前に説明を行い、説明者と患者(または代諾者)が署名した同意書を作成して診療録に保管しておく必要がある。なお、生命の危機が差し迫り事前に同意を得る時間がない緊急時には、救命を優先して輸血を行い、事後に説明する対応が許容されることがあるが、それは例外的な状況に限られる。
- ×c. 改善が見込まれる症状について説明する。
適切である。輸血によってどのような効果が期待できるか(例:赤血球輸血で貧血による息切れや倦怠感が改善する、術中出血による循環不全を防げる、血小板輸血で出血傾向が抑えられるなど)を示すことは、輸血を行う必要性と利益を患者が理解するために必要である。利益とリスクの両方を知って初めて、患者は輸血を受けるかどうかを比較衡量できる。
- ×d. 血液製剤の種類と量とについて説明する。
適切である。血液製剤には赤血球製剤、新鮮凍結血漿(FFP)、血小板製剤、アルブミンなどの血漿分画製剤といった種類があり、目的や副作用のリスクがそれぞれ異なる。使用予定の製剤の種類とおおよその量を、実際の出血量により変わりうることも含めて可能な範囲で説明しておく。
- ×e. 輸血しない場合の危険性について説明する。
適切である。患者には輸血を受けないという選択をする権利もある(信仰上の理由で輸血を拒否する場合など)。その判断が十分な情報に基づくものとなるよう、輸血をしないと手術中の出血に対応できずに生命の危険が生じうることなど、不利益や予後の見込みを伝えておく必要がある。
輸血のインフォームドコンセントの位置づけ
輸血療法の実施に関する指針(厚生労働省)では、輸血前に文書による説明と同意を得ることが定められている。診療報酬上も、輸血料の算定には文書による説明と同意書の作成が要件とされている。
待機的手術で考慮すべき事項
・自己血輸血:予定手術では、術前に患者自身の血液を採取・保存しておく貯血式自己血輸血などの選択肢があり、同種血輸血(他人の血液の輸血)に伴う感染症や免疫学的副作用を避けられる。代替療法として説明の対象となる。 ・術前の貧血の是正(鉄剤投与など)により、輸血の必要性自体を減らせる場合がある。
主な輸血副作用
・即時型:発熱反応、アレルギー反応・アナフィラキシー、ABO型不適合による急性溶血反応、TRALI、TACO ・遅発型:遅発性溶血反応(不規則抗体による)、輸血後GVHD(放射線照射製剤の使用で予防する)、輸血後感染症(肝炎ウイルス、HIVなど)
輸血拒否への対応
宗教上の理由などで輸血を拒否する患者に対しては、自己決定権を尊重しつつ、輸血しない場合の危険性を十分に説明する。判断能力のある成人が拒否した場合、その意思に反して輸血することは原則として許されない。
POINT
・輸血は事前に文書で説明し、同意書(説明者と患者・代諾者の署名)を得てから行う。事後の署名は同意にならない。 ・説明内容:必要性と期待される効果、製剤の種類と量、副作用・感染症のリスク、輸血しない場合の危険性、代替療法(自己血輸血など)、救済制度。 ・待機的手術では時間的余裕があるため、必ず術前に同意を得る。
